はじめに
初産婦と経産婦では、個人差もありますが、妊娠後の身体的な変化や出産までの経過において、違いがあります。
初産婦とは
初めて妊娠・出産を経験する女性のことを、初産婦(しょさんぷ)といいます。
経産婦とは
経産婦(けいさんぷ)は妊娠・出産経験のある女性のことです。正確には「妊娠22週以降の胎児を1回以上出産した経験のある人」と定義されています。長期間間隔が空いていても、一度でも妊娠・出産経験があれば「経産婦」に該当します。
妊娠初期から出産までの流れに違いはある?
初産だと大変で、経産婦だと楽になるという話を聞くことがあります。出産経験の有無がお産に及ぼす影響についての違いを解説していきます。
妊娠初期の初産婦と経産婦の違い
妊娠初期の初産婦と経産婦では、いつから胎動を感じ始めるか、つわりの感じ方などに少し違いがあるようです。初産婦の妊娠初期は特にわからないことが多く不安を持つことが多いようですが、経産婦だと経験で乗り越えられることも増えてくるようです。
胎動の感じ方
胎動を感じる時期は、早い人で妊娠4か月頃からと言われ、遅くとも妊娠7か月頃までには胎動を感じるようです。そして初産婦と経産婦では、経産婦のほうが経験から胎動を感じやすいと言われています。胎動を感じやすい人の特徴としては、やせ型で皮下脂肪が少ない人、羊水が少なめな人、ゆっくりしている時間を取れる人と言われています。日中お仕事や子どもの世話などで忙しく過ごしていると、少々の胎動では気づきにくいようですので、経産婦でも胎動を感じにくいこともあるかもしれません。
つわりの感じ方
つわり症状があらわれるのは経産婦よりも初産婦に多い傾向があるとされています。しかし、つわりが重症化した妊娠悪阻(にんしんおそ)は、経産婦に多いようです。一般的には一人目よりも二人目の方が楽に感じるつわりが多い一方で、妊娠悪阻となるケースでは、二人目のつわりの方が重くなることがあります。
また、つわりはストレスや疲れなどが要因で悪化することがあるともいわれています。つわりの症状は個人差があり、程度の感じ方は人それぞれではありますが、「一人目の妊娠時に比べつわりが楽だった」というケースと、「二人目のつわりの方がひどい」というケースが混在するのには、こうした背景も影響していることが考えられます。一人目の妊娠でつわりに悩まされた妊婦さんでも、二人目でつわりが比較にならないほど軽く感じたり、つわりの症状がないことがあります。実際つわりは妊婦の20〜50%は無症状か、訴えるほどの症状が出ていないと言われています。
妊娠中期の初産婦と経産婦の違い
妊娠中期の初産婦と経産婦では、つわりが治まり、体調が安定しお腹が大きくなる時期です。自覚症状として、初産婦の時よりも経産婦の方がお腹が大きくなるのが早いと感じることがあるようです。
妊娠線
妊娠線とは、子宮と胎児が大きくなるスピードに対し、お腹の皮膚の伸びが追いつかないことが原因で生じるものです。経産婦は前回の妊娠で、お腹が大きくなった経験があります。そのため初産婦より皮膚が伸びやすく、妊娠線ができにくいとも言われています。しかし経産婦でも、妊娠線のケアは必要です。体質にもよりますが、しっかり保湿ケアを行うことで予防ができます。
妊娠後期の初産婦と経産婦の違い
出産の兆候として、粘液栓、おしるし、前駆陣痛、破水などがありますが、これらの兆候は初産婦と経産婦で大きな違いはないと言われています。
おしるし
初産婦にはおしるしがあるが、経産婦ではっきりしたおしるしがある人は少ない、といわれることがあるようですが、必ずしもそうとは言い切れません。おしるしのある経産婦、おしるしのない初産婦もいます。出産経験の有無よりも個人差によるもののようです。
破水
一般的にはおしるし、前駆陣痛、破水という順番で出産の前触れのサインとなることが多いのですが、破水が先にくる人も少なくありません。陣痛がこないまま破水が起こることを前期破水といいますが、この前期破水は初産婦、経産婦だからという違いはなく、個人差が大きいと言われています。
前駆陣痛
前駆陣痛が始まる時期は、初産婦、経産婦ではなく個人差で前後すると言われています。前駆陣痛は妊娠36〜40週目に起こることが多く、早い場合は妊娠28週に現れることもあります。
出産
出産予定日は、超音波検査による推定になります。出産の兆候で初産婦と経産婦に明らかな違いはないと考えられますが、胎児の下降は明確に異なります。
初産婦の場合、胎児の下降は分娩開始の数週間前ですが、経産婦の場合は分娩開始の間近になってからが多いといわれています。
予定日より早い?遅い?
