クラインフェルター症候群とは、男の子にみられる染色体異常のことです。性染色体であるX染色体の過剰によって起こるとされています。この記事ではクラインフェルター症候群の症状や原因・治療法、NIPT(新型出生前診断)についてを医師が解説します。
この記事のまとめ
クラインフェルター症候群とは、男の子にみられる性染色体数の異常によって引き起こされます。男の子の出生約500人のうち1人に発生するとされ、性染色体異常で最も頻度が高い病気といわれています。赤ちゃんから子供の時期に目立つ症状が現れることはありません。しかし子どもが思春期を迎えると、男性らしさである二次性徴の未熟がみられます。
クラインフェルター症候群とは?
クラインフェルター症候群(Klinefelter syndrome) とは、男の子にみられる性染色体数の異常によって引き起こされます。通常、男の子の性染色体は、X染色体とY染色体の組み合わせでXYとなります。
しかし、クラインフェルター症候群の男の子は、性染色体にX染色体が1つ余分となるXXYをもって生まれ、おもに思春期に症状が現れるとされています。
クラインフェルター症候群は、男の子の出生約500人のうち1人に発生するとされ、性染色体異常で最も頻度が高い病気といわれています。
一方で、クラインフェルター症候群はほとんどの場合、外見および健康上の問題はないことから、男性の中には診断されることなく、通常の社会生活を送っている方も多くいます。
これらのことから、クラインフェルター症候群の男性のうち、約60〜70%が診断されていないといった報告もあり、男性不妊検査の過程で見つかることも少なくありません。
クラインフェルター症候群は、性染色体の異常によって引き起こされる病気です。そのため、NIPT(新型出生前診断)によって、赤ちゃんがお母さんのお腹にいる間に陽性リスクを調べることが可能とされています。
指定難病の一つ
クラインフェルター症候群は、比較的頻度の高い性染色体異常とされる一方、約60〜70%の男性が診断されていない病気です。
しかし、精巣が小さく精液の中に精子が見られない無精子症や乏精子症などが特徴とされ、個人差はありますが、さまざまな合併症を引き起こすケースも少ない「指定難病」の一つとなります。
クラインフェルター症候群の原因
通常の男の子の性染色体はXY染色体となりますが、クラインフェルター症候群の男の子の性染色体はXXYとなり、余分なX染色体をもつことによって生じます。
現代の医療において、染色体異常の原因はすべて解明されていません。それは遺伝の機能や細胞分裂の過程など、非常に複雑なメカニズム(仕組み)によるものといえるでしょう。
性染色体と受精のメカニズム
染色体は遺伝情報を持ったDNAが折りたたまれた構造体であり、生体の1つひとつの細胞の核に存在しています。染色体は対(ペア)をなしており、22種類の常染色体と、2種類の性染色体(XYとXX)からなってます。
性染色体は生体の性別を決定するもので、男性なら「XY」、女性なら「XX」の組み合わせとなります。ほとんどの細胞では、対(ペア)となった23種類の染色体を有しますが、唯一の例外となるのが、生殖細胞です。
生殖細胞は男性なら精子、女性なら卵子があります。精子は対(ペア)ではない、22本の常染色体とY染色体またはX染色体をもちます。
一方、卵子は、対ではない22本の常染色体とX染色体を持ちます。
受精によって精子と卵子が結合すると、受精卵は22対の常染色体と1対の性染色体になります。このとき性染色体の組み合わせが、「XY」なら胎児は男の子、「XX」なら女の子となります。その後、受精卵は細胞分裂を繰り返しながら、母親の体内で成長していきます。
クラインフェルター症候群はX染色体数の異常で起こる
前述したように、健康な男の子の赤ちゃんの性染色体はXYとなります。一方、クラインフェルター症候群では、性染色体が「XXY」や「XXXY」など、過剰なX染色体をもつのが特徴です。なお、余分なX染色体の数が多いほど、障がいの程度が重くなる傾向があります。
