糖原病Ⅰ型(Ib)

SLC37A4|Glycogen Storage Disease, Type 1B

グリコーゲン蓄積症1B型(GSD1B)は、SLC37A4遺伝子の変異によって発症する希少な代謝疾患です。肝臓や腎臓の異常、低血糖、好中球減少症、炎症性腸疾患(IBD)など、多様な症状を引き起こします。本記事では、GSD1Bの原因、症状、診断方法、最新の治療戦略について詳しく解説します。

遺伝子・疾患名

SLC37A4|Glycogen Storage Disease, Type 1B

GSD1B; Glucose-6-Phosphate Transport Defect; Glycogen Storage Disease Due to Glucose-6-Phosphatase Deficiency Type Ib; G6P Translocase Deficiency

概要 | Overview

グリコーゲン蓄積症1B型(Glycogen Storage Disease Type 1B, GSD1B)は、SLC37A4遺伝子の変異によって引き起こされる、非常にまれな常染色体劣性遺伝性の代謝疾患です。この遺伝子は、グルコース-6-リン酸トランスロカーゼ(glucose-6-phosphate translocase, G6PT)という酵素を作る働きを持っています。G6PTは、体内の糖代謝(グルコースの恒常性)を維持するうえで重要な役割を果たし、細胞内でグルコース-6-リン酸(glucose-6-phosphate, G6P)を小胞体(endoplasmic reticulum)内に運ぶ働きを担っています。このG6PTが機能しないと、グルコースの放出が正常に行われず、肝臓や腎臓、腸管にグリコーゲンや代謝副産物が過剰に蓄積し、深刻な代謝異常を引き起こします。

GSD1Bの主な症状には、肝臓の腫大(肝腫大)、空腹時の低血糖、乳酸アシドーシス(乳酸の蓄積による血液の酸性化)、高脂血症、高尿酸血症、そして好中球減少症(neutropenia)が含まれます。特に好中球減少症があるため、感染症にかかりやすくなるだけでなく、炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease, IBD)を発症するリスクも高くなります。このような症状は、患者の生活の質に大きく影響を及ぼします。

疫学 | Epidemiology

GSD1Bは非常にまれな疾患であり、新生児約50万人に1人の割合で発症すると推定されています。グリコーゲン蓄積症1型(GSD1)のうち約20%がGSD1Bに分類され、残りの約80%はG6PC遺伝子の変異によるGSD1A型です。この疾患は世界中で報告されていますが、特定の集団では発症頻度が比較的高いことが知られています。特に、中国、日本、韓国、イラン、セルビアの人々の間で比較的高い頻度で見られます。

日本では、SLC37A4遺伝子の病的変異の中でも特にc.352T>C(p.Trp118Arg)という変異が最も一般的であり、日本人患者の37~50%にこの変異が確認されています。また、SLC37A4遺伝子がこの疾患の原因遺伝子であることが判明して以来、100種類以上の病的変異が報告されています。

病因 | Etiology

GSD1Bは、第11染色体の11q23.3に位置する SLC37A4遺伝子の両アレルに病的変異が生じることで発症します。この遺伝子がコードするG6PTは、細胞質内のグルコース-6-リン酸を小胞体に運ぶために必要な膜タンパク質です。小胞体内に運ばれたG6Pは、グルコース-6-ホスファターゼ(glucose-6-phosphatase, G6Pase)という酵素によって加水分解され、最終的に血液中に放出される形になります。しかし、G6PTの機能が欠如すると、グルコースの供給が滞り、過剰なグリコーゲンが蓄積します。

さらに、G6PTは白血球の一種である好中球のエネルギー代謝にも関与しており、その欠乏は好中球の機能障害を引き起こします。その結果、免疫系が正常に機能せず、感染症のリスクが高まり、慢性的な炎症を引き起こす原因にもなります。

SLC37A4遺伝子であれば当院のN-advance FM+プランN-advance GM+プランで検査が可能となっております。

症状 | Symptoms

GSD1Bの症状は、生後数か月以内に現れることが多く、以下のような特徴があります。

代謝異常:空腹時の低血糖が重症化しやすく、乳酸アシドーシス、高脂血症、高尿酸血症が見られます。
肝臓・腎臓の異常:肝臓や腎臓が肥大し(肝腫大・腎腫大)、機能が低下することがあります。
成長障害:発育の遅れや低身長がみられます。
好中球減少症と感染症:慢性的な好中球減少により、頻繁に細菌感染症を発症しやすくなります。特に、上気道感染症や皮膚感染症が多くみられます。
消化器系の問題:炎症性腸疾患(IBD)を発症することが多く、慢性的な下痢や腹痛、腸管の狭窄を伴うことがあります。
口腔の健康問題:歯肉炎、歯周病、口内炎が頻繁に発生しやすくなります。

検査・診断 | Tests & Diagnosis

GSD1Bの診断には、臨床症状、血液検査、遺伝子検査などが用いられます。

血液検査では、低血糖、乳酸の上昇、高脂血症、高尿酸血症、および好中球減少が確認されます。次世代シーケンス(NGS)やサンガー法を用いた遺伝子解析により、SLC37A4遺伝子の病的変異を特定することで確定診断が可能です。また、肝生検を行うと、肝細胞内のグリコーゲンの過剰蓄積が確認されることがあります。消化管の問題が疑われる場合には、内視鏡検査(大腸内視鏡など)が行われることもあります。

治療法と管理 | Treatment & Management

GSD1Bの治療は、主に代謝の安定化と合併症の予防を目的とします。

頻回の食事摂取やトウモロコシデンプンの補給によって、低血糖を防ぎます。また、高脂血症や高尿酸血症を管理するために食事制限が行われます。好中球減少症に対しては、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を投与することで好中球の数を増やし、感染症のリスクを軽減します。最近では、SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンが、好中球減少症やIBDの改善に有効である可能性が示唆されています。

予後 | Prognosis

適切な治療と管理を行えば、GSD1Bの患者は成人まで生存することが可能です。しかし、慢性的な肝障害や腎機能低下、IBDなどの合併症が長期的に生活の質に影響を与える可能性があります。遺伝子治療や新たな薬剤開発が進むことで、将来的にはより良い治療法が確立されることが期待されています。