エーラス・ダンロス症候群

ADAMTS2|Ehlers-Danlos Syndrome, Type VIIC

エーラス・ダンロス症候群(Ehlers-Danlos Syndrome, EDS)は、結合組織の異常を引き起こす遺伝性疾患の一群です。その中でもEDS Type VIIC(デルマトスパラクシス型EDS)は、ADAMTS2遺伝子の変異により皮膚の極端な脆弱性と過伸展性を特徴とする稀な疾患です。本記事では、EDS Type VIICの原因、症状、診断方法、治療法について詳しく解説します。

遺伝子・疾患名

ADAMTS2|Ehlers-Danlos Syndrome, Type VIIC

概要 | Overview

エーラス・ダンロス症候群(Ehlers-Danlos Syndrome, EDS)は、結合組織の異常を特徴とする遺伝性疾患の総称であり、皮膚の過伸展性、関節の過可動性、組織の脆弱性を主な臨床所見とする。EDSは13のサブタイプに分類され、それぞれが異なる遺伝的背景を持つ。中でも**EDS Type VIIC(デルマトスパラクシス型EDS, dEDS)**は、極端な皮膚の脆弱性と過伸展性を特徴とし、ADAMTS2遺伝子の変異によって引き起こされる。ADAMTS2はプロコラーゲンNプロテアーゼをコードする遺伝子であり、この酵素はI型、II型、III型コラーゲンのプロペプチドを切断し、成熟コラーゲン線維の形成を助ける役割を持つ。本疾患では、このプロセスが障害され、コラーゲン線維の形成が不完全となる。

疫学 | Epidemiology

EDS Type VIICは非常に稀な疾患であり、これまでに報告された症例は世界的にわずかである。これまでの研究によると、家畜や犬などの動物でも同様の疾患が報告されており、ヒトと共通する病態を示すことが知られている。本疾患の有病率は正確には不明であるが、EDS全体の中でも特にまれなサブタイプである。

病因 | Etiology

EDS Type VIICは、ADAMTS2遺伝子の両アレルに変異が存在することにより発症する常染色体劣性遺伝疾患である。この遺伝子がコードするプロコラーゲンNプロテアーゼは、I型、II型、III型コラーゲンのN末端プロペプチドを除去することで成熟コラーゲン線維を形成する役割を担う。変異によりこの酵素の機能が失われると、未成熟コラーゲンが蓄積し、皮膚や結合組織の異常を引き起こす。

ADAMTS2遺伝子であれば当院のN-advance FM+プランN-advance GM+プランで検査が可能となっております。

症状 | Symptoms

EDS Type VIICの主な臨床症状には以下が含まれる:

  • 極端な皮膚の脆弱性と過伸展性:わずかな摩擦や軽い外傷でも皮膚が裂けやすく、治癒後に瘢痕を形成しないことが多い。
  • 皮膚の過剰な弛緩(皮膚のたるみ):特に顔面や四肢に顕著。
  • 特有の顔貌:大きな眼窩、眼瞼の腫れ(puffy eyelids)、小顎症(micrognathia)、青色強膜(blue sclera)。
  • 関節の過可動性:関節が通常よりも柔らかく可動域が広い。
  • 成長障害:低身長や手足の成長遅延が見られる。
  • 臍ヘルニア・鼠径ヘルニア:腹部の筋膜の脆弱性によるもの。

検査・診断 | Tests & Diagnosis

EDS Type VIICの診断は、臨床所見に加え、以下の方法で確定される:

  1. 皮膚生検(電子顕微鏡検査)
    • 皮膚のコラーゲン線維の異常を確認する。
    • 特徴的な「象形文字状のコラーゲン線維(hieroglyphic-like collagen fibrils)」が見られる。
  2. 遺伝子検査
    • ADAMTS2遺伝子の両アレルに病的変異が存在することを確認する。

治療法と管理 | Treatment & Management

EDS Type VIICに特異的な治療法は確立されていないが、対症療法と生活管理が重要となる。

  • 皮膚管理
    • 創傷ケアを徹底し、傷が裂けないように保護。
    • 手術時には縫合の代わりに医療用接着剤を使用することを考慮。
  • 関節管理
    • 過度の関節可動による損傷を防ぐため、適切な運動や装具を使用。
  • 理学療法・作業療法
    • 筋力を維持し、関節の安定性を高める。
  • 合併症予防
    • 鼠径ヘルニアや臍ヘルニアに対する適切な外科的対応。
    • 骨折リスクが高いため、転倒予防策を講じる。

予後 | Prognosis

EDS Type VIICの予後は、個々の症例によって大きく異なるが、皮膚の脆弱性や関節の問題により生活の質が低下することがある。適切な管理により、多くの患者が日常生活を送ることは可能であるが、重症例では皮膚の裂傷や関節脱臼が頻発し、生活の制約が増える可能性がある。また、新生児期に重度の皮膚脆弱性や出生直後の合併症がある場合は、生命予後が厳しくなることもある。

引用文献|References

キーワード|Keywords

Ehlers-Danlos Syndrome, EDS, EDS Type VIIC, デルマトスパラクシス型EDS, ADAMTS2, 遺伝子変異, 皮膚脆弱性, 結合組織疾患, 遺伝性疾患, 皮膚過伸展性, 皮膚裂傷, プロコラーゲンNプロテアーゼ