はじめに
子宮筋腫とは子宮にできる良性腫瘍であり、4人に1人の女性が子宮筋腫を持っているといわれている病気です。
悪性腫瘍(がん)ではないため、小さいものであれば緊急的な処置の必要はありませんが、筋腫が大きくなると重症な生理痛、貧血、時には不妊の原因となるため、経過を見ていき治療が必要な場合は治療を行っていく必要があります。
今回は子宮筋腫について、解説していきたいと思います。
子宮筋腫とは
子宮にできる筋肉組織由来の良性腫瘍であり、若い世代から閉経後の女性までにみられます。
筋腫は卵巣から分泌されるホルモンによって大きくなるため、閉経すると小さくなっていきます。筋腫が小さいうちには無症状の場合も多く、がん検診や妊娠時に偶然発覚するというケースも多くあります。
子宮筋腫が大きくなった場合、妊婦のようなお腹となり、お腹を触れるとコリコリ、ボコボコした腫瘤が触れることもあります。
子宮筋腫の種類
子宮筋腫は発生する部位により、漿膜下筋腫、筋層内筋腫、粘膜下筋腫に分けられます。
漿膜下筋腫
子宮の外側に発生し、数が多くなるまで症状が乏しいのが特徴です。
筋腫が大きくなると周りの臓器を圧迫し便秘や頻尿などの症状が生じることがあります。
また、茎部がねじれると激痛をおこすことがあり(有茎性漿膜下筋腫)、重症例ではショックを起こす場合もあります。
筋層内筋腫
子宮の筋肉の中に発生する筋腫。
7割近くの子宮筋腫が筋層内に発生します。
小さいものでは症状はあまりありませんが、大きくなると子宮が変形し不正出血や不妊、流産、早産の原因となる可能性もあります。
粘膜下筋腫
他の部位の筋腫に比べ、小さいうちから過多月経、過長月経、月経痛などの症状が出やすく、貧血にもなりやすいとされています
筋腫が大きくなると、子宮内膜が薄く引き伸ばされて出血しやすくなり、不正出血、月経過多、不妊の原因となります。
子宮筋腫の原因
筋腫ができる原因は解明されていませんが、遺伝子の変異と卵巣からでる女性ホルモンが筋腫の成長に関係していると言われています。
若いと高校生頃から生じることがあり、30代、40代に急増、その後閉経するまで大きくなり続け筋腫の数も増加することがあります。
大きさと数の増加には個人差があり、長期間変化がない方、急激に増える方と様々です。
卵巣から出る女性ホルモン関係が関与しているため、閉経前後より筋腫は小さくなっていきます。
子宮内膜症では晩婚化、少産化が関係していると考えられていますが、子宮筋腫は無関係といわれています。
子宮筋腫の症状
主な症状を挙げています。小さい筋腫であれば、無症状の方もいます。
- 月経過多(生理の経血の量が多い)
- 過長月経(生理の期間が長い)
- 月経困難症(生理痛が酷い)
- お腹に腫瘤が触れる
- 貧血
- 頻尿
- 排尿困難(おしっこが出しにくい)
- 便秘
- 腰痛
- 不妊
- 流早産
子宮筋腫の診断
内診、超音波検査で診断します。
大きな筋腫、手術の必要性がある場合などは必要に応じてMRI検査をすることがあります。
大きい筋腫ではまれに子宮肉腫であることがあり、MRI検査は重要になります。
内診、超音波検査では子宮筋腫と子宮肉腫の区別が出来ません。
子宮筋腫の治療
小さい筋腫や無症状の筋腫の場合、大きくない筋腫の場合(筋腫の直径が6センチ以下、あるいは子宮全体が握りこぶし以下)治療の必要はなく定期的に検診を受ける経過観察になります。
子宮筋腫は悪性腫瘍へ変化しないといわれています。
サイズの大きいもの(筋腫の直径が6cm以上、あるいは子宮全体が握りこぶし以上)、自覚症状が強く生活に支障が出ている場合などは治療の対象になります。
治療法は主に手術療法と薬物療法があります。
手術療法では主に子宮をとってしまう方法(子宮全摘)と筋腫だけを取る方法(筋腫核出術)があります。
将来妊娠の希望がある、子宮を残す希望が強い方の場合は筋腫だけを取る手術が選択されます。
