バニシングツインとは?双子の妊娠で知っておきたい現象と影響【医師監修】

バニシングツインとは?双子の妊娠で知っておきたい現象と影響 妊婦 写真

双子の片方が消えたように見える「バニシングツイン」。双子の妊娠では珍しくない現象ですが、突然告げられるとショックを受けることでしょう。バニシングツインの原因や確率、生き残った胎児への影響、NIPT(新型出生前診断)での注意点などをまとめました。

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この記事のまとめ

双子の1人がお腹の中から消えてしまう現象をバニシングツインと呼んでいます。多くは妊娠初期の6~8週目に起こり、双胎妊娠(胎児が2人の妊娠)の約10~15%で起こると報告されています。バニシングツインは妊娠初期に起こる場合が多く、残された胎児に影響がある確率はそれほど高くありません。一卵性双生児の場合では影響がある可能性はあります。

「バニシングツイン」という言葉をご存知ですか?

双子を授かって喜んだのもつかの間、医師からバニシングツインの可能性を告げられ、ショックを受ける人は少なくありません。

せっかく授かった双子の1人が消えてしまうなんて、「いったい何が起きているの?」「私の赤ちゃんは大丈夫?」と不安になる方も多いでしょう。

バニシングツインとはいったい何なのか、どのくらいの確率で、なぜ起こるのか。

事前に知っておくことで、心の準備ができるかもしれません。

また、胎児や母体への影響、NIPT(新型出生前診断)を受ける際の注意点など、バニシングツインについて、気になることを紹介します。

バニシングツインとは?

双子の1人がお腹の中から消えてしまう現象を、「バニシングツイン」と呼んでいます。 双子の妊娠初期に生じるケースがほとんどで、「亡くなった双子(ツイン)の片方が消失(バニシング)した」ように見えることから名付けられました。
一見すると不思議な現象に思えますが、実際には、妊娠初期に亡くなった胎児が子宮に吸収されることで、消失したように見えるだけです。

胎児が1人の妊娠では、初期に流産する(お腹の中で亡くなる)と、たいていは自然に排出されます。

自然排出が難しい時は子宮内容除去術を行うこともありますが、子宮内膜を傷つける恐れがあるため、積極的には行わないものです。

双子の妊娠の場合は、片方の胎児が亡くなっても、排出されずに母親の子宮に吸収されることがあります。

これがバニシングツインの正体です。

医学的には「双胎一児死亡」と呼ばれる症状で、双子の1人が死亡(流産)してしまったことが分かります。

バニシングツインはオカルト的な超自然現象ではありませんが、珍しいことに変わりはありません。

医学の発展によって少しずつ解明されてきましたが、まだまだ不明な点も多い現象です。

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バニシングツインの原因は?

バニシングツインは「双胎一児死亡」とも呼ばれるように、双子の1人が死亡した時に起こりますが、胎児が吸収されるメカニズムについては分かっていません。

しかし、双子に限らず、妊娠初期の流産は珍しいものではありません。その原因として最も多いのは、胎児の「染色体異常」です。

バニシングツインを引き起こす流産の原因も、胎児の染色体異常であることが多いと考えられています。

バニシングツインの予防法や対策は?

自分の身にバニシングツインが起こるかもしれないと分かれば、大切な我が子を守るために、何か対策したいと思うかもしれません。

しかし、バニシングツインを防ぐための有効な手段はなく、受け入れるしかないのが現状です。

バニシングツインを予防するには妊娠初期の流産を防ぐことが重要ですが、その主な原因である胎児の染色体異常がどのようにして起こるのか、いまだに分かっていません。

染色体異常の原因が分からない限り、どうすることもできないのです。

妊娠初期の流産は、胎児に原因があるケースがほとんどで、誰にでも起こりうるもの。

中には自分を責める母親もいますが、精神的なストレスやショックも流産を招くと言われます。

お腹の中で育っているもう1人の胎児のために、できるだけ早く気持ちを切り替えましょう。

自分の身体を大切にして、飲酒や喫煙、薬の服用を控えるなど、少しでも流産のリスクを下げる生活を心がけてください。

 バニシングツインの予防法や対策

 バニシングツインが生じる時期は?

