この記事のまとめ
三尖頭鼻指節症候群タイプII(TRPS2)は、稀な遺伝性疾患で、TRPS1、RAD21、EXT1など複数の遺伝子の欠失が原因です。特徴的な顔貌、骨格異常、知的発達の遅れ、多発性骨軟骨腫などの症状を伴います。本記事では、TRPS2の原因、診断方法、そして生活の質を向上させるための治療と管理の方法を詳しく解説します。
毛髪鼻指骨症候群命名
2023年に遺伝性骨格疾患の分類が見直され、これまで1,2,3型にされていた三尖頭鼻指節異形成症候群(TPRS)は2つに再分類されました。
臨床的特徴を評価した結果、1型と3型は同じ広いスペクトラムに属し、異なる独立した臨床タイプではないことが認識されました。1型と3型の両方は、細胞遺伝学的に8q23.3に位置するTRPS1遺伝子の変異によって引き起こされます。
一方、2型はラングー・ギーディオン症候群とも呼ばれ、TRPS1遺伝子だけでなく、EXT1遺伝子の変異によって引き起こされます。このタイプは、より広い細胞遺伝学的領域である8q24.11-q24.13に対応しています。本記事では、毛髪鼻指骨症候群2型(TRPS2)について詳しく解説します。
疾患概要
三尖頭鼻指節症候群タイプII(TRPS2)は、ラングー・ギーディオン症候群(LGS)とも呼ばれる稀な遺伝性疾患です。この疾患は、TRPS1、RAD21、EXT1など複数の隣接する遺伝子が欠失することで引き起こされる連続遺伝子欠失症候群に分類されます。特徴的な顔貌、骨格異常、全身的な症状が主な特徴です。
TRPS2の患者には、特徴的な顔の異常が見られます。具体的には、大きく丸い鼻(球状鼻)、幅広い鼻梁、発達不良の鼻翼、平坦な人中を持つ長い上唇、大きく突き出た耳などが挙げられます。眉毛は中央部が太く広がる傾向があり、上唇は薄く見えることが一般的です。頭髪は細く、量が少なく、もろい上に成長が遅く、爪にも変形が見られる場合があります。これらの外胚葉性の特徴に加えて、低身長や短い指(短指症)、指の尺側または橈側への湾曲、短い足、重度の早期発症の股関節形成不全など、骨格の異常が見られます。
TRPS2の特徴として、複数の骨軟骨腫が挙げられます。これらは、長骨の骨幹端から発生する良性の骨の増殖で、平坦な形(セッシル)または柄のように突き出た形(茎状)を取ります。関節から離れる方向に成長しやすく、特に肘や膝、肩甲骨の周辺でよく見られますが、他の関節にも発生することがあります。この点が、骨軟骨腫を伴わないTRPSタイプIとの明確な違いです。
知的発達の程度は患者ごとに異なり、正常から軽度または中等度の知的障害が見られることがあります。また、一部の患者ではてんかん発作を経験する場合があります。その他、泌尿生殖器系や内分泌系の異常が現れることもあります。
TRPSタイプIとタイプIIは、共通する特徴として、特有の顔貌、骨格異常、頭髪や爪の異常などの外胚葉性の問題を持っています。しかし、TRPS2では複数の骨軟骨腫や、より高い知的障害のリスクが加わる点で異なります。これらは、関与する遺伝子欠失が広範であるために引き起こされると考えられます。
2024年3月時点で、TRPSの有病率に関する人口ベースの推定はありません。この疾患の稀少性を示す一方で、TRPS2の管理には骨格や神経系、その他の全身的な症状に対処する多分野の専門的アプローチが求められます。適切なケアを提供することで、患者の生活の質を向上させることが可能です。
病因と診断の方法
三尖頭鼻指節症候群タイプII(TRPS2)、またはラングー・ギーディオン症候群(Langer-Giedion Syndrome)は、染色体8の特定の領域(8q23.3-q24.11)の欠失によって引き起こされる稀な遺伝性疾患です。この欠失により、TRPS1、RAD21、EXT1を含む複数の遺伝子が失われます。これらの遺伝子は体の発達において重要な役割を果たしているため、この疾患は「連続遺伝子症候群」として分類されます。ほとんどのケースは自然発生的(de novo)に起こりますが、一部のケースでは遺伝することもあります。また、稀にRAD21とEXT1だけが欠失する場合があり、コーネリア・デ・ランゲ症候群に似た顔の特徴を示すことがあります。
TRPS1遺伝子は、体の成長と発達を調節するために不可欠です。この遺伝子は、胚発生期における毛包の形成、軟骨の発達、関節の形成など、さまざまなプロセスを制御します。また、腎臓の発達にも関与し、未熟な腎細胞を成熟した細胞へと変換する役割を担います。さらに、TRPS1は細胞の成長と死のバランスを保つ働きをしており、これが乱れると前立腺癌や乳癌などの一部の癌に関連する可能性があります。
RAD21遺伝子は、細胞分裂の際に染色体が正確に複製されることを確実にするタンパク質複合体の一部を形成しています。この遺伝子は、損傷したDNAの修復や、染色体の不安定化を防ぐ役割も担っています。また、RAD21は細胞の正常な成長、遺伝子の活動、および消化器系を含む特定の組織の発達を支える役割も果たしています。
