先天性無痛症

先天性無痛症先天性無痛症

概要

先天性無痛無汗症は、全身の無痛を主症状とする疾患で、運動麻痺を伴いません。温痛覚障害に自律神経障害を合併する遺伝性疾患群を、遺伝性感覚自律神経ニューロパチーと呼ぶが、このうち4型と5型が先天性無痛無汗症に相当します(4型と5型は明確な区別が困難で臨床症状がオーバーラップすることも多いため、両者を含める)。4型は全身の温痛覚消失に、全身の発汗低下又は消失、様々な程度の精神発達遅滞を示す疾患であり、5型は全身の温痛覚消失を示すが発汗低下や精神発達遅滞を伴わない疾患です。しかし、4型と診断されても精神発達遅滞がごく軽度の患者、5型と診断されても軽度の発汗低下を示す患者もおり、近年これらはオーバーラップする疾患と考えられています。

疫学

4型はイスラエルと日本からの報告が多いという特徴があります。日本における患者さんの正確な数は不明ですが、研究班の調査から、日本における患者数を130~210名と推計しています。5型の患者さんはより少なく、日本における患者数は30~60名と推計しています。4型、5型とも、男女の患者数に明らかな差はありません。

原因

遺伝性疾患であり、常染色体劣性を示します。4型はNTRK1(Neuropathic Tyrosine Kinase Receptor Type 1)の遺伝子変異が証明されているが、この変異が症状に結びつく詳細なメカニズムは判明していません。5型はNGFB(Nerve Growth Factor Beta)の遺伝子変異があり、軽症の症状を示すヘテロ結合の患者も報告されています。いずれも末梢神経の小径有髄線維(Aδ線維)および無髄線維(C線維)の減少が報告されているが、中枢神経系の症状の機序は不明である。前述のごとく、近年4型と5型はオーバーラップする疾患と考えられており、4型と考えられる患者でNGFBの遺伝子変異が証明されることがあります。また5型とほぼ同一の表現型を示し、SCN9A(Sodium Channel, Voltage-gated, Alfa Subunit)の遺伝子変異を示す患者も報告されています。

MPI遺伝子であれば当院のN-advance FM+プランN-advance GM+プランで検査が可能となっております。

症状

全身の温痛覚が消失することにより、様々な症状を引き起こします。温痛覚による防御反応が欠如するため、皮膚、軟部組織、骨関節に様々な外傷を受けやすく、また受傷に気付かずに重症化することもあります。皮膚、軟部組織の外傷には、口腔粘膜や舌の損傷(咀嚼力の低下、齲歯、味覚障害等につながる。)、眼の角膜損傷(角膜潰瘍点状表層角膜症などから視力低下につながります。)、全身の熱傷や凍傷を含みます。骨関節では、下肢を中心に骨折、脱臼、骨壊死、関節破壊(Charcot関節)などが多発し、下肢機能が廃絶し、移動機能が著しく低下します。特に4型で発汗低下がある場合は、体温コントロールがつかずに脳症を引き起こし、時に小児期に死に至ります。発汗低下は、皮膚の潰瘍形成にもつながります。また、精神発達遅滞には適応障害、広汎性発達障害を合併することもあり、痛覚低下と相まって自傷行為が問題になることもあります。また自分のみならず相手の痛みへの共感も欠如するために、社会性に問題を生じます。自律神経系の症状として、睡眠障害や周期性嘔吐症を示す患者もいます。また機序は不明であるが、易感染性が存在すると考えられ、化膿性骨髄炎や関節炎、外科手術に伴う感染、蜂窩織炎などの合併が多いです。

診断

診断基準自体を重症度分類等とし、診断基準を満たすものを全て対象とします。
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

治療

この病気を完全に治す治療法は現在ありません。

【参考文献】

難病情報センター – 先天性無痛症