白質消失病

EIF2B5|Leukoencephalopathy with Vanishing White Matter

白質消失を伴う白質脳症(VWM)は、EIF2B5など特定の遺伝子異常が原因で発症する希少な遺伝性疾患です。通常は幼児期に症状が現れ、感染やストレスなどがきっかけで運動失調や認知機能の急激な悪化を引き起こすことがあります。病気の進行を遅らせるには、早期診断と生活環境の管理が重要です。VWMの特徴、原因、症状、治療法、予後について詳しく解説します。

遺伝子・疾患名

EIF2B5|Leukoencephalopathy with Vanishing White Matter

概要 | Overview

白質消失を伴う白質脳症(Leukoencephalopathy with Vanishing White Matter; 略称:VWM)は、子どもの運動失調と中枢性低換気としても知られている希少な遺伝性疾患です。この病気は常染色体劣性遺伝という遺伝形式をとり、両親がそれぞれ病気に関係する遺伝子の異常を一つずつ子どもに受け継がせた場合にのみ発症します。特徴としては、ゆっくりと進行する神経機能の悪化に加え、感染症や頭の怪我、強いストレスなどをきっかけとして急激に症状が進行することがあります。脳の中でも神経信号を伝える重要な役割を持つ「白質」と呼ばれる部分が徐々に損傷を受けるため、運動や認知機能が徐々に低下し、早期に死亡するリスクが高まります。この病気は、EIF2B5という遺伝子の変異が主な原因であり、この遺伝子はタンパク質合成の開始や細胞がストレスに対応するための仕組みを制御する「真核生物開始因子2B(eIF2B)」というタンパク質を作っています。この遺伝子の変異により、タンパク質の合成が障害され、細胞がストレスにうまく対応できなくなります。

疫学 | Epidemiology

VWMの発症頻度は年間で10万人あたり1.2~3.01人と報告されており、非常にまれな病気ですが、子どもに起こる遺伝性の白質脳症の中では比較的頻度が高い疾患です。発症する年齢は幅広く、出生前、乳幼児期(0~4歳未満)、小児期(4~18歳未満)、成人期とさまざまですが、多くは幼児期に症状が現れます。成人になってから発症するケースは特にまれで、世界全体での正確な発症頻度は不明です。地域によってはインドなど特定の集団で少数の報告がある程度です。

病因 | Etiology

VWMは常染色体劣性遺伝疾患であり、「EIF2B」と名のつく5種類の遺伝子(EIF2B1からEIF2B5)のいずれかに変異(遺伝子の異常)が起こることが原因です。これらの遺の遺伝子は、細胞内でタンパク質を作る過程を開始するために重要な役割を果たしている真核生物開始因子2B(eIF2B)という複合タンパク質を作っています。変異が起こると、eIF2Bの働きが弱まり、細胞が受けるストレスに対して慢性的に異常な反応を起こすようになります。その結果、ATF4やCHOPといったストレスに関連する転写因子(DNAから遺伝情報を読み取りタンパク質を作る指令を出す分子)が常に活性化され、特にEIF2B5遺伝子の変異は白質の維持や、アストロサイト(神経細胞を支える細胞)やオリゴデンドロサイト(神経を保護する細胞)の生存に重大な影響を与えます。

EIF2B5遺伝子であれば当院のN-advance FM+プランN-advance GM+プランで検査が可能となっております。

症状 | Symptoms

患者さんは初期には正常に成長しますが、発熱、頭部外傷、手術、強い感情的ストレスなどのきっかけにより急激に神経症状が進行することがあります。具体的には、小脳性運動失調(バランス感覚や運動の調整が難しくなること)、筋力低下、認知機能の低下、性格の変化、筋肉のつっぱり(痙縮)、けいれん、視神経の萎縮(視力の低下)などが見られ、時にてんかんを伴います。成人期以降に発症した患者さんでは特に認知機能や精神的な症状が目立つ一方、幼児期から発症した患者さんは主に運動能力の低下が中心です。また、女性患者では卵巣機能の異常が起こり、早期の卵巣不全を起こすことがあります。

検査・診断 | Tests & Diagnosis

VWMの診断には、患者の症状の特徴やMRI(磁気共鳴画像法)検査、遺伝子検査が重要です。MRI検査では、脳内の左右対称な白質の異常が特徴で、特に脳室の周辺にまばらな空洞や嚢胞(液体で満たされた空間)が確認されます。また、脳脊髄液(脳と脊髄を包む液体)の検査で、グリシンというアミノ酸の濃度が上昇したり、アシアロトランスフェリンという物質の濃度が低下したりすることも診断の手がかりになります。遺伝子検査ではEIF2B5を含むEIF2B遺伝子群に異常が確認されると、診断が確定します。

治療法と管理 | Treatment & Management

現在のところ、VWMを根本から治す治療法はありません。そのため、発熱や感染症、頭の怪我など、症状の急激な悪化を引き起こすきっかけを避けることが重要です。症状を抑えるために解熱剤や抗生物質、抗けいれん薬などを使ったり、ストレスになる出来事(感染、外傷、強い精神的ショック、予防接種など)を可能な限り回避したりすることが推奨されています。また、細胞ストレス反応を正常化する実験的な薬剤(グアナベンズなど)が動物実験で効果を示していますが、まだ人での臨床的な効果は証明されていません。

予後 | Prognosis

VWMの予後は一般的に厳しく、慢性的に徐々に神経症状が進行しながらも、ストレスによって急激に悪化することがあります。特に幼児期の発症では進行が速く、成人期に発症する場合と比べて死亡率が高くなります。発症年齢が低く、ストレス反応の異常が強いほど重症化しますが、症状を適切に管理し、急激な悪化を避けることで、患者さんの生活の質を高め、生存期間を延ばすことが可能になります。ただし、最終的に致命的な疾患であることに変わりはありません。