染色体異常とは、ヒトの遺伝情報であるDNAが収納されている染色体に、数の異常や構造の異常が起こることによって、様々な遺伝子の働きに異常が生じて症状が出てくる状態を指します。ここでは、染色体の基本的な知識や染色体異常について解説していきます。
はじめに
染色体異常とは、ヒトの遺伝情報であるDNAが収納されている染色体に、数の異常や構造の異常が起こることによって、様々な遺伝子の働きに異常が生じて症状が出てくる状態を指します。先天性疾患の約25%を占めると言われており、ダウン症候群は最もよく知られた染色体異常です。
ここでは、染色体についての基本的な知識や染色体異常が起こる原因と関連する疾患・検査について解説していきます。
染色体とは
染色体とは、ヒトの細胞の中にある「核」に存在し、ヒトの遺伝情報であるDNAが連なっている鎖が折りたたまれた棒状の構造物です。生物種によって核内に存在する染色体の本数は異なり、ヒトの場合46本ですが、マウスは38本、イヌは78本などとなっています。
染色体は、父親から受け継ぐものと、母親から受け継ぐものがペアとなって2本ずつセットになって存在しています。つまり、ヒトの場合は23対46本の染色体が存在しているということになります。染色体は遺伝子の集合体であり、1本の染色体には数百~数千個の遺伝子が存在しています。
常染色体
染色体は大きく分けて性別を決定する性染色体と、それ以外の常染色体とに分かれます。ヒトでは性染色体は1対2本、常染色体は22対44本が存在しています。基本的には長いものから順に1番染色体、2番染色体、・・・と名前が決められています。(実際は発見時の誤りがあったため、21番染色体は22番染色体より短くなっています。)
性染色体
性別を決定する性染色体は、ヒトの場合X染色体とY染色体の2種類が存在しています。男性はX染色体とY染色体を1本ずつ、女性はX染色体を2本持っています。
染色体の数的異常
染色体の異常は、数的異常と構造異常とに大きく分けることができます。数的異常とは、本来2本ペアである染色体が3本に増えてしまったり、逆に1本に減ってしまったりすることで生じます。21番染色体が3本になってしまうことで発症する事が多いダウン症候群は染色体の数的異常が原因です。
構造異常は、染色体の数は正常ですが、染色体の一部が欠けていたり、重複したり、位置が入れ替わっていたりすることで遺伝子の働きに異常が生じます。最初に数的異常について詳しく説明していきます。
染色体の数的異常が起こる原因
ヒトの精子と卵子は、細胞分裂して発生する過程で2本づつ23対の染色体から1本づつが選ばれて、半分の23本の染色体に分かれてしまいますが(これを「減数分裂」と呼びます)、受精すると父親由来の23本と母親由来の23本が合わさって再び46本の染色体に戻り、子供に受け継がれていきます。
しかし、何らかの原因でいずれかの染色体がうまく分離せず2本とも精子もしくは卵子に入ってしまい、異常な精子や卵子ができることがあります。これを「染色体不分離」と呼びます。そのようにしてできた異常な精子や卵子が、正常な精子や卵子と受精すると、1本+2本でいずれかの染色体を3本持つ受精卵ができます(3本の染色体が存在することを「トリソミー」と呼びます)。
逆に、いずれか染色体が1本もない異常な精子や卵子ができて、正常な精子や卵子と受精すると、いずれかの染色体が1本しかない受精卵ができます(1本の染色体しか存在しないことを「モノソミー」と呼びます)。
このような原因で21番染色体が3本になってしまうことで生じるのがダウン症候群で、その90〜95%が染色体不分離により生じると考えられています。染色体不分離と高齢出産が関係あることは知られていますが、詳しいメカニズムはまだ解明されていません。また、染色体の数的異常により起こる疾患は遺伝子が関わる疾患ですが、染色体不分離が起こるのは突然変異であることが多く、両親から遺伝することは稀です。また、妊娠中のストレスなどの外的な要因で染色体異常が生じるということもありません。
染色体の数的異常によって起きる疾患
染色体の数的異常によって起こる代表的な疾患は、下記のとおりになります。
常染色体の数的異常
・21トリソミー(ダウン症候群):21番染色体が3本になることで生じます。最も頻度の多い染色体異常疾患です。鼻が低い、耳が小さい、目がつり上がっているといった特徴的な顔つきをしています。
・13トリソミー(パトウ症候群):13番染色体が3本になることで生じます。口唇口蓋裂、大きい鼻、頭が小さいといった特徴がみられます。
・18トリソミー(エドワーズ症候群):18番染色体が3本になることで生じます。後頭部の突出、耳の位置が低い、顎が小さいといった特徴がみられます。
性染色体の数的異常
・ターナー症候群:X染色体が1本しかないことで生じる疾患で、女性に最もよく見られる染色体の数的異常です。低身長、翼状頸や無月経などの症状が起こります。
・クラインフェルター症候群:性染色体がX,X,Yの3本になることで生じる疾患です。男性に見られる染色体異常で、高身長や乳房腫大、精子の機能異常などの症状が見られます。
染色体の構造異常
