NIPT(新型出生前診断)とは
NIPT(新型出生前診断)は、出生前スクリーニング検査の一つです。妊婦さんの血液に含まれる胎児のDNAの断片を測定し、赤ちゃんに染色体疾患がないか調べるための検査です。NIPTによって13・18・21トリソミーなどの染色体疾患が調べられます。
クリニックによっては、そのほかのさまざまな染色体異常を検出できるNIPTも提供していますが、ほかの染色体異常をもつ赤ちゃんは、多くのケースで妊娠初期に流産してしまいます。
上記3つのトリソミーは、胎児の染色体疾患の約70%を占めているため、多くのクリニックではこの3つの染色体異常を検査しています。
NIPT(新型出生前診断)で陽性となる確率
NIPTコンソーシアムにて、2013年から2021年3月までの8年に行われたNIPT(新型出生前診断)では、検査数10万1,218件のうち、陽性は1,825件であったと報告があります。NIPT検査を受けて陽性と診断される確率は、全体で約1.8%であり、約50人に1人が診断を受けていました。判定保留は0.4%、残りの97.8%が陰性という結果です。
陽性の診断を受けた妊婦さんで最も多かったのが、21トリソミー(ダウン症候群)で1,100件、次いで18トリソミーの559件でした。
NIPT(新型出生前診断)の陽性的中率
21トリソミーの陽性を受けた妊婦さん1,100件の中で、確定的検査である羊水検査を受けて実際に確定を受けたのは、955件でした。残りの26件では、胎児に異常が見当たらず偽陽性と判定されています。つまり、陽性的中率は97.3%で、偽陽性は2.7%でした。
陰性結果でもトリソミーがあることも
NIPT(新型出生前診断)を受け、陰性となった妊婦さんの追跡調査も行われています。6年間に行われた7万2,525件の検査のうち、5万8,893件について分娩後の経過を含めた赤ちゃんの様子を追跡した調査があります。その結果によると、21・18トリソミーにて、それぞれ3件の偽陰性が認められました。
NIPT(新型出生前診断)の検査精度を表す指標
指標には、感度・特異度・的中率・偽陽性と偽陰性の4つがあります。各指標がもつ意味を把握し、検査精度への理解を深めましょう。
感度
感度とは、胎児が実際に染色体異常をもつ場合で、陽性が出る確率を指します。感度は検査対象となる染色体異常の種類によって異なります。たとえば、21トリソミーの場合は約99%です。つまり、21トリソミーを所有する胎児をもつ妊婦さん100人が検査を受けた場合、99人は陽性が出るということです。
特異度
特異度とは、胎児が実際に染色体異常をもっていない場合で、陰性が出る確率を指します。特異度は21トリソミーで約99%です。つまり、21トリソミーのない胎児をもつ妊婦さん100人が検査を受けると、99人は陰性が出ます。
的中率
的中率とは、陽性が出た胎児が実際に染色体異常をもっている確率を指します。的中率は年齢に左右されるといわれています。たとえば、35歳以上の妊婦さんで21トリソミーの検査を行った場合の陽性的中率は、約95.9%です。
つまり、検査結果で陽性が出ても、約4%は染色体異常を所有しない赤ちゃんが生まれる可能性があります。
偽陽性・偽陰性
偽陽性は、陽性が出た場合でも、実際には染色体異常がない赤ちゃんが生まれてくることを指します。一方、偽陰性は、陰性であるのに染色体異常のある赤ちゃんが生まれてくることを指します。
NIPT(新型出生前診断)はスクリーニング検査のため、陽性が出た場合に羊水検査や絨毛検査などの確定的検査を続けて実施するのが一般的です。
母親の年齢によってNIPT(新型出生前診断)の精度が左右する
非常に精度の高いスクリーニング検査ですが、陽性的中率は妊婦さんの年齢によって左右されます。胎児の染色体疾患の有病率は、母親の年齢が上がるにつれて高まります。21トリソミーの場合、母親の年齢が20歳であるとき、有病率はおよそ2,000人に1人です。しかし、母親の年齢が40歳であるとき、有病率はおよそ100人に1人まで高まります。
そのため、NIPT(新型出生前診断)の陽性的中率は、母親の年齢が上がるとともに高まるといえるでしょう。
NIPT(新型出生前診断)後の対応方法
検査結果は、一般的に陽性・陰性・再検査で示されます。ここでは、それぞれの結果が出たあとの対応方法を紹介するため、検査を受けた後スムーズに行動へ移せるよう、参考にしてください。
陽性判定が出た場合
陽性が出た場合、胎児に染色体疾患の可能性があることを示しています。NIPT(新型出生前診断)はスクリーニング検査であり、陽性が出ても100%染色体異常があるとは言い切れません。また、陽性的中率は妊婦さんの年齢や染色体異常の種類に左右されます。
そのため、陽性が出た場合は、羊水検査や絨毛検査などの確定的検査をさらに受けるのが一般的です。確定診断を受けることで、出産前に心の準備をして子育てのサポート体制を整えやすくなります。
陰性判定が出た場合
