グリーグ頭顔多指症候群(GCPS)は、広く間隔を空けた目や異常に大きな頭、余分な指などの症状を特徴とする稀な疾患です。本記事では、GCPSの症状、遺伝的要因、診断方法、治療法、予後について詳しく解説します。
この記事のまとめ
グリーグ頭顔多指症候群(GCPS)は、四肢や顔に特徴的な異常を伴う稀な遺伝疾患です。主な症状には、広く間隔を空けた目(高眼距離)、異常に大きな頭(大頭症)、多指症(余分な指や指の癒合)があり、発症率は非常に低いものの、遺伝的な要因や発症メカニズムに関する情報は注目されています。本記事ではGCPSの臨床的特徴、診断方法、予後、治療法について詳しくご紹介します。
疾患概要
グリーグ頭顔多指症候群(GCPS)は、先天的な発達異常を伴う稀な疾患で、主に四肢、顔、そして中枢神経系に影響を与えます。この疾患は、広く間隔を空けた目(眼間距離が広い)、異常に大きな頭(巨大頭)、そして多指症(余分な指や融合した指)を特徴としています。通常、足の親指の前軸に多指症が見られ、手には後軸の多指症があり、指の皮膚が結びつく皮膚性の癒合(皮膚癒合症)も見られることがありますが、四肢の異常は個人によって大きく異なります。また、まれに認知障害や中枢神経系の異常、ヘルニアなども見られることがあります。
グリーグ頭顔多指症候群の発症率は、症例の確認が不安定であるため、正確に特定することが難しいです。推定される発生率は1〜100万人に1〜9例の範囲とされていますが、この疾患は非症候群型の多指症と特徴が共通しているため、実際の発症率はもっと高い可能性があり、過小評価されている可能性もあります。さらに、分子診断が十分に普及していないため、発症率の正確な推定が難しくなっています。
GCPSは、7番染色体の7p14.1領域にあるGLI3遺伝子のヘテロ接合体変異によって引き起こされます。この遺伝子は、四肢や脳などの体のさまざまな構造の発達に重要な役割を果たします。この疾患は、1926年にデビッド・ミドルトン・グリーグによって初めて記述されましたが、ノルウェーの作曲家グリーグとしばしば混同されます。「グリーグ症候群」という名前は、広く間隔を空けた目と巨大頭というあいまいな特徴の組み合わせを示すため避けられています。また、「特異な頭蓋形態を伴う多指症」といった表現も、蔑称として使用されるため推奨されません。
遺伝的変異に関して、GCPSはパリスター・ホール症候群とアレリック(同系の遺伝子で異なる疾患)であり、両者は似た特徴を持つものの、異なる疾患です。また、GCPSの臨床的な症状はアクロコロサル症候群など他の疾患と重なることもありますが、分子診断を使用しないと区別が難しい場合があります。
GCPSの患者において発達遅延、知的障害、てんかんは比較的少なく、症例の10%未満に見られることが多いです。しかし、GLI3遺伝子に大きな欠失がある患者では、これらの症状がより一般的である可能性があります。約20%のGCPS患者には、脳の両半球をつなぐ部分である脳梁の発育不全や欠損が見られることがあります。
GCPSの発症率についての正確な推定は難しいですが、この疾患が稀であることは明確であり、影響を受けた人々は身体的および認知的な発達に関連するさまざまな課題に直面することがあります。
病因と診断の方法
グリーグ・セファロポリシンダクチリ症候群(GCPS)は、7番染色体の7p14.1領域にあるGLI3遺伝子の機能喪失変異によって引き起こされます。この遺伝子は、亜鉛フィンガー転写因子をコードしており、ソニック・ヘッジホッグ(SHH)シグナル伝達経路において重要な役割を果たします。SHH経路は、四肢や中枢神経系を含むさまざまな体の構造の発達に関与しています。GLI3タンパク質は、SHH経路の他の構成要素であるPTCH1やSMOタンパク質の下流で作用し、正常な発達に必要な追加の遺伝子の発現を調節します。
