SNP(スニップ)とは一塩基多型(いちえんきたけい)のことです。生命の設計図ともいわれるゲノムDNAの塩基配列の中で1つだけ異なる塩基に置き換わったことを意味しています。これによりヒトの姿形や体質といった個人差が生じるとされています。
SNP(一塩基多型)とは
SNP(スニップ)とはSingle nucleotide Polymorphismの略称となり、一塩基多型(いちえんきたけい)の訳です。SNPは生命の設計図ともいわれるゲノムDNAの塩基配列の中で1つだけ異なる塩基に置き換わったことを意味しています。SNPのたった1つの塩基配列の置き換わりにより、体質や病気のかかりやすさに影響することが注目され、現在ではSNPに基づき遺伝情報を踏まえたテーラーメイド医療の研究が盛んにおこなわれています。
遺伝子・DNA・ゲノム・染色体それぞれの違いとは
昨今ではその信憑性はさておき、遺伝子検査が誰でも手軽に受けられるようになりました。また、ゲノム編集食品(または遺伝子組み換え食品)やDNA鑑定などはニュースなどで多く耳にするのではないでしょうか。染色体に関してはNIPT(新型出生前診断)により、母体血液から胎児の染色体異常リスクの有無を高精度に検出できることが知られています。
これらのことから、遺伝子・DNA・ゲノム・染色体は身近な存在となりました。しかし、一般的にゲノム・DNA・遺伝子の違いを明確に理解する方は少なく、DNA=遺伝の原因、といった誤解も少なくありません。SNP(一塩基多型)を理解する前には、遺伝子・DNA・ゲノム・染色体のそれぞれがもつ役割を知ることが大切です。
遺伝子とは
遺伝子とは生物のカラダを作るデータにあたります。皮膚の弾力物質であるコラーゲンやカラダを動かす役割を担う筋肉、体中に酸素を運ぶヘモグロビンや消化酵素・嗅覚にいたるまで私たちのカラダは、タンパク質からできています。
データである遺伝子をもとにタンパク質が作られ、生物のカラダとして仕上がるのです。なお、ヒトの遺伝子は約2万種類といわれています。
DNAとは
DNAとはデオキシリボ核酸の略称です。DNAを解説する映像などで見る二重らせんの形、といえばわかりやすいでしょう。らせん内には「Adenine(アデニン)」「Thymine(チミン)」「Guanine(グアニン)」「Cytosine(シトシン)」があり、これらの頭文字A・T・G・Cを塩基(えんき)といいます。この4つの塩基の並び(塩基配列)が遺伝子情報です。
遺伝子がデータとするのであれば、DNAは生物を作るための設計図といえるでしょう。ヒトの塩基配列は約30億もあり、親と同じものを作る遺伝情報が含まれます。また、親と同じものを作るすべての遺伝情報は「ゲノムDNA」といいます。親子の姿かたちが似るのは、このゲノムDNAによるものです。
これらのDNAに記録された設計図に基づき、ヒトのカラダを形作るタンパク質の構造をどこにどれだけ作るかを決定します。なお、DNAの塩基配列の違いによってヒトの顔立ちや体型、体質などが変わります。
ゲノムとは
ゲノムはgene(遺伝子)とome(すべて)を組み合わせ、ドイツ語読みした用語であり「必要な遺伝子のすべて」を意味します。1920年ドイツの植物学者であるハンス・ヴィンクラーによって作り出された造語となり、ゲノムを訳すれば「全遺伝情報」と表現されます。
全遺伝情報といわれるようにゲノムとは、「その生物を作るために必要な遺伝子のすべて」を指します。ネズミの子どもであればネズミとなり、ヒトの子どもであればヒトとなるように、それぞれの生物となるために必要なDNAセットともいえるでしょう。
染色体とは
染色体とはヒストンと呼ばれるタンパク質に糸状のDNAを巻き付けた構造体です。1本の染色体の中には数百〜数千もの遺伝子が含まれ、父親と母親から1本ずつ受け継いだものが対となり、ヒトの染色体は46本(23対)あります。このうちの44本を常染色体といい、大きなものから1,2,3,〜と順番に番号がつけられています。
残る2本は性染色体と呼ばれ、男女の性別を決めます。性染色体はX染色体とY染色の2種類に分かれ、XYの組み合わせであれば男性、XXの組み合わせであれば女性となります。
〜ヒトゲノム計画とは〜
ヒトゲノム計画(ゲノムプロジェクト)とは、ヒト細胞の核にあるDNAの塩基配列をすべて解読するために立ち上げられた国際計画です。30億あるDNAがどのような順番で並び、どの場所で、どのような情報が組み込まれているのかを解明する目的のために立ち上げられました。
2003年、すべてのヒトゲノムの解読が完了され、この解読結果をもとに病気の原因や製剤の材料となる遺伝子研究を進めるなど、遺伝子医療の発展が期待されています。
