一方、羊水検査は胎児由来の細胞からの遺伝子から診断を行います。羊水から得られた細胞の染色体検査により、胎児の染色体異常や構造異常を確認できます。
しかし、NIPTと羊水検査の結果が一致しない場合があります。例えば、NIPTで陽性とされた胎児が羊水検査で正常である場合や、逆にNIPTで陰性とされた胎児が羊水検査で異常を示すようなパターンです。
NIPTと羊水検査の結果の不一致は、技術的な要因や結果の解釈の違いによって生じることもがありますが、最も多い原因としては、もともと同じ細胞から発生した胎盤と胎児が異なる遺伝子を持つことです。 そのため、結果の不一致が生じた場合には、担当医師の総合的な判断が必要です。
具体的な例は下記の通りです。
NIPTの結果と羊水検査の結果の相関①
(21、18、13トリソミー)
当クリニックでNIPTを受検し、21トリソミー陽性と診断され羊水検査に進んだ67件の結果うち、21トリソミーの確定診断がなされた件数は62件でした。(陽性的中率は92.5 %)
同様に18トリソミーでは26件のNIPT陽性結果のうち、18トリソミーの確定診断がなされた件数は17件でした。(陽性的中率は65.4 %)
13トリソミーでは12件のNIPT陽性結果のうち、13トリソミーの確定診断がなされた件数は5件でした。(陽性的中率は41.7 %)
NIPTの結果と羊水検査の結果の相関②
(RAA)
21,18,13トリソミー以外のNIPT陽性結果のうち7トリソミー、8トリソミー、16トリソミーについて、羊水検査において同疾患の確定診断が得られました。
ここで重要になることはNIPTがスクリーニング検査であるという事と、陽性的中率は有病率に左右されるという事です。一般的に、対象全体の中で疾患を持つ人が少ない状況であるほど、陽性的中率は下がります。
感度・特異度の高いとされるNIPTで陽性的中率が低くなる理由がここにあります。21トリソミーは今日では医学的に有病率の高い疾患であり、18トリソミー、13トリソミー、その他の異数性と、有病率が下がっていきます。
NIPTの結果と羊水検査の結果の相関③
(SCA)
性染色体においては全体の母数がまだ少ないデータですが、XXYで100%、XOで63.6%、XYYで50%、XXXで100%の陽性的中率が得られています。
NIPTの結果と羊水検査の結果の相関④
(構造異常)
構造異常に関してもデータの母数が少ないですが、いくつかの疾患で羊水検査における確定診断が得られています。
「有病率の低い、珍しい疾患を取りこぼさずに陽性結果を出している」これがスクリーニング検査において重要な性能となります。
一般的なスクリーニング検査で置き換えて考えてみましょう。がん検診を想像してみてください。たくさんの方が検査を受けますが、実際にがんがある人はほんの一握りのため、陽性的中率はかなり低いです。
重要なことは陽性的中率が高いことよりも、精密検査に進むべき一握りの方を見逃さない事ではありませんか?このがん検診と精密検査の関係が、NIPTと確定検査(羊水検査等)の関係にあたります。
結果不一致とは
- NIPTの結果と羊水検査(確定診断)の結果不一致については、すべてがNIPTの偽陽性(2023年2月10日現在)
- NIPTの結果と出産転帰の結果不一致については、ほぼすべてがNIPTの結果との関連を証明することが厳密には困難
- 出産後アンケートから得られる情報には、染色体異常以外に起因する疾患・異常が混在しており、染色体の異常を確かめる術がないため
- 性別不一致に関しては有力な判断材料になり得る。現在までに、3件の性別不一致が報告されている。