EXT1遺伝子は、エクストシン-1というタンパク質を生成します。このタンパク質は、エクストシン-2と協力してヘパラン硫酸と呼ばれる分子を形成します。ヘパラン硫酸は細胞間物質の重要な構成要素であり、組織の健康維持や細胞間のコミュニケーションに重要な役割を果たします。EXT1が欠失すると、組織やシグナル伝達経路が正常に機能しなくなる可能性があります。
TRPS2の症状や重症度は、欠失した遺伝物質の量や影響を受けた遺伝子によって異なります。一般的な症状には、幅広い鼻梁を持つ大きな鼻、薄い頭髪、低身長などの特徴的な顔貌が含まれます。また、短い指(短指症)や股関節の早期障害など、骨格の問題も典型的です。さらに、TRPS2は良性の骨の増殖(骨軟骨腫)を引き起こす可能性があり、これらは他のタイプのTRPSでは見られない特徴です。軽度から中等度の知的障害のリスクが増加する場合もあります。このように、欠失した遺伝子が発達や体の機能に果たす多くの役割が、症状の複雑さに反映されています。
DNAシーケンシング技術の進歩により、無侵襲的出生前検査(NIPT)が信頼性が高く安全なスクリーニング方法として注目されています。従来の侵襲的検査方法、例えば胎児FISH(蛍光in situハイブリダイゼーション)や羊水検査では、羊水や絨毛細胞のサンプルを採取するために子宮に針を挿入する必要がありました。一方、NIPTでは母体の血液中に含まれる胎児由来の細胞を分析するため、母体や胎児の健康にリスクを与えることなく信頼性の高い結果が得られます。このため、安全なスクリーニング方法を求める妊婦の間でNIPTはますます人気を集めています。
疾患の症状と管理方法
この疾患の症状や重症度は、個々の患者によって大きく異なります。出生前および出生後の成長遅延は、最初に気づかれる症状の1つであり、さらなる検査が行われるきっかけとなることがあります。疾患に特有の顔の特徴は早期から見られますが、その差が微妙であるため見過ごされることがあります。また、この疾患の一般的な特徴である頭髪が細くまばらになる症状は、乳児期には一般的にも見られるため、見逃されることがあります。さらに、半数以上の患者において、小頭症(平均よりも小さい頭囲)が確認されます。
運動発達や認知発達の遅れは、診察を受けるきっかけとして頻繁に見られる理由です。発達遅延の程度は軽度から重度までさまざまで、特に手足の末端や股関節に影響する関節の問題を訴える能力が制限されることがあります。これらの関節の問題は、三尖頭鼻指節症候群(TRPS)タイプ1で見られるものと似ています。
この疾患の特徴的な症状として、多発性骨軟骨腫(良性の骨の増殖)が挙げられます。これらは通常、生後5年以内に現れ、主に手足に発生しますが、他の部位にも見られる可能性があります。時間が経つにつれて、骨軟骨腫が目立つようになり、骨の変形や痛み、機能障害を引き起こす場合があります。ただし、これらの増殖が悪性化することは非常に稀です。
疾患の管理は、症状への対応とサポートケアに重点を置いて行われます。成長遅延や頭髪のまばらさなどの外胚葉の問題は、TRPSタイプ1およびタイプ2のどちらでも同様の方法で対応されますが、患者の発達レベルに応じた治療が必要です。重度の発達障害がある場合、患者自身が不快感や問題を伝えられない可能性があるため、介護者や医療従事者は関節の問題や痛みに注意を払う必要があります。
骨軟骨腫については、整形外科専門医による定期的な診察が必要です。治療は、孤立した多発性骨軟骨腫の場合と同様で、深刻な痛みや変形、機能制限を引き起こす場合には外科的介入が検討されます。小児科医や整形外科医、その他の専門家が連携する多分野のアプローチが重要であり、患者の生活の質を最適化するために不可欠です。
将来の見通し
寿命は通常と変わらず、長く健康的な生活を送る可能性があります。ただし、運動能力の低下や発達の課題が生活の質に影響を与えることがあります。これらの課題に対しては、適切なケアとサポートを行うことで、不快感を軽減し、日常生活をより快適にすることが可能です。
三尖頭鼻指節症候群(TRPS)の治療は、症状に応じた対症療法とサポートケアが基本となります。このため、小児科医、内分泌科医、整形外科医、皮膚科医、リハビリ専門医、歯科医など、複数の専門家が連携して支援を行うことが重要です。適切なリハビリや医療的支援により、患者さんが可能な限り自立し、快適に過ごせる環境を整えることが目指されています。
一部のケースでは、成長に関わる課題を補うために、組み換え型成長ホルモン療法が効果的である場合があります。また、遺伝カウンセリングは、患者さんやそのご家族にとって、疾患への理解を深め、今後のケアや生活設計を支えるための有益な手段となります。
このような包括的な支援を通じて、患者さんが抱える課題に寄り添い、より良い生活を送るためのお手伝いをすることが可能です。
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