SNP(一塩基多型)が引き起こすこと
ヒトゲノムDNA30億個の塩基配列(塩基の並び)は、すべてのヒトで同じではありません。標準的な塩基配列と一塩基(ひとつの塩基)が、異なる塩基に置き換わり多型(多様性)が生じることがあり、これをSNP(一塩基多型)といいます。
ヒトDNAにおいてSNP(一塩基多型)は、約300〜1500塩基に1個程度あるといわれています。異なる塩基の置き換わり、つまり遺伝情報の差が姿かたちや性格、花粉症やアルコールへの耐性といった個性・体質の差を作り出しているといえるでしょう。
なお、SNP(一塩基多型)は発生頻度が人口の1%以上で存在しているものと定義され、塩基配列変化の頻度が1%未満のものは変異(mutation)として区別されます。
SNP(一塩基多型)解析方法の目覚ましい進歩
SNP解析は従来、目的とするSNP単体(あるいは数個)をターゲットとして、個別に解析を行う方法が主流でした。具体的にはRFLP法(SNPが含まれる遺伝子領域をPCR法で増幅させた後、制限酵素処理を行う)や、SSCP法(SNPが含まれる遺伝子領域をPCR法で増幅させた後、立体構造を保持したまま電気泳動を行う)などがここに含まれます。しかし、これらの方法は煩雑で、正確性にも乏しいものでした。
2000年代に入ると、よりハイスループットの解析方法が求められるようになりました。個別解析ではなく、現在においても重視されている網羅的なSNP解析が次々と発案されました。中でも技術の飛躍が顕著だったのがDNAマイクロアレイと呼ばれる分析法です。これは多数のDNA断片(プローブ)を基板上に格子状に整列させたチップにDNAをハイブリダイズさせ、蛍光などを用いて検出することで検体に含まれるDNAの配列を解析する手法です。SNP解析の際にはSNP近傍のヌクレオチドをプローブに用いることで、網羅的解析が可能になりました。
現在ではDNAマイクロアレイの技術はさらに発展し、コストが低下したことから、解析ツールとしてより利用しやすくなりました。さらに先進の技術として次世代シーケンサー(NGS)を用いた全ゲノム配列決定により、低頻度のSNPの検索までもが行われており、今後解析可能な範囲のさらなる拡大が予想されます。実際にこれら技術を用いて作られたSNPデータベースも充実しており、研究・医療の分野でSNPを活用する基礎ができつつあります。
注目されるSNP(一塩基多型)による「テーラーメイド医療」
2003年、ヒトゲノム解読後より現在にいたるまで、ゲノム研究は加速し続けています。これまでの単一遺伝子疾患の原因解明から、さまざまな病気や薬剤応答性(薬剤を使用した時に得られる効果の違いや副作用の違い)に関する網羅的(ゲノムワイド)な解明・解析へと移行し、さらなる研究がおこなわれていくでしょう。
病気は遺伝要因だけではなく、環境要因が複雑に絡み合い引き起こることからSNP(一塩基多型)の解析だけですべてが解明されることはありません。しかし、多くの病気のメカニズムや病気予防の活用に大いに期待が持てるといえます。
SNP(一塩基多型)の解析・情報集積により薬効や副作用の現れ方を投薬前に知ることも可能となります。個人の遺伝的背景に考慮した薬剤を、最適な量と時期に使用する 「テーラーメード医療」への道は開かれ、今後ますます発展していくでしょう。また、SNP(一塩基多型)の解析はテーラーメイド医療だけにとどまらず、遺伝的背景の影響を受けない薬剤の開発や薬効差の少ない薬剤開発も可能とされています。
国家から企業まで注目するSNP(一塩基多型)プロジェクトと個人情報
現在、国家プロジェクトの一環として、がんや難病などのゲノム解析が推し進められています。国家のみならず大手企業の中でも希望者のみを対象とし、従業員のゲノムデータと健康診断結果の情報提供を求め、ヘルスケア事業に取り組む動きが発表されました。これらの動きはゲノム解析コストの低下が挙げられるでしょう。
一方、個人のゲノムデータによる情報は”究極の個人情報”ともいえます。2015年に改正された個人情報保護法により、DNAを構成する塩基配列は個人識別符号として規定されました。
一般的には遺伝学の知識を持たずにゲノムデータから被験者と個人を結びつけ、特定することは容易ではありません。しかし、ゲノムデータによる個人情報流出により遺伝的特徴による病気を推定することが可能とされています。これにより被験者の雇用・婚姻・金融サービスなどにおける差別に繋がるおそれもゼロといい切ることはできないでしょう。
SNP(一塩基多型)はもちろん、NIPT(新型出生前診断)など発展めざましい遺伝子解析と研究。これらの論理的な問題をクリアすることこそが、これまでの医療を塗り替えるのかもしれません。