概要
無βリポタンパク血症(Abetalipoproteinemia)は、リポタンパクを作る遺伝子に変異があるため、脂質を十分に吸収・運搬ができなくなり、低コレステロール血症や低トリグリセリド血症を引き起こす劣性遺伝疾患です。
脂肪の吸収障害と、それによる脂溶性ビタミン欠乏症が授乳開始時より続くため、下痢や成長障害をきたし、また脂溶性ビタミンが欠乏することにより様々な症状が起こります。1993年に、ミクロソームトリグリセリド転送蛋白(MTTP)の遺伝子異常が同定されたことから、MTP欠損症とも呼ばれています。
引用:難病情報センター – 無βリポタンパク血症(指定難病264)
疫学
無βリポタンパク血症の患者は、世界では約100例の報告がありますが、日本では1983年に第1例が報告されて以降、約10家系程度の報告のみです。
原因
小腸で吸収された脂肪や、肝臓で合成された脂肪を血中に運搬する粒子(リポタンパク)を作るために必要となるMTTPが欠損していることが原因です。父親由来と母親由来のMTTP遺伝子の両方に変異がある場合に、子が発症しやすくなります。
症状
出生時までには明らかな症状は呈さないものの、授乳開始とともに始まる嘔吐、慢性下痢、脂肪便、発育障害が現れます。また、脂溶性ビタミンの吸収障害が起こることにより、視力低下などの眼症状や運動失調などの神経症状が、思春期までに徐々に現れてきます。他にも、脂肪肝、肝硬変、有棘赤血球などの合併症、ビタミンDの欠乏による骨の成長障害や、ビタミンKの欠乏による出血傾向、心筋症による不整脈死の報告もあります。
診断
本症では、血中総コレステロール値が、ほとんどがHDL-Cで20~50 mg/dl程であり、TGも10 mg/dl以下となります。アポBが測定感度以下になること、血中の脂溶性ビタミンが低下になることも診断の目安となります。抹消血に有棘赤血球がみられるのも特徴的です。
MTP欠損の証明には、小腸あるいは肝生検組織でのMTP活性測定と遺伝子変異の同定が必要となり、兄弟、両親の検査も必要となります。家族性低β-リポタンパク血症との鑑別が必要となりますが、無β-リポタンパク血症の方が重篤になるとされます。
治療
根治療法はありませんので、脂溶性ビタミンの補充療法が対症療法として行われます。投与は出来るだけ早期から行い、特にビタミンEやビタミンAを投与することが重要です。経口投与となりますが、腸管からの吸収が阻害されているために、大量に投与する必要があります。嘔吐・下痢などの消化器の症状については、脂肪制限、特に長鎖脂肪酸の制限が行われます。栄養障害に対しては、吸収できる脂質として、中鎖トリグリセリド(MCT)が用いられることもあります。ビタミンDやビタミンKが不足がしている場合には、それらも補充を行います。
予後
網膜色素変性による眼症状、末梢神経障害による知覚低下、また脊髄小脳変性による運動失調など、経過には個人差がありますが、成人までに多彩な神経症状が出現し、著しいADL障害をきたすこともあります。また、脂肪肝を合併することが多く、肝硬変に進展した報告もあります。
治療を中断せずに、合併症の進行を防ぐために、脂溶性ビタミンの補充を持続することが大切です。
【参考文献】
- 小児慢性特定疾病情報センター – 無β-リポタンパク血症
- 難病情報センター – 無βリポタンパク血症(指定難病264)