概要
ネフローゼ症候群は大量の糸球体性蛋白尿を来し、低アルブミン血症や浮腫が出現する腎疾患群です。
ネフローゼ症候群のうち、原因が明らかでないものは一次性ネフローゼ症候群と診断し、糖尿病などの他の疾患が原因でネフローゼ症候群をきたすものを二次性ネフローゼ症候群とします。
疫学
毎年2,200人から2,700人の一次性ネフローゼ症候群の患者さんが新たに発症します。
現在の患者さんは約17,000人と推定されています。
原因
ネフローゼ症候群のタイプによって原因が異なると考えられています。
主な病型として膜性腎症、微小変化型ネフローゼ症候群、膜性増殖性糸球体腎炎、巣状分節性糸球体硬化症があります。
膜性腎症は、原因抗原が糸球体上皮細胞に発現するM型ホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)であることが提唱されていますが、日本人における陽性率はおよそ半数となっています。
微小変化型ネフローゼ症候群に関わる分子としてCD80、巣状分節性糸球体硬化症の原因分子として可溶性ウロキナーゼ受容体が報告されていますが、膜性増殖性糸球体腎炎をはじめその他のタイプのネフローゼ症候群の原因はよくわかっていないとされています。
遺伝
全身の遺伝性の病気に伴ってネフローゼ症候群にかかる患者さんもまれにおられますが、この場合は二次性ネフローゼ症候群と診断されます。
一次性ネフローゼ症候群のうち、遺伝性に巣状分節性糸球体硬化症をきたす原因遺伝子がいくつかわかってきていますが、それ以外の一次性ネフローゼ症候群に遺伝性はないとされています。
症状
大量の尿蛋白、低アルブミン血症・低蛋白血症が原因となって起こる、浮腫、体重増加があります。
重症の場合には腎機能低下(急性腎障害、慢性腎障害)、胸水や腹水、凝固線溶系異常、脂質異常症とそれに伴う血栓症、免疫異常症、また付随して感染症などさまざま症状が引き起こされます。
また、副腎皮質ステロイドによる治療により、骨粗鬆症、胃潰瘍などが起こります。免疫抑制薬併用で感染症のリスクが増加します。高齢者では、免疫抑制治療を行うことで伴う感染症死が少なくありません。
小児から高齢者まで広く罹患しますが、微小変化型のタイプのネフローゼ症候群は40歳くらいまでに多く見られ、膜性腎症のネフローゼ症候群は高齢者に多いとされています。
診断
成人ネフローゼ症候群は、尿蛋白3.5g/日以上が継続し、血清アルブミン値が3.0g/dL以下に低下することで診断されます。18歳未満の場合は、別途小児慢性特定疾患の基準を用いて診断します。
一次性ネフローゼ症候群の中で、どの種類か特定するには、「腎生検」という検査が必要になります。
要件の判定に必要な事項
1. 患者数
約16,000人
2. 発病の機構
不明(いくつかの仮説はあるが、明確ではない)
3. 効果的な治療方法
未確立(免疫抑制治療は有効であるが、治療に伴う感染症死を含む合併症もあり、治療法が確立されているとは言い難い)
4. 長期の療養
必要(2年以上免疫抑制治療が必要となる症例は成人例全体の44%。内訳:2年以上3年未満が48%、3年以上5年未満が31%、5年以上が21%)
5. 診断基準
あり(学会承認の診断基準)
6. 重症度分類
以下の重症度判定基準を用いて、重症と判定された患者を対象とします。
18歳未満の患者について、小児慢性特定疾患の重症度の基準を用います。
<一次性ネフローゼ症候群の診断基準>
<成人における診断基準>
1.蛋白尿:1日あたり3.5g以上
(随時尿蛋白/尿クレアチニン比が3.5g/gCr以上の場合もこれに準じます)。
2.低アルブミン血症:血清アルブミン値3.0g/dL 以下
1と2を同時に満たし、原因疾患が明らかでないものを一次性ネフローゼ症候群と診断します。
<小児における診断基準>
1. 高度蛋白尿(夜間蓄尿で 40mg/hr/m2以上)又は早朝尿で尿蛋白クレアチニン比 2.0g/gCr以上
2. 低アルブミン血症(血清アルブミン2.5g/dL以下)
1と2を同時に満たし、原因疾患が明らかでないものを一次性ネフローゼ症候群と診断します。
その他、
妊娠中に絨毛膜・羊水検査といった出生前スクリーニング検査を行うことで、胎児のうちにテイーサックス病の有無を判断することができます。
遺伝子に関するカウンセリングを取り入れるケースも多く、主として遺伝子に関連した検査やカウンセリングを行うことを検査の方法として取り入れることが大半を占めています。
これらの検査の方法を行うことにより、症状を発見する可能性が高くなります。
出生後には、血液検査を行って、欠損している酵素であるヘキソサミニダーゼAの濃度を測定したり、DNAを分析したりすることが可能です。
治療
症例によってはLDLアフェレーシスという血液浄化療法を行います。
- むくみの改善のため塩分の制限、尿を増やす薬を使用します。
- むくみが強いときには水分の制限も行います。
- 腎臓を保護するために、血圧を下げる薬を使用することがあります。
- コレステロールが高くなることが多いため、コレステロールを低下させる薬を使います。
- 蛋白尿が多い場合はステロイドを大量に投与する療法をおこなうことがあります。
- 積極的に治療する場合は、免疫抑制薬、副腎皮質ステロイドなどを使います。
- 再発を繰り返す場合、リンパ球を減らす作用のある薬を使用する場合があります。
小児に対しては、静脈内投与の高用量メチルプレドニゾロンが失敗した場合、シクロスポリンやタクロリムスなどのカルシニューリン阻害剤が最初の治療として使用されます。寛解されない場合、かなりの数の患者が末期腎疾患に進行します。
この場合、腎代替療法も検討する可能性があります。腹膜透析は、腹膜を介した有意なタンパク質喪失を伴う可能性があり、腎臓同種移植片移植は、SRNSの再発によって複雑になる可能性があります。血漿交換とリツキシマブは、移植後の再発性SRNSの治療に使用されており、現在、難治性SRNSの応急療法として検討されています。
予後
ネフローゼ症候群のタイプによって経過も異なります。SRNSの予後は複雑で好ましくありませんが、疾患の初期段階での集中治療により、患者の半数以上で寛解が得られる可能性があります。
微小変化型のタイプのネフローゼ症候群の場合、腎機能が低下することはそれほど多くありませんが、ステロイドや免疫抑制薬を減らすと再発を繰り返す可能性があります。
膜性腎症や巣状分節性糸球体硬化症の場合は、いずれ腎機能が低下し、透析が必要になる場合があります。
いずれの場合でも、2年以上ステロイドや免疫抑制薬を続け、長期的な治療が必要になる場合があります。
【参考文献】
- Orphanet – Genetic steroid-resistant nephrotic syndrome
- 神戸私立医療センター西市民病院 – 一次性ネフローゼ症候群
- National Library of Madicine – Treatment of steroid-resistant pediatric nephrotic syndrome – PMC