GCPSは常染色体優性遺伝のパターンに従い、これは変異した遺伝子のコピーが1つでもあれば症候群が発症することを意味します。この遺伝子変異は、GLI3遺伝子における病原性変異や、GLI3を含む7p14.1領域の欠失によるものです。GCPSの患者において、遺伝子変化が7p14.1領域の欠失によるものである場合、両親は均衡型染色体再編成を持っている可能性があります。このような場合、両親には染色体分析を受けてもらい、均衡型染色体再編成を持っているかどうかを確認することが推奨されます。もし親が構造的な染色体再編成を持っている場合、兄弟姉妹がその再編成を遺伝するリスクが高くなり、リスクの詳細は再編成の種類や他の遺伝的要因に依存します。
GCPSの発症メカニズムで最も一般的なのはハプロ不全で、これはGLI3遺伝子の機能的コピーが1つだけでは正常な発達を支えるには不十分であることを意味します。GLI3遺伝子全体を削除することにより、GCPSの表現型が現れ、これは単一ヌクレオチドのナンセンス変異やフレームシフト変異によって引き起こされるものと区別がつかないことが知られています。また、マウスモデルは、GLI3のハプロ不全が主要な病因であるという仮説を支持しています。しかし、3’フレームシフト変異やナンセンス変異、ミスセンス変異がこの症状を引き起こす正確なメカニズムについては、まだ完全には解明されていません。
グレイグ・セファロポリシンダクチリー症候群(GCPS)の診断は、その臨床的特徴が他の疾患と重なるため、身体的な検査のみでは明確な診断を下すことが難しい場合があります。このため、臨床的な評価と分子遺伝学的なアプローチを組み合わせた方法が推奨されます。GCPSの仮診断は、患者が以下の三つの主要な特徴を示す場合に行えます:前軸性多指症(足の親指に余分な指がある)、皮膚の癒着(指や足の指が皮膚で繋がっている)、眼の間隔が広いこと(眼間距離の広さ)、および頭が異常に大きい(大頭症)ことです。これらの特徴は、GLI3遺伝子に関連する分子検査が有益である可能性がある患者を特定するのに役立ちます。
確定診断は、これらの臨床的な特徴が確認され、遺伝子検査でGLI3遺伝子の変異またはGLI3を含む7p14.1領域の欠失が確認された場合に行われます。GCPSは常染色体優性遺伝パターンを示し、変異した遺伝子が一つでも存在すればこの症候群を発症します。もしGCPSの患者が7p14.1領域の欠失を持っている場合、その両親はバランスの取れた染色体再配置を持っている可能性があり、この場合、他の子供が同様の変異を受け継ぐリスクが高まります。親がこのような再配置を持っている場合、影響を受けた兄弟姉妹が再配置を受け継ぐリスクは再配置の具体的な性質と他の遺伝的要因に依存します。GCPSを持つ親の子供は、50%の確率で遺伝子変異を受け継ぎ、この症候群を発症します。
既知の遺伝子変異がある家族の場合、出生前検査が可能です。もし影響を受けた家族メンバーで遺伝的な変化が特定されている場合、または親が7p14.1領域のバランス再配置を持っている場合、妊娠中に遺伝子検査を行い、未出生の子供にGCPSのリスクがあるかどうかを評価できます。しかし、GCPSの出生前診断における超音波検査の信頼性は十分に確立されていません。
近年、DNAシーケンシング技術の進展により、非侵襲的な出生前検査(NIPT)が、出生前FISH(蛍光 in situ ハイブリダイゼーション)や羊水検査といった侵襲的な診断方法に代わる信頼性が高く安全な選択肢として注目されています。NIPTは母体の血液中に含まれる胎児の細胞を分析することによって機能し、母体や胎児にリスクを与えることなく遺伝病をスクリーニングする安全な方法を提供します。この技術により、特定の遺伝領域をターゲットにしてシーケンシングを行うことが可能になり、超音波検査や他のスクリーニング方法では見逃されがちな病気の検出ができます。そのため、NIPTは非侵襲的で信頼性の高いスクリーニング方法を求める親たちにとって、ますます人気のある選択肢となっています。
疾患の症状と管理方法
グリーグ・セファロポリシンダクチリー症候群(GCPS)は、個々の患者で症状が大きく異なる稀な遺伝性疾患で、いくつかの身体的特徴が見られます。主な特徴には、広く開いた目(高眼距離)、異常に大きな頭(大頭症)、そして重複指や指の癒合(多指症、またはポリシンダクチリー)があります。多指症は、足に現れる前軸型多指症(親指など)や手に現れる後軸型多指症(小指など)として現れ、具体的な症状は個人によって異なります。また、指や足の指が皮膚で繋がっている皮膚性癒合(皮膚癒合)が見られることもありますが、その重症度は軽度から指の完全な癒合までさまざまです。