バニシングツインの多くは、妊娠初期の、6~8週目に起こります。

その頃にはほとんどの胎児で心拍が確認できるのですが、バニシングツインの心音はだんだん小さくなり、ついには止まってしまうのです。

前回の検査時に聞こえていた心音が聞こえなくなるなんて、胸を締め付けられるような思いでしょう。

双子を妊娠したことを周囲に伝えるのも、8週目を過ぎてからのほうが良いかもしれません。

また、バニシングツインの発生率は低くなりますが、妊娠8週目以降でも流産のリスクはあります。

無事に出産するまでは何が起こるか分かりません。

最後まで気を抜かず、万全の態勢で妊娠生活を続けましょう。

 バニシングツインはどのくらいの確率で起こるの?

バニシングツインは、双胎妊娠(胎児が2人の妊娠)の約10~15%で起こると報告されています。

双胎妊娠の確率は約1%と言われるので、単純に考えればバニシングツインの確率は全体の約0.15%です。

1万人に15人と考えると多くないように思いますが、バニシングツインの大半は、早期に超音波検査(エコー検査)を行わなければ発見されません。

妊娠に気付くのが遅い人では、初診時にはバニシングツインが起こった後で、はじめから単胎妊娠(胎児が1人の妊娠)だと思っていることも十分にありえます。

実際には双胎妊娠の30%以上でバニシングツインが発生するという研究報告もあり、三つ子になると、さらに高確率で起こるとされています。

近年は不妊治療が一般的になってきており、体外受精も増えてきました。

体外受精では多胎(胎児が2人以上)の可能性が高まるため、バニシングツインが起こる確率も上昇します。

あくまでも確率の話ですが、知らないだけで身近で起きていてもおかしくはありません。

特に双子を妊娠した場合には、バニシングツインが起こる可能性があることを十分に理解し、心の準備をしておいたほうが良いでしょう。

一卵性と二卵性で確率が違う

バニシングツインの発生頻度は、双胎妊娠のタイプによって差があり、一卵性のほうが二卵性よりも高確率で起こると言われています。

これには絨毛膜や羊膜の数が関係しており、バニシングツインは「一絨毛膜一羊膜」や「一絨毛膜二羊膜」で起こりやすいとされています。

双胎妊娠のタイプとは?

双胎妊娠では胎児を包む膜の数によって、3つのタイプに分類されます。

  1.  一絨毛膜一羊膜(1つの絨毛膜の中に羊膜が1つある)
  2.  一絨毛膜二羊膜(1つの絨毛膜の中に羊膜が2つある)
  3. 二絨毛膜二羊膜(2つの絨毛膜の中に羊膜が1つずつある)

絨毛の数は胎盤の数、羊膜の数は胎児が育つ部屋の数と考えれば、分かりやすいでしょう。

胎児は胎盤に送られてくる栄養で育ちますから、胎児1人につき胎盤1つが基本。

二卵性双生児では、ほぼ確実にCの二絨毛膜二羊膜となり、2人の胎児にそれぞれ1つずつ胎盤があるため、均等に育ちやすくなります。

しかし、一卵性双生児では受精卵が2つに分かれる時期によって、A~Cのいずれかになります。

一卵性双生児でもCの二絨毛膜二羊膜になれば、バニシングツインは生じにくいとされています。

けれども、AとBでは1つの胎盤を胎児2人で共有することになり、栄養も2人で分け合わなければなりません。

この場合、栄養供給に不均衡が生じやすくなるのです。

栄養の偏りが生じることで、片方の胎児が成長しきれずに亡くなってしまうケースは珍しくありません。

さらに、羊膜が1つしかないAのタイプでは、同じ部屋に2人の胎児が入ることになるので、へその緒が絡まる「臍帯相互巻絡」や羊水供給過多などによって、流産のリスクが高まります。

