非侵襲的出生前検査(NIPT)は、遺伝的疾患のスクリーニングにおいて高精度な手法として注目されていますが、確定診断ではなく、結果には限界があることを理解することが重要です。本稿では、NIPTの不一致結果が生じる主な原因(胎盤限局性モザイク、母体の遺伝的影響、消失双胎現象)を解説し、検査の精度や限界について考察します。スクリーニング結果のみを根拠に判断するのではなく、確定診断を受け、慎重に決断することが何よりも大切です。本稿が、妊娠中の大切な選択において、正しい情報を得る一助となれば幸いです。本稿の後半では、関連するデータや統計もあわせてご紹介しております。

非侵襲的出生前検査(NIPT):不一致結果と限界についての考察
はじめに
非侵襲的出生前検査(NIPT)は、妊婦の血流中に存在する微量のDNA断片を分析することで、出生前スクリーニングの方法を一変させました。この検査はダウン症候群などの遺伝的疾患を高精度で検出でき、羊水穿刺や絨毛検査(CVS)といった流産のリスクを伴う侵襲的検査の必要性を減らしました。しかし、NIPTはスクリーニング検査であり、診断検査ではないため、必ずしも100%正確ではありません。結果が胎児の実際の遺伝情報と一致しない場合があり、これを「不一致結果(discordant results)」と呼びます。


(A) 胚盤胞の着床初期において、トロフォブラストと呼ばれる特殊な細胞が子宮内膜に侵入し、母体の血流と結びつく。このトロフォブラストは、胎盤を形成する重要な細胞であり、胎児の発育に不可欠な役割を果たす。(B) 胎児と母体の境界(胎児–母体インターフェース)では、胎盤から伸びる指状の構造である絨毛が、母体と発育中の胎児の間で酸素や栄養の交換を行い、胎児の成長を支える。
一般に「無細胞胎児DNA(cell-free fetal DNA, cffDNA)」と呼ばれるDNAは、実際には胎盤の主要な細胞であるトロフォブラストに由来することが、多くの研究によって示されている。したがって、cffDNAを「無細胞胎盤DNA(cell-free placental DNA, cfpDNA)」と呼ぶ方が、より正確な表現である。
Yuen N, Lemaire M, Wilson SL (2024) Cell-free placental DNA: What do we really know? PLoS Genet 20(12): e1011484. https://doi.org/10.1371/journal.pgen.1011484, Fig 2. Placental development and anatomy
NIPTの不一致結果の3つの原因
胎盤限局性モザイク(CPM; Confined Placental Mosiacism)
NIPTの不一致結果の主な原因の一つは、胎盤限局性モザイク(CPM)です。通常、胎盤と胎児は同じ遺伝情報を持っていますが、妊娠の約1〜2%では、胎盤にのみ染色体異常が存在することがあります。CPMは必ずしも問題を引き起こすわけではありませんが、16トリソミー・モザイクなど特定のタイプは、胎児発育不全、早産、妊娠高血圧などの合併症と関連することが知られています。

胎児性胎盤モザイクの種類:緑色は染色体異常が存在することを示しています。NIPTでスクリーニングされる細胞は胎盤由来ですが、これらの細胞の状態が必ずしも発育中の胎児の状態と一致するとは限りません。
Reilly, K., Doyle, S., Hamilton, S. J., Kilby, M. D., & Mone, F. (2023). Pitfalls of prenatal diagnosis associated with mosaicism. The Obstetrician & Gynaecologist, 25(1), 28–37. https://doi.org/10.1111/tog.12850, Fig. 2. Types of fetal placental mosaicism.
母体の遺伝的影響
母体の遺伝情報もNIPTの結果に影響を与えることがあります。例えば、一部の女性は自然に性染色体のモザイクや微細な染色体欠失・重複(コピー数変異、CNV)を持っており、これがNIPT結果に影響を及ぼすことがあります。X染色体異常が検出された181例を対象とした研究では、8.6%が母体由来の遺伝的要因であることが判明しました。さらに、母体ががんを患っている場合や、男性ドナーから臓器移植を受けた場合なども、母体血中に胎児以外のDNAが混入し、検査結果を誤解させる可能性があります。
消失双胎現象(Vanishing Twin)
消失双胎現象(Vanishing Twin)も不一致結果の原因の一つです。妊娠初期に一方の胎児が発育を停止し、そのDNAが一時的に母体血中に残ることで、NIPTが誤って遺伝的異常を示すことがあります。研究によると、消失双胎はNIPTの不一致結果の約0.45%〜0.6%を占めるとされています。
NIPTの精度と信頼性
従来の出生前血液検査と比較して、NIPTの精度は大幅に向上しています。しかし、完全に誤判定を排除することはできません。2015年のメタアナリシスでは、偽陽性率(False Positive Rate, FPR)が以下のように報告されました。