陰性が出た場合、胎児に染色体疾患がある可能性が低いことを示しています。確定的検査ではないため、ごくまれに偽陰性が発生しますが、陰性が出た場合、ほとんどのケースで生まれてきた赤ちゃんに染色体異常はみられません。
そのため、NIPT(新型出生前診断)にて陰性となった場合に、確定的検査を受けるケースはほとんどありません。しかし、出産後に染色体疾患をもっている可能性がゼロではないことを理解しておきましょう。
再検査となった場合
再検査は、陽性または陰性が適切に診断できなかったことを示しています。再検査の要因は主に以下の2つです。
・妊婦さんから採取した血液の中に含まれている胎児のDNAが少なかった
・妊婦さんが服薬している薬の影響によって正しく検査が行えなかった
DNAが足りなかった場合、妊娠週数が経過してから再検査できるケースもあります。
確定的検査とは
確定的検査とは、それだけで診断が確定する検査を指します。出生前診断では、主に絨毛検査と羊水検査の2つが確定的検査に該当します。ここでは、各確定的検査の特徴や内容を紹介するため、確定的検査を検討している方は、参考にしてください。
絨毛検査
絨毛検査とは、妊婦さんのお腹に針を刺して絨毛細胞を採取し、染色体の形や数の変化を確認する検査方法です。一般的に、妊娠11週~14週で行える検査です。
絨毛検査では妊婦さんのお腹に針を指すため、破水・出血・子宮内感染・早産・穿刺による母体障害などのリスクが発生します。また、約100人に1人の確率で流産や赤ちゃんの死亡を引き起こす可能性もあるため、検査前に医師とよく相談しましょう。
赤ちゃんの染色体は正常でも、胎盤にだけ染色体異常がある胎盤限局性モザイクと呼ばれる状態が妊婦さんのおよそ1%に存在します。この場合、検査結果が陽性であっても生まれてくる赤ちゃんは染色体疾患をもっていない可能性が高い傾向です。
羊水検査
羊水検査とは、妊婦さんのお腹に針を刺して羊水を採取し、赤ちゃん由来の細胞を培養して染色体の形や数の変化を確認する検査方法です。一般的に、妊娠15週~16週以降に行える検査です。子宮内の羊水には赤ちゃん由来の細胞が存在するため、羊水を検査します。ただし、採取から検査結果が出るまでは、2~3週間ほどかかります。
絨毛検査同様に破水・出血・子宮内感染・早産・羊水塞栓症・穿刺による母体障害などのリスクがあることや、胎盤限局性モザイクによる検査結果の誤りなどが発生することを理解しましょう。
また、約300人に1人の確率で流産や赤ちゃんが死亡する可能性があるため、検査を行う前に一度医師に相談しましょう。
まとめ
NIPT(新型出生前診断)は、スクリーニング検査のため、結果が100%あっているとは限りません。しかし、感度が約99%とほかの非確定的検査と比較すると非常に高い精度を誇っています。また、妊婦さんや赤ちゃんへの影響も少ない検査方法のため、染色体疾患を事前に知っておきたい方におすすめの検査方法であるといえます。
NIPTを受ける前には、必ず遺伝カウンセリングを受け、遺伝に関連する病気や悩み、疑問に対しての知識をつけ、理解を深めましょう。NIPTの結果は、妊婦さんだけではなく家族や血縁者にも関係する内容です。家族内でサポート体制を整えていけるようにするためにも、遺伝カウンセリングの受診がおすすめです。
【参考文献】
Q&A
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QNIPT(新型出生前診断)はほかの非確定的検査より精度が高いですか?NIPT(新型出生前診断)の感度は約99%です。母体血清マーカー検査は、クアトロ検査で感度約80~85%、オスカー検査で感度約90%のため、NIPTはスクリーニング検査ではありますが、精度の高い検査といえます。
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Q判定が保留となる理由は何ですか?判定保留の結果が出る理由としては、以下の3つが挙げられます。 ・血液中の胎児由来のDNAが不足していた ・悪性腫瘍があり複数の染色体異常が疑われるため ・自己免疫疾患やヘパリン治療をしているため、あるいは双胎の一児初期流産(バニシングツイン)、モザイクがみられるため
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QNIPT(新型出生前診断)は流産のリスクがありますか?採血のみで検査が可能な出生前診断のため、流産や死産などのリスクはありません。
記事の監修者
水田 俊先生
ヒロクリニック岡山駅前院 院長
日本小児科学会専門医
小児科医として30年近く岡山県の地域医療に従事。
現在は小児科医としての経験を活かしてヒロクリニック岡山駅前院の院長として地域のNIPTの啓蒙に努めている。
略歴
1988年 川崎医科大学卒業
1990年 川崎医科大学 小児科学 臨床助手
1992年 岡山大学附属病院 小児神経科
1993年 井原市立井原市民病院 第一小児科医長
1996年 水田小児科医院
資格
小児科専門医