概要
骨髄における顆粒球系細胞の成熟障害により発症する好中球減少症です。中耳炎、気道感染症、蜂窩織炎、皮膚感染症を反復し、時に敗血症も発症します。診断は骨髄検査における顆粒球系細胞の成熟障害であるが、確定診断、病型分類には遺伝子変異の同定が必要となります。ST合剤の予防投与やG-CSFの投与は感染頻度の減少と患者のQOLを著しく改善します。
疫学
百万人に2人。性差はないです。
原因
重症先天性好中球減少症(SCN)の遺伝子変異としては以下の通りです。
・ SCN1:ELANE変異による常染色体優性遺伝病。重症好中球減少症において100種以上の好中球エラスターゼ(ELANE)遺伝子変異が報告され、本疾患の約7割を占めます。前骨髄球、骨髄球の成熟障害、過剰なアポトーシスが原因です。
・ SCN2:GFI1変異による常染色体優性遺伝病です。ELANEの転写制御因子であるGFI1の変異によりSCN1同様の好中球減少をきたします。
・ SCN3(Kostmann病):HAX1変異による常染色体劣性遺伝病です。ミトコンドリア内膜電位維持に必要なHAX1変異によるアポトーシスの誘導。
・ SCN4(G6PC3欠損症):G6PC3変異による常染色体劣性遺伝病です。グルコース6リン酸化酵素活性の欠損により好中球におけるアポトーシス感受性が増加します。心疾患、泌尿生殖器異常、内耳性難聴および体幹、四肢の血管拡張を合併します。
・ SCN5:VPS45のホモ接合体異常が原因です。VPS45変異によるエンドソーム系の細胞内蛋白輸送障害。骨髄系細胞の分化、移動が障害されます。
症状
生後早期からの著明な好中球減少によるブドウ球菌、レンサ球菌による中耳炎、気道感染症、蜂窩織炎、皮膚感染症などを反復します。肺炎、敗血症といった重症感染症も認めます。また、およそ2歳までに口腔内潰瘍と有痛性の歯肉炎や口内炎をきたします。びまん性の消化管病変によるクローン病に似た腹痛や下痢も認めます。
診断
骨髄検査における顆粒球系細胞の成熟障害であるが、確定診断、病型分類には遺伝子変異の同定が必要となります。 ST合剤の予防投与やG-CSFの投与は感染頻度の減少と患者のQOLを著しく改善します。
治療
90%以上の症例でG-CSF投与により好中球増加が認められるが,高用量(5〜120 mg/kg)を要します。G-CSFの長期使用により約13%の症例でMDS/AMLを合併します。MDS/AML合併例は造血幹細胞移植が必要です。近年はMDS/AML移行前に骨髄非破壊的前処置による造血幹細胞移植が根治療法として施行されています。
【参考文献】
難病情報センター – 先天性好中球減少症