家族性自律神経失調症

家族性自律神経失調症家族性自律神経失調症

概要

家族性自律神経失調症(Familial Dysautonomia)は、特定の神経細胞の発達と生存に影響を与える遺伝性の疾患です。

この障害は自律神経系の細胞を乱し、消化、呼吸、涙の生成、血圧と体温の調節などの不随意の行動の制御に影響を及ぼします。また、味覚や痛み、熱、寒さの知覚などの感覚に関連する活動を制御する感覚神経系にも影響を及ぼします。

疫学

主にアシュケナージ系(中央または東ヨーロッパ)ユダヤ人の子孫に発生し、有病率は約3,700人に1人です。

原因

この疾患のほぼすべての症例で、第9番染色体のIKBKAP遺伝子の変異が原因となっています。この変異が存在した場合、IKBKAP遺伝子が産生を指示するタンパク質(ELP1、またはIKAP)の発現が低下し、自律神経・感覚神経の発達異常や変性、衰退により、非随意運動や知覚に様々な異常を来します。

IKBKAP遺伝子であれば当院のN-advance FM+プランN-advance GM+プランで検査が可能となっております。

症状

この疾患の症状は、乳児期に最初に現れます。初期には、筋緊張低下、摂食困難、成長不良、涙の欠如、頻繁な肺感染症、体温維持の困難などがあります。幼児期になると、長時間息を止め、チアノーゼや失神を引き起こす症状が現れますが、この行動は通常6歳までには止まります。歩行や発話などの発達は遅れることが多いですが、中には発達の遅れの兆候を示さない人もいます。

学齢期の子供における症状には、嘔吐、温度変化と痛みに対する感受性の低下、バランスの悪さ、脊柱側弯症、骨の質の低下と骨折のリスクの増加、腎臓と心臓の問題などがあります。また、血圧の調節が不十分で、起立性低血圧を起こし、めまい、かすみ目、または失神を引き起こすことがあります。

成人期までには、歩行が困難になり、感染を繰り返すことでの肺の損傷、腎臓機能の障害、および目から脳に情報を運ぶ視神経の萎縮による視力の悪化が起こります。

診断

家族性自律神経失調症の4つの主要な臨床診断基準は①舌に糸状乳頭がないこと、②皮内ヒスタミン注射後の発赤がないこと、③深部腱反射が減少または欠如していること、④感情的な涙が溢れていること です。

治療

現在も有効な治療法は確立されていませんが、2021年07月、京都大学の研究グループが、「RECTAS」と呼ばれる低分子化合物に、この疾患で見られるスプライシング異常を是正する機構を発見し、iPS細胞やマウス等の疾患モデルの解析から、その治療効果を示しました。家族性自律神経失調症と同様なスプライシング異常が原因となる遺伝病は数多くあり、今後はそれらの疾患への応用も期待されます。

予後

平均死亡年齢は30歳ですが、70歳まで生きることができます。中枢神経系変性の状況で慢性、進行性、全身性自律神経不全の患者は、一般的に長期予後が不良です。