頭部や顔の異常もGCPSに特徴的です。多くの患者は高眼距離(目の間隔が広いこと)を示し、時には内眼角距離が広がること(テレカンタス)が見られることもあります。また、GCPSの患者はしばしば大頭症を呈します。しかし、これらの顔面の特徴は微妙であり、疾患に詳しくない医師には見逃されることもあります。例えば、軽度の高眼距離は魅力的な特徴と見なされることがあり、また家族性の大頭症(家族に大きな頭を持つ人が多い場合)も、適切に評価されない限り問題視されないことがあります。加えて、顔の特徴は非常に多様で、同じ家族内でも異なる場合があります。
GCPSに関連する他の稀な症状には、頭蓋縫合早期癒合(頭蓋骨の早期融合)、知的障害、脳梁の発育不全、臍帯ヘルニアや横隔膜ヘルニアなどがあります。知的障害は典型的なGCPS患者には少ないですが、GLI3遺伝子の大きな欠失を持つ患者では、これらの問題がより一般的に見られることがあります。約20%のGCPS患者は脳梁の発育不全や欠損を示し、この部位は脳の両半球を繋げる重要な部分です。
GCPSの診断は、これらの特徴的な臨床症状を確認し、GLI3遺伝子のヘテロ接合性病的変異や7p14.1染色体領域の欠失を確認することで確定されます。GCPSに関連する多指症はその重症度が異なり、普通の指に見える場合もあれば、完全に形成された追加の指や、より複雑な形態(例:8本の指を持つ症例)になることもあります。皮膚癒合も部分的な指の癒合から完全な癒合に至るまで多様です。
GCPSの四肢異常は、前軸型(足元に現れる追加の指)と後軸型(手に現れる追加の指)の多指症を含みます。これらの異常は、後軸型多指症A型(PAP-A、完全に形成された追加の指)や後軸型多指症B型(PAP-B、より小さな未発達の指)に分類されることがあります。一部の症例では、追加の指がX線でのみ確認されることもあります。
認知や神経学的な問題、例えば発達遅延、知的障害、または発作はGCPSでは珍しく、患者の10%未満に見られます。これらの問題は、中央神経系の異常や、GLI3遺伝子に影響を与える大きな遺伝的欠失を持つ患者でより一般的に見られることがあります。
GCPSの診断は、臨床症状の評価と分子診断を組み合わせて行います。早期の診断と適切な管理が、発達や神経学的な問題に対処するために重要です。
将来の見通し
典型的なグレイグ頭蓋多指症候群(GCPS)の予後は概ね良好であり、認知障害の発生率は低いため、これが家族にとって最も心配される点となります。多指症(余分な指の存在)は多くのケースで適切に治療可能ですが、重度の皮膚性合指症(指と指が皮膚で繋がっている状態)を伴う場合、その治療はより複雑になることがあります。後軸多指症(手足の外側に余分な指がある状態)は、前軸多指症(肢の基部近くに余分な指がある状態)に比べて修復が比較的容易であり、前軸多指症の治療にはより高度な外科的技術が求められます。手の手術は、機能面と審美面の両方で重要です。例えば、ある家族では後軸多指症タイプAの修復を選ばず、その指が正常に形成され、十分に機能していたため、修復が必要ないと判断されました。
足の手術は、多くの場合、必須ではありません。足の美的な問題は手に比べて重要性が低いため、不要な手術が生じることで生体力学的な問題を引き起こすリスクがあるためです。しかし、GCPSの軽度な型を持つ一部の家族は、優れた健康状態を維持し、正常な寿命を全うしていることが報告されており、重大な健康問題を抱えることは少ないとされています。
GCPSの治療は基本的に症状に応じたアプローチが取られ、必要に応じて形成外科や整形外科による手術が行われます。どのような奇形に対しても、手術による修正は慎重に検討すべきであり、審美的な利点と整形外科的な合併症のリスクを十分に考慮することが重要です。手術やそのほかの治療方法については、経験豊富な医療チームと相談し、十分な情報を基に適切な意思決定を行うことが必要です。
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