概要
アルポート症候群は進行性遺伝性腎炎であり、約9割がX連鎖型遺伝形式を示し、その重症例では男性で10代後半から20代前半に末期腎不全に進行します。若年透析導入の主因です。糸球体基底膜に電子顕微鏡で特徴的網目状変化を認め診断に有用です。皮膚基底膜や糸球体基底膜のIV型コラーゲン蛋白の異常の検出が確定診断に有用です。遺伝子解析も可能で、確定診断に有用です。
疫学
海外からの報告では、発生率は出生4万~5万人につき1人、人口当りでは5千〜1万に1人いると報告されています。日本において3年間に病院を受診した患者数を調査した結果、1,200人程の患者さんがいるのではないかと推測されています。
原因
アルポート症候群では糸球体基底膜に特徴的な変化が見られ、その病因は糸球体基底膜を構成するIV型コラーゲンの遺伝子変異です。X連鎖型アルポート症候群の原因遺伝子はXq22遺伝子座に存在するIV型コラーゲンα 5(IV)鎖遺伝子(COL4A5)、常染色体劣性アルポート症候群の原因遺伝子は第2染色体上のIV型コラーゲンα 3(IV)鎖遺伝子(COL4A3)とα 4(IV)鎖遺伝子(COL4A4)です。腎炎進行機序の詳細は不明で、その解明が今後の課題です。
症状
病初期には血尿が唯一の所見です。蛋白尿は進行とともに増加してゆきネフロ−ゼ症候群を呈することもよくあります。進行性の慢性腎炎であり、小児期には通常腎機能は正常で、思春期以後、徐々に腎機能が低下しはじめ、男性患者では10代後半、20代、30代で末期腎不全に至るものが多いです。X連鎖型の女性患者は一般に進行が遅く、腎不全に進行することは稀でキャリアーになることが多いです。主な合併症として、神経性難聴、特徴的眼病変(前円錐水晶体、後嚢下白内障、後部多形性角膜変性症、斑点網膜など)があります。
診断
良性家族性血尿においてしばしばみられる糸球体基底膜の広範な菲薄化も本症候群においてみられ、糸球体基底膜の唯一の所見の場合があり注意が必要です。 この場合、難聴、眼所見、腎不全の家族歴があればアルポート症候群の可能性が高いです。 また、IV型コラーゲン所見があれば確定診断できます。
治療
現在疾患病態機序特異的治療法はなく今後の課題です。腎不全進行予防のためアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の投与がされ一定の効果を認めます。一部にシクロスポリンが有効との報告がありますが、議論のあるところです。末期腎不全に至れば透析・移植が必要となります。
【参考文献】
難病情報センター – アルポート症候群