クラインフェルター症候群で生じる余分なX染色体のほとんどは、母親由来のものであることが分かっています。これは加齢などにより卵子の質が低下し、対(ペア)となっている染色体(XX)の分離がうまくいかないことで起こるとされています。これらのことから高齢妊娠・高齢出産は、性染色体数の異常を引き起こしやすいといえるでしょう。
なお、クラインフェルター症候群は父親の精子のXY染色体の分離が不十分で、父親由来のX染色体が過剰となり引き起こることも少なくありません。そのほか、受精卵の細胞分裂の不具合などでも、余分なX染色体を生じるとされています。
クラインフェルター症候群とターナー症候群
クラインフェルター症候群が男の子にみられる性染色体異常である一方、女の子にみられる性染色体異常にターナー症候群があります。
健康な女性がX染色体は2本(XX)であることに対し、ターナー症候群の女性はX染色体2本のうち1本が一部欠失、もしくは全体欠失となります。
ターナー症候群の特徴として、低身長・二次性徴が現れない・首から肩にかけて皮膚にたるみが生じることが挙げられます。また、ターナー症候群は知的には問題が少ないとされています。
クラインフェルター症候群の症状
クラインフェルター症候群の多くの場合、赤ちゃんから子供の時期に目立つ症状が現れることはありません。そのため、出生前診断などで事前に疾患を把握しない限り、保護者が子供のもつ障がいに気づくことはまれといえるでしょう。
しかし子どもが思春期を迎えると、男性らしさである二次性徴の未熟がみられ、医療機関を受診する方も少なくありません。
クラインフェルター症候群のおもな特徴や、症状は以下のものが挙げられます。
クラインフェルター症候群の身体的な特徴
クラインフェルター症候群の男児は、身長が高く、手足も長くなる傾向があります。
一方で、男性の生殖器官である精巣のサイズは小さくなる傾向があります。精巣は男性ホルモンである「テストステロン」が生成される器官です。クラインフェルター症候群では、テストステロンの生成量が低下するため、思春期以降の男性らしさの発現が弱くなるとされています。
テストステロンの生成量が低いため精巣は小さく、ヒゲや陰毛の量も少ない傾向にあるクラインフェルター症候群は、女性化乳房といい女性の乳房のように、胸の膨らみが認められるようになります。
そのほか男性ホルモンによって、体表面に目立つようになる喉仏(のどぼとけ)の成長も少ないことから、思春期の男の子の特徴である声変わりも起こらないとされています。
クラインフェルター症候群の男性は多くの場合、無精子症や乏精子症により男性不妊となります。一方でクラインフェルター症候群の男性でも、精巣が発達するケースもみられます。このようなケースでは、精巣で精子が作られるため、生殖機能を有している状態といえるでしょう。
クラインフェルター症候群により生殖機能の低下がみられたとしても、性交渉に影響はありません。精子が全く作られない場合でも、勃起や射精機能は保たれます。
クラインフェルター症候群は、男性ホルモンであるテストステロンの生成量が低く、ヒゲのまばらな顔つきや華奢な体型、女性化乳房がみられることも少なくありません。
しかし、恋愛対象が同性である「性同一性障害」となる割合は、クラインフェルター症候群陰性の男性と差はみられないといわれています。そのため、女性的な身体特徴がストレスと感じる男性も多いとされています。
クラインフェルター症候群のおもな身体的特徴
- 精巣が小さい
- ヒゲやすね毛などの体毛が薄い
- 声変わりが不完全(もしくは起こらない)
- 骨密度が低く筋肉がつきにくい(華奢な体型)
- 女性化乳房
- 高身長
- 手足が長い
クラインフェルター症候群の精神的な症状
クラインフェルター症候群の男児は、知能は普通程度か、やや低くなる傾向があります。言語能力が十分でなく、話しをしたり文字を読んだりすることが得意ではありません。そのため学校等のコミュニティーにおいて、学習障害を抱えることも少なくないでしょう。また、そのほかの男の子と比べて、自信や活発性が低く、受動的で内気な性格が多いとされています。
