妊娠の比較的早い週数から受けられるNIPT(新型出生前診断)と母体血清マーカーは胎児に21トリソミー(ダウン症候群)や18トリソミー(エドワーズ症候群)といった染色体疾患や先天性疾患が見られるかを確認するスクリーニング検査です。
この記事のまとめ
母体血清マーカーは侵襲が少なく、診断に対しては確定できない検査です。特徴として、トリプルマーカーやクアトロテストがあり、現在ではクアトロテストが主流です。トリプルマーカーテストは妊娠14週0日以降、クアトロテストは妊娠15週0日以降であれば妊娠16週前半ころまで受検することができます。母体血清マーカーはNIPTと同様に妊婦さんや胎児への侵襲が少なく、受検する費用も比較的抑えられるのが特徴です。
NIPT(新型出生前診断)と母体血清マーカーの共通点と違い
NIPT(新型出生前診断)は妊娠中の女性から血液を採り、その血液の中に含まれている胎児に関わるDNAを調査して、お腹の中にいる胎児に主に21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、13トリソミー(パトウ症候群)といった染色体の疾患の疑いが見られるかを確かめます。最近行われる検査のパターンによっては、全ての染色体や性別を決める染色体、全常染色体全領域部分欠失・重複疾患なども詳しく確かめられます。
一方で母体血清マーカーはNIPTの特徴に見られるように、妊婦さんから採取した血液の中に含まれるある特定された成分をみて21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、神経管閉鎖障害(開放性神経管奇形)が胎児に見られるかどうかを調べます。
共通点はリスクが小さく結果が確定的でないこと
NIPT(新型出生前診断)と母体血清マーカーの共通点は妊婦さんのお腹にいる胎児に染色体異常や遺伝子疾患が見られるかを確かめる出生前診断であるということです。さらに妊婦さんや胎児に起きるデメリットやリスクが小さい「非侵襲的な検査」であり、そこで出た結果のみでは診断が確かなものとして判断ができない「非確定的な検査」であるのも共通点といえます。
調べるターゲットとなる疾患・実施時期等違いがある
NIPT(新型出生前診断)と母体血清マーカーの主な違いに下に挙げるような点が見られます。
- 検査時期
- 調べるターゲットとなる疾患
- 感度(検査で陽性となった場合に実際に疾患の胎児を妊娠している確率)
- 費用
- メリット・デメリット
NIPTも母体血清マーカーも非侵襲的・非確定な検査といった共通点があるものの、上述のような違いがあるのも押さえるべきポイントです。妊娠初期に受検が検討される出生前診断として検査の特徴、違いを踏まえて受検するのか、それとも初めから受検せずに妊娠期間を過ごすのかなど決めていくのが大切でしょう。
ここからはNIPTと母体血清マーカーの特徴やメリット・デメリット、2つの検査の違いについて解説します。
NIPT(新型出生前診断)とは
NIPT(エヌアイピーティー、ニプト、非侵襲性出生前遺伝学的検査)は「Non-Invasive Prenatal genetic Testing」の略称となり、2011年にアメリカで臨床検査が始まり日本においては2013年より臨床にて導入されました。
妊婦さんや胎児への侵襲が少なく感度が高いテストであることが分かっており、多くの機関で実施され毎年NIPT(新型出生前診断)を受検する人も増えています。
妊娠6週以降に血液を採取する
NIPT(新型出生前診断)は妊娠6週以降に採血して血液に浮遊している胎児に由来しているDNAを調べていきます。妊婦さんの血液の中には胎盤を通して胎児に関連するDNAが約1割ほど確認できることから、約2000万のDNAの遺伝子配列を調べることが可能となっています。
結果は2日〜10日前後で受検者に渡され「陽性」「陰性」まれに「判定保留」といった形で通知されます。費用は医療機関にもよりますが約5万円からです。
胎児に見られるある特定の染色体疾患を調べる
NIPT(新型出生前診断)では主にある特定の染色体疾患が胎児にあるのかを調べます。
21番染色体トリソミー
21番目の染色体が1本多く3本となる。知的発達障害や運動発達の遅れ等がある。染色体疾患のある胎児の妊婦さんの結果が陽性になる確率=感度99.9%、染色体疾患のない胎児の妊婦さんの結果が陰性になる確率=特異度99.90%。結果の陽性的中率は40歳妊娠10週目で93.87%。陰性の的中率は99.9%。
18番染色体トリソミー
18番目の染色体が1本多く3本となる。胎児期からの成長の遅れや心疾患等の合併症、知的・運動面での成長の遅れがある。21トリソミー(ダウン症候群)よりも症状は重い。検査の感度99.9%、特異度99.90%。陽性の的中率は40歳妊娠10週目で88.75%、陰性的中率は99%。
