胎教とは
胎教とは「妊娠中から始める教育」のようなイメージを持っている人も多いかもしれません。
以前は、早期教育を目的にクラシック音楽や英語などを聴かせるという方法が多かったようですが、最近の胎教の目的は「生まれる前のお母さんやお父さんと赤ちゃんとのふれあい」であるという考え方に変化してきています。
またお母さんがストレスを感じず、穏やかに過ごすことで赤ちゃんにもいい影響がある、ということも胎教といえます。胎教は親子のコミュニケーションやお母さんのリラックス効果を目的としたものが多くなります。
胎教の科学的根拠
実際「妊娠中の胎教でお腹中の赤ちゃんが天才になる、将来このような人間になる」といったことは実証されていませんが、赤ちゃんの脳神経は生まれる前から発達し始め、お母さんのおなかの外の環境を感じ取って反応することはわかっています。
日本胎教協会では「胎教アドバイザー」という資格を発行しており、資格取得者が全国で胎教の知識を広める活動を行っているようです。
ある病院の妊婦対象のアンケート調査では、ほぼ全員が「胎教」という言葉を知っているとの回答があり、7割が「胎教は必要である」と回答していることがわかりました。このようなことから胎教が注目されている分野だということがわかります。
脳神経の発達
人間の脳神経のうち最も早く発達するものは聴覚に関する神経であり、音に対してお腹の中にいる赤ちゃんの反応については、19世紀より研究が行われています。
頭部の骨伝導によって人の声を感じられることや、音の刺激によってお腹の中にいる赤ちゃんの心拍数が上がること、人の声を聞いた時には心拍数が下がることを示す研究結果などがあります。このように赤ちゃんはお腹の外の音や人の声を感じられることが実証されてきました。
お母さんが聞こえる音がすべてそのままお腹の赤ちゃんに聞こえるとは限りませんが、およそ24週目ごろから音の刺激に対して反応をし始めると言われています。
お母さんの声は、体の中を通して振動して届くので特に伝わりやすいようですが、声よりも心臓の音や血液の流れる音などの方がよく聞こえているという報告もあります。
また出産直後から聞いたことのない女性の声よりもお母さんの声を好むという研究結果も報告されています。
このようなことから胎教は有効であるといえるでしょう。
胎教はいつから?
胎教はいつからでも始められます。妊娠を知ってからすぐに始める人もいれば、胎動が始まってから、もしくは産休に入ってから始めたというお母さんもいます。
赤ちゃんの聴覚器官は16-20週頃にかけて発達をはじめ、24-26週頃になると耳から捉えた振動を「音」として認識できるようになります。
妊娠16週を過ぎると脳の中にある海馬(かいば)と呼ばれる記憶をつかさどる部分が発達し、毎日聞いているお母さんの声を記憶できるようになります。24-27週頃には音の調子を区別する部分も完成し、お母さんとお父さんの声も聞き分けられるようになるといわれています。
いつからでも始められる胎教ですが、聴覚、海馬が発達する妊娠16-27週頃は始める時期としては良い時期だといえます。
妊娠超初期(2週~3週目)
お腹が目立たず赤ちゃんの存在を実感しづらい時期ではありますが、手をお腹にあてる、お腹を優しく撫でる、胎児ネームをつけるなどがこの時期おすすめの胎教です。
赤ちゃんの身体の機能はまだ未発達ですが、おはよう、おやすみのあいさつから話しかけを始めてみましょう。日常生活で感じたことなどを話しかけてみるのもいいでしょう。
妊娠初期(13週6日まで)
この頃では身体の器官のほとんどが形成され、赤ちゃんの脳神経、五感がどんどん発達してきます。赤ちゃんの触覚は五感の中でも最も早く発達します。お腹に触れることは赤ちゃんへよい刺激になります。
そしてお母さんの気持ちはお腹の赤ちゃんにも伝わります。お母さんが心穏やかに過ごしていれば、赤ちゃんも穏やかに過ごせます。
NIPT(新型出生前診断)はエコー検査で妊娠を確認後すぐに
高齢出産、不妊治療の末に妊娠した場合では、これから生まれてくる自分の子供が健康かどうか不安で大きなストレスを感じてしまうことがあります。一般的な定期検診だけでは不安という場合には、NIPT(新型出生前診断)などの検査を受けることも可能です。
NIPT(新型出生前診断)は、母体から採血をして赤ちゃんの染色体異常を調べる検査です。羊水検査や絨毛検査と比べて、赤ちゃんに負担がかからないということが利点といえます。
妊娠中期の胎教(14週0日〜27週6日)
この頃より赤ちゃんの聴覚はさらに発達し子宮の外の音も聞こえるようになってきます。話しかけたり、好きな音楽を聞いたりしてみましょう。赤ちゃんの記憶力もついてきますので、絵本の読み聞かせや、歌を歌ってあげるのもよいでしょう。