クラインフェルター症候群でおこりやすい合併症
クラインフェルター症候群の男性の寿命は、健康な男性とほぼ変わりません。
一方で、クラインフェルター症候群を抱えている場合、ほかの男性と比べて以下の病気になりやすいことが分かっています。
悪性腫瘍
悪性腫瘍は一般的に「がん」といわれるもので、なんらかの原因により、異常な細胞の増殖が起こる病気です。悪性腫瘍の中には、増殖スピードが速く、他の臓器に転移を起こすケースもみられ、命にかかわることも少なくありません。
クラインフェルター症候群では、一部の悪性腫瘍の発生頻度が高くなることがあります。具体的にリスクが高いとされる悪性腫瘍には以下のものがあります。
乳がん
女性のがんというイメ―ジがある乳がんですが、頻度は少ないものの男性にもみられるがんです。クラインフェルター症候群の男性が乳がんになる頻度は、ピークが70歳で、女性が乳がんになるリスクよりも低くなります。
非ホジキン腫リンパ腫
血液中に含まれるリンパ球ががん細胞化して、無制限に増殖する悪性腫瘍です。リンパ球は体内に侵入した異物を除去する働きがあるため、がん化することで免疫機能の低下を招くといえるでしょう。
なお、クラインフェルター症候群が悪性腫瘍を引き起こす原因については、すべてが解明されていませんが、過剰なX染色体により、体内のホルモン環境のバランスが崩れるためと考えられています。
骨粗しょう症
骨の密度(骨量)が低くなり、わかりやすくいうと骨の内部がスポンジ状になる状態のことです。骨粗しょう症になると、骨が脆くなるので骨折しやすくなります。
骨密度は男女の性別を問わず、女性ホルモンである「エストロゲン」と相関があり、閉経後の女性に多くみられる症状です。女性の場合、エストロゲンは卵巣から作られますが、男性の場合、男性ホルモンのテストステロンを元に作られます。
クラインフェルター症候群ではテストステロンが少ないため、産生されるエストロゲンの量も少なくなります。 これらのことからクラインフェルター症候群の男性は骨粗しょう症を起こしやすいため注意が必要です。
自己免疫疾患
体を異物から守る免疫機能が過剰に反応して、自分の細胞を攻撃してしまう病気です。自己免疫疾患は、攻撃を受ける部位によってさまざまな症状が現れます。
糖尿病
糖尿病は血液中の糖である血糖が高くなっている状態をいいます。男性ホルモンの分泌と血糖値の数値には関連があることが分かっています。クラインフェルター症候群により男性ホルモンが減少すると、代謝異常による肥満が起こりやすくなるため、血糖値が増悪しやすくなります。
クラインフェルター症候群の検査
クラインフェルター症候群は多くの場合、外見や健康上に問題の少ない病気です。そのため、思春期前にクラインフェルター症候群と診断されるケースは、全体の約10%未満とされています。しかし、思春期以降に症状が顕著にみられることで、検査を受けるきっかけとなります。
成長後のクラインフェルター症候群は、血液検査によってDNAを解析することで診断が可能です。また、出生前にNIPT(新型出生前診断)にて、クラインフェルター症候群を引き起こす染色体異常リスクを調べることもできます。
クラインフェルター症候群の治療やサポート
クラインフェルター症候群をもって生まれてきた男児に対して、根本的な治療はありません。一方で、それぞれの症状を緩和する治療が行われます。 また、クラインフェルター症候群は指定難病の一つとされていますが、一般的に障害者手帳の発行はありません。
ホルモン補充療法
クラインフェルター症候群で、血液中のテストステロンが低い場合には、ホルモン補充療法が行われます。ホルモン補充療法は、2〜4週間に1回、テストステロンの筋肉注射を行います。
一般的にクラインフェルター症候群の場合、思春期からホルモン補充療法を始めて、生涯治療を続けることが推奨されています。思春期でのホルモン療法は、二次性徴の発現を助けるため、筋肉量の多い男性らしい体つきになるメリットがあります。また、20代にピークを迎える骨密度(骨量)を増やす効果もあります。
