スミス・マギニス症候群は、短い頭や額の突出などの身体的症状、睡眠障害や自傷行為などの行動の異常、言語の発達障害などの知的障害を生じる疾患です。この記事ではスミス・マギニス症候群の原因・症状・診断・治療などについて詳しく説明していきます。
この記事のまとめ
スミス・マギニス症候群は、17番染色体の17p11.2の位置にある、レチノイン酸誘導遺伝子1(RAI1)の異常で起こる疾患です。外見的な特徴としては、短い頭、額の突出、眉毛の癒合、顎の突出、短い指などがみられ、症状としては、睡眠サイクルの障害や自傷行為、知的障害などを認めます。1万5000〜2万5000人に1人の比較的稀な疾患です。根本的な治療はまだ確立されていません。
スミス・マギニス症候群とはどのような病気か
スミス・マギニス症候群(Smith-Magenis Syndrome、スミス・マゲニス症候群)は、17番染色体の17p11.2の位置にある、レチノイン酸誘導遺伝子1(RAI1)の異常で起こる疾患です。遺伝子の欠失(遺伝子が途中で切断される)や遺伝子の配列が違ってしまう変異が原因で、RAI1遺伝子が正常に働かなくなってしまうことで体中にさまざまな症状が現れます。
外見的な特徴としては、短い頭、額の突出、眉毛の癒合、顎の突出、短い指などがみられ、症状としては、睡眠サイクルの障害や自傷行為、知的障害などを認めます。また、大多数の患者さんで言語発達の遅れや心疾患を認めます。
スミス・マギニス症候群の頻度は、1万5000〜2万5000人に1人と考えられている比較的まれな疾患で、日本国内での患者数は30〜50人程度と推定されています。日本で指定難病対象疾病および、小児慢性特定疾病の対象疾患となっています。
スミス・マギニス症候群はいつわかる?
スミス・マギニス症候群はエコー検査で妊娠を確認できれば、NIPT(新型出生前診断)により判定することができます。ただし、NIPTをおこなう全ての施設で検査ができるわけではありません。また、確定診断には羊水検査や出生後の遺伝子検査を受ける必要があります。
スミス・マギニス症候群の原因
スミス・マギニス症候群の原因は、17番染色体の短い腕(短腕(p))の17p11.2と呼ばれる部分が一部欠けてしまったり(遺伝学用語では「微小欠失」)、遺伝子の配列が異なってしまう(遺伝学用語では「変異」)ことで起こります。この位置にはレチノイン酸誘導遺伝子1(RAI1)という遺伝子が存在しており、染色体の異常によりRAI1遺伝子の機能が低下してしまいます。
ヒトの遺伝子はそれぞれ2つのペアになっており、一方の遺伝子に異常があっても、もう一方の正常な遺伝子が機能を補って、全体としては十分な機能を持ち、症状として現れないこともあります。しかし、RAI1遺伝子の場合は一つの遺伝子が異常となり、正常な遺伝子が一つになってしまうと正常な機能を果たすことができずに、症状が現れることになります。これを遺伝学用語で「ハプロ不全」と呼びます。
RAI1遺伝子は、他の遺伝子の発現(活性)を制御する機能を持っており、特に睡眠や覚醒などの1日の体内リズム(概日リズム)に関わる遺伝子を制御することがわかっています。これが、この疾患に特徴的な症状である、睡眠障害の原因となっていると考えられています。RAI1はその他にも、脳や頭、顔の骨の発達に関わっている可能性があると考えられていますが、その機能は明らかになっていない部分も多いです。
これらの染色体の異常は、ほとんどの場合突然変異により偶発的に起こるため、親から子どもの間で遺伝したり、家族内にスミス・マギニス症候群の方がいることは非常にまれです。しかし、両親の遺伝子異常から発症する報告もあるため、可能性がゼロというわけではありません。
スミス・マギニス症候群の症状・特徴
おもな症状
スミス・マギニス症候群では様々な症状が出現します。症状は身体的な特徴と行動の特徴、知的障害とに大きくわけることができます。
身体的な特徴
特徴のある顔つき
スミス・マギニス症候群では、以下のような顔貌(顔つき)の特徴が見られます。
- 短い頭
- 前額の突出
- 下顎の突出
- つながった眉毛
- 低い位置にある耳
- 深くくぼんだ目
これらの顔つきの特徴は幼児期にはあまりはっきりしませんが、成長して大人になっていく過程で徐々に明らかになってくると言われています。
また、乳児期の筋緊張低下や短く大きな手も、スミス・マギニス症候群の身体的な特徴としてあげられます。
行動の特徴
行動の症状はスミス・マギニス症候群の主要な症状で、具体的には以下のような症状を認めます。これらの行動の症状も乳児期にははっきりとしませんが、幼児期から症状が現れ、成長に伴って変化していきます。
- 過眠や不眠などの睡眠障害
- 気分の変化しやすさ
- 多動性、衝動性
- 不安症
