デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne Muscular Dystrophy, DMD)は、X染色体劣性遺伝を示す進行性の筋疾患であり、主に男児に発症します。DMD遺伝子の変異により、筋細胞膜の安定性を維持するジストロフィンが欠損し、筋力低下や運動機能の喪失が進行します。本記事では、DMDの原因、症状、診断方法、最新の治療法について詳しく解説し、患者や保護者が知っておくべきポイントを分かりやすくまとめます。
遺伝子・疾患名
DMD|Duchenne Muscular Dystrophy, X-linked
概要 | Overview
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne Muscular Dystrophy, DMD)は、X染色体劣性遺伝を示す遺伝性筋疾患であり、主に男性に発症する。DMDは、ジストロフィン遺伝子(DMD遺伝子)の変異によって引き起こされる。ジストロフィンは筋細胞膜の安定性を維持する重要なタンパク質であり、その欠損により筋線維の壊死と再生が繰り返される結果、筋力低下が進行する。
DMDは幼児期に発症し、3〜5歳頃に歩行困難や転倒しやすさが目立つようになる。進行性の筋萎縮と筋力低下を特徴とし、多くの患者は12歳頃までに歩行能力を喪失する。さらに、進行性の心筋症や呼吸機能低下を合併し、治療を行わなければ20〜30歳代で生命を脅かす合併症に至ることが多い。
疫学 | Epidemiology
DMDは最も一般的な遺伝性筋疾患の一つであり、出生男児3,500〜5,000人に1人の割合で発症する。女性は通常無症候性の遺伝子保因者であるが、約8〜20%の女性保因者には軽度の筋力低下や心筋症の症状が認められる。
ジストロフィン遺伝子はヒトゲノムの中で最大級の遺伝子であり、約2.5Mbの領域に79個のエクソンを持つ。この遺伝子の変異は、70〜80%がエクソンの欠失や重複によるものであり、残りの20〜30%は点突然変異によるものである。
病因 | Etiology
DMDは、ジストロフィン遺伝子の変異によりジストロフィンタンパク質の完全欠損または機能不全が生じることで発症する。ジストロフィンは細胞骨格と細胞膜を結びつける役割を果たし、筋細胞の構造的安定性を維持する。ジストロフィンが欠損すると、筋収縮時に細胞膜が損傷を受けやすくなり、筋細胞の壊死と炎症が繰り返されることで、最終的に筋組織が線維化および脂肪組織へと置換される。
X染色体劣性遺伝であるため、通常、男性が発症し、女性は保因者となる。しかし、X染色体の異常(X;常染色体転座や不均衡なX染色体不活性化など)が関与する場合、女性も症状を呈することがある。
症状 | Symptoms
DMDの主な症状は以下の通りである。
- 運動機能の低下:3〜5歳頃に筋力低下が顕著になり、歩行困難や転倒の増加がみられる。
- 特徴的な歩行パターン:動揺歩行(トレンデレンブルグ歩行)、つま先歩行、Gower徴候(床から立ち上がる際に手を使って太ももを押し上げる動作)がみられる。
- 筋萎縮と仮性肥大:特に腓腹筋が偽性肥大を呈し、上肢および下肢の筋萎縮が進行する。
- 関節拘縮および脊柱側弯症:歩行不能になる前後から拘縮が進行し、脊柱変形も見られる。
- 呼吸器障害:進行性の呼吸筋麻痺により呼吸不全が生じる。
- 心筋症:拡張型心筋症が多くの患者で発症し、不整脈や心不全の原因となる。
- 神経発達障害:知的障害や注意欠陥多動性障害(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)を合併することがある。
検査・診断 | Tests & Diagnosis
DMDの診断は以下の検査に基づいて行われる。
- 血清クレアチンキナーゼ(CK)測定:極めて高値(正常上限の10〜20倍)を示す。
- 遺伝子検査:MLPAや次世代シークエンシング(NGS)を用いてDMD遺伝子の変異を同定。
- 筋生検:ジストロフィン免疫染色によりジストロフィンの完全欠損を確認。
- 筋電図(EMG):ミオパチー型変化を示す。
- 心エコー・心電図(ECG):心筋症の評価。
- 呼吸機能検査:肺活量の低下をモニタリング。
治療法と管理 | Treatment & Management
DMDの根治療法は存在しないが、以下の治療が進行を遅らせ、生活の質を向上させる。
- ステロイド療法:プレドニゾロンやデフラザコルトが筋力低下の進行を遅らせる。
- 心血管管理:ACE阻害薬やβ遮断薬を使用。
- 呼吸管理:非侵襲的人工呼吸管理(NIPPV)や夜間換気補助を行う。
- 理学療法・作業療法:関節拘縮予防のためのストレッチや運動。
- 栄養管理:肥満および低栄養のリスク管理。
- 遺伝子治療:エクソンスキッピング療法(エテプリルセンなど)が一部のDMD患者に承認されている。
予後 | Prognosis
DMDの予後は治療の進歩により改善してきたが、多くの患者は20〜40歳で心不全や呼吸不全により死亡する。早期の診断と包括的な管理により、生活の質を向上させることが可能である。
引用文献|References
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キーワード|Keywords
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