全双胎妊娠に占める割合は、Cの二絨毛膜二羊膜が70~75%で最も多く、次いでBの一絨毛膜二羊膜が25~30%、Aの一絨毛膜一羊膜は1%以下と言われています。

上記の通り、絨毛膜と羊膜の数によって、双胎妊娠のリスクが異なります。妊娠14週を過ぎると膜性の診断が難しくなることがあるため、早期の超音波検査が重要です。

双子の8週目のエコー写真

こちらの画像は、双子の8週目のエコー写真です。

バニシングツインによる影響

バニシングツインは受け入れるしかありませんが、残された胎児や母体への影響が気になりますね。

胎児が消失するとはいえ、何も影響がないとは限りません。

結論から言うと、妊娠初期に起こったのであれば、何も心配はないでしょう。

胎児が子宮に吸収されても母体に影響はなく、生き残った胎児はそのまま育っていきます。

妊娠中期を過ぎてからだと、完全には吸収されない可能性があります。しかし、二絨毛膜二羊膜であれば、残された胎児への影響はほとんどありません。

ただし、一絨毛一羊膜、一絨毛二羊膜の場合は、残された胎児に影響することがあります。

低出生体重児として生まれたり、脳に障害が起こったり、最悪の場合は亡くなってしまう可能性もあります。

ただ、バニシングツインは妊娠初期に起こる場合が多く、残された胎児に影響がある確率はそれほど高くありません。

仮に問題が生じても、リスクを把握していればすぐに対応されますから、あまり悲観的になる必要はないでしょう。

一卵性双生児では影響があるかもしれないとだけ、覚えておいてください。

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バニシングツインが体内に残ることもある

通常のバニシングツインでは、亡くなった胎児が子宮に吸収されることで消失してしまいます。

胎児の痕跡すらなくなってしまうため、不思議な現象と思われていたのですが、ごく稀に亡くなった胎児の痕跡が残ることがあります。

指や歯など身体の一部が吸収されず、残された胎児の身体へと宿るのです。

「寄生性双生児」と呼ばれるきわめて珍しい現象で、いくつかの事例が報告されています。

寄生性双生児の事例①

マレーシア・ケダ州のスンガイ・プタニ市に住む15歳の少年が、激しい腹痛によって病院に運ばれました。

腹痛の原因が「異物」であることから摘出手術が行われたのですが、取り出してみると、育った人間のパーツだったのです。

髪、頭部、手足、生殖器まで存在する寄生性双生児であり、関係者全員を驚かせました。

普段から食欲旺盛な少年だったため、食べた栄養が本人だけではなく寄生性双生児に流れ、それによって育ったのではないかと考えられています。

寄生性双生児の事例②

2016年、インドのウッタル・プラデーシュ州に住む腹痛に悩む女性からは、髪や歯だけではなく、骨まで残った総重量約2.5kgの寄生性双生児が確認されたそうです。

寄生性双生児の事例③

2010年に香港で生まれた赤ちゃんが、体内に双子を宿していた記録も残っています。

生後3週間で行われた摘出手術では、へその緒、手足、皮膚、胸郭、骨、腸、脳の組織が確認されました。

このように「バニシングツインの一部が残された胎児に宿る」現象は、新生児約50万人に1人の確率で生じると言われています。

日本では年間約80万~90万人の子どもが生まれるため、単純計算で、年に1~2人は体内にバニシングツインの痕跡を宿して生まれてくるわけです。

この現象が世界中で起こっていると考えると、寄生性双生児は案外身近な現象かもしれません。

バニシングツイン・双子の事例

世界でも珍しいマイクロキメリズムの赤ちゃん

バニシングツインによる痕跡は、寄生性双生児だけではありません。

亡くなった胎児の遺伝子情報が受け継がれることもあります。

2014年、ワシントンのある家庭に元気な赤ちゃんが生まれました。

新しい命の誕生に夫婦は大いに喜んだことでしょう。

しかし、血液検査によって状況は一変。

生まれた赤ちゃんの血液型が両親からは生まれるはずのない血液型だったのです。

夫婦は人工授精による妊娠だったため、「受精した際に取り違えがあったのでは」と疑い病院に確認。

調べてみても問題はなく、原因不明で困惑してしまいます。

そこで、夫婦はスタンフォード大学に所属する遺伝子学者のバリー・スター博士に、原因究明の相談をしました。

博士は遺伝子検査を実施しましたが、結果は間違いなく親子であるとの判定。

これを受けて博士は「マイクロキメリズムではないか」と予想を付けたのです。

マイクロキメリズムとは、2セット以上のDNAを持つ特殊な遺伝子情報のこと。

子どもは本来、父親と母親のDNAをそれぞれ1セットずつ受け継いで生まれますが、マイクロキメリズムでは夫婦とは別のDNAも所持しています。

つまり、3セット分のDNAを所持しており、血液型が違っていたのも、そのせいだと考えられました。

では、3セットめのDNAがどこから来たのでしょうか。

調べた結果、赤ちゃんは元々双子だったことが判明しており、バニシングツインによって一方の胎児が消失していました。

亡くなった胎児のDNAが残された胎児に吸収されていたのです。

この赤ちゃん以外にも、マイクロキメリズム(キメラ遺伝子)であることから、DNA鑑定で親子関係が認められないとされた事例がいくつか存在しています。

寄生性双生児にしろマイクロキメリズムにしろ、バニシングツインは時として人間の想像を遥かに超えた不思議な現象を引き起こすのです。

NIPT(新型出生前検査)でわかる疾患
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バニシングツインでもNIPT(新型出生前診断)はできる?

