メチルマロン酸血症およびホモシスチン尿症(cblC型)は、MMACHC遺伝子の変異によるコバラミン代謝異常に起因する先天性疾患です。本記事では、cblC型の病因、症状、診断方法、治療法、そして予後について、最新の研究データを基に詳しく解説します。特に、早期発症型と後期発症型の違いや、ヒドロキソコバラミン療法の効果についても取り上げます。臨床医や研究者にとって有益な情報を提供するとともに、患者やその家族にも分かりやすく説明します。
遺伝子・疾患名
MMACHC|Methylmalonic Acidemia and Homocystinuria, cblC Type
Vitamin B12 Metabolic Defect with Combined Deficiency of Methylmalonyl-Coa Mutase and Homocysteine:methyltetrahydrofolate Methyltransferase; Cobalamin C Disease; Combined Defect in Adenosylcobalamin and Methylcobalamin Synthesis, Type Cblc
概要 | Overview
メチルマロン酸血症およびホモシスチン尿症、cblC型(Methylmalonic Acidemia and Homocystinuria, cblC Type)は、コバラミン(ビタミンB12)代謝の先天的異常により引き起こされる常染色体劣性遺伝疾患である。MMACHC遺伝子の変異によって発症し、アデノシルコバラミン(AdoCbl)およびメチルコバラミン(MeCbl)の合成障害が生じる。この結果、メチルマロニルCoAムターゼ(MUT)およびメチオニン合成酵素(MTR)の活性が低下し、メチルマロン酸(MMA)とホモシステイン(Hcy)の蓄積を引き起こす。
本疾患は乳児期、幼児期、成人期のいずれでも発症し得るが、乳児期発症例(早期発症型)が最も多く、発育不全、貧血、神経発達遅滞、知的障害、けいれんなどの多様な症状を呈する。後期発症型では、神経精神症状や血栓症などが見られることがある。
疫学 | Epidemiology
メチルマロン酸血症およびホモシスチン尿症、cblC型は、コバラミン代謝異常の中で最も一般的な型であり、その発症頻度は人種や地域によって異なる。一般的な発生率は、
- アメリカ合衆国ニューヨーク州においては1/100,000
- カリフォルニア州では1/60,000
- 世界的には1/37,000から1/200,000
MMACHC遺伝子の変異は50種類以上が報告されており、ヨーロッパ人集団ではc.271dupA変異が最も一般的であり、全アレルの約40〜55%を占めるとされる。
病因 | Etiology
本疾患は、MMACHC遺伝子(1p34.1)の変異により発症する。MMACHCは、ビタミンB12のシアノ基除去(脱シアノ化)およびアルキル基除去(脱アルキル化)を担う酵素であり、これらの過程が阻害されることで、コバラミンが活性型のAdoCblおよびMeCblに変換されず、MUTおよびMTRの活性が低下する。
その結果、メチルマロン酸が分解されずに蓄積し、同時にホモシステインの再メチル化が阻害されることで高ホモシステイン血症が生じる。
症状 | Symptoms
本疾患の症状は発症年齢により異なり、大きく「早期発症型」と「後期発症型」に分類される。
早期発症型(乳児期)
- 発育不全
- 哺乳困難
- 低緊張または筋緊張亢進
- けいれん
- 神経発達遅滞
- 巨赤芽球性貧血
- 視覚異常(網膜症、視神経萎縮)
- 肺高血圧症
- 腎機能障害(血栓性微小血管症、尿細管アシドーシス)
後期発症型(幼児期以降)
- 進行性認知機能低下
- 精神障害(幻覚、錯乱、抑うつ、精神病)
- 痙縮
- 脳白質病変(MRIでの白質異常)
- 脊髄変性(亜急性連合性脊髄変性症)
- 血栓症(静脈血栓塞栓症、脳梗塞)
検査・診断 | Tests & Diagnosis
生化学的検査
- 血中および尿中メチルマロン酸(MMA)の上昇
- 血漿ホモシステイン(Hcy)の上昇
- メチオニン低値
- ビタミンB12血中濃度は正常範囲
遺伝学的検査
- MMACHC遺伝子のシークエンシング解析による変異検出
- 代表的な変異には、c.271dupA(早期発症型で頻度が高い)、c.394C>T(後期発症型)などがある。
画像検査
- MRI:大脳白質異常、基底核の変性、脊髄病変
- 眼底検査:網膜色素変性、視神経萎縮
治療法と管理 | Treatment & Management
本疾患の治療の基本は、
- ヒドロキソコバラミン(OH-Cbl)補充療法
- 皮下または筋肉内投与
- 早期発症型では生後すぐに開始することで予後が改善
- ベタイン補充
- ホモシステインの再メチル化を促進し、血中ホモシステイン濃度を低下させる
- 葉酸およびレボカルニチン補充
- 葉酸はメチル基供与体として機能
- レボカルニチンは異常代謝物の排出を促進
- 食事療法
- 一般的にタンパク制限は推奨されないが、個別の栄養管理が必要
- 定期的なモニタリング
- 血中MMAおよびHcy濃度の評価
- 神経発達の定期検査
- 腎機能および心血管系のチェック
予後 | Prognosis
早期発症型の予後は一般に不良であり、適切な治療を受けない場合は乳幼児期に致死的な転帰をとることが多い。しかし、新生児スクリーニングや早期治療介入により、生命予後は大幅に改善されている。神経学的な予後は、発症時期や治療開始のタイミングに強く依存し、治療が遅れると認知障害や運動障害が不可逆的に進行する可能性がある。
後期発症型は比較的軽症であり、神経症状や精神症状の管理が適切に行われれば、生活の質を維持することが可能である。しかし、血栓症や腎機能障害などの合併症には注意が必要である。
本疾患は多臓器に影響を及ぼすため、神経科、小児科、遺伝科、腎臓内科、眼科など多領域の専門医による統合的な管理が推奨される。
引用文献|References
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キーワード|Keywords
メチルマロン酸血症, ホモシスチン尿症, cblC型, MMACHC, コバラミン代謝異常, メチルマロン酸, ホモシステイン, ヒドロキソコバラミン, メチオニン合成酵素, ビタミンB12欠乏症, 先天性代謝異常, 血栓性微小血管症