MPV17関連ミトコンドリアDNA枯渇症候群(MPV17関連肝脳ミトコンドリアDNA枯渇症候群)は、ミトコンドリアDNAの維持に関与するMPV17遺伝子の変異により発症するまれな疾患です。本疾患は新生児期または乳児期に発症し、主に肝不全や神経症状を引き起こします。特に、乳酸アシドーシスや低血糖、進行性肝線維化が特徴的な症状として知られています。肝移植が治療選択肢となる場合もありますが、移植後の神経症状の進行リスクを慎重に評価する必要があります。本記事では、MPV17関連ミトコンドリアDNA枯渇症候群の原因、症状、診断、治療法、および予後について詳しく解説します。
遺伝子・疾患名
MPV17|Navajo Neurohepatopathy
MPV17-related Hepatocerebral Mitochondrial DNA Depletion Syndrome
概要 | Overview
MPV17関連ミトコンドリアDNA枯渇症候群(MPV17関連肝脳ミトコンドリアDNA枯渇症候群)は、ミトコンドリアDNA(mtDNA)の維持に関与するMPV17遺伝子の変異により発症するまれな常染色体劣性疾患である。本疾患は、新生児期または乳児期に発症し、主に肝臓および神経系に影響を及ぼす。重篤な肝不全を呈することが多く、進行性の神経障害を伴う場合もある。治療法は確立されておらず、対症療法が中心となるが、一部の患者では肝移植が有効とされている。なお、肝移植後の長期予後には個人差があり、神経症状の進行が見られる場合もある。
疫学 | Epidemiology
MPV17関連ミトコンドリアDNA枯渇症候群は極めてまれな疾患であり、発症率の正確なデータは限られている。しかし、小児期の急性肝不全の原因の約20%がミトコンドリア病に関連しているとされる報告がある。本疾患は主に乳児期に発症し、肝不全の進行により高い死亡率を示す。肝脳型の患者では、肝障害とともに神経症状が見られることが多いが、25%の患者は肝障害のみを呈するとされている。発症年齢や進行速度は患者ごとに異なり、成人期に発症する例も報告されている。
病因 | Etiology
MPV17遺伝子はミトコンドリア内膜に存在し、ミトコンドリアDNAの維持に関与している。MPV17の変異により、mtDNAの複製と維持が障害され、ミトコンドリアDNA枯渇症候群(MDS)が引き起こされる。MDSはミトコンドリアのエネルギー産生に影響を及ぼし、主に肝臓、神経、筋肉に影響を及ぼす。MPV17関連MDSの病態には、乳酸アシドーシス、低血糖、低ケトン性低血糖、進行性肝線維化、神経変性が含まれる。MPV17変異のうち、c.293C>T(p.P98I)変異を持つ患者は生存率が比較的高いとされる。
症状 | Symptoms
MPV17関連ミトコンドリアDNA枯渇症候群の臨床症状は多岐にわたり、主に肝臓および神経系に影響を及ぼす。
- 肝症状:胆汁うっ滞、肝腫大、肝線維化、進行性肝硬変、急性または慢性肝不全
- 神経症状(肝脳型の場合):筋緊張低下、ジストニア、感覚異常、末梢神経障害、運動異常、小頭症、けいれん
- 代謝異常:高乳酸血症、低血糖、低ケトン性低血糖、高アンモニア血症
- 消化器症状:成長障害、哺乳困難、嘔吐、嚥下障害
肝不全が進行する患者では、予後が不良であり、適切な管理が必要とされる。
検査・診断 | Tests & Diagnosis
MPV17関連ミトコンドリアDNA枯渇症候群の診断には、以下のような多面的なアプローチが求められる。
- 生化学検査:血清乳酸、ピルビン酸、アンモニア、アシルカルニチンプロファイル、血糖値の測定
- 肝機能検査:トランスアミナーゼ(AST, ALT)、胆汁うっ滞マーカー(ビリルビン、アルカリホスファターゼ)、アルブミン、凝固因子の評価
- 画像診断:腹部超音波、MRIによる肝線維化や萎縮の評価
- 遺伝子解析:次世代シーケンス(NGS)を用いたMPV17遺伝子の変異解析
- 組織学的検査:肝生検によるミトコンドリア異常の確認(電子顕微鏡での異常ミトコンドリアの観察)
MPV17遺伝子変異が確認された場合、本疾患と診断される。
治療法と管理 | Treatment & Management
MPV17関連ミトコンドリアDNA枯渇症候群には根治療法が存在しないため、治療は対症療法が中心となる。
- 栄養療法:中鎖脂肪酸(MCT)を含む食事、ビタミン・補酵素(コエンザイムQ10、カルニチン、リボフラビン)補充
- 低血糖管理:頻回の食事、経口デンプン摂取、経管栄養の導入
- 肝移植:肝機能が著しく低下した患者では、肝移植が適応となることがある。しかし、移植後に神経症状が進行する可能性があるため、慎重な適応判断が求められる。
- 感染予防:感染が肝機能の悪化を招くため、感染予防策を徹底する。
肝移植の予後は患者ごとに異なり、神経症状が進行しない場合は有望な治療選択肢となる。
予後 | Prognosis
MPV17関連ミトコンドリアDNA枯渇症候群の予後は一般に不良であり、特に肝不全を伴う場合には幼少期に死亡するリスクが高い。肝移植を受けた患者の1年生存率は69.5%、5年生存率は38.6%とされており、移植後に神経症状が進行する例も報告されている。
- 肝症状のみの患者:肝移植により長期生存が期待される(生存率83.3%)
- 肝脳型の患者:移植後に神経症状が進行する可能性がある(生存率44.4%)
現在、ミトコンドリア病に対する遺伝子治療やヌクレオチド補充療法が研究段階にあり、将来的な治療法として期待されている。
引用文献|References
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キーワード|Keywords
MPV17, ミトコンドリアDNA枯渇症候群, 肝脳ミトコンドリア病, 肝不全, 低血糖, 高乳酸血症, 胆汁うっ滞, 遺伝性疾患, ミトコンドリア病, 肝移植, ミトコンドリアDNA異常, 乳児肝不全