ピクノディソストーシス(Pycnodysostosis)は、CTSK遺伝子の変異によって引き起こされる稀な骨硬化性疾患です。この疾患では、骨密度の異常な増加、低身長、骨の脆弱性、特徴的な顔貌や歯の異常が見られます。CTSK遺伝子がコードするカテプシンK酵素が欠損すると、骨の正常なリモデリングが阻害され、骨格異常が発生します。本記事では、ピクノディソストーシスの病因、症状、診断方法、治療・管理法について詳しく解説します。
遺伝子・疾患名
CTSK|Pycnodysostosis
PYCD; Pyknodysostosis; PKND; CTSK-Related Pyknodysostosis; Toulouse-Lautrec Syndrome
概要 | Overview
ピクノディソストーシスは、稀な常染色体劣性の骨硬化性骨格疾患(osteosclerotic skeletal disorder)であり、CTSK遺伝子の変異によって引き起こされます。この遺伝子は、カテプシンK(Cathepsin K)というリソソームシステインプロテアーゼ(lysosomal cysteine protease)をコードしており、特に破骨細胞(osteoclasts)で高く発現しています。
カテプシンKは、骨吸収(bone resorption)とリモデリング(remodeling)に不可欠な酵素であり、骨の主要な構成要素であるI型コラーゲンやオステオポンチン(osteopontin)を分解する役割を担っています。この酵素が機能しない場合、骨の代謝が正常に行われず、骨密度の増加(骨硬化症, osteosclerosis)や特有の骨格異常を引き起こします。
この疾患は1962年にMaroteauxとLamyによって初めて報告され、同じく骨硬化症を特徴とする骨硬化症(オステオペトローシス, osteopetrosis)とは異なる疾患であることが示されました。また、フランスの画家トゥールーズ=ロートレック(Toulouse-Lautrec)が本疾患であった可能性も指摘されています。
疫学 | Epidemiology
ピクノディソストーシスは超希少疾患であり、推定有病率は100万人あたり1〜1.7人とされています。これまでに約200例が医学文献で報告されています。
また、本疾患の症例のうち30%以上で近親婚(親同士が血縁関係にある)が認められています。さらに、一卵性双生児(遺伝的に完全に一致する双子)の症例では、両者が本疾患を発症していることが確認されています。
病因 | Etiology
本疾患の原因は、CTSK遺伝子(染色体1q21に位置)の変異によるカテプシンKの機能喪失です。CTSK遺伝子は8つのエクソン(遺伝子のコード領域)と7つのイントロン(非コード領域)を含み、ゲノムDNA全体の長さは約12キロベース(kb)に及びます。
カテプシンKのmRNA(メッセンジャーRNA)は、329アミノ酸からなるタンパク質をコードしており、そのうち15アミノ酸のシグナル配列(signal sequence)と99アミノ酸のリーダー配列(prosequence)を含んでいます。
なお、本疾患は常染色体劣性遺伝であるため、変異が1つだけ(ヘテロ接合型)では発症せず、両方の遺伝子に変異がある場合(ホモ接合型または複合ヘテロ接合型)にのみ発症します。したがって、ヘテロ接合体(キャリア)ではカテプシンKのレベルが低下しても、表現型(症状)が現れることはありません(ハプロ不全(haploinsufficiency)が影響しない)。
症状 | Symptoms
骨格異常
- 低身長(成人男性で150 cm未満、成人女性で130〜134 cm)
- 骨密度の増加(骨硬化症, osteosclerosis)
- 頭蓋縫合の閉鎖遅延(大泉門の開存、前額突出)
- 末端骨溶解(acroosteolysis)(指の先端の骨が徐々に消失)
- 鎖骨の異形成(25%の症例)
- 乳突洞の未発達(mastoid non-pneumatization)(80%の症例)
- 脊柱側弯症(scoliosis, 12%)、脚長差(8%)
- 骨の脆弱性による頻繁な骨折(年間平均0.2回)および治癒遅延
頭蓋顔面および歯の異常
- 特徴的な顔貌(凸状の鼻梁、小さな顎(小顎症, micrognathia)、下顎角の鈍化)
- 歯の異常(歯の萌出遅延、先天性欠如(hypodontia)、不正咬合、エナメル質低形成、乳歯の遺残)
- 高口蓋または口蓋裂、正中口蓋溝
神経および耳鼻咽喉科領域
- 知能は通常正常(軽度の精神運動発達遅延を伴う例もあり)
- 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)(60%以上)、喉頭軟化症(laryngomalacia)(20%)
- 伝音性難聴(50%)
- まれな神経学的異常(キアリ奇形、脳の脱髄病変、錐体路症候群)