- 13トリソミー:0.13%
- 18トリソミー:0.13%
- 21トリソミー:0.09%
これらの数値は低いものの、偽陽性が発生する可能性があることを示しています。NIPTの誤判定の一部は検査室でのエラーによるものですが、CPMや消失双胎といった生物学的要因も影響を与えています。
NIPTはあくまでもスクリーニング検査であり、確定診断を行うものではありません。そのため、陽性結果が出た場合には、羊水穿刺や絨毛検査(CVS)などの診断的検査による確認が強く推奨されます。しかし、すべての妊婦がこの推奨を遵守しているわけではありません。ある研究によれば、NIPTで陽性と判定された女性のうち6%が、追加の診断検査を受けることなく妊娠を中断していたことが明らかになっています。
この結果は、NIPTの限界について正しい理解を深めることの重要性を示唆しています。スクリーニング検査の結果のみを根拠に重大な決断を下すのではなく、確定診断を受けたうえで慎重に判断することが何よりも大切です。お腹の中の小さな命の可能性を尊重し、適切な情報と専門家の意見を十分に考慮したうえで、後悔のない選択をされることを心より願っております。

NIPTの手法:全ゲノムシーケンス(WGS; Whole Genome Sequencing) vs. ターゲットシーケンス
NIPTでは、母体血中の無細胞DNA(cfDNA; circulating free DNA または cell free DNA)を分析する方法として、低カバレッジ全ゲノムシーケンス(WGS)とターゲットシーケンスの2種類が主に使用されます。
全ゲノムシーケンス(WGS)
WGSは、すべての染色体からDNA断片を分析する方法であり、包括的なゲノム情報を提供します。この手法は、特定の遺伝領域に依存しないため、失敗率が低い傾向があります。しかし、WGSでは、例えば正常な妊娠において21番染色体のcfDNAは全体の1.5%未満しか含まれないため、染色体異常を正確に検出するには数百万のDNA断片を解析する必要があります。このため、検出率や陽性的中率(PPV; Positive Predictive Value)を向上させるには高いシーケンシング深度が求められますが、コストが上昇し、解析に時間がかかるという課題もあります。
ターゲットシーケンス
ターゲットシーケンスは、特定の遺伝疾患に関係する染色体領域だけを解析する手法です。この方法にはいくつかの利点があります。まず、解析範囲を限定することで、コストを抑えながら短時間での検査が可能になります。また、不要な遺伝情報を排除することで、データの処理と解釈がより容易になり、結果の精度向上にもつながります。さらに、消失双胎や三倍体、母体モザイクといった遺伝的な異常をより高い精度で検出できるのも大きな特徴です。

胎児割合(FF; Fetal Fraction)とNIPTの精度
NIPTの精度は、FFに依存します。FFは、母体血中のcfDNAのうち胎盤由来のDNAが占める割合を指し、通常は3%〜13%の範囲にあります。妊娠が進むにつれてFFは増加しますが、母体の体重が高い場合、FFは低下する傾向にあります。FFが4%未満になると、検査の信頼性が低下し、偽陰性や不確定結果のリスクが高まります。
日本におけるNIPTの現状
2017年に日本で行われた研究では、2年間で18,251件のNIPTが実施され、51件(0.28%)が不確定結果となりました。研究者は、NIPTの最大の課題の一つとして、検査対象のDNAの大部分が胎盤由来であるため、結果に不確実性が生じることを指摘しています。日本ではNIPTの結果を「陽性」または「陰性」と分類することが一般的ですが、約0.1%のケースでは「判定不能」と分類されることがあります。
結論
NIPTは出生前スクリーニングの安全性と精度を向上させましたが、診断検査ではないため、確定診断には追加の検査が必要です。今後、DNAシーケンシング技術とバイオインフォマティクスの進歩により、NIPTの信頼性がさらに向上することが期待されます。現時点では、その限界を理解し、適切な遺伝カウンセリングを受けることが重要です。
NIPTの検出率を正しく理解する:データの意味と統計の信頼性
以下のセクションでは、NIPT(非侵襲的出生前検査)のデータを詳細に分析し、イギリスの出生有病率との比較を通じて、検査の特性や精度について解説します。ダウン症候群(21トリソミー)、エドワーズ症候群(18トリソミー)、パトウ症候群(13トリソミー)の検出率の違いに加え、選択バイアスの影響や信頼区間の考え方、陽性的中率(PPV)・陰性的中率(NPV)の計算方法など、統計的な視点からも詳しくご説明します。また、受検者の年齢分布や検査を受ける傾向、さらに羊水検査との結果の不一致が臨床判断に与える影響についても考察します。NIPTの仕組みをより深く理解し、検査結果の正しい捉え方を知りたい方に向けて、わかりやすく丁寧にお伝えします。

イギリスの有病率対弊社のNIPT検出率(トリソミー21・18・13陽性)

データを理解する:何を測定しているのか?
