妊娠後には流産の不安があります。初期に起こった流産のほとんどの原因が赤ちゃんの遺伝性疾患、先天性異常が原因です。NIPT(出生前診断)は母体からの採血で胎児の染色体異常を調べることが出来ます。胎児の状態に不安がある妊婦が任意で受ける検査です。
はじめに
妊娠が発覚すると妊婦さんは嬉しいのと同時に様々な不安が生じてきます。その一つに流産の不安があると思います。今回は流産の原因についてみていきましょう。
流産とは?
流産とは何らかの原因で妊娠22週未満に赤ちゃんが亡くなることを言います。妊娠22週以降の赤ちゃんの死亡は死産と呼ぶようになります。
流産の頻度は?
妊娠の15~20%の確率で流産となります。このほかには妊娠していると分かる前に流産し気づかないということもあります。流産の約85%は妊娠12週までに起こります。
6人に1人の女性が流産経験者と言われており、多くの女性が経験しています。
また流産はハイリスク妊娠の女性が起こしやすい疾患の一つといわれています。
ハイリスク妊娠とは?
- 若年、高齢出産
- 低身長、肥満など身体的な特徴
- 社会的特徴(婚姻状況、特殊な職業など)
- 過去の妊娠時の問題(流産、死産、妊娠中の病気の有無)
- 妊娠前から存在する病気
- 妊娠中に発症した病気
- 妊娠中に有害物質、薬物への曝露
NIPT(新型出生前診断)とは?
NIPT(新型出生前診断)とは非侵襲性出生前遺伝学的検査のことを言います。
妊娠10週目~16週の間にお母さんから採血を行うことで赤ちゃんの染色体異常を調べることが出来ます。高齢出産や流産、死産の経験のある妊婦さん、高齢出産、流産、死産の経験はないけれども赤ちゃんの状態に不安がある妊婦さんが任意で受ける検査です。
流産の原因は?
妊娠およそ11週頃までに起こった流産のほとんどが赤ちゃん側の原因、遺伝性疾患、先天性異常によるものです。よって、受精の瞬間で流産かそうでないかが決まることがほとんどです。初期の流産では妊娠に気づかずに飲酒、喫煙、薬の内服、仕事や運動などではないと言えます。
またよく心配されるような、精神的なショックや軽いけが(滑る、転倒するなど)は流産と無関係と言われています。
12週以降の流産の多くは現在の医療ではまだ原因がはっきりとわかっていませんが、お母さん側の問題は下記になります。
- 子宮構造的な異常(子宮筋腫、重複子宮、子宮頸管無力症)
- 飲酒、喫煙、治療薬、コカインなどの薬物
- 重度のケガ
- 感染症(サイトメガロウイルス、風疹など)
- 重度の甲状腺機能異常
- 重度の糖尿病
- 無治療の慢性腎臓病、全身性エリテマトーデス、高血圧など
- RH式血液型不適合(母体Rh-、胎児Rh+の場合)
流産経験者は2度目以降も流産の確率が上がります。また流産の回数が多いほど再び流産のリスクが高くなり、流産を繰り返す場合、不育症であることも考えられますので早期に検査、治療を始める必要があります。
※ 不育症とは、妊娠は出来るが赤ちゃんが育たずに流産、死産、早産を繰り返すこと
流産の種類
流産には種類と名称があります。下記に用語の説明をしていきます。
自然流産
人為的でなく起こる流産すべてのこと。
人工流産
「人工妊娠中絶」のこと。母体保護の目的で母体保護法指定医によって行われる手術
切迫流産
妊娠20週までに子宮頸管は開大していない状態で出血や痙攣性の痛みがあり、赤ちゃんが失われる恐れがある状態のこと。
進行流産
妊娠20週までに出血と痙攣性の痛みがあり子宮頸管(子宮口)が開大し自然に出血や腹痛とともに子宮内容の排出が始まった状態のこと。
完全流産
赤ちゃんと胎盤が子宮の外へすべて出てしまった状態のこと。
不完全流産
赤ちゃん、胎盤の一部しか子宮の外に出ていない状態のこと。子宮の中に血液の塊が少し残っている状態。
稽留(けいりゅう)流産
赤ちゃんは亡くなっているけれどもまだ出血や腹痛などの症状が何もない状態のこと。医療機関の診察で初めて確認します。
感染流産
子宮内の細菌感染を伴った流産のこと。
反復流産
流産の繰り返しが2回起こること。
習慣流産
流産を3回以上繰り返した場合のこと。
化学流産
妊娠のかなり早い段階で流産した状態。尿検査や採血検査で妊娠反応は出たものの、超音波検査では妊娠を確認できないことを言います。市販の妊娠検査薬が一般的に広く使われるようになったため気づくようになった病態で検査をしなければ通常の月経と考えてしまうこと多いといわれています。
流産の症状とは?
