この記事のまとめ
痩せすぎのとき:妊娠初期には胎児の神経管閉鎖障害のリスクが上がることが分かっています。妊娠中期に母親が栄養不足だと赤ちゃんにも栄養が届かなくなってしまいます。また痩せすぎている妊婦さんは、早産になりやすいことが報告されています。 太りすぎのとき:妊娠初期に肥満を伴う場合、赤ちゃんの二分脊椎などの神経管欠損症、心奇形、臍帯ヘルニアのリスクが高くなるといわれています。妊娠糖尿病のリスクが高くなります。母体の肥満や妊娠糖尿病は、胎児の過剰な発育を促し、体重4000g以上の巨大児になるリスクを高めます。
はじめに
妊娠中は、つわりで食事が摂れず、痩せすぎてしまったり、逆に食べつわりで食べすぎて太りすぎてしまったりすることがあります。
妊娠中に痩せすぎてしまったり、太りすぎてしまったりすることが、赤ちゃんに影響を及ぼすことはあるのでしょうか。
[post_category_custom_html]
妊婦の痩せすぎ
痩せすぎの目安
厚生労働省が発表している「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」によると、妊娠前のBMIが18.5未満の低体重の妊婦さんは、妊娠中の体重増加量指導の目安が12〜15㎏とされています。
また、BMIが18.5以上25.0未満の普通体重の妊婦さんは、体重増加量指導の目安は10〜13㎏とされています。
この基準に比べ、増加量が大幅に低い場合は痩せすぎと考えられます。
痩せすぎによる赤ちゃんへの影響
妊娠初期
妊娠初期に食事を十分な量をとれず、葉酸の摂取量が不足した場合、胎児の神経管閉鎖障害のリスクが上がることが分かっています。
その一方で、この時期には多くの妊婦さんがつわりを経験し、痩せすぎが良くないと分かっていても、思うように食事が摂れない場合が多くあります。食事が十分に摂れない場合は、葉酸のサプリメントなどを上手に活用していきましょう。
妊娠中期
妊娠中期に入る頃には胎盤が完成し、お母さんが摂取した栄養が胎盤を通して赤ちゃんに送られるようになります。この時期に母体が栄養不足になっていると、赤ちゃんにも十分な栄養が届かなくなってしまうのです。
こういった場合、赤ちゃんの低栄養が原因で妊娠週数に比べて赤ちゃんが小さい、子宮内胎児発育不全(子宮内胎児発育遅延)という状態になることがあります。
妊娠後期
痩せすぎている妊婦さんは、早産になりやすいことが報告されています。妊娠後期に早産になり、赤ちゃんが早く生まれてしまうと、臓器の発達が不十分なためNICUへの入院が必要となったり、後遺症が残ったりしてしまうことも起こり得ます。
出産直前
妊婦さんが痩せすぎている場合、貧血のリスクが高まります。貧血の状態で出産になると、疲労のため陣痛が微弱になったり、胎児への酸素供給が減ってしまう可能性があります。また分娩時に出血多量になった場合、輸血の可能性が高くなるなど、分娩時のリスクも上がってしまうのです。
[post_category_custom_html]
妊婦の太りすぎ
太りすぎの目安
厚生労働省が発表している「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」によると、妊娠前のBMIが25.0.以上30未満の妊婦さんは、体重増加量指導の目安が7〜10㎏とされています。また、妊娠前のBMIが30以上の妊婦さんの場合は個別対応が必要とされますが、上限5㎏までが目安とされています。
この基準を大幅に上回ってしまった場合、太りすぎと考えられます。
太りすぎによる赤ちゃんへの影響
妊娠初期
妊娠初期は赤ちゃんのさまざまな器官ができる重要な時期です。この時期に母体が肥満を伴う場合、二分脊椎などの神経管欠損症、心奇形、臍帯ヘルニアのリスクが高くなるといわれています。
また、肥満のため、エコーで胎児の状態を把握しづらくなることもあります。
妊娠中期
肥満を伴う場合、妊娠糖尿病のリスクが高くなります。
妊娠糖尿病でお母さんが高血糖になると、妊娠高血圧症候群、羊水量の異常、肩甲難産などのリスクが高まります。
また、おなかの赤ちゃんも高血糖になるため、流産、形態異常、巨大児、心臓の肥大、低血糖、多血症、電解質異常、黄疸、胎児死亡などにつながる恐れもあります。
妊娠後期
肥満を伴う場合、妊娠高血圧症候群のリスクが高くなります。
妊娠高血圧症候群は、重症になるとお母さんには血圧上昇、蛋白尿に加えてけいれん発作(子癇)、脳出血、肝臓や腎臓の機能障害、肝機能障害に溶血と血小板減少を伴うHELLP症候群などを引き起こすことがあります。
