先天性グリコシル化異常症

MPI|Congenital Disorder of Glycosylation, Type 1B

MPI-CDG(マンノースリン酸イソメラーゼ欠損症)は、まれな先天性糖鎖異常症の一種で、消化器症状や低血糖、凝固異常を特徴とします。他のCDGとは異なり、中枢神経系の関与は少なく、経口マンノース補充療法が有効な治療法として確立されています。本記事では、MPI-CDGの原因、症状、診断方法、治療戦略、そして最新の研究動向について詳しく解説します。

遺伝子・疾患名

MPI|Congenital Disorder of Glycosylation, Type 1B

Protein-Losing Enteropathy-Hepatic Fibrosis Syndrome; Mannosephosphate Isomerase Deficiency; Saguenay-Lac Saint-Jean Syndrome; Carbohydrate-Deficient Glycoprotein Syndrome Type Ib; Phosphomannose Isomerase Deficiency; Cdg Gastrointestinal Type

概要 | Overview

マンノースリン酸イソメラーゼ欠損症(MPI-CDG、旧CDG-IB)は、糖鎖修飾の異常を伴うまれな遺伝性疾患であり、マンノース-6-リン酸イソメラーゼ(MPI)をコードするMPI遺伝子(15q24.1)の病的変異によって引き起こされる常染色体劣性遺伝疾患である。この疾患は、他の先天性糖鎖異常症(Congenital Disorders of Glycosylation: CDG)と異なり、中枢神経系の関与が少ない点が特徴である。

主な臨床症状には慢性的な下痢、成長障害、蛋白漏出性腸症、凝固異常、低血糖、肝線維症などが含まれ、重症例では生命を脅かす消化管出血や門脈高血圧を呈することがある。MPI-CDGの診断には、血清トランスフェリンのアイソエレクトリックフォーカシング(IEF)異常遺伝子解析が有効である。

特筆すべき点として、MPI-CDGは経口マンノース補充療法が有効な数少ないCDGの一つであり、早期診断と適切な治療が予後を大きく改善する。

疫学 | Epidemiology

MPI-CDGは極めてまれな疾患であり、世界的な有病率は100万人に1人未満と推定されている。現在までに報告されている患者数は非常に限られており、多くの症例が未診断のまま存在している可能性がある。

症状の発症は新生児期から乳児期(生後2〜12か月)にかけて認められることが多い。乳児期に明確な症状を呈するが、疾患の臨床経過には個人差があり、同一家系内でも症状の重症度が異なることがある。

病因 | Etiology

MPI-CDGは、MPI遺伝子の両アレルに病的変異を有することによって発症する。この遺伝子は、細胞質内でフルクトース-6-リン酸(F6P)をマンノース-6-リン酸(M6P)へ変換する酵素をコードしている。この変換経路は、N-結合型糖鎖の合成に必須であり、MPIの機能が欠損すると、N-糖鎖の適切な形成が妨げられる。

MPI-CDGの発症メカニズムには以下の要因が関与している:

  1. N-糖鎖合成の異常
    • MPIの機能欠損により、マンノース-6-リン酸(M6P)の供給が低下し、N-糖鎖の不完全な合成を引き起こす。
  2. 肝および消化管での影響
    • 糖タンパク質の異常により、腸管粘膜の透過性が増し、蛋白漏出性腸症(PLE)が生じる。
    • 肝細胞における糖鎖修飾の異常が肝線維症門脈高血圧の原因となる。
  3. 凝固異常と代謝障害
    • 凝固因子(プロテインC、S、アンチトロンビンIII)の低下により、血栓症のリスクが増大する。
    • 低血糖や高インスリン血症を伴うことがあるが、正確なメカニズムは未解明。
MPI遺伝子であれば当院のN-advance FM+プランN-advance GM+プランで検査が可能となっております。

症状 | Symptoms

MPI-CDGの主な臨床症状は以下の通り:

  1. 消化器症状
    • 慢性の下痢、蛋白漏出性腸症(PLE)
    • 難治性の消化管出血(生命を脅かすこともある)
    • 肝線維症、門脈高血圧
  2. 代謝異常
    • 低血糖発作
    • 成長障害、体重増加不良(Failure to thrive)
  3. 凝固異常
    • プロテインC、プロテインS、アンチトロンビンIIIの欠乏
    • 血栓症リスクの増大
  4. 神経症状の欠如
    • 他のCDGとは異なり、中枢神経系の関与がない(認知発達は通常正常)

検査・診断 | Tests & Diagnosis

MPI-CDGの診断には以下の検査が有効である:

  1. 血清トランスフェリン異常の検出
    • アイソエレクトリックフォーカシング(IEF)による異常な糖鎖修飾パターン
  2. 遺伝子検査
    • MPI遺伝子の病的変異の同定(両アレルの変異確認)
  3. 血液検査
    • 低血糖、凝固異常(プロテインC、S、アンチトロンビンIIIの低下)
    • 低アルブミン血症(蛋白漏出性腸症の指標)
  4. 肝機能検査と画像診断
    • 肝線維症や門脈高血圧の評価(超音波・CT・MRI)

治療法と管理 | Treatment & Management

MPI-CDGは、経口マンノース補充療法が有効な数少ないCDGの一つである。

  1. マンノース補充療法
    • 150 mg/kg/回、1日4回経口投与(腸管での吸収が良好)
    • 低血糖、蛋白漏出性腸症、凝固異常の改善が期待できる
  2. 栄養管理
    • 高カロリー・高蛋白食、静脈栄養(重症例)
    • 肝機能障害に対する補助療法
  3. 肝移植(一部の重症例)
    • 進行性肝線維症や門脈高血圧による合併症がある場合、肝移植が検討される
  4. 定期的な血液検査とフォローアップ
    • 血糖、肝機能、凝固能のモニタリング

予後 | Prognosis

MPI-CDGの予後は早期診断と治療の有無に大きく依存する

  • マンノース補充療法を適切に行えば、生命予後は良好
  • ただし、肝線維症の進行は完全には防げない場合があるため、長期的なフォローアップが必要
  • 早期診断が遅れると、重篤な肝障害や消化管出血、凝固異常による致死的な合併症を引き起こす

引用文献|References

キーワード|Keywords

MPI-CDG, マンノースリン酸イソメラーゼ欠損症, 先天性糖鎖異常症, MPI遺伝子, 低血糖, 蛋白漏出性腸症, 凝固異常, 肝線維症, 経口マンノース補充療法, 門脈高血圧, 血清トランスフェリン, 遺伝子診断, 希少疾患