初産婦よりも経産婦の方が、必ずしも出産の日が早いということはありません。出産回数よりも個人差が大きく、妊娠37週0日〜41週6日までの出産は正期産の期間です。
胎児の下がり具合、子宮口の開き具合や柔らかさなどで出産予定日を予想することは可能ですが、確実ではありません。
陣痛の感じ方初産婦と経産婦の違い
一般的に2回目以降のお産にかかる時間は初産にかかる時間の半分程度と言われています。経産婦は胎児がすでに子宮頸管を通過しているため、2人目以降のお産は子宮口が柔らかく開きやすいためです。
陣痛
分娩にかかる時間が短ければ短い程、陣痛を感じる時間も短くなります。陣痛の周期が一定の間隔になったら分娩の準備に入りますが、陣痛が始まる開口期から出産に至るまで、初産婦と経産婦では時間が倍近く異なります。
後陣痛
妊娠中、子宮は胎児の成長に伴って大きくなっていきます。分娩後、子宮は徐々に元の大きさに戻ろうと収縮しますが、その時に生じるのが後陣痛です。子宮が収縮することにより、子宮と胎盤に栄養を届けるために発達した血管を収縮させ、子宮からの出血を止める大切な役割があります。陣痛に似た痛みである後陣痛ですが、状態によっても痛みの度合いが異なります。経産婦は後陣痛が強くなる傾向にあります。これは初産婦に比べて子宮が収縮するスピードが早いために、より後陣痛も強く感じると言われています。後陣痛の出現時期には個人差がありますが、多くは出産当日から産後3日目にかけて痛みがピークに達し、その後は痛みが徐々に落ち着いていきます。 産後4週間は後陣痛が不定期に訪れ、子宮が妊娠前の状態に戻るまでに産後8週間かかることもあります。
分娩時間
初産婦と経産婦では陣痛の始まりから出産まで、分娩時間に差が出てきます。
分娩の所要時間の違い
初産婦の場合、分娩の所要時間の平均は12〜15時間、経産婦では4〜8時間といわれています。
陣痛促進剤の効果
予定日超過妊娠、前期破水、微弱陣痛、妊娠高血圧症などの理由で陣痛促進剤を使用し陣痛を誘発することがありますが、妊娠陣痛促進剤の効き目には、すぐに陣痛が起こる人もいれば、数時間後、または次の日に起こるなど個人差があります。初産婦と経産婦と比較して陣痛促進剤の効果の違いはないと言われています。 もし陣痛促進剤が効かない場合は様子を見ながら量を増やすほか、医師の判断によっては、帝王切開になる場合もあります。
産後の回復
出産後6か月までの疲労の自覚症状の訴えは、初産婦と経産婦を比較すると初産婦が多いと言われています。自覚症状の訴えは、出産後6か月まで常に初産婦が経産婦の約2倍であり、出産後3か月が一番症状が強く出ると言われています。また、初産婦、経産婦ともに眠気とだるさ、肩こり、腰痛が自覚症状として多くあります。帝王切開の場合、おなかの傷が治るにはおよそ6週間ぐらいかかるといわれているため、経腟分娩と比べると産後の回復が遅く感じることがあるようです。
母乳に変化はある?
初産婦と経産婦では、乳房の形や色に違いが出てきます。経産婦は赤ちゃんに授乳した経験から、乳頭や乳輪がやわらかく、伸びやすくなっているので授乳はしやすくなります。
初産婦は経産婦に比べて乳頭や乳輪が小さく、授乳確立するまで少し時間がかかることがあります。一方で経産婦では2人目、3人目とお母さんが高齢出産となったり、上の子の世話が多く、ゆっくり授乳をしている時間がない、疲れやすくなったなどの理由で母乳育児が困難になることもあるようです。
妊娠が確定したらNIPT(新型出生前診断)
NIPT(新型出生前診断)とは、お母さんから採血した血液から胎児の21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、13トリソミー(パトウ症候群)などの染色体異常を調べる検査のことです。従来の血液による出生前診断と比較しても、感度・特異度から見ると検査自体の精度がきわめて高いとされています。NIPT(新型出生前診断)は、初産婦、経産婦ともにエコー検査で妊娠が確認できていれば検査可能です。
まとめ
初産婦と経産婦では身体的、精神的、経験的に違いがありますが、個人差の部分も大きいと思います。様々なことが心配になる妊娠期ですが、正しい知識を得て、よりよいマタニティライフを過ごしましょう。
【参考文献】
- 社団法人日本産科婦人科学会編 金原出版 – 産科婦人科用語集・用語解説集 改訂第2版
- 母性衛生,45(2),260-268,2004 國分真佐代 – 出産後6ヵ月までの母親の身体活動と自覚疲労の推移
記事の監修者
岡 博史先生
NIPT専門クリニック 医学博士
慶應義塾大学 医学部 卒業