甲状腺から分泌されるホルモンは妊娠・出産だけでなく、赤ちゃんの発育・発達にも大きな影響を与えます。甲状腺の病気をお持ちの方も、今まで指摘されたことがない方も、甲状腺について理解しておくことで安心して妊娠・出産ができるでしょう。
はじめに
甲状腺ホルモンの役割を理解し、妊娠前の方は気になる症状があれば甲状腺機能を調べましょう。妊娠がわかった方は早めに産婦人科を受診し甲状腺機能を調べることで、赤ちゃんへの影響を最小限にできます。
また甲状腺疾患をお持ちの方は妊娠・出産に伴い、薬剤の変更や内服量の調整をおこなう必要があります。
甲状腺ホルモンとは
甲状腺ホルモンはのどぼとけの下にある、甲状腺という蝶々のような形をした臓器から分泌されています。甲状腺ホルモンは体の代謝を活発にする働きがあります。
甲状腺ホルモンは甲状腺受容体ホルモン(TSH)とFT3・FT4の3種類があります。TSHは甲状腺ホルモンの分泌をコントロールし、FT3・FT4が少なくなると分泌量が増え、反対にFT3・FT4が増えると分泌量は少なくなるという特徴があります。
甲状腺ホルモンに異常があると起こる病気
甲状腺ホルモンの異常はホルモンの分泌が「増えすぎた場合」と「少なすぎる場合」の2つにわけられます。順に解説します。
甲状腺ホルモンの分泌が増えすぎた場合
FT3・FT4の分泌が増えすぎてしまった状態を、甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)といいます。
甲状腺機能亢進症になると全身の代謝が活発になります。そのため食べても体重が減り、ドキドキする(動悸)、脈が速くなる(頻脈)、イライラする、疲れやすい、手が震えるなどの症状をみとめます。甲状腺のあるのどぼとけの下の部分が腫れたようになる場合もあります。
代表的な病名は、バセドウ病・中毒性多結節性甲状腺腫・甲状腺腫です。まれに薬剤やヨウ素の過剰摂取が原因で発症します。
甲状腺ホルモンの分泌が少なすぎる場合
FT3・FT4の分泌が少なすぎる状態を、甲状腺機能低下症(こうじょうせんきのうていかしょう)といいます。甲状腺機能低下症になると顔の表情が少なくなり、話し方がゆっくりになります。元気がなくなり声がかすれ、まぶたや目・顔がはれぼったくなったり、皮膚がカサカサになったり、毛が薄くなるのも特徴です。月経周期が乱れ過多月経や無月経になる人もいます。
代表的な病名は橋本病です。ほかにも癌や腫瘍で甲状腺を全摘出した場合が該当します。
妊娠と甲状腺ホルモン
甲状腺ホルモンは『卵胞』の成長にかかせません。甲状腺ホルモンの分泌が増えすぎる(亢進する)と排卵までの日数が短くなります。
また、甲状腺ホルモンの分泌が少なすぎると、卵胞が十分に発達せず無排卵月経や無月経になります。甲状腺ホルモンの分泌が乱れると、卵胞が十分に育たず妊娠の可能性が低くなるのです。
甲状腺疾患があっても妊娠できる?
甲状腺疾患があっても適切な治療をすれば妊娠しにくいことはありません。妊娠は可能ですが注意点があります。
甲状腺の病気がある方は、妊娠前から適切な治療をおこない甲状腺ホルモンの分泌量を正常範囲内にコントロールしておきましょう。未治療の甲状腺疾患でなければ、不妊の原因になりにくいことがわかっています。さらに、妊娠中も甲状腺疾患の治療を継続すれば、流産・早産・妊娠高血圧症候群・妊娠中毒症のリスクを甲状腺疾患がない人とほぼ同程度まで抑えられます。
妊娠中の甲状腺ホルモン
妊娠中の甲状腺ホルモンの必要量は20‐50%程度増えます。その理由は、甲状腺や脳の発達が不十分な妊娠初期には、赤ちゃんは自分自身で甲状腺ホルモンを作れないからです。お母さんの甲状腺ホルモンは胎盤を通して赤ちゃんに届けられます。胎盤を通過するときに、甲状腺ホルモンの一部は分解されてしまうため、妊娠していないときよりもたくさん分泌する必要があるのです。
甲状腺疾患が胎児に及ぼす影響
甲状腺機能亢進症の場合には、流産・早産・妊娠中毒症のリスクが高くなります。適切に治療していないと在胎週数の経過よりも赤ちゃんの成長が遅れるといわれています。妊娠高血圧症のリスクも高くなるため注意が必要です。
また、お母さんの血液中の抗TSH受容体抗体(TRAb)が高値の場合には、赤ちゃんの甲状腺が刺激され甲状腺機能亢進症を発症することがあります。お母さんのTRAbの影響は生後3か月頃に自然によくなるため、過剰に心配する必要はありません。
甲状腺機能低下症のお母さんの場合には、妊娠初期に甲状腺ホルモンが不足してしまう可能性があります。甲状腺ホルモンが不足すると流産や赤ちゃんの精神・知能・神経の発達に障害が起こる確率が上がることが報告されています。
