メチルマロン酸血症(MMAA関連)

メチルマロン酸血症(MMAA関連)メチルマロン酸血症(MMAA関連)

概要

生まれつき代謝 酵素 の異常があり、体内に有機酸(この病気の場合はメチルマロン酸)という毒性のある酸がたまり、体が特定のタンパク質や脂質を適切に処理できない遺伝性疾患です。

生まれてすぐに命に関わる激しい症状を示す患者様から軽度の症状のみの患者様まで様々ですが、どのくらい酵素の力が残っているのか(残存酵素活性といわれます)によって、症状や病気の程度が異なります。

疫学

新生児マス・スクリーニング検査(生まれて5日目前後で行うスクリーニング検査)の国内統計からは、約12万人に1名の割合と報告されています。
症状を示す患者様の割合は、有機酸血症のなかで一番多いとされています。
生まれて数日以内に発症する重症のお子さんや成長障害・繰り返す嘔吐などの症状で後から見つかる比較的緩やかな経過のお子さんもいます。
国内には約300名の患者様がいると推定されています。
現在、先天代謝異常症患者登録制度(JaSMln & MC-Bank)が作られて情報が集められています。

原因

メチルマロン酸血症(MMAA関連)は、MMAA遺伝子の突然変異によって引き起こされます。MMAAから生成されたタンパク質は、メチルマロニルCoAムターゼを適切に機能させるために必要ですが、MMAA遺伝子の変異が、メチルマロニルCoAムターゼの活性を損ない、メチルマロン酸血症を引き起こします。
メチルマロン酸は、4種類のアミノ酸(バリン、イソロイシン、スレオニン、メチオニン)の代謝、コレステロールの代謝、そして(奇数鎖)脂肪酸の代謝に関わっているメチルマロニルCoAムターゼという酵素の異常のために体内に蓄積します。
この酵素の異常は、酵素自体の働きが生まれつき弱い場合と酵素の働きを補助している(補酵素といわれています)コバラミン(ビタミンB12)の代謝異常が原因の場合の2つに大きく分類されています。
他の未確認の遺伝子の突然変異もメチルマロン酸血症を引き起こす可能性があります。

MMAA遺伝子であれば当院のN-advance FM+プランN-advance GM+プランで検査が可能となっております。

症状

罹患した乳児は、嘔吐、脱水症、筋緊張低下、発達遅延、過度の倦怠感、肝腫大、成長障害を引き起こします。
重症のお子さんでは、生まれて数日以内に哺乳ができなくなり、激しい嘔吐、体に力が入らず、呼吸も弱くなり、集中治療室へ入院します。
一旦回復された場合でも、風邪を引くたびに病状が増悪します。
軽症のお子様でも繰り返す嘔吐や発達の遅れなどが起こる場合があります。
患者会を中心としたアンケート調査では、低体温、嘔吐、経口摂取ができない、視力の低下、頑固な皮膚炎、痙攣など様々な症状が報告されています。これは、メチルマロン酸の毒が全身の臓器に悪影響を与えているためと考えられます。 長期的な合併症には、摂食障害、知的障害、慢性腎臓病、膵炎などがあります。治療を行わないと、昏睡や死に至る場合があります。

診断

新生児マススクリーニングの対象疾患となっており、①血液検査、②化学診断、③酵素診断、④遺伝子診断 によって診断されます。

治療

原因により異なります。原因の項目で述べましたが、コバラミン(ビタミンB12)はこの酵素を助ける役割をしているため、コバラミンが特効薬となるタイプが知られています。
しかし、ビタミンB12が効果を示さない場合は、現時点で原因となる酵素の異常を回復させる治療法はなく、対症療法が主となります。
重症の場合は、たんぱく質摂取を中止し、高カロリー(ブドウ糖)、酸を補正するためにアルカリ溶液の点滴を行います。
アンモニアという毒性物質が上昇する場合があり、この場合はアンモニアの解毒剤が投与されます。
また、カルニチンというメチルマロン酸と結合して排泄に用いられる薬剤を投与します。これでも改善が乏しい場合は、血液透析が行われます。
一旦回復された場合、栄養を十分投与するために夜間は経鼻チューブ(もしくは胃に直接穴をあけた胃瘻チューブ)という胃にいれた管から専用の栄養剤を数時間かけて点滴のように補給します。先に述べたカルニチンやビタミン剤も投与されます。
これ以外にも投与される薬(抗痙攣剤、抗生剤など)がありますが、もっと専門的な情報をお知りになりたい方は、HP(http://jsimd.net/pdf/guideline/07_jsimd-Guideline_draft.pdf)をご参照ください。

予後

新生児期に発症する重症例では、急性期死亡ないし重篤な障害を遺すことが少なくありません。遅発例であっても、急性発症時の症状が軽いとは限らず、治療が遅れれば障害発生の危険が高くなり、代謝不全の管理に関わらず腎機能の低下が進行して腎不全に至ることがあります。
新生児期に発症した患者様は、風邪症状のたびにメチルマロン酸が蓄積して発作を起こします。これを繰り返すことで、徐々に臓器が障害され、命にかかわる場合も珍しくありません。
発作の原因としては、発熱(風邪に伴う)、長時間栄養を与えないこと(忙しくて栄養の時間がずれることなど)が挙げられています。生体内で“異化”という状態が起こることがこの病気に非常によくないことが分かっていまして、風邪、栄養不足は、いずれもエネルギーが不足するために自分の体のたくわえを分解してエネルギーに変える(これを異化といいます)際に、大量のメチルマロン酸が発生することが知られています。このような状態をできる限り避けることが重要と考えられています。風邪の予防には、ご家族の手洗い、うがい、ご兄弟の予防接種など家族の健康管理も重要になります。また、家族会のアンケート調査からは、冬場の低体温、夏場の高体温、睡眠不足、激しい運動なども体調不良の原因として報告されており、各患者様に特徴的な注意すべき症状もあることが報告されています。
このようなお子様に対して、生体肝臓移植が行われています。生体肝臓移植の患者様は、風邪を引いても発作を起こしにくくなり、入院回数も少なくなることが報告されています。しかし、肝臓移植後もゆっくりと神経の障害と腎臓の障害が進むことが問題となっていて、新たな治療法の開発が研究者を中心に行われております。

【参考文献】