染色体の構造異常では、染色体の数は正常ですが、染色体の一部が欠けていたり、重複したり、位置が入れ替わっていたりすることで遺伝子の働きに異常が生じるような状態です。
染色体の構造異常が起こる原因
染色体の構造異常が起こる原因は、精子や卵子、受精卵が発生していく過程で新しくできる場合(de novo: デ・ノボ)、と両親が持つ構造異常が遺伝する場合の2つが主に考えられています。
染色体の一部が欠けている状態を「欠失」、染色体の一部が重なってしまう「重複」、染色体の一部の位置が入れ替わってしまう「相互転座」などが主な構造異常のパターンです。
染色体の構造異常によって起きる疾患
染色体の構造異常によって生じる疾患は、ヒロクリニックNIPTホームページ「全常染色体全領域部出欠失、重複疾患とは」をご参照ください。
染色体の構造異常の遺伝
染色体の構造異常による疾患は、両親から遺伝する可能性があります。両親のどちらかに染色体の構造異常を持っている場合、50%の確率で子供に遺伝します。
染色体異常と流産
流産と診断された50-70%に染色体異常が伴うと考えられており、染色体の数的異常が起きた場合、75%が妊娠8週までに流産となることが知られています。構造異常の場合、10-20%の確率で流産となるといった報告があります。
染色体異常の検査
染色体異常を調べるためには、出生前や出生後に検査を行い正確に診断を行う必要があります。
染色体異常がわかる検査の種類
クアトロ検査
出生前に染色体異常を検出する血液検査としては、「クアトロテスト」と呼ばれる、母親の血液中のβ−hCG、非抱合型エストリオール、インヒビン、αフェトプロテインという4種類のマーカーを測定する方法があります。保険適用はされませんが、比較的安価に行なうことができます。ただ、ダウン症候群と18トリソミー、開放性神経管奇形という限られた疾患にしか対応していないことや、診断精度が高くないことが問題点です。
羊水検査
血液を用いた検査で染色体異常が疑われた場合は、診断を確定するために羊水検査が行われます。超音波検査で胎児や羊水の状態を調べながら、細い針を刺して羊水を採取します。羊水中に含まれる胎児の細胞を調べます。
血液検査と比較すると体に負担をかけるため、1000人に数人程度の割合で流産をする可能性があります。また、羊水が漏れ出たり、お腹が張ったり、感染を起こしたりするリスクもあります。
NIPT(新型出生前診断)とは
最近は新型出生前診断(NIPT:non-invasive prenatal genetic testing。直訳すると「非侵襲性出生前遺伝学的検査」)と呼ばれる検査も行われるようになってきました。クアトロテストと同様に母親から血液を採取する検査ですが、母親の血液中にある赤ちゃんのDNA断片を解析して、染色体の病気や異変を調べることができる新しいスクリーニング検査です。クアトロテストに比較して検査の信頼度は高いですが、この検査も保険適用外で費用が高くなっています。また、施設によって高齢であることなどの条件を設けている場合もあります。ヒロクリニックNIPTでは、このNIPT(新型出生前診断)をエコー検査で妊娠が確認できたらすぐに受ける事が可能です。
これらの検査はいずれも診断が確定できるわけではなく、あくまでスクリーニングのための検査であり、確定診断には羊水検査が必要です。
まとめ
染色体異常には、染色体の本数に異常がある数的異常と染色体の一部に異常がある構造異常とに分かれます。ダウン症候群は数的異常の代表的な疾患です。数的異常は突然変異が多いのに対し、構造異常は両親から遺伝することがあります。これらの染色体異常を調べるため、最近はNIPT(新型出生前診断)と呼ばれる血液で行うことができる新しい検査が導入されています。
【参考文献】
- 日本産婦人科医会 – 染色体異常
染色体異常とは、ヒトの遺伝情報であるDNAが収納されている染色体に、数の異常や構造の異常が起こることによって、様々な遺伝子の働きに異常が生じて症状が出てくる状態を指します。ここでは、染色体の基本的な知識や染色体異常について解説していきます。
記事の監修者
新田 啓三先生
ヒロクリニック札幌駅前院 院長
分娩時年齢の高年齢化に伴い、NIPTのニーズは高まっています。
そして今後、NIPTの精度や検査可能な項目もまた、増えていくことと思います。
当院では、そうした今の医療で知り得る、そして知りたい情報を適切に妊婦さんにお伝えする義務があると考えています。
知る権利とともに知らない権利もまた存在します。
「知りたくない情報は知らせない」のもまた医療の義務と考えます。
当院では知りたい情報を選択できます。
どのプランにしたら良いかご相談いただき、是非、ご自身に合った検査を選択してください。
略歴
1996年 埼玉医大総合医療センター
2002年 神奈川県立こども医療センター
2004年 国家公務員共済組合連合会横浜南共済病院
2010年 横須賀市立うわまち病院
2012年 市立三笠総合病院
2015年 医療法人社団緑稜会ながぬま小児科
2019年 国民健康保険町立南幌病院
資格
アレルギー学会
小児アレルギー学会