先天性疾患は生まれたときの体の形や臓器の機能に異常がある疾患のことを指します。染色体や遺伝子の異常、薬剤や感染症など様々な原因により起こることが知られています。脳、心臓、消化管をはじめとしてあらゆる臓器で起こる可能性があり、重症度も様々です。
先天性疾患とは
先天性とは、「生まれつき」という意味で、先天性疾患は生まれたときの体の形や臓器の機能に異常がある疾患のことを指します。
反対の言葉である後天性は、生まれた後に発生した原因により発症する疾患のことを意味します。
先天性疾患の日本における発生率は約2%という報告があります。
脳、心臓、消化管をはじめとしてあらゆる臓器で起こる可能性があり、重症度も様々です。
先天性疾患が発生する理由に関しては解明されていないものが大部分ですが、わかっているものに関しては大きく分けて4つのパターンがあると考えられています。
先天性疾患の原因
1. 染色体の異常
染色体はヒトの細胞の核内に23対46本が存在しており、それぞれが複数の遺伝子によって構成されています。
卵子や精子ができる発生の過程や、受精卵が分裂する過程で、染色体の本数や構造に異常が生じることで発症する先天性疾患で、先天性疾患の約25%を占めると言われています。 21番染色体が3本になる21番トリソミー(ダウン症候群)や、13番染色体が3本になる13番トリソミーなどが該当します。
遺伝子が関わる疾患ですが、染色体異常が起こるのは突然変異であることが多く、必ずしも両親から遺伝するわけではありません。
2. 単一遺伝子の異常
単一の遺伝子の異常により引き起こされる先天性疾患で、メンデルの法則に従って両親から遺伝する疾患が含まれます。
疾患の遺伝子が常染色体にある場合は優性遺伝疾患や劣性遺伝疾患、性染色体に疾患遺伝子がある場合は伴性遺伝(X連鎖遺伝)により遺伝していきます。
代表的な疾患には優性遺伝疾患の家族性大腸ポリポーシス、劣性遺伝疾患のフェニルケトン尿症、伴性遺伝の血友病などがあります。
先天性疾患の約20%を占めると言われています。
3. 多因子遺伝
複数の遺伝子の異常と生まれた後の環境要因により引き起こされる疾患で、先天性疾患の全体の約半数を占めると考えられています。
ヒルシュスプルング病や先天性心疾患、糖尿病や高血圧と言った生活習慣病もこのパターンに含まれます。
4. 環境や催奇形性因子
放射線、特定の薬剤、環境物質などの先天性異常を引き起こす催奇形因子に妊婦がさらされた場合や、風疹やトキソプラズマなどの感染症に妊婦が感染した場合に先天異常を引き起こすことがあります。
先天性疾患の約5%程度を占めると言われています。
染色体異常の主な疾患
21トリソミー(ダウン症候群)
21トリソミー(ダウン症候群)は、21番目の染色体である21番染色体が2本ではなく、3本となる「トリソミー」と呼ばれる状態になってしまうことで起こります(「21番トリソミー」と呼ばれます)。
21トリソミー(ダウン症候群)のほとんどは、両親の精子と卵子が細胞分裂してできる過程で染色体がうまく分離できないこと(染色体不分離)が原因で、受精卵の21番染色体が3本になってしまいます。
このため、両親が健常であっても一定の確率で21トリソミー(ダウン症候群)の赤ちゃんが生まれる可能性があります。
21トリソミー(ダウン症候群)が起こる可能性は、母体の年齢が上がるにつれて上昇することが知られており、20-25歳では0.1%以下であるのに対し、40歳では約1%になるといった報告もあります。
ややつり上がった目や扁平な顔といった特徴的な顔つき、筋力低下などの身体的症状のほか、発達の遅れを認めることもあります。
心内膜症欠損や心室中隔欠損症などの先天性心疾患、十二指腸閉鎖や鎖肛などの消化器の異常を合併するケースも多くなっています。
血液で検査可能なクアトロ検査やNIPT(新型出生前診断)により10~15週頃に出生前検査をすることが可能で、NIPT(新型出生前診断)による検出率は95%以上で偽陽性も0.3%程度と信頼度は高くなっています。
