先天性筋無力症候群

CHRNE|Congenital Myasthenic Syndrome (CHRNE-related)

先天性筋無力症候群(Congenital Myasthenic Syndrome, CMS)は、神経筋接合部の異常によって生じる遺伝性疾患です。特にCHRNE遺伝子の変異が原因となるケースが多く、眼瞼下垂、筋力低下、嚥下困難などの症状が見られます。本記事では、CHRNE関連CMSの原因、症状、診断、治療法について詳しく解説します。

遺伝子・疾患名

CHRNE|Congenital Myasthenic Syndrome (CHRNE-related)

概要 | Overview

先天性筋無力症候群(Congenital Myasthenic Syndrome, CMS)は、神経筋接合部(Neuromuscular Junction, NMJ)のシグナル伝達異常によって生じる遺伝性疾患群であり、特徴的な症状として筋疲労と筋力低下が挙げられる。これまでに35以上の遺伝子がCMSの原因として同定されており、特に CHRNE(コリン作動性ニコチン受容体εサブユニット遺伝子)の変異は最も一般的な原因とされている。CHRNE関連CMSは AChR(アセチルコリン受容体)欠損型 に分類される。

本疾患の発症は出生時または幼児期早期が多く、臨床症状の重症度には幅がある。患者は眼瞼下垂(ptosis)、眼球運動障害(ophthalmoparesis)、嚥下困難(dysphagia)、呼吸機能の低下を示し、場合によっては進行性の全身性筋力低下を伴う。遺伝的に均一な集団においても、疾患の表現型には大きな多様性が認められ、遺伝的修飾因子の関与が示唆されている。

疫学 | Epidemiology

CMSは稀な疾患とされており、その有病率は研究によって異なるが、100万人あたり9.2~22.2人 と報告されている。欧州やインド、パキスタンなどの特定の地域では CHRNE遺伝子変異 の頻度が特に高い。例えば、ブルガリア・ロマ民族においては、 c.1327delG変異 がホモ接合型で認められる患者が多く、創始者効果(Founder Effect)が示唆されている。

また、スペインのCMS患者64名の遺伝子解析では、26.6%がCHRNE変異を有していた。オーストリアの患者集団でもCHRNE変異が最も一般的であった。これらの結果から、CHRNE変異が世界的にCMSの主要な原因であることが示唆される。

病因 | Etiology

CHRNE遺伝子は、AChRのεサブユニット をコードしており、AChRの構成要素として神経筋接合部のシグナル伝達に重要な役割を果たす。CHRNEの変異によってεサブユニットが欠損すると、AChRの機能が低下し、神経筋伝達が効率的に行われなくなる。

代表的な変異には以下がある:

  • c.1327delG変異:フレームシフト変異によるタンパク質欠損
  • c.1252-1267dup変異:フレームシフト変異によるAChR欠損
  • c.1032+2_1032+3delinsGT変異:新規報告されたスプライス部位変異

CHRNE変異によるAChRの欠損は、胎児型のγサブユニット(CHRNG)の一時的な発現によって部分的に補償されるが、成人型AChRへの移行が正常に行われず、症状が発現する。

CHRNE遺伝子であれば当院のN-advance FM+プランN-advance GM+プランで検査が可能となっております。

症状 | Symptoms

CHRNE関連CMSの臨床症状は多様であり、以下の特徴が認められる:

  • 眼症状:眼瞼下垂(ptosis)、外眼筋麻痺(ophthalmoparesis)
  • 嚥下・発話障害:嚥下困難(dysphagia)、構音障害
  • 筋力低下:近位および遠位筋の筋力低下
  • 呼吸機能低下:横隔膜の筋力低下による換気障害
  • 進行性筋無力:乳児期から始まり、成人期にかけて安定または進行する

検査・診断 | Tests & Diagnosis

CMSの診断には、神経生理学的検査、遺伝子検査、臨床評価 を組み合わせて行う。

  • 反復刺激試験(RNS):神経筋接合部の障害を検出
  • 単線維筋電図(SFEMG):NMJの伝達異常を評価
  • 遺伝子解析:CHRNE変異を同定(次世代シークエンシング(NGS)やSanger法)
  • 肺機能検査(FVC測定):呼吸筋の影響を評価

CMSは自己免疫性重症筋無力症(MG)と鑑別が必要であり、抗AChR抗体陰性例では特に遺伝子診断が重要となる。

治療法と管理 | Treatment & Management

治療法は原因遺伝子に応じて異なるが、CHRNE関連CMSでは以下の治療が有効とされる

  • アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)
    • ピリドスチグミン(Mestinon):筋疲労を軽減
  • β2アドレナリン受容体作動薬(β2-agonists)
    • サルブタモール(Salbutamol)エフェドリン:筋力を改善
  • 理学療法
    • 筋力維持と機能的独立性を促進
  • 呼吸管理
    • 横隔膜の弱化がある場合、人工呼吸器の導入を検討

β2アゴニスト単剤が最も有効であるとの報告があり、特に AChR欠損型CMS に対する第一選択薬として推奨される。

予後 | Prognosis

CHRNE関連CMSの予後は 治療によって大きく改善可能 である。適切な治療を受けた患者の約80%が 筋力の改善 を示し、運動能力の向上が報告されている。

ただし、個々の症例で治療反応にはばらつきがあり、

  • 乳児期発症例 では呼吸管理が必要な場合がある
  • 成人期発症例 では進行性の筋力低下が見られることがある

また、遺伝的修飾因子や環境要因が表現型に影響を及ぼす可能性があり、さらなる研究が必要である。

引用文献|References

キーワード|Keywords

先天性筋無力症候群, CMS, CHRNE, 神経筋接合部, 筋無力, 眼瞼下垂, AChR, ピリドスチグミン, サルブタモール, β2アゴニスト, 遺伝子変異, 遺伝子検査