流産の前、鮮紅色または暗赤色の少量、もしくははっきりとわかる出血が起こり、子宮が収縮して腹部にけいれん様の痛みが起こります。妊娠週数が進むごとに腹痛が強くなり出血量は多くなります。
赤ちゃんが子宮内で死亡していても腹痛や出血を起こさないことがあります。その場合自然排出を待ちますが、子宮内の組織から感染を起こす場合があるため、手術で取り除くことがあります。
妊娠初期の出血や腹痛は正常の妊娠でも起こることがあります。よって症状だけでは流産なのか、正常なのか自分では判断しにくいと言えます。少量の出血や軽い腹痛があった場合は次回の検診時に医師相談するとよいでしょう。ただし出血量が多い場合や腹痛が強い場合は異所性妊娠(子宮の外で妊娠している状態)の恐れがありますので夜間、時間外でも医療機関を受診する必要があります。
流産の予防法は?
妊娠11週までの流産の原因は赤ちゃんの遺伝性疾患、先天性異常が原因によるものです。よって初期の流産の予防は非常に難しいと言えます。
しかし妊娠を希望する前にはできることがあります。禁煙や風疹、麻疹などの予防接種を済ませ、基礎疾患がある場合は必ず受診し治療しておくようにしましょう。お母さんは赤ちゃんを迎えられるように身体的、精神的に健康な身体を作っておく必要があります。禁酒はストレスのない程度に行うことが良いでしょう。
流産の診断、治療は?
流産の診断は内診、超音波検査、血液検査にて行われます。
妊娠20週以前に子宮頸管が開大している場合は流産は避けられません。
現在の医療では妊娠12週までの切迫流産に対して予防薬はないといわれています。
切迫流産では運動を控え、できるだけ安静にし、性交を控えることが有効との報告がありますが、はっきりした科学的根拠はないといわれています。行動制限については担当医師の指示に従い、定期的な診察を受ける必要があります。
完全流産、化学流産に対しては治療の必要がありません。
稽留流産や不完全流産の場合、発熱や身体状態が悪くない場合は自然に出血されるのを待ちます。自然に出てこない場合は外科的処置や陣痛誘発剤を使用します。
感染流産の場合、胎児と胎盤をできるだけ早く取り除き抗菌剤の注射を行っていく必要があります。
反復流産、習慣流産の場合、何らかの原因で子宮内で赤ちゃんが育たない場合があります。担当医と相談して不育症の専門家へ受診し治療していく必要があるかもしれません。
流産後に気を付けることは?
流産を経験した女性はホルモンバランスの変化と赤ちゃんを失った悲しみから、怒り、罪悪感、次の妊娠に対する不安などの感情を生じやすくなります。
赤ちゃんを失った喪失感は自然な反応です。この感情を抑えたり否定することはせずに、自分の気持ちを誰かに話したり、涙を流して悲しんだりして感情を整理していくことが必要です。お母さんは赤ちゃんが流産したのは自分のせいだと罪悪感を感じることもありますが、妊娠11週未満の流産ではほとんど母体の原因ではないことを知っておくことが必要です。次の妊娠に不安がある場合は主治医に相談し必要な場合は検査を受けても良いでしょう。流産をすると次回の妊娠も流産するリスクは高まりますが、ほとんどの女性はまた妊娠し妊娠を継続することが出来ていることを知っておきましょう。
おわりに
流産を経験した女性にとって、流産は人生でとても辛いことの一つと言っても過言ではありません。
正しい知識を得て妊娠による様々な不安を解消し、より良いマタニティライフを過ごせるようにしましょう。
妊娠後には流産の不安があります。初期に起こった流産のほとんどの原因が赤ちゃんの遺伝性疾患、先天性異常が原因です。NIPT(出生前診断)は母体からの採血で胎児の染色体異常を調べることが出来ます。胎児の状態に不安がある妊婦が任意で受ける検査です。
記事の監修者
白男川 邦彦先生
ヒロクリニック名古屋駅前院 院長
日本産科婦人科学会専門医
産婦人科専門医として40年近くにわたる豊富な経験を持ち、多くの妊婦さんとかかわる。
現在はヒロクリニック名古屋駅前院の院長としてNIPTの検査担当医を行う一方、全国のヒロクリニック各院からのオンラインで妊婦さんの相談にも乗っている。
経歴
1982年 愛知医科大学付属病院
1987年 鹿児島大学附属病院 産婦人科
1993年 白男川クリニック 院長
2011年 かば記念病院
2019年 岡本石井病院
2020年 ヒロクリニック名古屋駅前院 院長