一例をあげるとIQが低下する、てんかんを発症する、将来的には思春期以降の抗精神病薬や抗不安薬の内服頻度が上がるという報告もあるのです。
胎児の健康はNIPT(新型出生前診断)
赤ちゃんに染色体異常などの病気がないか気になる方には、NIPT(新型出生前診断)をおすすめしています。NIPT(新型出生前診断)はお母さんの採血だけで診断できる出生前診断です。赤ちゃんへの負担もない検査で、検査の精度は99%です。
NIPT(新型出生前診断)は赤ちゃんにダウン症(21トリソミー)、18トリソミー、13トリソミーなどの染色体異常の可能性があるのかを評価し、リスクが「高い」か「低い」かを知る非確定検査です。本当に染色体異常があるかどうかは、羊水検査や絨毛検査などのより専門的な検査が必要ですが、感染症や流産などのリスクが伴うため気軽に検査をおこないにくいのです。
お母さんにも赤ちゃんにも負担が少なく、赤ちゃんの健康をチェックできるNIPT(新型出生前診断)はとてもおすすめの出生前診断方法です。
ヒロクリニックNIPTのNIPT(新型出生前診断)について詳しく知りたい方は、こちらの記事をお読みください。
甲状腺疾患の治療
甲状腺疾患をお持ちの方の妊娠・出産については、いくつかの注意点があります。
妊娠前からの甲状腺疾患がある場合
甲状腺ホルモン剤の内服をしている方は、妊娠を希望する場合には赤ちゃんへの影響が少ない薬への変更が必要です。赤ちゃんへの影響を最小限にするために、医師とあらかじめ相談しておくとよいでしょう。
妊娠に伴い甲状腺ホルモンの必要量が増えるため、妊娠経過に応じた量を服用する必要があります。妊娠7週目頃から甲状腺に負担がかかってくるため、妊娠がわかったらはやめに受診しTSHを適切な範囲内に維持できるように服用量を調整する必要があるのです。
また、甲状腺ホルモンが高値な状態を放置していると、つわりや出産、帝王切開などでストレスを受けたときに、体が対応できなくなり全身の臓器の機能が低下し甲状腺クリーゼを発症するケースがあります。甲状腺クリーゼは心臓や肝臓の機能が低下し、約10%の患者さんが亡くなる病気です。妊婦さんが発症するとお母さんだけでなく赤ちゃんが死亡するリスクが高くなるため、甲状腺ホルモンの値を適正範囲内にコントロールする必要があります。
妊娠中に甲状腺疾患にかかった場合
妊娠中に甲状腺疾患がわかった場合は、早期に治療をはじめましょう。処方薬を適切に内服し、甲状腺ホルモンの分泌量を目標範囲内にコントロールすれば、赤ちゃんへの成長や発達への影響を最小限にできます。
不安な気持ちもあるでしょうが、主治医と相談しながら適切な治療を継続することが大切です。
治療が及ぼす胎児の奇形
お母さんが妊娠初期(妊娠~13週6日)に『メルカゾール』という薬を内服していると、赤ちゃんのおへそや腸、頭の皮膚に奇形を発症するリスクが高くなります。けれども、赤ちゃんのお父さんが内服していても赤ちゃんには影響はありません。
妊娠中期にメルカゾールを内服していると、赤ちゃんにどのような影響があるかはわかっていません。
また妊娠を希望される場合には、妊娠前から赤ちゃんに影響の少ない薬剤へ変更が必要です。あらかじめ甲状腺疾患の主治医と相談しておくとよいでしょう。
食事の注意点
甲状腺疾患がある人は、甲状腺ホルモンの材料となる『ヨウ素』の影響が出やすくなります。そのため海藻類を積極的に食べるのは避けましょう。
甲状腺ホルモンの分泌が少なくなっていると代謝が落ちて、太りやすくなります。体重管理に気を付けたいですね。
まとめ
甲状腺ホルモンは妊娠・出産、赤ちゃんの成長・発達に欠かせません。甲状腺に病気があるからといって妊娠できないわけではありませんが、妊娠しにくくなったり、流産の可能性が高くなるため適切な治療を受けましょう。
ヒロクリニックNIPTではNIPT(新型出生前診断)に精通した医師とスタッフによる万全のサポート体制により、どなたでも安心して診察・NIPT(新型出生前診断)を受けていただけます。
赤ちゃんに染色体異常がないかご心配な方は、ヒロクリニックNIPTの検査をご検討ください。
甲状腺から分泌されるホルモンは妊娠・出産だけでなく、赤ちゃんの発育・発達にも大きな影響を与えます。甲状腺の病気をお持ちの方も、今まで指摘されたことがない方も、甲状腺について理解しておくことで安心して妊娠・出産ができるでしょう。
記事の監修者
岡 博史先生
NIPT専門クリニック 医学博士
慶應義塾大学 医学部 卒業