ダウン症は、先天性の疾患で、新生児で最も頻度の多い最も頻度の多い遺伝子疾患です。先天性疾患と聞くと、親から遺伝する疾患と考えがちですが、先天性疾患には親が何らかの遺伝子異常を持っていて遺伝する場合と、親は遺伝子異常を持っていなくても突然変異により子供に遺伝子異常が現れる場合があります。
ダウン症は、21番目の染色体が1本多くなる21番トリソミーで発症する先天性の疾患で、新生児で最も頻度の多い遺伝子疾患です。先天性疾患と聞くと、親から遺伝する疾患と考える方も多いのではないかと思いますが、実際は親が何らかの遺伝子異常を持っていて遺伝する場合と、親は遺伝子異常を持っていなくても突然変異により子供に遺伝子異常が現れる場合があります。ダウン症はどちらのタイプの先天性疾患なのでしょうか?
ダウン症とは
一般的なダウン症については「ダウン症とは」の記事で詳しく説明されていますので、そちらを参照していただきたいのですが、こちらでも簡単に説明します。
ヒトの遺伝子は46本の染色体で構成されており、父親から受け継ぐものと母親から受け継ぐものがペアとなって2本ずつが23対存在しています。ダウン症はその中で21番目の染色体である21番染色体が2本ではなく、3本となる「トリソミー」と呼ばれる状態になってしまうことで起こります(「21番トリソミー」と呼ばれます)。ダウン症の主な症状としては、両目が離れてややつり上がった特徴的な顔つきや、筋力の低下、発達の遅れ、心臓の合併症などが挙げられます。
染色体異常の原因
染色体不分離
ダウン症の原因となる染色体異常はどのようにして起こるのでしょうか?
ヒトの精子と卵子に含まれる染色体の数は、細胞分裂する過程で23対46本から、2本の対のうち1本ずつが選ばれ半分の23本に減ります(これを「減数分裂」と呼びます)。そして、23本の染色体を持つ精子と卵子が受精することで染色体は再び46本になります。このようにして、子供は父親と母親から23本ずつ染色体を受け継いで46本の染色体を維持していくことになります。
しかし、精子や卵子が形成される減数分裂の過程で、何らかの原因で21番染色体が1本選ばれずに2本とも精子もしくは卵子に入ってしまうことがあります(これを「染色体不分離」と呼びます)。このような異常が起きた精子や卵子が正常な精子や卵子を受精すると、21番染色体が2+1=3本になってしまいます。ダウン症の90~95%がこの染色体不分離が原因であると考えられています。
ダウン症は遺伝子の異常によって起こる疾患ですが、このように染色体分離が原因である場合は両親の遺伝子に問題があって子供に遺伝するわけではなく、精子や卵子と言った生殖細胞が成長する途中の「突然変異」によって起こると考えられます。ですので、両親に遺伝子異常がない場合でも、ある一定の確率でダウン症の子供が生まれる可能性があるということになります。この染色体不分離が起こる可能性は母体の加齢に伴って上昇すると考えられています(「加齢による卵子の染色体数異常の原因を特定:理化学研究所」)。
染色体転座
頻度は低くなりますが、残りの5%程度のダウン症の原因は染色体の「転座」によって起こることが知られています。
「転座」には大きく分けて2つの種類があり、染色体の一部の場所が互いに入れ替わってしまう「相互転座」と、異なる染色体の長腕同士が結合した「ロバートソン転座」があります。
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ロバートソン転座
転座型のダウン症の原因として多く報告されているのが、21番染色体の長腕が14番染色体の長腕と結合した「ロバートソン転座」によるものです。「ロバートソン転座」では、染色体の短腕が消失して長腕同士が結合しているのですが、短腕には重要な遺伝子が存在しないため「ロバートソン転座」を持っていても症状はありません。染色体に異常があっても症状がなく見た目が正常のことを「均衡型」と呼びますが、「ロバートソン転座」は「均衡型」の染色体転座であり、「ロバートソン転座」を持つ人は「保因者」と呼ばれます。逆に、症状を認める染色体異常のことは「不均衡型」と呼ばれます。
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「ロバートソン転座」の「保因者」は、14番染色体の長腕と21番染色体の長腕が結合しているため、染色体の総数は正常より1本少ない45本となっています。そのため、精子や卵子が出来る減数分裂のパターンが正常より複雑になっており、正常な組み合わせ、「均衡型」、4種類の「不均衡型」の6種類のパターンがあります。これらが正常な染色体からできた精子や卵子と受精することで6種類の受精卵ができる可能性があります。
正常な組み合わせからは正常な受精卵ができ、「均衡型」から出来た受精卵は「ロバートソン転座」の「保因者」となります。4種類の「不均衡型」からは、ダウン症の原因となる転座型21番トリソミーの他に、14番トリソミー、21番モノソミー、14番モノソミーが出来ますが、21番トリソミー以外は致命的な染色体異常であり流産となってしまいます。結果として、正常、「ロバートソン転座」の「保因者」、転座型21番トリソミー、のいずれかの子供が生まれてくることになります。
このように、ダウン症は染色体転座の遺伝によっても起こることがあります。「ロバートソン転座」の「保因者」である母親の子供がダウン症を有する実際の確率は,約1/10程度で、父親が「保因者」である場合の確率は約1/20程度と考えられています。
転座を調べる検査
流産を繰り返して、流産絨毛の染色体分析の結果、転座が疑われるような場合はカップルに対して染色体検査を行うことが考慮されます。また、両親のいずれかが「ロバートソン転座」の「保因者」であることがわかっている場合、日本では非侵襲性出生前遺伝学的検査(NIPT:Noninvasive prenatal genetic testing)の対象となっています。
体外受精を行う場合も、着床前診断としてPGT-SR(着床前染色体構造異常検査:preimplantation genetic testing for structural rearrangement)の適応となる可能性もあります。
モザイク型
ダウン症の原因として、最もまれなタイプがモザイク型と呼ばれるものです(全体の約1%)。先程は受精する前の精子や卵子が形成される減数分裂の段階で起こる染色体不分離を説明しましたが、こちらは受精後の受精卵が細胞分裂する初期の段階で染色体不分離が生じ、21番染色体が3本になってしまうことで発症します。このタイプは両親から遺伝するわけではなく、「突然変異」によるものです。
ただ、「モザイク」という言葉の通り、正常の細胞と21番トリソミーとの細胞が混ざった状態であり、正常の細胞の比率が高い場合には症状が軽くなることがあります。
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まとめ
ダウン症の発症に関わる21番トリソミーと呼ばれる染色体異常が起こる原因として、精子や卵子が形成される段階で生じる染色体不分離、染色体の転座、受精卵が細胞分裂する過程で生じる染色体不分離によるモザイク型、の3つが考えられます。染色体不分離によるダウン症は突然変異であり、両親の染色体が正常であっても起こりえます。一方、染色体の転座によるダウン症は発症の頻度はダウン症全体の5%程度と高くはありませんが、「ロバートソン転座」の「保因者」である両親からの遺伝によって起こります。
ダウン症は、先天性の疾患で、新生児で最も頻度の多い最も頻度の多い遺伝子疾患です。先天性疾患と聞くと、親から遺伝する疾患と考えがちですが、先天性疾患には親が何らかの遺伝子異常を持っていて遺伝する場合と、親は遺伝子異常を持っていなくても突然変異により子供に遺伝子異常が現れる場合があります。
記事の監修者
非公開: 岡 博史先生.
NIPT専門クリニック 医学博士
慶應義塾大学 医学部 卒業