このグラフは、ダウン症候群(トリソミー21)、エドワーズ症候群(トリソミー18)、パトウ症候群(トリソミー13)の3つの遺伝的疾患の有病率を比較したものです。データは3つの異なるグループに分けられています。1つ目は2020年のイギリスにおける出生10,000件あたりの検出数、2つ目は2021年の同じデータ、そして3つ目は弊社の非侵襲的出生前検査(NIPT)によって検出された、スクリーニング10,000件あたりの症例数です(NIPTのサンプル数は45,000件)。
重要なのは、この統計が「出生有病率」のみを示しているわけではないという点です。つまり、生まれた赤ちゃんの数だけでなく、出生前診断(妊娠中の検査)および出生後の診断も含めた「検出有病率」を表しています。
データの内訳
グラフでは、イギリスでの出生10,000件あたりの有病率と、弊社のNIPTスクリーニング10,000件あたりの検出数が示されています。カッコ内の数値は100件あたりの割合(%)を示し、別の視点からデータを捉えるのに役立ちます。
ダウン症候群(トリソミー21)
- 2020年(イギリス):10,000件あたり26.5例(0.265%)
- 2021年(イギリス):10,000件あたり29.7例(0.297%)
- 弊社のNIPT検査結果:10,000件あたり83.3例(0.833%)
エドワーズ症候群(トリソミー18)
- 2020年(イギリス):10,000件あたり7.4例(0.074%)
- 2021年(イギリス):10,000件あたり9.2例(0.092%)
- 弊社のNIPT検査結果:10,000件あたり43.7例(0.437%)
パトウ症候群(トリソミー13)
- 2020年(イギリス):10,000件あたり2.7例(0.027%)
- 2021年(イギリス):10,000件あたり3.3例(0.033%)
- 弊社のNIPT検査結果:10,000件あたり17.1例(0.171%)
NIPTの検出率が高い理由
NIPTの検出率がイギリスのデータよりもはるかに高く見えるのは、いくつかの理由があります。
まず、イギリスのデータは、検査方法を問わずすべての妊娠において検出された症例の数を示しています。一方で、NIPTは特にリスクが高いと考えられる妊娠で実施されることが多く、高齢出産の方や超音波検査で異常が指摘された方などが対象になりやすいです。そのため、検出率が相対的に高くなります。
また、イギリスのデータには、出生前診断(妊娠中の検査)だけでなく、出生後に確定診断された症例も含まれています。これに対し、NIPTのデータはあくまでこの検査を受けた方のみに限定されるため、一般の妊婦全体を代表するデータではありません。そのため、このグラフは日本での有病率がイギリスよりも高いことを示しているわけではありません。

信頼区間(CI)とは?
グラフには、イギリスのデータに誤差範囲(エラーバー)が表示されています。これは「信頼区間(Confidence Interval, CI)」と呼ばれ、実際の有病率がどの範囲に収まる可能性が高いかを示すものです。
例えば、2020年のイギリスにおけるダウン症候群の検出率は10,000件あたり26.5例ですが、実際の値は25.2〜27.9の間にある可能性が高いと考えられます。つまり、データが増えた場合、検出率が多少変動する可能性はあるものの、大きくはこの範囲内に収まると予測されます。信頼区間を確認することで、データの信頼性をより正確に理解することができます。
まとめ
3つの疾患の中で最も多く検出されるのはダウン症候群で、次いでエドワーズ症候群、最も稀なのがパトウ症候群です。NIPTの検出率がイギリスのデータより高く見えるのは、NIPTが特にリスクの高い妊娠で使用されるためです。イギリスのデータは「出生有病率」ではなく、出生前診断と出生後診断を含む「検出有病率」を示しています。また、信頼区間はデータの正確性を評価する重要な指標となります。
NIPTは、早期に疾患を発見できるため、家族や医療関係者が事前に準備するための大きな助けとなります。なお、これらの疾患は非常にまれであり、ダウン症候群でさえ全体の1%未満の割合で検出されることがデータから分かります。
引用データ
- National Congenital Anomaly and Rare Disease Registration Service (NCARDRS). (2020). Congenital anomaly official statistics report, 2020. NHS Digital. Retrieved from https://digital.nhs.uk/data-and-information/publications/statistical/ncardrs-congenital-anomaly-statistics-annual-data/ncardrs-congenital-anomaly-statistics-report-2020/prevalence-t21-t18-t13
- National Congenital Anomaly and Rare Disease Registration Service (NCARDRS). (2021). Congenital anomaly official statistics report, 2021. NHS Digital. Retrieved from https://digital.nhs.uk/data-and-information/publications/statistical/ncardrs-congenital-anomaly-statistics-annual-data/ncardrs-congenital-anomaly-statistics-report-2021/prevalence-of-t21-t18-t13
NIPTと羊水検査・出産転帰の結果不一致について
真陽性と偽陽性:やさしく学ぶ統計解析

結論から簡単にいうと!