確定診断は羊水検査により行います。
単一遺伝子異常の主な疾患
フェニルケトン尿症
フェニルケトン尿症は先天性の代謝疾患の一つで、食品から摂取する必要がある必須アミノ酸の一つフェニルアラニンをチロシンという別のアミノ酸に変える酵素の働きが弱く、体にフェニルアラニンが蓄積してチロシンが少なくなる病気です。
フェニルアラニン水酸化酵素(PAH)遺伝子の異常により発症する、劣性遺伝疾患です。
つまり、両親がともにPAH遺伝子の異常を持つ保因者であった場合に、1/4の確率で病気を持った子供が生まれることになります。
比較的まれな疾患で、発症頻度は約8万人に1人と言われており、日本国内の患者数は500人程度です。
生後数か月から2歳ころまでに脳の発達障害をきたし、小頭症やてんかん、精神発達遅滞を認めます。
特徴的な尿の匂いや、赤毛や色白などの色素欠乏症などの症状も引き起こします。
生後に足の裏から血液を採取する新生児マススクリーニングで検査を行います。
特別なミルクや低タンパク食で、食事からのフェニルアラニンの摂取量を抑え、血液中のフェニルアラニンを一定の範囲にコントロールすることで症状の発生を予防していきます。
多因子遺伝の主な疾患
先天性心疾患
先天性心疾患とは、心臓や血管の構造の一部が生まれつき正常と違う病気のことを指します。
心臓は左心房、左心室、右心房、右心室の4つの部屋からできており、それぞれの部屋の間は血液が逆流したり混ざったりしないように弁や壁で仕切られています。
先天性心疾患では、部屋を仕切る壁に穴が空いていたり、弁が狭くなっていたり、血管の付く場所が正常とは異なったりしています。
このように先天性心疾患には数多くの種類があり、重症度は様々ですが、発生頻度は全体で約1%ほどとなっています。
原因は複数の遺伝子の異常や、妊娠中の環境要因(母親の喫煙や飲酒、特定の薬剤の服薬、風疹などの感染)など複数の原因が重なって病気が起こると考えられています。
最も頻度が多い先天性心疾患は、左右の心室を隔てている壁に穴が開いてしまう心室中隔欠損症で全体の約6割を占めると言われています。
その他に頻度の高いものとしては、心臓から肺に向かう血管である肺動脈が狭くなる肺動脈狭窄症、左右の心房を隔てている壁に穴が空いてしまう心房中隔欠損症があります。
胎児の超音波検査により、早ければ20週程度で先天性心疾患の有無を判断することができます。
もし発見された場合は、出産前に専門病院で生後の治療方針について詳しく検討することができます。
生まれた後は、心電図やレントゲン、心臓超音波などの検査のほか、心臓カテーテル検査によって心臓の状態を詳しく検査します。
心臓への負担が小さい場合は経過観察を行うこともありますが、心臓の構造変化が大きく心臓に大きく負担がかかっている場合は、早い段階で薬剤や手術などの治療が必要です。
環境や催奇形性因子による主な疾患
先天性風疹症候群
母親が妊娠初期に風疹に罹患すると、風疹ウイルスが胎児にも感染して新生児に先天性風疹症候群と呼ばれる障がいを引き起こすことがあります。
心室中隔欠損症や動脈管開存症などの先天性心疾患、難聴、白内障が3大症状として知られているほか、網膜症、肝脾腫、血小板減少、発育障害、精神発達遅延など多彩な症状がみられます。
発症してしまった場合の治療法としては、先天性心疾患や白内障に対しては手術が行われることがあります。
ただ、最も重要なことは感染の予防で、妊娠する可能性のある女性は予防接種を受ける必要があります。
先天性疾患は生まれたときの体の形や臓器の機能に異常がある疾患のことを指します。染色体や遺伝子の異常、薬剤や感染症など様々な原因により起こることが知られています。脳、心臓、消化管をはじめとしてあらゆる臓器で起こる可能性があり、重症度も様々です。
記事の監修者
岡 博史先生
NIPT専門クリニック 医学博士
慶應義塾大学 医学部 卒業