この記事の概要
再生医療では、細胞や組織を無菌環境で扱う必要があるため、滅菌環境の厳格な管理が必要です。再生医療施設で使用される滅菌室やクリーンルームは、ISOクラス(ISO 14644-1規格)に基づいたクリーンルームのグレードに従っており、さまざまなグレードが存在します。特に、再生医療ではISOクラス5からISOクラス8が一般的に使用され、細胞の培養や加工、最終製品の処理の安全性を確保します。
再生医療では、患者の体外で培養した細胞や組織を用いて治療を行うため、厳密な滅菌環境の確保が不可欠です。感染や汚染が発生すると、治療効果が損なわれるだけでなく、患者に深刻な健康被害を与える可能性があります。そのため、再生医療における滅菌環境は、治療の成功と安全性を支える重要な要素です。
滅菌環境の目的
- 感染リスクの排除
- 細胞培養中に微生物(細菌、ウイルス、真菌など)が混入すると、培養が破綻したり患者に感染症を引き起こすリスクが高まります。
- 細胞や組織の品質保持
- 外部の汚染物質を排除することで、細胞や組織の純度と機能を保ちます。
- 規制遵守
- 再生医療は厳しい規制下にあり、滅菌環境はGMP(Good Manufacturing Practice)基準に準拠する必要があります。
ISOクラスの概要
ISOクラスは、空間内の空気中に存在する粒子の数に基づいて、クリーンルームの清浄度を定義します。以下は、一般的に再生医療で使われるクリーンルームのクラスです:
ISOクラス5
- 用途:最も厳しい無菌環境が必要な工程(細胞の移植や製品の最終処理)。
- 基準:0.5ミクロンサイズの粒子が1立方メートルあたり最大3,520個以下。
- 使用例:滅菌作業や最終製品の無菌充填など。
ISOクラス6
- 用途:高い清浄度が求められる細胞培養や特定の製品加工工程。
- 基準:0.5ミクロンサイズの粒子が1立方メートルあたり最大35,200個以下。
- 使用例:細胞の培養や中間生成物の処理。
ISOクラス7
- 用途:細胞の培養や加工の準備段階。
- 基準:0.5ミクロンサイズの粒子が1立方メートルあたり最大352,000個以下。
- 使用例:細胞や組織の培養、組み立て工程。
ISOクラス8
- 用途:サポートエリアやクリーンルームへの出入りに使われるエリア。
- 基準:0.5ミクロンサイズの粒子が1立方メートルあたり最大3,520,000個以下。
- 使用例:クリーンルームへの入室前の準備区域やサポート設備エリア。
滅菌環境の管理と要件
再生医療施設における滅菌環境では、クリーンルームの基準を満たすためのさまざまな管理が行われます:
- 空気清浄度の管理:HEPAフィルターやULPAフィルターを用いて、微粒子や汚染物質を除去し、クリーンルーム内の空気を循環させます。
- 圧力差の管理:清浄度の異なるエリア間で圧力差を設定し、汚染物質の侵入を防ぎます。
- 温湿度の管理:細胞や組織の維持に最適な温度と湿度を保つための空調管理が行われます。
- 作業員の管理:作業員はクリーンルーム用の無菌ガウンや手袋、マスクなどを装着し、定められた動線や手順に従って作業を行います。
再生医療における滅菌の重要性
滅菌管理は、再生医療の安全性と品質を保証するために重要です。細胞や組織が無菌でなければ、感染リスクが増し、患者に重篤な影響を及ぼす可能性があります。そのため、滅菌室のISOクラスを適切に設定し、清浄度の高い環境を確保することが不可欠です。
再生医療において、滅菌管理は品質管理の重要な部分であり、適切なグレードの滅菌質を維持することが、安全で効果的な治療提供の基本となります。
記事の監修者
皮膚科専門医
岡 博史 先生