13番染色体トリソミー
13番目の染色体が1本多く3本ある。成長の障害や身体の形の合併症などがあり、知的・運動面での成長の遅れがある。21トリソミー(ダウン症候群)・18トリソミー(エドワーズ症候群)より症状が重い。検査の感度は99.9%、特異度は99.90%。陽性的中率は40歳妊娠10週目で71.04%。
最近では追加で以下の疾患もNIPT(新型出生前診断)を受検することで調べることが可能です。
性染色体の異数性
ターナー症候群(モノソミーX)
女性にだけ発生し本来は2本あるX染色体のうちの1本が完全または 部分的な欠如が確認される。著しい低身長や第二次性徴の欠如などがあるが知的な障害はない。
クラインフェルター症候群(47,XXY)
男性のみに発生し第二次性徴の発達不良や女性化傾向等がある。知能低下や著しい障害等はない。
トリプルX症候群(トリソミーX)
女性のみに発生し身体的な障害等はない。
ヤコブ症候群(XYY症候群)
男性のみに発生し高身長の他に外見上の特徴はすくない。
全染色体異数性検査
1〜22番染色体と性染色体を含めた全ての染色体を検査する。
全常染色体全領域部分欠失・重複疾患
全染色体や染色体の構造の異常があるかを確認する全常染色体全領域部分欠失・重複疾患などは実施される医療機関も限られており、すべての医療機関で実施されるのではありません。
妊娠早期に行える精度の高いものである
NIPT(新型出生前診断)のメリットは侵襲の低いテストであり、妊娠の早期に行えて他の出生前診断に比べて精度が高いのも特徴となります。確かめることが可能な胎児疾患も染色体疾患や性染色体異常、全常染色体全領域部分欠失・重複疾患といった幅広い疾患も含めることが可能です。
ただしNIPTを行うだけでは全ての染色体疾患や異常の診断を確定的なものにすることはできません。陽性の時は希望をすれば羊水を採取する検査などを受けて確定診断を行わなればならず、こうした確定診断を受検すべきかどうかも事前に夫婦で決めることが求められます。
母体血清マーカーとは
母体血清マーカーはいくつか実施されている出生前診断のうち侵襲が少なく、診断に対しては確定できない検査でもあり、1994年に海外より日本に導入されました。採血をして特定の成分を詳細に調べることを通じて、21トリソミー、18トリソミー(単胎妊娠のみ)、神経管閉鎖障害(無脳症や二分脊椎症などの、神経管が正常に形成されないことから起こる脳や脊髄の障害)である確率を調べていきます。
トリプルマーカーやクアトロテストがある
母体血清マーカーは血液に含まれる2つの成分(AFP・hCG)を調べる「ダブルマーカーテスト」がはじめに普及し、その後確認する成分の数が増え「トリプルマーカーテスト」「クアトロテスト」が開発され、現在ではクアトロテストが主流です。トリプルマーカーテストは妊娠14週0日以降、クアトロテストは妊娠15週0日以降であれば妊娠16週前半ころまで受検することができます。
ダブルマーカーテスト
AFP(α-フェトプロテイン:胎児から分泌されるホルモン)とhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン:胎児の肝臓で生成される)の結果を組み合わせる
トリプルマーカーテスト
AFPとhCG、uE3(非抱合型エストリオール:胎児の副腎皮質ホルモンや肝臓、胎盤から生成される)の結果を組み合わせる
クアトロテスト
AFP・hCG・uE3、InhibinA(インヒビンA)の結果を組み合わせる
それぞれの成分は胎児や胎盤から妊娠中から生成される成分といわれ、妊娠経過が進むにつれて含まれる量が増えたり減ったりします。さらに胎児に対象疾患がある時も量が増減が確認されます。
クアトロテストは妊娠15日0日〜21週6日まで受けられますが、陽性の時は羊水検査の受検をあらかじめ考えた上で妊娠18週頃までに受検することが勧められます。クアトロテストでは4つの成分の値に下に挙げる要素を含めて対象疾患の罹患率を求めていきます。
- 年齢、日本人の基準値(測定値に人種間の違いがある)
- 妊娠何週かどうか(妊娠が進むと成分量が変化する)
- 体重(体重の違いから成分の希釈が異なる)
- 家族歴(21トリソミーや神経管閉鎖障害の家族歴があるか)
- インスリン依存性糖尿病(既往歴のある妊婦さんの成分量が違うといった報告がある)
クアトロテストでは4つの成分と上述の因子を使って妊婦さんそれぞれに予測される確率を測定します。年齢が上がるほど胎児の罹患率も上がることが分かっています。
3つの胎児疾患の確率を確認する
