ホモシスチン尿症cblE型

MTRR|Homocystinuria-Megaloblastic Anemia, cblE Type


ホモシスチン尿症・巨赤芽球性貧血 cblE 型(HMAE)は、ビタミンB12(コバラミン)依存の代謝経路の異常により発症する希少な先天性代謝異常症です。本記事では、HMAEの原因遺伝子MTRR、発症メカニズム、診断方法、症状、治療法について詳しく解説し、早期診断の重要性を考察します。

遺伝子・疾患名

MTRR|Homocystinuria-Megaloblastic Anemia, cblE Type

HMAE; Homocystinuria-Megaloblastic anemia due to defect in cobalamin metabolism, cblE complementation type; Vitamin B12-responsive Homocystinuria, cblE

概要 | Overview

ホモシスチン尿症・巨赤芽球性貧血 cblE 型(HMAE)は、ホモシステインをメチオニンに変換するビタミンB12(コバラミン)依存性の経路に異常が生じることによって発症する、常染色体劣性の先天性代謝異常症です。この疾患は、精神運動発達の遅れ、巨赤芽球性貧血、ホモシスチン尿症、低メチオニン血症などを特徴とします。原因遺伝子である MTRR 遺伝子は、メチオニン合成酵素還元酵素(Methionine Synthase Reductase: MSR)をコードしており、この酵素はメチオニン合成酵素(Methionine Synthase: MTR)の活性化を担っています。この経路が障害されると、ホモシステイン代謝に異常が生じ、様々な臨床症状を引き起こします。

疫学 | Epidemiology

HMAE は非常に稀な代謝異常症であり、正確な有病率のデータは不明です。しかし、コバラミン代謝に関連する遺伝性疾患は、血縁婚が多い集団において比較的高頻度に見られることが知られています。近年の遺伝子スクリーニング技術の進歩により、これらの疾患の診断率が向上し、報告例が増加しています。

病因 | Etiology

HMAE は、5番染色体短腕(5p15.31)に位置する MTRR 遺伝子のホモ接合性または複合ヘテロ接合性の変異によって引き起こされます。MTRR 遺伝子は、メチオニン合成酵素還元酵素(MSR)をコードしており、この酵素はメチオニン合成酵素(MTR)の活性を維持する役割を果たします。MTR は、ホモシステインをメチオニンへ変換する際に、補因子としてメチルコバラミン(ビタミンB12の一種)を利用します。しかし、酵素の触媒サイクルの過程で、コバラミン補因子が酸化し、不活性化されることがあります。この不活性化された状態(コバ(II)アラミン)を還元して、再び活性化する役割を果たすのが MSR です。MTRR 遺伝子の異常により MSR の機能が低下すると、MTR の活性が維持できず、ホモシステインのリサイクルが阻害され、代謝異常を引き起こします。

MTRR遺伝子であれば当院のN-advance FM+プランN-advance GM+プランで検査が可能となっております。
原因
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症状 | Symptoms

HMAE の臨床症状は個々の患者によって異なりますが、主に以下のような症状がみられます。

  • 精神運動発達の遅れ
  • 巨赤芽球性貧血(赤血球の異常な増大)
  • 筋緊張低下(低緊張)
  • 高ホモシステイン血症
  • ホモシスチン尿症(尿中にホモシステインが排泄される)
  • 低メチオニン血症(血中メチオニン濃度の低下)
  • けいれん発作
  • 認知機能障害や発達遅滞

重症例では、神経機能の進行性の悪化や、メチル化障害による全身的な問題が生じることがあります。

検査・診断 | Tests & Diagnosis

HMAE の診断は、臨床症状、血液検査、遺伝子検査に基づいて行われます。主な診断方法は以下の通りです。

  • 血漿アミノ酸分析: 高ホモシステイン血症および低メチオニン血症を検出。
  • 血液一般検査(CBC): 巨赤芽球性貧血の有無を確認。
  • 代謝スクリーニング: メチルマロン酸尿症を伴わないホモシスチン尿症を検出。
  • 遺伝子検査: MTRR 遺伝子の変異を特定。
  • 線維芽細胞検査: メチルテトラヒドロ葉酸のメチオニンへの取り込み能を評価。

治療法と管理 | Treatment & Management

HMAE の治療は、代謝異常の是正と症状の進行抑制を目的とします。主な治療法には以下のものがあります。

  • コバラミン(ビタミンB12)補充療法: ヒドロキソコバラミンの注射によりメチル化能力を向上させる。
  • 葉酸/ホリナ酸補充: ホモシステインの再メチル化を支援。
  • ベタイン療法: ホモシステインのメチオニンへの代替的な再メチル化を促進。
  • 食事管理: 重症例では、メチオニン摂取の制限が推奨される場合がある。
  • 症状別治療: 発達遅滞に対する理学療法や言語療法の導入。

早期診断と適切な治療介入により、臨床経過の改善が期待できます。

予後 | Prognosis

HMAE の予後は、酵素活性の低下度合いや治療開始のタイミングにより異なります。早期に診断され、適切な治療を受けた患者では、代謝異常の安定化と発達の改善が見込めます。一方で、診断が遅れたり治療が不十分であった場合には、進行性の神経障害がみられ、生命予後に影響を及ぼす可能性があります。そのため、長期的なフォローアップを行い、治療効果をモニタリングしながら適切な管理を継続することが重要です。