思春期以降も治療を続けることで、メタボリックシンドロームを予防し、糖尿病になるリスクを下げることができます。
なお、ホルモン補充療法では、精子の数を増やすことができません。そのため、男性原因の不妊症(男性不妊)の治療効果はないので注意しましょう。
ホルモン補充療法は大きな副作用はほとんどありませんが、以下のような症状が現れることがあります。
- にきび
- むくみ
- 赤血球の増加
- 前立腺疾患
そのため、クラインフェルター症候群でホルモン補充療法を受けるときは、定期的に心臓、腎臓、前立腺の健康状態を確認する必要があります。
男性不妊治療
男性不妊の症状を持つクラインフェルター症候群ですが、不妊治療によって子供をもてる可能性もあります。
精液の中に精子が確認できる場合(乏精子症)
顕微授精によって、妊娠が成立する可能性があります。具体的には顕微鏡下で、卵子に直接精子を注入して、人工授精を行います。
精液の中に精子が確認できない場合(無精子症)
精巣内精子回収法といい、精巣に穿刺または小さく切開することで精子を採取します。精子が見つかった場合は顕微授精に使用します。なお、クラインフェルター症候群は約40%の方が、精巣内精子回収法で精子が見つかるという報告もあります。
療育
療育はおもに発達障害のある子供に対して行われる治療教育です。日常生活に困らないように、専門的なトレーニングを行います。クラインフェルター症候群の男児に行われる療育は、おもに言葉を使ったコミュニケーション方法の訓練とされています。
遺伝カウンセリング
直接的な治療ではありませんが、クラインフェルター症候群で大切となるのが遺伝カウンセリングです。染色体異常など遺伝子にかかわる病気やその診療は、非常にデリケートな問題です。遺伝カウンセリングは、医師などの専門家により、家族や患者さま本人の意思決定をサポートするものです。
クラインフェルター症候群の男児に対して、先天的な障害を持つことを伝えることは、家族にとっての課題でもあります。ただし、自分の子供が障害を持っているかどうかを知る権利もあるように、“知らないでいる権利”もあります。
クラインフェルター症候群について知るかどうかは、子供の状況や理解度によって異なります。病気について告知するとしても、一度に全てを語る必要はありません。
クラインフェルター症候群とNIPT(新型出生前診断)
クラインフェルター症候群は、性染色体異常の中でも、比較的多くみられる病気です。また性染色体数異常の割合は、全体の先天異常のうち5%とされています。
一般的なNIPT(新型出生前診断)では、おもにダウン症候群(21トリソミー)・エドワーズ症候群(18トリソミー)・パトウ症候群(13トリソミー)のみのスクリーニング検査となります。そのため、クラインフェルター症候群のような性染色体異常リスクは調べることができません。
ヒロクリニックNIPTではダウン症候群(21トリソミー)・エドワーズ症候群(18トリソミー)・パトウ症候群(13トリソミー)はもちろん、性染色体を含むすべての染色体異常リスクを調べることが可能です。
患者さまからは「発達障害や精神病は遺伝する確率はありますか?」などダウン症候群以外にも、さまざまな遺伝についてのご質問を多くいただきます。
また、染色体異常による疾患の中には、長期にわたり看護が必要な症状も少なくありません。ヒロクリニックNIPTではNIPT(新型出生前診断)に精通した医師やスタッフが在籍し、染色体異常や遺伝についてを、わかりやすくご説明いたします。ぜひ一度、ご相談ください。
【参考文献】
- JCRファーマクラインフェルター症候群と腫瘍/小児から成人まで
- 日本内分泌学会 – ターナー症候群
クラインフェルター症候群とは、男の子にみられる染色体異常のことです。性染色体であるX染色体の過剰によって起こるとされています。この記事ではクラインフェルター症候群の症状や原因・治療法、NIPT(新型出生前診断)についてを医師が解説します。
記事の監修者
岡 博史先生
NIPT専門クリニック 医学博士
慶應義塾大学 医学部 卒業