クアトロテストで確認が可能な胎児疾患は以下の通りとなっています。
- 21トリソミー(ダウン症候群)
- 18トリソミー(エドワーズ症候群)
- 神経管閉鎖障害(無脳症や二分脊椎症などの開放性神経管奇形)
陽性率は妊婦さんの年齢35歳〜39歳では約18%、40歳以上は約40%となり、35歳以下では陽性率も5%程度です。結果の受け渡される間は約1〜2週間、費用は2〜3万円ほど必要です。
陽性の時は確定的な診断を導く検査の受検を考える
クアトロテストは「1/500」のように確率で結果が出されることになります
これは「1/500」の結果が判明した妊婦さんのうち1人に対象疾患のある胎児を妊娠している確率を示していることになります。
母体血清マーカーはNIPT(新型出生前診断)と同様に妊婦さんや胎児への侵襲が少なく、受検する費用も比較的抑えられるのが特徴です。考慮する点は非確定な診断となること、陽性の時は羊水を採取して調べる検査など確定的な診断を導く検査を受検するかどうかを考えなければなりません。
NIPT(新型出生前診断)と母体血清マーカーの違い
NIPT(新型出生前診断)と母体血清マーカーの共通点は主に2つです。
- 採血だけで分かる検査であることから妊婦さんや胎児への影響が少ない
- 検査の結果が意味するのは診断として確定的にならないものである
2つの検査に見られる違う点
NIPT(新型出生前診断)
- 時期:妊娠10週0日以降
- 対象:21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、13トリソミー(パトウ症候群)、性染色体・全染色体・微笑欠失疾患の異常(機関による)
- 感度:99%以上
- 費用:約5.5〜26.4万円(税込)
母体血清マーカー
- 時期:妊娠15週0日〜18週頃
- 対象:21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、神経管閉鎖障害(開放性神経管奇形)
- 感度:21トリソミー(86.67%)、18トリソミー(77.27%)、神経管閉鎖障害(開放性神経管奇形)(82.98%)
- 検査費用:約2〜3万円
主な違いは検査が受けられる時期です。
NIPTは妊娠6週からですが母体血清マーカーは妊娠15週からであり、NIPTはより早い時期から胎児の状態を把握することができます。
またNIPT精度がより高く、21トリソミー(ダウン症候群)では感度(検査が陽性で赤ちゃんを出産したあとも陽性である確率)95%、特異度(検査が陰性で赤ちゃんを出産したあとも陰性である確率)96.5%であるのも特徴です。
母体血清マーカーと比べたヒロクリニックNIPTのNIPT(新型出生前診断)の特徴
ヒロクリニックNIPTのNIPT(新型出生前診断)では通常のNIPTにプラスして全染色体や全常染色体全領域部分欠・重複疾患検査等がオプションで受けることが可能です。従来のNIPTや母体血清マーカーテストと比べて確かめられる胎児疾患の種類が多くなるというわけです。
クリニック提携の検査機関の羊水検査サポートを利用するなど条件が整うと、NIPT陽性時の羊水検査費用を最大で20万円まで(1回のみ)補助を受けることができるのも特徴でしょう。
まとめ
NIPT(新型出生前診断)や母体血清マーカーは妊娠の早い時期から受けられる妊婦さんや胎児にリスクが少ない検査です。NIPTでは21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、13トリソミー(パトウ症候群)や追加で全ての染色体や性染色体、全常染色体全領域部分欠失・重複疾患などが胎児に見られるかを確かめることが可能です。母体血清マーカーテストでは21トリソミー(ダウン症候群)や18トリソミー(エドワーズ症候群)、二分脊椎症などの神経管閉鎖障害を調べます。
ここで取り上げた2つの検査は出てきた結果だけでは診断が確定できない検査であり、診断を確定的なものとするためには羊水を採取する検査等を受検することが必要となります。
一般に羊水を採取して調べる検査は妊娠15週以降に行われており2〜3週間後に結果が渡されます。NIPTや母体血清マーカーが陽性で羊水検査を受検すると決めた場合には、最終的な診断が分かるまで時間がかかることも押さえておきましょう。
妊娠の比較的早い週数から受けられるNIPT(新型出生前診断)と母体血清マーカーは胎児に21トリソミー(ダウン症候群)や18トリソミー(エドワーズ症候群)といった染色体疾患や先天性疾患が見られるかを確認するスクリーニング検査です。
記事の監修者
非公開: 岡 博史先生.
NIPT専門クリニック 医学博士
慶應義塾大学 医学部 卒業