この記事のまとめ
妊婦さんがインフルエンザにかかると、色々な合併症を起こしやすくなってしまうことが知られています。妊娠中にインフルエンザワクチンを打つことは可能で、その接種時期も問われていません。また授乳中のインフルエンザワクチンの接種も可能です。ですが、一般の方に比べ副反応が強くでることも考えられますので、体調に合わせて接種日を決めることが望ましいでしょう。
妊婦さんがインフルエンザにかかるとどうなる?
妊婦さんがインフルエンザにかかると、さまざまな影響が現れることが報告されています。色々な合併症を起こしやすくなってしまうことが知られており、胎児に関して具体的には神経管閉鎖障害や心奇形などの出生児の先天異常が現れたり、自然流産、早産、低出生体重児、在胎不当過小(胎児の体重が、在胎期間に対して10パーセンタイル未満の乳児)が知られています。
その他、母体に関しては、インフルエンザ(H1N1)が2009 年に流行した時には、妊婦は非妊婦に比べて入院率が高くなっていたことが知られており、日本国内だけでなく特に海外では死亡例も報告されておりました。
そのため、国内に関しては厚生労働省および日本ワクチン学会からも、インフルエンザワクチン接種が推奨されており、日本産科婦人科学会でも、お母さんから相談を受け、医師から有益性を説明、接種を判断することが推奨されています。
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インフルエンザの予防接種について
現時点ではインフルエンザワクチンは生まれたばかりの赤ちゃん(6か月未満)には安全性と有効性が十分に確認されておらず接種ができないため、妊娠中や出産後にインフルエンザワクチンの予防接種をすることで、生後6か月までお子さんがインフルエンザに感染する可能性を少なくさせる効果が認められています。
そのため、インフルエンザワクチンを打たないことによって、これらの影響が現れやすくなる可能性があります。
加えて、新型インフルエンザ流行の際、海外では多くの妊婦さんの死亡例が報告されていたものの、日本では妊婦さんの死亡例がありませんでした。これは、日本の厚生労働省、日本産科婦人科学会の適切な対応によるもので、重症化するリスクの高い妊婦さんを優先にワクチンの接種と抗インフルエンザウィルス薬の早期内服を行ったためと考えられています。
また最近の報告ではインフルエンザワクチンの接種により、出生後半年間の呼吸器疾患の罹患率を減少させたという報告もあるため、インフルエンザワクチンの副効用(インフルエンザを予防するだけでなく出生後の呼吸器疾患をも予防する可能性)がある可能性も考えられています。
そのため、日本だけでなく世界的にも妊娠中または出産後に母子共にインフルエンザにかからないよう、妊婦さんへのインフルエンザワクチンの接種が推奨されています。
妊娠中はインフルエンザワクチンを打ってもいい?
妊娠中にインフルエンザワクチンを打つことは可能です。また、その接種時期も問われていません。
ただし、インフルエンザワクチンが、国内で承認済みのいくつかの免疫に関連する他のお薬や、がん治療のお薬(関節リウマチに対するお薬や抗がん剤など)を服用している場合、相互作用によってインフルエンザワクチンの効果が低下する可能性もあるため、担当医師に相談しましょう。
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授乳中はインフルエンザワクチンを打ってもいい?
授乳中のインフルエンザワクチンの接種は可能です。
授乳中に関してはインフルエンザワクチンを接種しても、母乳の安全性に影響を与えないことが分かっています。
インフルエンザワクチンが及ぼす影響
インフルエンザワクチンが及ぼす影響としては、他のワクチン接種と同様に、インフルエンザワクチンを注射した場所の発赤・痛み・腫れなどの局所への反応や、 発熱・悪寒・頭痛・倦怠感・関節痛・筋肉痛などの全身反応を含む副反応が出現する可能性があるとされています。ただし、これらの副反応は、通常、2〜3日以内に消失すると考えられています。
妊婦/母体
上記の通り、局所への反応や全身性の副反応が現れる可能性がありますが、通常は数日以内に消失すると考えられています。
インフルエンザワクチンには、防腐剤としてエチル水銀(チメロサール)を含んでいるものがあり心配されることもあるかもしれません。しかしながら、インフルエンザワクチンだけではなく他のワクチンにも含まれていることがあり、チメロサールを含んでいる製剤も濃度は極少量であり、母胎および胎児への影響はないとされています。
ただし、チメロサール含有製剤の投与(接種)により、 過敏症(発熱・発疹・蕁麻疹・紅斑・そう痒等)があらわれたとの報告もあります。
2004年以降チメロサールと自閉症との関連が疑われていましたが、現時点では否定され、WHOからも声明が発表されています。チメロサールを防腐剤として含んだインフルエンザワクチンを妊婦に投与しても問題ないとされています。
通常のものに比べると価格は少し高価になりますが、チメロサールフリーのインフルエンザワクチンもあり妊婦さんにはお勧めとされています。
ワクチン接種・ワクチンの選択に関しては担当医師に相談のうえ接種してください。
胎児
インフルエンザワクチンのうち生ワクチンの使用・接種は、胎児への影響を考慮し妊婦さんは禁忌とされています。
母乳
授乳中のインフルエンザワクチンの接種は母乳の安全性に影響を与えないことが分かっています。そのため授乳中のインフルエンザワクチン接種は可能です。