また、赤ちゃんの発育が悪くなる子宮内胎児発育不全、胎盤が子宮の壁からはがれて赤ちゃんに酸素が届かなくなる常位胎盤早期剥離、赤ちゃんの状態が悪くなる胎児機能不全、場合によっては赤ちゃんが亡くなってしまう胎児死亡などが起こることがあります。
出産直前
母体の肥満や妊娠糖尿病は、胎児の過剰な発育を促し、体重4000g以上の巨大児になるリスクを高めます。巨大児は肩甲難産や児頭骨盤不均衡、弛緩出血といった分娩時の合併症の原因となり得ます。分娩方法が帝王切開になることも少なくありません。
妊娠中の体重管理
食事の見直し
妊娠中はバランスの良い食事を適量とることが大切になります。厚生労働省が発表している「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」のリーフレットでは妊産婦のための食生活指針として以下が挙げられています。
引用:厚生労働省 – 妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針
- 「主食」を中心に、エネルギーをしっかりと
- 不足しがちなビタミン・ミネラルを、「副菜」でたっぷりと
- 「主菜」を組み合わせてタンパク質を十分に
- 乳製品、緑黄色野菜、豆類、小魚などでカルシウムを十分に
ダイエットはしてもよい?
妊娠中は、お母さんの摂った食事が赤ちゃんの栄養になるため、無理な食事制限などのダイエットは行わないようにしましょう。
体重の増えすぎを指摘されている場合は、かかりつけ医の指導のもと、適切な食事管理や適度な運動を行うようにしましょう。
妊活中の痩せすぎ・太りすぎの影響
痩せすぎ・太りすぎは、妊娠できない原因になることもあります。
痩せすぎの場合、体が生命維持を優先するため、卵巣の機能が低下し、排卵が起こりづらくなってしまいます。そのため、妊娠しづらくなってしまうのです。
一方、太りすぎている女性も妊娠しづらいことがわかっています。これは、太りすぎると、糖代謝異常や脂質代謝異常が起こりやすくなり、排卵障害が起きやすくなるためだと考えられています。
[post_category_custom_html]
赤ちゃんの状態はNIPT(新型出生前診断)で検査
妊娠中は、おなかの赤ちゃんが元気に育っているか心配になることが少なくありません。赤ちゃんの状態は、お母さんの痩せすぎ・太りすぎなどの環境要因のほかに、もともともっている染色体にも左右されます。
出生前診断では、赤ちゃんの染色体異常を妊娠中に調べることができます。羊水検査や絨毛検査は確定検査ですが、羊水や絨毛を採取して検査するため、流産や死産のリスクが伴います。
一方NIPT(新型出生前診断)は、お母さんの血液で検査を行うので、流産や死産のリスクはありません。非確定検査ではありますが、感度・特異度ともに99.9%と、検査精度が高いのが特徴です。
検査できる時期もエコー検査で妊娠が確認できたらとなっており、他の出生前診断より早く検査を行うことができます。おなかの赤ちゃんのことが早く知りたい方は、検討されてみてはいかがでしょうか。
まとめ
痩せすぎや太りすぎは妊娠の経過や妊活に影響を与えることがあります。ご自身の体重管理についてご心配な方は、妊婦健診で主治医に相談し、指示を仰ぎましょう。
体重管理がうまくいっている方は、今後も維持できるよう「妊娠前からはじめる妊産
のための食生活指針」などを参考に、バランスの良い食事を適量摂取するよう心がけていくようにしましょう。
また、NIPT(新型出生前診断)についてもご紹介しました。おなかの赤ちゃんの染色体異常について、知りたい方は検討されてみてはいかがでしょうか。
【参考文献】
- 厚生労働省 – 妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針 ~妊娠前から、健康なからだづくりを~ 解説要領
- 厚生労働省 – 妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針〈リーフレット〉
- e-ヘルスネット(厚生労働省) – 葉酸とサプリメント‐神経管閉鎖障害のリスク低減に関する効果
- 日本産婦人科学会 – 妊娠糖尿病
- 日本産婦人科学会 – 妊娠高血圧症候群
記事の監修者
岡 博史先生
NIPT専門クリニック 医学博士
慶應義塾大学 医学部 卒業