基本的には、バニシングツインを経験した人でもNIPT(新型出生前診断)を受けることができますが、すべての病院やクリニックで実施しているわけではありません。

まずはバニシングツインでも検査が可能か確認し、できるだけ経験豊富な医師に依頼するのが良いでしょう。

バニシングツインのメカニズムは不明ですが、妊娠初期の流産に伴って起こります。

その流産の原因の多くが胎児の染色体異常だとすると、残された胎児に異常がないか、心配になるのは当然です。

NIPT(新型出生前診断)は妊娠10週目から受けられる新型出生前診断で、様々な染色体疾患の可能性を判定できます。

ヒロクリニックでは、NIPTをエコー検査で胎児心拍を確認後すぐに検査を受けられます。

母体の採血だけで検査できるためおすすめです。

確定診断には羊水検査や絨毛検査が必要ですが、NIPT(新型出生前診断)で陰性の場合は、ほぼ問題ないと考えられます。

バニシングツインでNIPT(新型出生前診断)を受ける際の注意点

バニシングツインでは、もう一人胎児がいたという事実が、NIPT(新型出生前診断)の結果に影響することがあります。

検査結果の理解においては、以下の点に注意してください。

一卵性では検査結果に影響しない

一卵性双生児でバニシングツインが生じた場合、亡くなった胎児と残された胎児のDNAは全く同じです。

NIPT(新型出生前診断)は母体の血液中に存在する胎児のDNAのかけらを集めて分析するため、一卵性のバニシングツインはNIPT(新型出生前診断)の結果に影響しないと考えられます。

二卵性では「偽陽性」に要注意

二卵性では胎児のDNAが異なるため、バニシングツインがNIPT(新型出生前診断)の結果に影響します。

つまり、偽陽性や偽陰性、性別の不一致が生じる可能性が、通常の単胎妊娠よりも高くなるのです。

しかしながら、結果が「陰性」であれば、亡くなった胎児も残された胎児も、「染色体疾患の可能性はない」と考えられます。

解釈が難しいのは、結果が「陽性」の場合。

残された胎児に異常がなくても、亡くなった胎児のDNAが残っていると、陽性になることがあります。

つまり、偽陽性の可能性も十分にあるため、羊水検査で確定させることが大切です。

自分を責めるより残った我が子を大切にする

双子の妊娠では、10人に1人以上が経験するとされるバニシングツイン。

決して珍しくないとはいえ、せっかく授かった命が消えてしまうのは、誰にとってもショックな出来事です。

しかし、バニシングツインが起こる原因は不明であり、今の医療では予防するのも困難。

だから「あの時こうしていれば…」と、自分を責めたりしないでください。

すぐには気持ちの整理がつかないかもしれませんが、自責の念にとらわれていても、良いことなんて1つもありません。

もしバニシングツインが起こっても、母親にできるのは、残されたもう一人の胎児を大切に育てていくことだけ。

今も身体の中で育っている胎児に目を向け、その子に2倍の愛情を注ぐのです。

バニシングツインで消えてしまった我が子の分まで、残された子を可愛がってあげましょう。

双子の片方が消えたように見える「バニシングツイン」。双子の妊娠では珍しくない現象ですが、突然告げられるとショックを受けることでしょう。バニシングツインの原因や確率、生き残った胎児への影響、NIPT(新型出生前診断)での注意点などをまとめました。

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記事の監修者


白男川 邦彦先生

白男川 邦彦先生

ヒロクリニック名古屋駅前院 院長
日本産科婦人科学会専門医

産婦人科専門医として40年近くにわたる豊富な経験を持ち、多くの妊婦さんとかかわる。
現在はヒロクリニック名古屋駅前院の院長としてNIPTの検査担当医を行う一方、全国のヒロクリニック各院からのオンラインで妊婦さんの相談にも乗っている。

経歴

1982年 愛知医科大学付属病院
1987年 鹿児島大学附属病院 産婦人科
1993年 白男川クリニック 院長
2011年 かば記念病院
2019年 岡本石井病院
2020年 ヒロクリニック名古屋駅前院 院長

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