陰性結果(異常なしの結果)は、どちらのデータセットにおいても信頼性が高いと考えられます。これは、陰性の場合には対象の染色体異常がほぼ存在しないことを示しており、偽陰性(本当は異常があるのに検出されないケース)の可能性が非常に低いためです。
一方で、陽性結果(異常があると示された場合)は追加の確認検査が必要です。特に、18トリソミー(エドワーズ症候群)や13トリソミー(パトウ症候群)では、非確定的な結果が出ることが多いため、確定診断のために羊水検査や絨毛検査といった追加の検査を受けることが推奨されます。
また、NIPT(非侵襲的出生前遺伝学的検査)のデータでは、PPV(Positive Predictive Value; 陽性的中率)が向上していることが示されています。PPVとは、検査で陽性と判定された人のうち、実際にその異常がある確率を示す指標です。PPVが高いほど、陽性の結果の信頼性が向上します。ただし、18トリソミーや13トリソミーの診断には依然として課題があり、確実な診断を行うことが難しい場合があります。これは、これらの疾患の発生頻度が低く、偽陽性(本当は異常がないのに検査で陽性と出るケース)が比較的多いためです。
そのため、NIPTで陽性結果が出た場合でも、状況に応じて、確定診断のための追加検査を受けることが大切です。
1.データセット
上記の画像からいただいたデータはこちらです:
ダウン症候群(トリソミー21) | エドワーズ症候群(トリソミー18) | パトウ症候群(トリソミー13) | |
---|---|---|---|
弊社の偽陽性率 | 8.00% | 34.90% | 58.80% |
弊社の真陽性率 | 92.00% | 65.10% | 41.20% |
イギリスの有病率対弊社のNIPT検出率(トリソミー21・18・13陽性)のデータはこちらで利用できます。
データセット | トリソミー21の有病率 | トリソミー18の有病率 | トリソミー13の有病率 |
---|---|---|---|
イギリス 2021年データ | 0.00297(出生10,000件あたり29.7件) | 0.00092(出生10,000件あたり9.2件) | 0.00033(出生10,000件あたり3.3件) |
弊社のNIPT検査 | 0.00833(スクリーニング10,000件あたり83.3件) | 0.00437(スクリーニング10,000件あたり43.7件) | 0.00171(スクリーニング10,000件あたり17.1件) |
2.3 prevalence of babies with Down’s syndrome, Edwards’ syndrome and Patau’s syndrome – NHS England Digital (2024) 2.3 Prevalence of babies with Down’s syndrome, Edwards’ syndrome and Patau’s syndrome – NHS England Digital. Available at: https://digital.nhs.uk/data-and-information/publications/statistical/ncardrs-congenital-anomaly-statistics-annual-data/ncardrs-congenital-anomaly-statistics-report-2021/prevalence-of-t21-t18-t13 (Accessed: 26 February 2025).
弊社のNIPTデータにおける有病率は、イギリスの2021年データと比べて大幅に高くなっています。
これは選択バイアス(selection bias)の影響を反映している可能性があります。NIPTは一般的に、高リスクの妊娠に対して実施されることが多いためです。
2.陽性的中率(Positive Predictive Value)
PPV = (TPR × Prevalence) / [(TPR × Prevalence) + (FPR × (1 – Prevalence))]
PPV (イギリス 2021年データ) | 比較 | PPV (弊社のNIPTデータ) | |
---|---|---|---|
トリソミー21 | 3.31% | < | 8.81% |
トリソミー18 | 0.17% | < | 0.81% |
トリソミー13 | 0.02% | < | 0.12% |
弊社のNIPT(非侵襲的出生前検査)データでは、すべての疾患においてPPV(Predictive Positive Value; 陽性的中率)がイギリスの2021年データと比較して高くなっています。これは、NIPTを受けた妊婦の集団では対象疾患の有病率が高いため、検査で陽性と判定された場合に、実際にその疾患を持っている可能性が高くなっていることを意味します。
PPVは、検査で陽性と判定された人のうち、実際に疾患を持っている人の割合を示す指標です。この値が高いほど、陽性の結果が真の疾患を反映している可能性が高くなります。ただし、PPVは有病率の影響を強く受けるため、疾患の発生率が高い集団ではPPVが上昇し、逆に有病率が低い集団ではPPVが低くなりやすくなります。
しかしながら、トリソミー18(エドワーズ症候群)およびトリソミー13(パトウ症候群)については、PPVが依然として非常に低い状態にあります。これは、これらの疾患の有病率がトリソミー21(ダウン症候群)に比べて低いため、検査で陽性と判定されても、実際には疾患を持っていない人(偽陽性)である可能性が高いことを意味します。つまり、トリソミー18やトリソミー13の検査結果が陽性であった場合でも、実際にその疾患を持っているとは限らず、誤った陽性判定が多く含まれる可能性があるということです。