小さな筋腫は取り残されることもあり、子宮筋腫が再発することもあります。
手術方法は開腹手術、最近では腹腔鏡下での手術が増えてきているようです。
薬物療法では偽閉経療法(薬で月経を止める)、低用量ピルの内服、子宮内黄体ホルモン放出システム、鉄剤、鎮痛剤内服による対症療法があります。
偽閉経療法では点鼻薬、注射薬、内服薬があります。
この方法では女性ホルモンの分泌を抑え、月経が起こらないようにするため、更年期障害のような症状がでたり、将来の骨粗しょう症のリスクを高める恐れがあるため、半年以上薬を使い続けることはできません。
また、治療中は子宮筋腫が小さくなりますが、薬剤を中止すると子宮筋腫は元の大きさに戻ります。
手術前に筋腫を小さくする、閉経前に一時的に使用する、という目的で行われます。
低用量ピルの内服、子宮内黄体ホルモン放出システムでは子宮内膜の発育を抑制し、月経過多や月経困難症を軽減する方法です。
子宮筋腫を小さくする治療ではありません。
鉄剤や鎮痛剤も同様で子宮筋腫を小さくするためではなく、貧血症状の緩和、月経困難症の緩和目的で使用されます。
その他、子宮動脈塞栓術といわれる子宮に繋がる血管を塞ぐ方法もあります。
子宮筋腫で食事や生活で気を付けることは?
多くの病気では生活習慣と関与がありますが、子宮筋腫では生活習慣で筋腫を予防する方法、増大を止める方法はないと言われています。
過度なダイエットやタバコを吸って筋腫が小さくなった、などの情報が流れているようですが、予防、治療法としてはお勧めすることはできません。
また民間療法として、ブログなどでは紫イペを飲んだことで子宮筋腫が小さくなる、なくなるとの噂もあるようですが、残念ながら医学的な根拠は現在のところ見つかっていないようです。
子宮筋腫と不妊、妊娠、出産
子宮筋腫の症状をみると多くの場合、不妊、流産、早産という言葉を目にすると思います。
妊娠を希望され子宮筋腫を持っている女性には不安を煽る情報でしょう。
粘膜下筋腫では子宮内膜に変形が起こり、着床障害による不妊症になることがありますが、すべての子宮筋腫が不妊や流産、早産に影響を及ぼす訳ではありません。
しかしまれに妊娠中に子宮筋腫が増大してしまうことがあります。
その場合には妊婦さんに痛みが生じたり、血栓症を起こすことがあります。
子宮筋腫が赤ちゃんの発育や産道へ影響がある場合、帝王切開を選択されることがあります。
最近では不妊治療と子宮筋腫の治療を並行しながら妊娠に成功した、という妊婦さんも多くいらっしゃいます。
子宮筋腫があっても赤ちゃんに異常がでる確率が高まると言った心配はありませんが、どうしても赤ちゃんの状態が気になる妊婦さんは多いのかと思います。
最近では精度の高いNIPT(新型出生前診断)を行う施設も増えてきました。
NIPT(新型出生前診断)とはお母さんから採血した血液から胎児の21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー、13トリソミーなどの染色体異常を調べる検査のことです。
妊娠中の子宮筋腫の治療
妊娠をきっかけに初めて子宮筋腫が見つかることも多くあります。
子宮筋腫を持ちながらも妊娠中になんのトラブルもなく経過することも多くありますが、流産、早産、出産時のトラブル、出産後出血などを起こすリスクはあります。
妊娠中の子宮筋腫には基本的に保存療法と経過観察になります。
筋腫が邪魔をして妊娠の継続が難しい、という場合には手術療法を選択されることもあります。
おわりに
多くの女性に起こり得る子宮筋腫です。
生理の時の出血が多い、生理痛がひどい、下腹部、腰が重い感じがするなどの症状がある方や不妊で悩んでいる方は一度婦人科に受診すると良いでしょう。
記事の監修者
岡 博史先生
NIPT専門クリニック 医学博士
慶應義塾大学 医学部 卒業