概要
重症複合免疫不全症(SCID)は、免疫系に生命を脅かす問題を引き起こす非常にまれな遺伝性疾患です。これは一次免疫不全の一種で、劣性遺伝疾患です。
DCLRE1C遺伝子(10p13)のヌル変異の結果、V(D)J組換えの欠陥が生じ、B細胞とT細胞の両方の成熟が早期に停止します。
アサバスカ型を引き起こすSCIDA遺伝子は、染色体10pのマーカーに関連付けられていますが、この疾患の病因におけるその同一性と役割は不明です。
アサバスカ型においては、この病気は以下の別名で呼称されます。
- SCIDA
- アサバスカ型重症複合免疫不全症
- アサバスカ諸語型重症複合免疫不全症
発育中の赤ちゃんでは、免疫系は骨髄で始まります。そこにある幹細胞は、3つの異なるタイプの血液細胞のいずれかになります。
- 赤血球
- 白血球
- 血小板
リンパ球には、B細胞とT細胞の2つの主要なタイプがあります。
SCIDでは、体にリンパ球が少なすぎるか、正常に機能しないリンパ球があります。
免疫システムが正常に機能しないため、細菌と戦うことが困難または不可能になる可能性があります。ウイルス 、バクテリア 、および菌類における感染症を引き起こします。
疫学
約5万人に1人の頻度で発症します。
原因
リンパ球の分化障害を主たる原因とします。
SCIDのタイプにより、酵素の欠乏や遺伝的問題において引き起こされることがあります。
症状
主な症状は易感染性です。
重症である場合には感染が改善せず、致命的となることもあります。
好中球や抗体産生の異常による疾患の場合は細菌感染が多く、T細胞などの異常ではウイルスや真菌感染が多い傾向が認められています。
また、出生後すぐに以下のような症状から発覚することもあります。
- 成長障害
- 慢性下痢
- 頻繁に、しばしば深刻な呼吸器感染症
- 口腔カンジダ症(口の中のイースト菌感染症の一種)
- また、次点のような、深刻で治療が難しい可能性のある他の細菌、ウイルス、または真菌感染症
- 耳の感染症(急性中耳炎)
- 副鼻腔感染症(副鼻腔炎)
- 皮膚の発疹
- 髄膜炎
- 肺炎
乳児期早期に発症することの多い重症複合免疫不全症の場合は早急に治療を必要とします。
診断
以下の項目により診断されます。
- リンパ球減少症
- T細胞の欠如または著減
- マイトジェンに対するリンパ球増殖反応障害の検出
また、新生児の血液検査から発見することも可能です。
治療
軽症例では、抗菌薬、抗ウイルス剤、抗真菌剤の予防内服が効果的とされています。
抗体欠乏を主とする免疫不全症では、月1回ほどの静注用ヒト免疫グロブリン製剤の補充により感染はほぼ予防できます。
好中球減少症ではG-CSFの定期投与、慢性肉芽腫症ではIFN-γの定期投与の効果が認められています。
重症な場合は、早期に骨髄や臍帯血による造血幹細胞移植が有効とされます。
しかし、合併症、とくに感染症を発症している場合移植予後不良となる可能性が高くなります。
予後
軽症例では、抗菌薬の予防的内服やヒト免疫グロブリンの補充療法などにより、通常の日常生活が送れます。
重症複合免疫不全症などは、造血幹細胞移植をしないと多くは2歳以上まで生存できないとされます。
また、慢性肉芽腫症などは予防内服をしていても、30歳以上になるとかなり予後不良となります。