このように、NIPTの結果を解釈する際には、PPVの値を単独で判断するのではなく、有病率や偽陽性率(FPR: False Positive Rate)との関係も考慮することが重要です。特に、トリソミー18やトリソミー13のようにPPVが低い場合、追加の確定診断検査(羊水検査や絨毛検査など)を実施し、最終的な診断を行うことが推奨されます。
3.陰性的中率(Negative Predictive Value)
NPV = [(1 – FPR) × (1 – Prevalence)] / {[(1 – FPR) × (1 – Prevalence)] + [(1 – TPR) × Prevalence]}
疾患 | NPV (イギリス 2021年データ) | 変化 | NPV (弊社のNIPTデータ) |
---|---|---|---|
トリソミー21 | 99.97% | わずかに > | 99.93% |
トリソミー18 | 99.95% | > | 99.76% |
トリソミー13 | 99.95% | > | 99.76% |
両方のデータセットにおいて、NPV(Negative Predictive Value; 陰性的中率)は非常に高い値を示しており、これは検査結果が陰性であった場合、その人が実際に疾患を持っている可能性が極めて低いことを意味します。つまり、NIPT(非侵襲的出生前検査)で陰性の結果が出た場合、その結果を信頼してよいと考えられます。
しかし、弊社のNIPTデータでは、NPVがわずかに低下しています。これは、NIPTを受けた妊婦の集団において対象疾患の有病率(ある疾患がその集団内でどれくらい発生しているかを示す割合)がイギリスの2021年データよりも高いためです。一般的に、有病率が高くなると、陰性的中率(NPV)は低下する傾向があります。これは、同じ検査精度であっても、疾患を持っている人の割合が増えることで、陰性と判定された人の中に実際は疾患を持っている人(偽陰性)がわずかに増えてしまうためです。
特に、このNPVの低下はトリソミー18(エドワーズ症候群)とトリソミー13(パトウ症候群)においてより顕著に見られます。これは、これらの疾患の有病率がトリソミー21(ダウン症候群)よりも低く、また検査の真陽性率(疾患がある人を正しく陽性と判定する割合)が比較的低いためです。その結果、これらの疾患では陰性と判定されても、ごくわずかですが実際には疾患を持っているケース(偽陰性)が増える可能性があります。
このように、NPVが高いことからNIPTの陰性結果は信頼できるものの、特にトリソミー18やトリソミー13では、わずかに偽陰性のリスクが高くなるため、超音波検査などの追加検査を組み合わせることで、より正確な診断を行うことが推奨されます。
4.Likelihood Ratios:陽性尤度比(LR⁺)と陰性尤度比(LR⁻)
LR+ = TPR / FPR
疾患 | LR⁺ (イギリス 2021年データ) | 比較 | LR⁺ (弊社のNIPTデータ) |
---|---|---|---|
トリソミー21 | 11.5 | = | 11.5 |
トリソミー18 | 1.87 | = | 1.87 |
トリソミー13 | 0.7 | = | 0.7 |
LR- = (1 – TPR) / (1 – FPR)
疾患 | LR⁻ (イギリス 2021年データ) | 比較 | LR⁻ (弊社のNIPTデータ) |
---|---|---|---|
トリソミー21 | 0.087 | = | 0.087 |
トリソミー18 | 0.536 | = | 0.536 |
トリソミー13 | 1.427 | = | 1.427 |
両方のデータセットにおいて、尤度比(ゆうどひ; Likelihood Ratio; LR)の値は変わりませんでした。尤度比は、検査結果が疾患の有無にどの程度影響を与えるかを示す指標であり、陽性尤度比(LR⁺)と陰性尤度比(LR⁻)の2種類があります。
トリソミー21(ダウン症候群)のLR⁺は11.5と非常に高く、この値が大きいほど陽性の検査結果が疾患の存在を強く示唆することを意味します。 一般的に、LR⁺が10以上であれば、その検査は疾患の診断において強い証拠となると考えられます。したがって、トリソミー21に関しては、陽性の結果が出た場合、その人が実際に疾患を持っている可能性が高いことを示しています。
一方、トリソミー18(エドワーズ症候群)とトリソミー13(パトウ症候群)のLR⁺はそれぞれ1.87と0.7であり、この値は診断の決め手としては弱いことを示しています。 特に、トリソミー13のLR⁺は1未満であり、これは陽性の結果が出ても、それが実際に疾患を持っていることを示す十分な証拠にはならないことを意味します。つまり、これらの疾患では陽性の結果が必ずしも疾患の存在を意味するわけではなく、誤った陽性結果(偽陽性)の可能性が高いことを考慮する必要があります。
また、トリソミー21のLR⁻は0.087と非常に低い値を示しています。 一般的に、LR⁻が0.1未満であれば、陰性の結果が出た場合に、その人が実際に疾患を持っている可能性はほとんどないと考えられます。したがって、トリソミー21においては、検査結果が陰性であれば、疾患が存在しないと強く判断できるということになります。
まとめると、トリソミー21のNIPT(非侵襲的出生前検査)は、陽性の場合に疾患がある可能性を強く示唆し、陰性の場合には疾患をほぼ確実に除外できる精度の高い検査であることが分かります。しかし、トリソミー18やトリソミー13では、陽性の結果の信頼性が低いため、確定診断のために追加の検査(羊水検査や絨毛検査など)が推奨されます。
5.ベイズの定理(Bayes’ Theorem)とNIPTにおける陽性後確率・陰性後確率
ベイズの定理(Bayes’ Theorem)は、検査結果をもとに、ある人が実際に疾患を持っている確率を更新するための統計的手法です。特に、NIPT(非侵襲的出生前検査)のようなスクリーニング検査では、陽性後確率(Post-Test Probability for Positive Results)と陰性後確率(Post-Test Probability for Negative Results)を求めることで、検査結果が疾患の有無をどの程度確実に示しているかを評価することができます。
