妊婦はいつまで飛行機に乗れるの?
妊娠中に飛行機に乗ってはいけないという決まりはありませんが、母体やお腹の赤ちゃんへの影響が気になるところ…。妊娠時期ごとの搭乗リスクや、各航空会社の規定を確認していきましょう。
妊娠時期ごとの搭乗リスク
妊娠初期(妊娠13週6日まで)
飛行機の利用に関わらず、妊娠初期の自然流産は起こり得る問題です。
<自然流産の確率>
参考:厚生労働省 – 不妊に悩む方への特定治療支援事業等のあり方に関する検討会
24歳以下 16.7% 25~29歳 11.0% 30~34歳 10.0% 35~39歳 20.7% 40歳以上 44.3%
また、妊娠初期はつわりの症状が出始める時期。飛行機の酸素濃度が低下することで、つわりや貧血の症状が悪化する可能性も考えられます。
この時期は、妊娠経過や体調に問題のない場合のみ、飛行機の利用を考えたほうがいいかもしれません。
妊娠中期(妊娠14週0日〜27週6日)
比較的、妊娠が安定している時期。飛行機を利用するのであれば、この時期がもっとも適していると言えます。
妊娠後期(妊娠28週~)
ほとんどの航空会社が、搭乗に条件を設けている時期。お腹が張りやすい妊娠後期では、酸素濃度の低下によって子宮を圧迫する原因となります。
また、気圧の変化による減圧症(めまい・しびれ・呼吸困難など)を引き起こす可能性もあり、重症の場合は死にいたるケースもあります。
里帰り出産などで、事前に飛行機を利用することがわかっている場合は、できるだけ妊娠中期までに済ませておくことをおすすめします。
妊婦に対する各航空会社の規定
ANA・JALの場合
出産予定日28日~8日以内 | 搭乗日を含めた搭乗7日以内に発行された「お客様が航空旅行を行われるにあたり、健康上支障がない」という、医師が明記した診断書 |
出産予定日7日以内 | 診断書の提出と医師の同行 |
その他の航空会社
スカイマーク
出産予定日28日~8日以内 | 「航空旅行を行っても差しつかえない」と明記されている医師の診断書 |
出産予定日7日以内 | 診断書及び医師または助産師の同行 ※助産師のみの場合は「当該旅客の同行者として助産師でもよい」と明記された医師の診断書 |
ピーチ
出産予定日28日~15日以内 | 搭乗日の7日以内に発行された「診断書」をFAXにて送付 |
出産予定日14日以内 | 診断書の送付に加えて医師の同行 |
飛行機に乗るリスクと対処法
妊娠中に飛行機を利用する場合は、いくつかのリスクが考えられます。どのようなリスクがあるのか、どのように対処すればよいのか確認していきましょう。
エコノミークラス症候群になりやすい
妊娠中は血液が固まりやすいので、妊娠していない人に比べてエコノミークラス症候群を引き起こしやすいと言われています。
エコノミークラス症候群は、静脈内に血栓ができて血液が滞る病気です。始めは足や膝が腫れ、ふくらはぎや太ももに激しい痛みを引き起こします。血栓が剥がれて肺動脈などをふさいでしまった場合は、胸の痛みや息切れ、心臓発作などの危険性も考えられます。
<対処法>
- 水分をこまめにとる(炭酸は膨張するのでNG)
- 30分に1回程度足や身体を動かす
- ゆったりとした服を着る
気圧の変化によるトラブル
機内は、気圧の変化と酸素濃度の低下によるトラブルが考えられます。
- つわりの悪化
- 子宮の圧迫
- 頭痛
- 頻尿
胎児への影響も気になるところですが、客室乗務員の流産率が、その他の職業の女性と大差ないという結果から、胎児への影響はあまり心配ないと考えられています。
<対処法>
- 胸やお腹周りがゆったりとした服を着る
- 通路側の席を予約する
- エチケット袋を用意する
- マスクを着用する
金属探知機や放射線の胎児への影響は?
手荷物検査のゲートで行われる金属探知機は、胎児に影響がないか心配ですよね。金属探知機やボディースキャナーでは、X線などの放射線は照射されていません。母子ともに、流産や奇形といった悪影響はありませんので安心してください。
また、上空は地上に比べて放射線量が高くなっていますが、胎児に影響を与えるほどの被ばく量ではありません。
妊娠時期における放射線の胎児へのリスク
妊娠0~2週 流産 妊娠2~8週 器官形成異常(奇形) 妊娠8~15週 精神発達遅延 ※一度に100ミリシーベルトを受けた場合
参考資料:環境省 – 放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(平成28年度版、 HTML形式)
ちなみに飛行機を利用した時の放射線量は、東京からニューヨークまでで0.19ミリシーベルト。毎日浴びている自然放射線量は、年間2.4ミリシーベルトと言われていますので、飛行機による被ばくの心配はありません。
どうしても心配だという人は、NIPT(出生前診断)を受けることをおすすめします。
飛行機に乗る前にチェックしておきたいポイント
- 妊娠後期の遠出はできるだけ避ける
- 旅行の2~3か月前から医師に相談しておく
- 旅行先の産婦人科医療機関をいくつか調べておく
- 緊急連先を書いたものを用意しておく
- 母子手帳と健康保険証はいつも携帯しておく
トラブルが起きてから慌てるのではなく、事前にしっかりと準備しておきましょう。
まとめ
妊娠中の飛行機の利用は、胎児よりも母体への影響が心配されます。安全に出産の日を迎えられるように、妊娠の経過や体調を考慮して、医師と相談しながら慎重に決めてくださいね。
【参考文献】
- 厚生省心身障害研究 – 妊産婦をとりまく諸要因と母子の健康に関する総合的研究
- 厚生労働省検疫所FORTH – 病気にならないために
- 日本宇宙航空環境医学会 – 航空機乗務員の疫学研究(妊娠関連)
- 国土交通省 – ご妊娠中のお客様の保安検査について
- GLOBAL NETWORK – 飛行機に乗ると放射線を受けると聞いたことがありますが、本当ですか?
記事の監修者
白男川 邦彦先生
ヒロクリニック名古屋駅前院 院長
日本産科婦人科学会専門医
産婦人科専門医として40年近くにわたる豊富な経験を持ち、多くの妊婦さんとかかわる。
現在はヒロクリニック名古屋駅前院の院長としてNIPTの検査担当医を行う一方、全国のヒロクリニック各院からのオンラインで妊婦さんの相談にも乗っている。
経歴
1982年 愛知医科大学付属病院
1987年 鹿児島大学附属病院 産婦人科
1993年 白男川クリニック 院長
2011年 かば記念病院
2019年 岡本石井病院
2020年 ヒロクリニック名古屋駅前院 院長