- 自傷行為(頭をたたく、皮膚をつまむなど)
- 常同的な行動(自分自身を抱擁するような行動や、手をなめてページをめくるような行動など)
知的障害
大多数の患者さんで言語能力の発達の遅れなどの知的・発達障害を認めます。
おもな合併症
前に述べた身体的特徴や行動的特徴以外にも様々な臓器に合併症が現れることがあります。頻度の多い合併症は以下のとおりです。
- 聴力障害や中耳炎などの耳鼻科的異常
- 斜視などの眼科的異常
- 先天性心疾患
- 低身長
- 側弯症
- 内分泌障害
- 腎奇形
- 脳奇形
スミス・マギニス症候群の診断
スミス・マギニス症候群は、一般的には出生後の症状と遺伝学的検査によりRAI1遺伝子を含む17番染色体に微小な欠失や変異が認められた場合に診断が確定します。
ヒロクリニックNIPTで調べられる「微小欠失症候群」のひとつ
最近では遺伝子検査技術の進歩により、NIPT(新型出生前診断)と呼ばれる検査法で妊娠中に遺伝子疾患の有無を知ることができるようになっています。スミス・マギニス症候群はヒロクリニックNIPTで調べられる微小欠失症候群のひとつです。
「微小欠失症候群」とは、染色体の特定の位置の遺伝子が欠失することによって生じる疾患です。そのサイズは小さいものでは50万塩基*からと言われており、通常200万から300万塩基配列の欠失によって生じると言われています。その欠失サイズと欠失位置によって多彩な症状とさまざまな重症度を取りますが、いずれも精神遅滞などの発達遅滞をともないます。また、微小欠失症候群の多くは自然発生的なものであり、母体の年齢に関係なく発症すると言われています。
*塩基…DNAを構成する主要な成分のこと。DNAの塩基成分は、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類。
スミス・マギニス症候群の治療
スミス・マギニス症候群に対しては、根本的な治療はまだ確立されておらず、身体的症状、睡眠障害・自傷行為などの行動の症状や、発達障害、合併症に対する対症療法が主な治療法となります。全身に多くの症状がみられることから、様々な診療科が連携してそれぞれの症状に対応していくことになります。
スミス・マギニス症候群の予後と寿命
スミス・マギニス症候群の予後に関しては、まだはっきりとしたデータはありませんが、80歳以上まで生存している方もおり、臓器異常がない場合は他の発達障害の予後と変わらないのではないかと考えられています。
まとめ
スミス・マギニス症候群は17番染色体の17p11.2にあるRAI1遺伝子が欠失することによって起こる染色体異常です。
最近ではNIPT(新型出生前診断)により、出生前に疾患の有無を知ることができるようになってきましたが、NIPTをおこなっている施設であれば、どこでもスミス・マギニス症候群を調べられるというわけではありません。
ヒロクリニックNIPTでは、
- スミス・マギニス症候群
- ディジョージ症候群
- 1p36欠失症候群
- ウォルフ・ヒルシュホーン症候群
4種の微小欠失症候群を調べることができます。以前の妊娠で異常のあった方や流産を繰り返している方など、赤ちゃんの遺伝子疾患が心配な方は、検査を検討してみてはいかがでしょうか。
【参考文献】
- 小児慢性特定疾病情報センター – スミス・マギニス症候群
- 遺伝性疾患プラス – スミス・マギニス症候群
- GeneReviews Japan – スミス・マゲニス症候群
スミス・マギニス症候群は、短い頭や額の突出などの身体的症状、睡眠障害や自傷行為などの行動の異常、言語の発達障害などの知的障害を生じる疾患です。この記事ではスミス・マギニス症候群の原因・症状・診断・治療などについて詳しく説明していきます。
記事の監修者
新田 啓三先生
ヒロクリニック札幌駅前院 院長
分娩時年齢の高年齢化に伴い、NIPTのニーズは高まっています。
そして今後、NIPTの精度や検査可能な項目もまた、増えていくことと思います。
当院では、そうした今の医療で知り得る、そして知りたい情報を適切に妊婦さんにお伝えする義務があると考えています。
知る権利とともに知らない権利もまた存在します。
「知りたくない情報は知らせない」のもまた医療の義務と考えます。
当院では知りたい情報を選択できます。
どのプランにしたら良いかご相談いただき、是非、ご自身に合った検査を選択してください。
略歴
1996年 埼玉医大総合医療センター
2002年 神奈川県立こども医療センター
2004年 国家公務員共済組合連合会横浜南共済病院
2010年 横須賀市立うわまち病院
2012年 市立三笠総合病院
2015年 医療法人社団緑稜会ながぬま小児科
2019年 国民健康保険町立南幌病院
資格
アレルギー学会
小児アレルギー学会