陽性後確率とは、検査で陽性と判定されたときに、実際にその人が疾患を持っている確率を指します。この値が高いほど、陽性の結果を信頼できることを意味します。一方、陰性後確率とは、検査で陰性と判定されたときに、実際にその人が疾患を持っている確率を示し、この値が低いほど、陰性の結果が疾患の不在をより確実に示していることになります。
Post-Test Probability (Positive) = PPV / (PPV + (1 – PPV))
疾患 | 陽性後確率 (イギリス 2021年データ) | 比較 | 陽性後確率 (弊社のNIPTデータ) |
---|---|---|---|
トリソミー21 | 3.31% | < | 8.81% |
トリソミー18 | 0.17% | < | 0.81% |
トリソミー13 | 0.02% | < | 0.12% |
Post-Test Probability (Negative) = NPV / (NPV + (1 – NPV))
疾患 | 陰性後確率 (イギリス 2021年データ) | 比較 | 陰性後確率 (弊社のNIPTデータ) |
---|---|---|---|
トリソミー21 | 99.97% | わずかに > | 99.93% |
トリソミー18 | 99.95% | > | 99.76% |
トリソミー13 | 99.95% | > | 99.76% |
NIPTにおける陽性後確率の傾向
弊社のNIPTデータでは、陽性後確率がイギリスの2021年データよりも高いことが確認されています。これは、弊社のNIPTを受けた集団における疾患の有病率(Prevalence)が比較的に高いためです。一般的に、有病率が高いと、検査結果が陽性であった場合に、その結果が本当に疾患を反映している可能性(陽性的中率; Positive Predictive Value; PPV)が高くなります。そのため、弊社のNIPTデータにおいては、検査で陽性と判定された場合に、実際に疾患を持っている確率が、イギリスの2021年データと比べて上昇しています。
しかしながら、トリソミー18(エドワーズ症候群)やトリソミー13(パトウ症候群)については、NIPTデータにおいても陽性後確率が依然として低いことが分かっています。これは、これらの疾患に関する検査の偽陽性率(False Positive Rate; FPR)が比較的高いためです。偽陽性率が高いと、実際には疾患を持っていないにもかかわらず、検査で陽性と判定される人の割合が増えてしまいます。特にトリソミー13では、陽性の結果が必ずしも疾患の存在を示すわけではなく、誤った陽性判定(偽陽性)が含まれる可能性が高いことに注意が必要です。そのため、トリソミー18やトリソミー13で陽性の結果が出た場合でも、確定診断のために羊水検査や絨毛検査などの追加検査を行うことが推奨されます。
NIPTにおける陰性後確率の傾向
一方で、陰性後確率は依然として非常に低い値を維持しており、陰性の検査結果が疾患の不在を強く示唆しています。つまり、NIPTで陰性と判定された場合、その人が実際に疾患を持っている可能性は極めて低いということになります。これは、NIPTの陰性的中率(Negative Predictive Value; NPV)が非常に高いためです。NPVが高いということは、陰性と判定された場合に、それが正しく疾患の不在を反映している可能性が高いことを意味します。
また、弊社のNIPTデータでは有病率が高いため、陰性的中率が若干低下する傾向にありますが、それでもなお陰性の結果は信頼性が高く、疾患の除外(ルールアウト)に非常に有効であることが分かります。
その他


NIPT検査を受けた方の年齢分布
データ分析において、数値の分布を要約し、その傾向を読み取ることは重要です。本データセットは、NIPT(Non-Invasive Prenatal Testing; 非侵襲出生前検査)を受けた人々の年齢分布を示しています。統計指標とデータの可視化を用いることで、検査を受ける人々の平均年齢や分布の特徴、年齢層の傾向を把握することができます。


HiroClinicは、これまでに60,000名を超える患者様にNIPT検査をご提供してまいりました。蓄積されたデータが増えるにつれ、結果の分析における統計的な精度もさらに高まり、より信頼性のある検査を実現しております。
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受検者の年齢範囲と平均値
このデータによると、検査を受けた人の年齢は16歳から56歳の範囲に分布しており、最も若い受検者は16歳、最も年長の受検者は56歳です。これにより、NIPTは主にこの年齢層の人々によって利用されていることが分かりますが、例外的にこの範囲を超える場合もあると考えられます。
受検者の平均年齢(Arithmetic mean; 算術平均)は約34.5歳です。これは、すべての年齢を合計し、受検者数で割った値であり、仮にすべての人の年齢を均等に分配した場合、一人当たりの年齢がこの値に近くなることを意味します。中央値(Median; メジアン)は35歳であり、すべての年齢を並べたときにちょうど中央に位置する値です。平均値と中央値がほぼ同じであることから、年齢分布は極端に若い人や高齢の人によって偏ることなく、比較的均衡が取れていると考えられます。
年齢の分布と四分位数
四分位数を用いると、年齢分布の詳細な特徴が分かります。第1四分位数(Q1)は31歳であり、これは全体の下位25%の人がこの年齢以下であることを示します。第3四分位数(Q3)は38歳であり、全体の上位25%の人がこの年齢以上であることを意味します。
