神経セロイドリポフスチン症(MFSD8関連)

MFSD8|Neuronal Ceroid Lipofuscinosis (MFSD8-related)

神経セロイドリポフスチン症7型(CLN7)は、MFSD8遺伝子の変異によって発症する進行性神経変性疾患です。乳幼児期後期に発症し、てんかん、運動機能の低下、視力障害が特徴。根本的な治療法はなく、対症療法が中心ですが、遺伝子治療などの研究が進められています。本記事では、CLN7の症状、診断、治療の現状について詳しく解説します。

遺伝子・疾患名

MFSD8|Neuronal Ceroid Lipofuscinosis (MFSD8-related)

CLN7; Neuronal ceroid lipofuscinosis 7; MFSD8-Related Neuronal Ceroid-Lipofuscinosis; Turkish Variant Late Infantile NCL

概要 | Overview

神経セロイドリポフスチン症(Neuronal Ceroid Lipofuscinosis, NCL)は、ライソソーム病(細胞内の不要な物質を分解するライソソームの機能異常によって発症する疾患)の一種で、常染色体劣性(両親からそれぞれ変異した遺伝子を受け継ぐことで発症する遺伝形式)の遺伝性疾患です。この疾患群は、進行性の神経変性(neurodegeneration)、てんかん発作(seizures)、運動機能の低下(motor decline)、視力障害(vision loss)を特徴とし、最終的には早期の死亡を引き起こします。

NCLの一種であるCLN7(神経セロイドリポフスチン症7型)は、MFSD8遺伝子の変異によって引き起こされます。この遺伝子は「主要ファシリテーター・スーパーファミリードメイン含有タンパク質8(Major Facilitator Superfamily Domain-Containing Protein 8)」をコードしており、細胞内の物質輸送に関与するライソソーム膜タンパク質です。CLN7は乳幼児期後期発症型NCL(late-infantile NCL)に分類され、かつては「トルコ型(Turkish variant)」として報告されていました。本疾患は、MFSD8遺伝子の変異によってライソソーム内に自家蛍光を発する蓄積物(autofluorescent storage material)が異常に蓄積し、主に神経細胞(ニューロン)を障害することで発症します。

疫学 | Epidemiology

NCLは、小児における最も一般的な進行性神経変性疾患の一つですが、その一方で個々のサブタイプは極めて稀な疾患です。CLN7は、トルコで初めて報告されたことから「トルコ型」と呼ばれましたが、その後、さまざまな民族集団においても確認されています。

CLN7の正確な有病率(prevalence)は不明ですが、乳幼児期後期発症型NCL全体の発生頻度は出生10万人あたり0.5~1例と推定されています。このため、CLN7もこの範囲に含まれると考えられますが、非常にまれな疾患であることに変わりはありません。

病因 | Etiology

CLN7は、MFSD8遺伝子の変異によって引き起こされます。この遺伝子はライソソーム膜に存在するトランスポーター(物質輸送を担うタンパク質)をコードしており、塩化物イオン(chloride ion)の輸送やライソソームの恒常性(homeostasis)維持に重要な役割を果たしています。

MFSD8の機能が損なわれると、ライソソームの正常な働きが阻害され、異常なリポ色素(lipopigments)がニューロンを中心とした細胞内に蓄積していきます。この異常な蓄積が、神経細胞の機能障害や細胞死を引き起こし、最終的に神経変性症状をもたらします。

この疾患は常染色体劣性遺伝であり、発症には両親からそれぞれ病的な遺伝子変異を受け継ぐ必要があります。

MFSD8遺伝子であれば当院のN-advance FM+プランN-advance GM+プランで検査が可能となっております。

症状 | Symptoms

CLN7は、通常2歳から7歳の間に発症し、以下のような症状が進行的に現れます。

  • てんかん発作(epileptic seizures):発症初期に見られる主な症状で、多くの場合、薬剤抵抗性(治療に対して効果が低い)となる。
  • 精神運動退行(psychomotor regression):認知機能や運動能力の進行性低下。
  • ミオクローヌス(myoclonus):不随意な筋収縮による小刻みなけいれん。
  • 運動失調(ataxia):歩行や手足の動きの調整が困難になる。
  • 視力障害(visual impairment):進行性の視力低下により、最終的に失明に至る。
  • 大脳・小脳の萎縮(progressive cerebral and cerebellar atrophy):MRI検査で脳の萎縮が確認される。

一般的に、発症から数年以内に歩行能力を失い、その後の生活の質は急速に低下します。多くの患者は思春期前後で死亡しますが、ごくまれに成人期まで生存する遅発型の症例も報告されています。

検査・診断 | Tests & Diagnosis

CLN7の診断は、臨床症状・神経画像検査・遺伝子検査の組み合わせによって確定されます。

  • 脳波検査(EEG: Electroencephalography):発作活動の有無や背景脳波の低下を確認。
  • 磁気共鳴画像検査(MRI: Magnetic Resonance Imaging):進行性の大脳および小脳萎縮を確認。
  • 電子顕微鏡検査(Electron Microscopy):細胞内に指紋状(fingerprint)曲線状(curvilinear)の異常蓄積物を同定。
  • 遺伝子検査(Genetic Testing):MFSD8遺伝子の変異を特定することで診断を確定。

治療法と管理 | Treatment & Management

現在のところ、CLN7に対する根本的な治療法(curative treatment)は存在しませんが、対症療法によって患者の生活の質を向上させることが可能です。

  • 抗てんかん薬(Antiepileptic Medications):発作を抑えるための薬剤だが、治療抵抗性を示すことが多い。
  • 理学療法・作業療法(Physical and Occupational Therapy):運動機能の低下を遅らせる。
  • 視覚支援(Visual Support):視力低下に対応する補助技術の活用。
  • 研究中の治療(Experimental Therapies):遺伝子治療(Gene Therapy)やライソソーム機能を回復させる治療法の研究が進められているが、現時点で有効な治療法は確立されていない。

予後 | Prognosis

CLN7は進行性かつ致死的な疾患であり、ほとんどの患者は思春期から青年期の間に生命を失います。ただし、一部の症例では発症が遅れ、成人期まで生存するケースも報告されています。

現在、CLN7を含むNCLの治療法を開発するための研究が進められており、特に遺伝子治療やライソソーム機能の回復を目指した治療法が注目されています。今後の進展によって、疾患の進行を遅らせる治療法が確立される可能性があります。

引用文献|References