アルストレーム症候群

ALMS1|Alström Syndrome

アルストローム症候群(Alström症候群)は、目・耳・心臓・代謝など体の多くの器官に影響を及ぼす極めてまれな遺伝性疾患です。視力や聴力の低下、糖尿病、心筋症など多様な症状が現れ、診断が難しい病気です。原因となる遺伝子や治療・管理方法を分かりやすく解説します。

遺伝子・疾患名

ALMS1|Alström Syndrome

AS; Alström Syndrome

概要 | Overview

Alström症候群(英語でAlström Syndrome、略してAS)は、1959年にスウェーデンの医師カール・ヘンリー・アルストロームによって初めて報告された非常にまれな遺伝性疾患です。この病気はALMS1という遺伝子に変異(遺伝子情報の異常)が起きることで発症します。遺伝の仕方は「常染色体劣性遺伝」と呼ばれ、子どもがこの病気になるためには、父親と母親の両方が同じ遺伝子の変異を持っている必要があります。 Alström症候群は目や耳、心臓、代謝(肥満や糖尿病)など、体のさまざまな器官に症状が現れます。症状が複雑で多くの器官に関係するため、別の病気(Bardet-Biedl症候群やレーバー先天性黒内障など)と間違われることがよくあります。

疫学 | Epidemiology

Alström症候群は世界中でも非常に珍しく、その頻度は100万人あたり1~9人程度と推定されています。男女差は特にありません。近親婚が多い地域では発症率が高まる傾向があります。この疾患は1959年に初めて報告されて以来、世界で500例以上が報告されています。例えば、サウジアラビアでは現在までに5例ほどが知られています。このように極めてまれな疾患のため、Alström症候群は「希少疾患」(オーファン疾患とも呼ばれ、患者数が少ないため研究や治療が進みにくい病気)に分類されています。

病因 | Etiology

Alström症候群の原因は、ヒトの第2番染色体(2p13.1という位置)にあるALMS1遺伝子の異常です。ALMS1遺伝子には23個のエクソン(タンパク質の設計図となる遺伝子の一部分)があり、ALMS1タンパク質という4,169個のアミノ酸からなる大きなタンパク質を作ります。このタンパク質は細胞内の「中心体」や「基底小体」と呼ばれる場所に存在し、「一次繊毛」(細胞の表面にあるアンテナのような構造)の形成や維持に重要な役割を果たしています。一次繊毛は細胞同士の情報伝達や感覚機能を担っています。 ALMS1遺伝子には200種類以上の病気の原因となる変異が見つかっていますが、多くは「ナンセンス変異」や「フレームシフト変異」といって、タンパク質の正しい合成を妨げる変異です。特に8番目、10番目、16番目のエクソンには変異が集中することが多いですが、変異の種類は地域や家族によって様々であり、変異の場所と症状の重さとの明確な関係はまだよくわかっていません。

ALMS1遺伝子であれば当院のN-advance FM+プランN-advance GM+プランで検査が可能となっております。

症状 | Symptoms

Alström症候群の症状は全身にわたり、時間とともに進行します。また、同じ家族内でも症状の重さや出方に大きな個人差があります。多くの患者は乳児期や幼少期から視力低下(網膜変性症)、肥満、聴力低下、心臓の病気(心筋症)を起こし始めます。特に視力低下は早期から進行し、16歳までに患者の約90%が視力を失います。聴力も徐々に低下し、患者の約70%が10歳になるまでに難聴となります。さらに、多くの場合、2型糖尿病や高脂血症(血中の脂肪が増える病気)、脂肪肝、性腺機能低下(生殖機能の障害)など、代謝やホルモンの異常も生じます。思春期以降は肝臓や腎臓、心臓、肺などの機能が徐々に悪化するほか、脊柱側弯症(背骨のゆがみ)が出ることもあります。 このように症状が人によって大きく異なることから、遺伝的要因や環境の影響で症状の重さが変化する可能性が考えられています。

検査・診断 | Tests & Diagnosis

Alström症候群は多くの器官に症状が現れ、また他の似た病気(Bardet-Biedl症候群、レーバー先天性黒内障など)と間違われることが多いため、診断が難しい病気です。確実な診断には、ALMS1遺伝子に変異があるかを調べる遺伝子検査(DNA検査)が最も有効です。家族の中で1人が診断された場合は、兄弟や近親者も遺伝子検査を受けることが推奨されます。これにより、早期診断や家族への遺伝的なカウンセリングが可能になります。また、妊娠前(着床前診断)や妊娠中(出生前診断)に検査を行うことで、家族計画にも役立ちます。

治療法と管理 | Treatment & Management

現在のところAlström症候群に対する根本的な治療法はなく、症状を管理して合併症を防ぐことが中心です。心臓専門医、内分泌専門医(ホルモンや糖尿病の専門医)、聴覚専門医、眼科医、栄養士などが連携して治療にあたります。難聴には人工内耳(音を電気信号に変えて聞こえるようにする機器)、視力低下には視覚補助器具を使います。心臓病(心筋症)は定期的な検査と薬で管理します。また、肥満や糖尿病、高脂血症を管理するために、食生活の改善や運動が大切です。運動療法や薬物治療で糖尿病や心臓病のリスクを抑えることができます。脊柱側弯症には理学療法などの適切な治療が必要です。 早期に遺伝子診断を行うことで、症状の進行を抑え、生活の質(QOL)を高めることが可能になります。

予後 | Prognosis

Alström症候群の予後(将来の見通し)は症状の多様さのため人それぞれです。特に心筋症による心不全が主な死亡原因であり、乳幼児期から注意が必要です。成人期にかけて肝臓や腎臓、肺などの機能が徐々に悪化します。最近では症状を総合的に管理する医療が進歩したため、患者の生活の質は改善していますが、進行性の障害により生活への影響は依然として大きいです。 早期発見と総合的な治療を続けることで、患者の将来は大きく変わります。

引用文献|References