したがって、NIPTを受ける人々のちょうど50%は31歳から38歳の間に分布していることが分かります。この範囲は、16歳から56歳という全体の年齢範囲に比べると狭く、検査を受ける人の多くが30代に集中していることを示唆しています。
データの視覚化:ヒストグラムと箱ひげ図
データの視覚的な理解を深めるために、ヒストグラム(Histogram)と箱ひげ図(Boxplot; ボックスプロット)を用いました。
ヒストグラムは、各年齢がどの程度の頻度で出現するかを棒グラフで示すもので、今回のデータでは最も高い頻度の棒が30代に集中していました。これは、多くの受検者がこの年齢層に属することを示しています。また、ヒストグラムは左右対称に近い形をしており、特定の年齢層に極端な偏りがないことが確認できます。
一方、箱ひげ図はデータの分布を簡潔に示す手法です。ヒストグラムが各年齢の頻度に着目するのに対し、箱ひげ図はデータの主要な統計的指標を視覚的に表現します。箱の部分は中央50%のデータ範囲を示し、その中に中央値(35歳)を示す線が引かれています。また、箱の両端から伸びる「ひげ」は最小値(16歳)から最大値(56歳)までの範囲を表します。このように、箱ひげ図を使うことで、データの偏りや外れ値の有無を簡単に確認できます。
NIPT受検者の年齢傾向
これらの分析結果から、NIPTを受ける人の多くは30代であることが明らかになりました。NIPTは主に妊娠中の人によって利用される検査であり、この年齢層は出生前検査を受ける人が多いことと一致しています。中央値と平均値の近さから、データ全体は極端に偏ることなく比較的均衡が取れているといえます。また、30歳未満や45歳以上の受検者も一定数存在することから、NIPTが特定の年齢層に限定されるものではないことも分かります。
結論
NIPTの典型的な受検者の年齢は31歳から38歳の範囲に収まり、大きな偏りのない適度な分布を持つことが分かります。分布が対称的であり、平均値と中央値がほぼ一致することから、特定の年齢層に偏ることなく、幅広い層に利用されていることが示されています。
ヒストグラムや箱ひげ図といった視覚的な手法を用いることで、これらの統計的特徴を直感的に理解しやすくなります。データを見ると、若年層や高年層の受検者も一定数いるものの、大半の受検者は30代に集中しており、これは出生前診断や遺伝子検査を希望する人々の一般的な傾向を反映していると考えられます。
なぜNIPT受検者の年齢分布には二つのピークがあるのか?
NIPT受検者の年齢分布と双峰性: データに基づく考察
カーネル密度推定(KDE; Kernel Density Estimation with Bandwidth Tuning)

KDE(カーネル密度推定)は、データの分布をなめらかに描く手法で、積み木を積んで形を作るようなイメージで捉えられます。各データ点に「カーネル」と呼ばれる小さな山(関数)を割り当て、それらを合成することで全体の分布を表現します。カーネルの形自体は一定ですが、その配置(バンド幅 h の調整)によって、グラフの見え方が変わります。
バンド幅 h の調整がKDEの鍵となります。
- h が小さい場合:データの細かい起伏が鮮明に表れますが、ノイズも多くなります。
- h が大きい場合:全体の傾向をなめらかに捉えられますが、細かい特徴がぼやけてしまいます。
h=0.5 に設定すると、データの中に2つの山(ピーク)があることがはっきり見えることがあり、これはデータが1つのグループではなく、2つの異なるグループに分かれている可能性を示唆します。
ガウス混合モデル(GMM, Gaussian Mixture Modeling)
EMアルゴリズムを用いたガウス有限混合モデル, Gaussian finite mixture model fitted by expectation-maximization (EM) algorithm
先ほど使用したK-Meansと、Gaussian Mixture Models(GMM)は、データをグループ化する2つの手法ですが、それぞれ異なる仕組みで動作します。
K-Meansは、ビー玉をそれぞれ最も近い瓶(クラスタ)に分けるような方法です。一度振り分けられたデータポイントは、そのクラスタに固定され、他のクラスタにまたがることはありません。つまり、データの所属は明確で、曖昧さのない分類方法です。
一方、GMMは色が徐々に混ざり合うようなイメージに近い手法です。K-Meansのようにデータを1つのクラスタに決めつけるのではなく、それぞれのデータが複数のクラスタに属する確率を計算します。そのため、1つのデータポイントがいくつかのクラスタに部分的に属することがあり、特にクラスタ同士が重なっている場合や、形が均一でない場合により柔軟に対応できます。
GMMでは、各クラスタをベル型の曲線(ガウス分布)として表現し、データが特定のクラスタに属する可能性を、以下の3つの要素から判断します。
データの中心を示す平均(μ)、クラスタの広がりや形状を決める共分散(Σ)、そして各クラスタの重要度を示す混合比(π)です。
このクラスタの精度を高めるために、GMMでは期待値最大化(Expectation-Maximization: EM)アルゴリズムを使用します。このアルゴリズムは、まず仮のクラスタを設定し、データとの適合度を計算しながらクラスタの形を調整し、最適な分類が得られるまで繰り返します。
データの特徴をより深く理解するために、GMMを用いた分析についても紹介します。

2 つのコンポーネントを持つ Mclust V (単変量、不等分散) モデル:
log-likelihood | n | df | BIC | ICL |
---|---|---|---|---|
-164813.3 | 56622 | 5 | -329681.4 | -353670.8 |
クラスタリングテーブル:
clust1 | clust1 |
---|---|
28021 | 28601 |
