エカルディ・グティエール症候群

SAMHD1|Aicardi-Goutières Syndrome

アイカルディ・グチエール症候群(AGS)は、主に脳、免疫系、皮膚に影響を及ぼす稀な遺伝性疾患です。神経変性と自己免疫異常を特徴とし、頭蓋内石灰化や白質脳症を伴います。特にSAMHD1遺伝子の変異は、AGSの発症のみならず、もやもや病やがんとの関連性も示唆されています。AGSはI型インターフェロノパチーに分類され、先天性感染症と誤診されることもあります。診断には遺伝子検査が有効で、現在の治療は対症療法が中心ですが、新たな標的治療の研究が進められています。

遺伝子・疾患名

SAMHD1|Aicardi-Goutières Syndrome

Encephalopathy with Basal Ganglia Calcification; Encephalopathy with Intracranial Calcification and Chronic Lymphocytosis of Cerebrospinal Fluid; Cree Encephalitis; Familial Infantile Encephalopathy with Intracranial Calcification and Chronic Cerebrospinal Fluid Lymphocytosis; Encephalopathy-Basal Ganglia-Calcification; Pseudotoxoplasmosis Syndrome

概要 | Overview

アイカルディ・グチエール症候群(Aicardi-Goutières Syndrome, AGS)は、主に脳、免疫系、皮膚に影響を及ぼす稀な遺伝性疾患です。これは進行性の脳症として発症し、神経機能の低下、頭蓋内石灰化、白質脳症(白質の変性)、および慢性的な脳脊髄液(CSF)リンパ球増加症と高濃度のインターフェロン・アルファ(IFN-α)を特徴とします。AGSは炎症性疾患であるため、先天性感染症と誤認されることがあり、I型インターフェロノパチーに分類されることもあります。

現在、AGSの発症には9つの遺伝子の変異が関与していることが知られています。これらにはTREX1、RNASEH2A、RNASEH2B、RNASEH2C、SAMHD1、ADAR、IFIH1、LSM11、RNU7-1が含まれます。特にSAMHD1遺伝子は、AGSの原因となるだけでなく、もやもや病やさまざまな種類のがんとも関連があることが示されており、ゲノムの安定性維持に重要な役割を果たしていると考えられています。

疫学 | Epidemiology

AGSは極めて稀な疾患であり、推定有病率は100万人に1人未満とされています。世界中で報告例がありますが、近親婚が多い地域では発症率が高くなる傾向があります。AGSのほとんどの症例は乳幼児期に診断されますが、より軽度の成人発症型のケースも報告されています。

病因 | Etiology

AGSは、核酸代謝や免疫調節に関与する遺伝子の変異によって引き起こされます。SAMHD1遺伝子は、ステライルアルファモチーフ(SAM)とHDドメインを含むタンパク質をコードしており、デオキシヌクレオシド三リン酸加水分解酵素(dNTPase)およびエキソヌクレアーゼの二重酵素活性を持ちます。SAMHD1はゲノムの安定性を維持するために重要な役割を果たし、DNAとRNAのハイブリッド構造であるRループを適切に解消することで、DNA損傷や複製ストレスを防ぎます。

SAMHD1の変異により、転写とDNA複製が競合する部位でRループが異常に蓄積し、ゲノムの不安定性が引き起こされます。この結果、異常な免疫活性が誘発され、AGSの自己免疫的および神経変性的な特徴に寄与します。さらに、SAMHD1欠損はDNA修復および複製フォーク安定化の機能低下と関連しており、がんの発生リスクを高めることが示唆されています。

SAMHD1遺伝子であれば当院のN-advance FM+プランN-advance GM+プランで検査が可能となっております。

症状 | Symptoms

AGSの症状は幅広く、発症の時期や重症度によって異なります。一般的に、早期発症型と遅発型に分類されます。

早期発症型: 生後数か月以内に症状が現れ、神経機能の退行が進行します。脳の成長が遅れ、小頭症(マイクロセファリー)を伴います。筋緊張異常(痙縮、ジストニア、低緊張)やけいれんが見られ、白質脳症が進行します。脳内の石灰化が確認されることが多く、肝脾腫や肝酵素の上昇、血小板減少症が発症することもあります。また、感染症がないにもかかわらず発熱(無菌性発熱)が繰り返し見られます。一部の患者では、チルブレイン(寒冷刺激による炎症性の皮膚病変)が指、足趾、耳に生じます。眼圧の異常による緑内障や視覚障害も発症することがあります。

遅発型: 乳児期には正常な発達を示すものの、1歳以降に神経機能の低下が見られます。機嫌が悪くなる、食欲低下、発熱を繰り返すといった症状が現れ、徐々に発達遅滞や神経機能の退行が進行します。早期発症型に比べて症状が軽度なことが多いですが、小頭症や白質脳症を伴うことがあります。

検査・診断 | Tests & Diagnosis

AGSの診断は、臨床所見、画像診断、遺伝子検査の結果を総合して確定されます。

臨床所見: 進行性の脳症、精神運動発達の遅れ、小頭症、けいれん、筋緊張異常などが特徴的です。自己免疫的な症状として、チルブレインが見られることもあります。

画像検査: 頭部CTでは大脳基底核や白質の石灰化が確認され、MRIでは白質脳症や脳萎縮が認められます。

血液・脳脊髄液検査: 脳脊髄液中のリンパ球増加およびインターフェロン・アルファの上昇が特徴的です。

遺伝子検査: 次世代シークエンシング(NGS)や全エクソーム解析(WES)を用いて、AGS関連遺伝子の病的変異を特定します。

治療法と管理 | Treatment & Management

AGSに対する根本的な治療法は確立されておらず、対症療法が中心となります。

  • 神経管理: けいれんは抗てんかん薬で管理します。
  • 呼吸管理: 呼吸器合併症の予防のため、胸部理学療法を行います。
  • 栄養管理: 特別な食事や摂食補助が必要な場合があります。
  • 筋緊張の管理: 物理療法や筋弛緩薬を使用し、痙縮やジストニアを緩和します。
  • 皮膚管理: チルブレインや皮膚病変に対するケアを行います。
  • 免疫調節: 自己免疫の過剰な活性化が見られる場合は、免疫抑制剤の使用を検討します。
  • 定期検診: 緑内障、側弯症、甲状腺機能異常、心血管系合併症のモニタリングを行います。

予後 | Prognosis

AGSの予後は、発症年齢や症状の重症度によって異なります。早期発症型では神経障害が重篤であり、多くの場合、小児期までに死亡することが一般的です。一方、遅発型や軽症型の患者では、成人まで生存する例も報告されています。

近年、JAK-STAT経路阻害剤をはじめとする標的治療の研究が進められており、今後の治療の進展が期待されています。

引用文献|References

キーワード|Keywords

Aicardi-Goutières Syndrome, AGS, SAMHD1, TREX1, RNASEH2A, RNASEH2B, RNASEH2C, ADAR, IFIH1, LSM11, RNU7-1, 白質脳症, 頭蓋内石灰化, 自己免疫疾患, インターフェロン, I型インターフェロノパチー, もやもや病, 遺伝子変異, 神経変性, 小頭症, けいれん, 免疫異常