概要
先天性筋無力症候群は、神経筋接合部分子の先天的な欠損及び機能異常により、筋力低下や易疲労性を来す疾患です。アセチルコリン受容体が欠損をする「終板アセチルコリン受容体欠損症」、アセチルコリン受容体のイオンチャンネルの開口時間が異常延長する「スローチャンネル症候群」、異常短縮する「ファーストチャンネル症候群」、骨格筋ナトリウムチャンネルの開口不全を起こす「ナトリウムチャンネル筋無力症」、アセチルコリン分解酵素が欠損をする「終板アセチルコリンエステラーゼ欠損症」、神経終末のアセチルコリン再合成酵素が欠損をする「発作性無呼吸を伴う先天性筋無力症」に分類されます。
原因
神経筋接合部で機能をする多数の分子のうちの1つの分子をコードする遺伝子の配列が正常者と異なることによって、十分な量の分子を作ることができない、あるいはその分子が本来持つ機能を果たせなくなることが原因となります。原因となる欠損分子には、19種類(CHRNA1、CHRNB1、CHRND、CHRNE、COLQ、AGRN、LRP4、MUSK、LABM2、RAPSN、DOK7、CHAT、SCN4A、GFPT1、DPAGT1、ALG2、ALG14、PLEC、PREPL)が知られています。スローチャンネル症候群のみが常染色体優性遺伝形式で、他は常染色体劣性遺伝です。
症状
多くの例において、出生直後に泣く力が弱かったり、母乳を吸う力が弱かったりという軽度の筋力低下から、呼吸困難のために人工呼吸器が必要になるという重度の筋力低下まで認められます。出生直後のこれらの症状がいったん軽快し、幼少児期に再度、持続的な筋力低下や、運動するにつれて筋力が弱くなる筋無力症状が出ます。筋無力症状による筋力低下の日内変動(午前中は筋力が強いが午後になると筋力がなくなる。)が明らかではなく、むしろ日ごとに筋力が異なる日差変動が認められることも多いです。眼球運動障害はあることもないこともあります。出生直後の一時的な筋力低下を含めて2歳以下に何らかの筋無力症状を発症することが多いですが、スローチャンネル症候群においては成人発症のことも多いです。また、口蓋の位置が高かったり、両耳の付け根が高かったりという顔面小奇形や、四肢の筋萎縮を認めることも多いです。
診断
2歳以下発症の骨格筋易疲労性・骨格筋低形成及び反復神経刺激による複合筋活動電位の異常減衰により本症を疑い、遺伝子異常により診断します。肋間筋生検の電気生理学的な解析又は19種類の遺伝子を対象とした遺伝子診断が確定診断には必要です。肋間筋生検の電気静学的な検査は本邦では行われていません。19種類(CHRNA1、CHRNB1、CHRND、CHRNE、COLQ、AGRN、LRP4、MUSK、LABM2、RAPSN、DOK7、CHAT、SCN4A、GFPT1、DPAGT1、ALG2、ALG14、PLEC、PREPL)の遺伝子を対象とした遺伝子診断はエキソームシークエンシング解析にて診断が可能です。臨床補助診断としては、重症筋無力症において認められる抗体(抗アセチルコリン受容体抗体・抗MuSK抗体・抗LRP4抗体)が陰性であることに加えて、反復神経刺激による異常な複合筋活動電位の減衰が必要条件です。
治療
病態に応じて有効な薬剤が存在するものがあります。終板アセチルコリン受容体欠損症やファーストチャンネル症候群に対して抗コリンエステラーゼ剤や3,4-ジアミノピリジンを使用、終板アセチルコリンエステラーゼ欠損症とDok7筋無力症に対してエフェドリン使用します。また、スローチャンネル症候群に対してキニジンやフルオキセチン、ナトリウムチャンネル筋無力症に対してアセタゾラミドを使用します。
【参考文献】
難病情報センター – 先天性筋無力症候群