胎動を感じるようになったら、リラックスした状態で赤ちゃんの胎動を感じてみましょう。お腹を撫でると、赤ちゃんによい刺激になります。
妊娠後期の胎教(28週~)
赤ちゃんはさらに大きくなり、身体の成長がほぼ完成に近づきます。赤ちゃんと遊ぶようなつもりでお腹に触れたり、話しかけて楽しみましょう。ゆったりと散歩しながら見える風景を伝えたり、深呼吸して赤ちゃんにいい酸素を届けてあげたりするのもよいでしょう。
おすすめの胎教
胎児ネームをつける
生まれてからの赤ちゃんの名前とは別に胎児ネームをつけることがあります。胎児ネームがあるとコミュニケーションを取るのに便利だという人もいれば、名前が生まれる前後で変わるのは違和感があるという人もいますので、人それぞれやりやすい方法を取るとよいでしょう。
音楽を聴く
胎教の音楽と言えばクラシック、モーツァルトというイメージがあるかもしれません。しかし、基本的にはお母さんがリラックスできるような音楽であればクラシックでなくてもよいでしょう。音楽好きのお母さんならいつからでも始められる胎教だといえます。
音楽の聞かせ方について、イヤホンでは赤ちゃんに聞こえないということを心配するお母さんがいますが、音楽を聴くことで、お母さん自身がリラックスする、穏やかな気持ちになることが重要です。
絵本の読み聞かせ
リラックスして読んであげられる絵本を選ぶと良いでしょう。赤ちゃんが生まれた後に行う読み聞かせの練習に行う方々もいます。様々な胎教グッズも売られており、最近では胎教アプリや絵本のアプリ、DVD、YouTubeなどを使って物語の読み聞かせをする方法もあるようです。
またお腹の中で聞いていた音は生まれてからも聞くと安心する傾向があるとの報告もあり、そういう意味では妊娠中から英語などの外国語を聞かせておくと、生後は英語やその他言語への抵抗感が下がるといえるのかもしれません。
話しかける
お母さんの優しい声は赤ちゃんの一番の安らぎになります。今日あった楽しかったことや嬉しかったことなど、前向きな気持ちになれるような言葉を話しかけるのがおすすめです。準備なども必要なく、いつからでも始められる胎教の一つです。
お腹をさする、軽く押す、軽く叩く
赤ちゃんを撫でてあげる気持ちで優しくお腹をさすってみましょう。赤ちゃんの胎動を感じる時には軽く押したり、叩いてみてお母さんから合図をしてみましょう。赤ちゃんが胎動で返してくれるかもしれません。
軽い運動
ウォーキング、ストレッチ、マタニティヨガ、マタニティスイミングなど、無理のない範囲で少し体を動かしても良いでしょう。お母さんが気持ち良いと感じることが良い胎教になります。
妊娠中のストレスが及ぼす影響
妊娠中にストレスを感じやすくなる原因としては、ホルモンバランスの変化です。妊娠中、女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンの2種類が大きく変化します。
妊娠するとその分泌量が大きく変化し妊娠週数が進むにつれ、エストロゲンとプロゲステロンの分泌量は増加し、特にプロゲステロンは、気分の浮き沈みを増長させるためストレスを感じやすくなるのです。
妊婦さんにとってストレスが身体に良くない原因として、ストレスには血管収縮作用があるという点です。人間の身体はストレスを感じると緊張状態になり、アドレナリンなどのホルモンを放出します。このとき胃や腸、そして子宮の血流量は低下します。
お腹にいる赤ちゃんは、お母さんの子宮に流れている血液から胎盤を通して栄養を取り込んでいるため、血流が悪いと栄養不足に陥ります。この状態が長く続くと赤ちゃんの発育が悪くなってしまうことがあります。
またストレスがあると、ストレスホルモンの一つであるコルチゾールが分泌されます。このホルモンは放出状態が慢性的に続くと身体に悪い影響を与え、赤ちゃんの胎動や心拍も減るというデータがあります。コルチゾールは胎盤で防御されて、赤ちゃんに伝わらないようになっているのですが、胎盤が未熟だったり胎盤がうまく機能しないと赤ちゃんに伝わることがあります。コルチゾールが増えると、神経系の発達に影響を及ぼすと考えられています。
まとめ
お母さんにとっていつから始めればいいか気になる胎教ですが、妊娠中に胎教をしなかった、赤ちゃんに話しかけなかったからといって、悪影響が及ぶということはありません。
胎教を行うにあたっては、お母さん、お父さんのペースに合わせてストレスを貯めないことが重要です。正しい知識を得て、健やかなマタニティライフを過ごしましょう。
【参考文献】
- 日本胎教協会
- 伊藤由美 – 母性衛生= Maternal health, 2011「母親による胎教の動機づけとしての絵本の読み聞かせにおける育児不安への影響」
記事の監修者
岡 博史先生
NIPT専門クリニック 医学博士
慶應義塾大学 医学部 卒業