分析の概要:この研究の意味すること
この研究では、NIPT(Non-Invasive Prenatal Testing; 非侵襲出生前検査)を受ける人々が主に2つの年齢層に分かれていることがわかりました。すべての年齢が均等に分布しているわけではなく、2つのグループがほぼ同じ割合を占めています。1つ目のグループは28,021人、2つ目のグループは28,601人で、それぞれ全体の約49.5%と50.5%を占めています。
最初のグループは、30〜34歳の比較的若い妊婦が中心です。多くの人が初めての妊娠であり、特に遺伝的なリスクがない場合もあります。NIPTは安全で高精度な検査であるため、医師から特に勧められていなくても、安心のために受ける人がいると考えられます。
2つ目のグループは、35歳以上の妊婦が多く含まれています。この年齢になると、染色体異常のリスクが高まるため、NIPTを受ける人が増えます。特にダウン症(21トリソミー)などの発生率が上昇するため、35歳以上の妊婦にはNIPTが標準的な検査として推奨されることが多いのです。若いグループのように「安心のために」受ける人もいますが、この年齢層では医療上の必要性から受けるケースが多いと考えられます。
NIPTを受ける人々が1つの均一な集団ではなく、2つの主要な年齢層に分かれていることを示しています。30〜34歳の比較的若い妊婦は安心のために検査を受けることが多く、35歳以上の妊婦は高齢妊娠に伴う医学的リスクに対応するために検査を受ける傾向があります。両グループの間に多少の重なりはありますが、NIPTの受検を決める大きな要因の1つは年齢であることが明らかになりました。
詳細な解説:この分析の仕組み
ガウス混合モデル(GMM; Gaussian Mixture Model)を用いてNIPT受検者の年齢分布を分析しました。GMMは、データが複数のグループに分かれると仮定し、それぞれのグループが正規分布(ガウス分布)に従うかどうかを統計的に解析する手法です。今回の分析には、Mclust Vモデルを使用しました。このモデルは「一変量(単一の変数を対象にする)」かつ「分散が異なるグループを許容する」という特徴を持ち、データをより柔軟に分類できます。
モデルの統計結果では、対数尤度(log-likelihood)が-164813.3という値を示しました。対数尤度とは、与えられたデータが特定のモデルによってどの程度説明されるかを示す指標であり、値が高い(マイナスが小さい)ほどモデルの適合度が良いことを意味します。ただし、対数尤度単独ではモデルの良し悪しを判断できません。なぜなら、より複雑なモデル(パラメータが多いモデル)は、データに柔軟に適応しやすく、対数尤度が高くなりがちだからです。そのため、モデルの適合度と複雑さのバランスを評価するために、ベイズ情報量規準(BIC; Bayesian Information Criterion)や完全データ尤度(ICL; Integrated Complete-data Likelihood)といった追加の指標を用います。
今回のデータセットは56,622人のNIPT受検者で構成されており、モデルは5つの自由度(推定される独立したパラメータ)を用いて分析されました。モデルのBICスコアは-329681.4、ICLスコアは-353670.8でした。BICは、モデルの精度と単純さのバランスを評価する指標であり、数値が低いほど適切なモデルであることを示します。一方、ICLスコアはBICに比べて「グループの明確さ」を重視する指標であり、ICLがBICよりも低い場合、グループ間に多少の重なりがある可能性があることを示唆します。
クラスタリング(グループ分け)の結果として、28,021人が第1のクラスター(グループ)、28,601人が第2のクラスターに分類されました。これは、全体の約49.5%と50.5%に相当し、2つのグループがほぼ均等に分かれていることを示しています。この結果は、NIPT受検者が単一の集団ではなく、異なる特徴を持つ2つの主要な年齢層に分かれることを意味します。統計的に見ると、これらの2つのグループは、それぞれ異なる平均(平均年齢)と分散(ばらつき)を持つ正規分布として表現できることがわかりました。
モデルが1つのグループではなく2つのグループを選択した理由は、NIPTを受ける人々の年齢傾向に明確な違いがあったためです。もし年齢分布が1つの正規分布に従うのであれば、モデルは1つのグループを選択したはずですが、実際には2つのグループが存在し、それぞれに異なる年齢層が集中していることが確認されました。
この分析結果には、医療や公衆衛生の観点から重要な意味があります。
医学研究において、NIPTを受ける年齢層を理解することで、クリニックが将来の需要を予測し、適切なリソースを確保できるようになります。
公衆衛生の観点では、NIPTの利用傾向を把握することで、出生前診断の普及に向けた啓発活動をより効果的に行うことが可能になります。
医療機関では、典型的なNIPT受検者の年齢層を把握することで、年齢に応じた適切なカウンセリングを提供できるようになります。
例えば、35歳以上の妊婦の多くが医学的な理由でNIPTを受けている場合、より充実したカウンセリングやフォローアップ体制を整えることが求められます。一方で、30〜34歳の妊婦の間でNIPTが広まっている場合、検査を希望する背景(不安の軽減など)を理解し、それに対応するサポートを強化することが有効でしょう。
NIPTを受ける人々が年齢によって2つの主要なグループに分かれることを示しており、年齢がNIPT受検の決定に重要な役割を果たしていることを明らかにしました。今後の研究では、既往妊娠歴や遺伝的リスクの家族歴、医師の推奨がNIPT受検にどのように影響を与えるかをさらに詳しく調査することで、より効果的な医療ガイドラインや患者教育の改善につなげることができるでしょう。
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