出産直後のお母さんや6か月未満のお子さんは、一般の方に比べるとインフルエンザの症状が強くでる可能性が高いです。
そのため授乳中にインフルエンザワクチンの予防接種を受けることは、お母さんとお子さんどちらのためにも望ましいと考えられます。
インフルエンザワクチンの主な副作用
インフルエンザワクチンを注射した部位の発赤・痛み・腫れなどの局所への反応や、 発熱・悪寒・頭痛・倦怠感・関節痛・筋肉痛などの全身反応を含む副反応が出現する可能性があるとされています。これらの副反応は、通常、2〜3日以内に消失すると考えられています。
インフルエンザワクチンを打つ時期
妊娠前
通常と同様にインフルエンザワクチンの予防接種が可能です。
不活化ワクチン接種による妊孕性の低下や妊娠の中断を示す報告は認められていません。そのため、母子ともにインフルエンザ感染による影響を防ぐためにも、妊娠前からインフルエンザワクチンを接種することが推奨されると考えられます。
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妊娠超初期(妊娠0~3週目頃)
妊娠前と同様にインフルエンザワクチンの予防接種が可能です。
インフルエンザワクチンを予防接種することのメリットが上回ると考えられるため、実施することが推奨されると考えられます。
妊娠初期(妊娠13週6日まで)
妊娠中のインフルエンザワクチンの予防接種は可能です。妊娠前・妊娠超初期と同様に、予防接種が推奨されると考えられます。
NIPT(新型出生前診断)は妊娠初期から
ヒロクリニックNIPTでは、エコー検査で妊娠が確認できたらすぐにNIPT(新型出生前診断)が可能です。NIPT(新型出生前診断)では胎児の染色体異常のリスクを調べます。
NIPT(新型出生前診断)はエコー検査で妊娠が確認できた方ならどなたでも受けられますが、陽性の場合に羊水検査を受ける予定の方は14週までに受けられることをおすすめします。
妊娠中期(妊娠14週0日〜27週6日)
妊娠中期も妊娠初期前までと同様に、奇形や流産の発生率が変わることが無いとされており、接種が推奨されています。また、インフルエンザワクチンの効果は、接種後約2週間後から約5か月とされているため、妊娠後期から出産時までインフルエンザに感染することを予防する効果が期待できると考えられます。
妊娠後期(妊娠28週~)
妊娠中のいずれの時期とも同様に、妊娠後期でもインフルエンザワクチンの接種は可能で、推奨されています。予防接種のための来院時に負担があるかもしれませんが、妊娠中・授乳中のインフルエンザへの感染には影響が認められていることから、いずれの期間でもインフルエンザワクチンの接種が推奨されます。
妊婦さんのインフルエンザワクチン接種はどこでできる?
通常のインフルエンザワクチン接種が可能な病院であれば接種可能です。
接種希望のワクチンを行っているかどうかを確認のうえ、産婦人科の担当医師やかかりつけ医と相談してください。
妊婦さんがインフルエンザワクチンを接種する際に注意すること
一般の方に比べ副反応が強くでることも考えられますので、体調に合わせて接種日を決めることが望ましいでしょう。
前日までの準備
疑問や不安に思うことについては産婦人科の担当医師やかかりつけ医に事前に相談しておいてください。ご自身と赤ちゃんのために、病院と自宅の往復時に負担のかからない方法での移動手段についても考えておきましょう。
当日の持ち物
併用に注意する薬剤があるため、お薬手帳または普段服用されているお薬を書いたメモを持参しましょう。
接種後の過ごし方
数日間は副反応が現れる可能性があるため、できる限り安静に過ごしましょう。可能でしたらご家族や周囲の方に家事など協力してもらいましょう。
同居するご家族のワクチン接種
インフルエンザ感染による影響は母子ともに大きいものとされており、厚生労働省・日本ワクチン学会・日本産科婦人科学会などから、インフルエンザの予防の推奨と重要性が強調されています。同居するご家族の状況によっては、インフルエンザワクチンの接種ができない可能性もありますが、可能な限り接種してもらうと安心でしょう。
まとめ
妊娠前から授乳中まで、インフルエンザ感染による母子への影響・インフルエンザワクチンそのものや接種に関しての注意点も合わせて記述してまいりました。
妊婦さんに関しては一般の方よりも注意が必要だと考えます。
インフルエンザワクチン接種は、妊娠前からでも接種することが可能です。産婦人科の担当医師やかかりつけ医と相談しながら、インフルエンザワクチンの接種をご検討ください。
【参考文献】
- J-STAGE – 妊娠中のインフルエンザワクチン接種の安全性
- 厚生労働省 – 妊娠されている方へ 新型インフルエンザワクチンの接種 にあたって
- 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会 – 産婦人科診療ガイドライン産科編2020
- 日本ワクチン学会 – 2022-23 シーズンの季節性インフルエンザワクチンの接種に関する 日本ワクチン学会の見解
- PMDA – 添付文書 インフルエンザHAワクチン「生検」
- 内閣府 – 新型インフルエンザ等対策ガイドライン 平成25年6月26日 (令和4年6月30日一部改定)
- MSDマニュアル プロフェッショナル版 – 在胎不当過小児(SGA児)
- J-STAGE – 母児垂直感染予防のためのワクチン
- WHO – Thiomersal vaccines
記事の監修者
岡 博史先生
NIPT専門クリニック 医学博士
慶應義塾大学 医学部 卒業