- 眼の異常(斜視、屈折異常、頭蓋内圧亢進による視神経乳頭浮腫)
検査・診断 | Tests & Diagnosis
臨床診断
以下の特徴的な臨床およびX線所見に基づいて診断されます:
- 低身長および四肢短縮
- 骨硬化症と骨の脆弱性
- 末端骨溶解
- 頭蓋縫合の閉鎖遅延
- 顔面および歯の異常
遺伝子検査
CTSK遺伝子の両アレルに病的変異を確認することで確定診断が可能です。
治療法と管理 | Treatment & Management
対症療法
- 成長ホルモン療法(成長ホルモン欠損例に適応)
- 骨折、側弯症、脚長差の整形外科的管理
- 睡眠時無呼吸(OSA)の評価と治療
- 歯科および矯正治療
- 眼科検診(年1回推奨)
予防的ケア
- 年1回の健康診断(側弯症、骨折、体重、心理的ケアの確認)
- 2年ごとのポリソムノグラフィー(OSA評価)
- C-sectionの検討(小骨盤の女性)
禁忌薬
- ビスホスホネート(骨吸収を阻害するため使用禁止)
予後 | Prognosis
通常、正常な寿命が期待されますが、骨折や呼吸器合併症が生活の質に影響を与える可能性があります。本疾患は常染色体劣性遺伝のため、両親がキャリアの場合、子供が罹患する確率は25%です。
引用文献|References
- Ho, N., Punturieri, A., Wilkin, D., Szabo, J., Johnson, M., Whaley, J., Davis, J., Clark, A., Weiss, S., & Francomano, C. (1999). Mutations of CTSK result in pycnodysostosis via a reduction in cathepsin K protein. Journal of bone and mineral research : the official journal of the American Society for Bone and Mineral Research, 14(10), 1649–1653. https://doi.org/10.1359/jbmr.1999.14.10.1649
- Haagerup, A., Hertz, J. M., Christensen, M. F., Binderup, H., & Kruse, T. A. (2000). Cathepsin K gene mutations and 1q21 haplotypes in at patients with pycnodysostosis in an outbred population. European journal of human genetics : EJHG, 8(6), 431–436. https://doi.org/10.1038/sj.ejhg.5200481
- Matsushita, M., Kitoh, H., Kaneko, H., Mishima, K., Itoh, Y., Hattori, T., & Ishiguro, N. (2012). Novel Compound Heterozygous Mutations in the Cathepsin K Gene in Japanese Female Siblings with Pyknodysostosis. Molecular syndromology, 2(6), 254–258. https://doi.org/10.1159/000336581
- Xue, Y., Wang, L., Xia, D., Li, Q., Gao, S., Dong, M., Cai, T., Shi, S., He, L., Hu, K., Mao, T., & Duan, X. (2015). Dental Abnormalities Caused by Novel Compound Heterozygous CTSK Mutations. Journal of dental research, 94(5), 674–681. https://doi.org/10.1177/0022034515573964
- LeBlanc S, Savarirayan R. Pycnodysostosis. 2020 Nov 5 [Updated 2023 Apr 6]. In: Adam MP, Feldman J, Mirzaa GM, et al., editors. GeneReviews® [Internet]. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-2025. Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK563694/