この記事のまとめ
ダウン症の赤ちゃんでは離乳食を開始する条件が整うのにやや時間がかかります。準備ができていないところで開始してしまうと誤嚥や窒息のリスクがあるので注意が必要です。5~6か月以降、遅くても7~8か月頃には開始できると言われています。
はじめに
ダウン症児は身体的な特徴で発達がゆっくりであることから、離乳食も注意していく必要があります。今回はダウン症児の離乳食の進め方、注意点について解説していきます。
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ダウン症とは?
ダウン症(21トリソミー)とは700人から1000人に1人の発生頻度と言われる21番染色体が1本多く存在することで起こる疾患です。
ダウン症の特性として、筋肉の緊張度が低く、多くの場合、知的な発達に遅れがあります。発達の道筋は通常の場合とほぼ同じですが、全体的にゆっくり発達します。
心疾患などを伴うことも多いのですが、医療や療育、教育が進み、最近ではほとんどの人が普通に学校生活や社会生活を送っています。
近年では「21トリソミー」「18トリソミー」「13トリソミー」を母体血清マーカー検査やNIPT(新型出生前診断)により確率的に診断することが可能になりました。陽性の場合、羊水検査で確定的に診断されます。
これまで、胎児の染色体異常を調べるためには「絨毛検査」や「羊水検査」のように母体侵襲の高い検査をするしか方法がありませんでしたが、赤ちゃんの染色体がかけらになって母体の血液中に流れていることがわかるようになり採血での検査が可能となりました。
ダウン症児の身体の特徴とは?
ダウン症の赤ちゃんが離乳食を始めるにあたって問題になってくる身体的な特徴としては、上あごが小さい、全身筋の低緊張があげられます。
舌を口にしまって閉じることが苦手、鼻呼吸が苦手、舌を口の中にしまって飲み込むことが苦手なことがあります。
離乳食を開始する条件は?
授乳離乳の支援ガイドによれば
≪開始時期の子どもの発達状況の目安としては、首のすわりがしっかりして寝返りができ、5秒以上座れる、スプーンなどを口に入れても舌で押し出すことが少なくなる、食べ物に興味を示すなどがあげられる。その時期は生後5~6か月頃が適当である。ただし、子どもの発育及び発達には個人差があるので、月齢はあくまでも目安であり、子どもの様子をよく観察しながら、親が子どもの「食べたがっているサイン」に気がつくように進められる支援が重要である≫
とあります。
これはダウン症児にも同様で、「身体的条件」と「食べたがっているサイン」が出ていれば開始しても問題ないといえます。もしまだこの条件が整っていないようであれば開始時期を遅らせる必要があります。
ダウン症の赤ちゃんの離乳食進め方は?
身体の状態が落ち着き上記の条件が揃っていたら、月齢5~6か月頃からドロドロのものをスプーンで食べる練習を始めましょう。 遅くても7~8か月の開始が良いといわれています。
初めは機嫌のいい時間帯にスプーン1匙からゆっくり与え、スプーンや食べ物の感触に慣れさせていきます。スプーンはなるべく平らで柔らかく、底が浅く、幅が狭いものが良いと言われています。
その理由としては、食物を取り込むことを学ぶようにするためです。スプーンを顔の正面から入れて上下の唇を閉め、唇で食べ物の取り込む動作を練習、獲得していきます。
食べるという行為は食べ物を「唇で取り込む」「口の中で処理する」「のどで飲み込む」という3つの行程から成り立ちます。私たち大人は「食べる」という行為を簡単に行っていますが、この行為は練習によって獲得した行為なのです。
食物を食べるための唇の新しい使い方は、赤ちゃんが今まで母乳を飲んでいた時の唇の動かし方とは全く違ってきます。新しいことを練習しないといけないため赤ちゃんにとってはとても難しく、時には時間がかかることがあります。上手く唇を動かせないようであれば、まずは指に付けた食物を舐めさせて、味を感じてもらうという方法もあります。
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ダウン症の赤ちゃんは身体の特徴から「唇で取り込む」「口の中で処理する」「のどでの飲み込む」の行為の獲得にやや時間が必要になってくる可能性があります。
最初はドロドロの形態のものから始め、次第に硬いものへ移行していきます。口の中で唾液と混ぜて噛み砕き飲み込むという行為は難しいため、赤ちゃんが食べにくそうであれば片栗粉やくず、ヨーグルトでとろみをつけてあげると食べやすくなります。
離乳食完了を急ぐ必要はありません。離乳食は赤ちゃんが食べるという行為を練習している時期だということを忘れずに、基本の動作が出来ているか、赤ちゃんに合わせて進めていくことが重要になってきます。一般的にダウン症の赤ちゃんの咀嚼機能は上下の乳歯が生えそろう3歳過ぎ位からようやく可能になります。よって離乳食の完了が3歳位が目安になります。離乳完了が遅くなると心配しがちですが、今は咀嚼しないことを心配する時期ではない、と理解し赤ちゃんと関わっていくことが大切です。
今までは食事形態の話をしていましたが、味付けはどんどん進めても問題ありません。
ダウン症の赤ちゃんが離乳食を進めていく注意点は?
ダウン症の赤ちゃんでは離乳食を開始する条件が整うのにやや時間がかかるとがあると思います。
準備ができていないところで開始してしまうと誤嚥や窒息のリスクがあるので注意が必要です。5~6か月以降、遅くても7~8か月頃には開始できると言われています。
身体的な条件が整っていて親が熱心に離乳食を与えても赤ちゃんが食物に興味がなければ進めていくのは難しいため開始を遅らせる必要があります。
離乳食を始める条件として「口を閉じていられる」「口呼吸をしていない」がありますが、この状態に対してはおしゃぶりトレーニングは有効との説もあります。日本においておしゃぶりは賛否両論様々な意見がありますので一つの方法として紹介しておきます。
ダウン症の赤ちゃんは、口の中の低緊張と舌が大きいために口が閉じにくく舌が前後に大きく動いてしまうということがあります。
よって食物も舌で押し出しやすいので、ついスプーンを口の奥に押しこみがちになります。
また上唇や上顎にスプーンを引っかけて食べ物を口の中へ入れたりすると舌は出たままとなってしまい、これでは上下の唇は閉めて食物を取り込むという動作の練習、獲得が難しくなってしまいます。
大切なことは赤ちゃんが食物を自分で取り込むことを待つことです。
食べ物が口からなくなれば良いと思いがちですが、スプーンをまっすぐにして唇のところにおき、自分の唇で食べものをとり、口の中でゆっくりモクモグしてから飲みこむという一連の動作を確認してしいく必要があります。
食事の量は人それぞれ違いがあります。それは赤ちゃんにおいても同じことです。食べる量が少なくても心配しすぎることはありません。
しかし、食事を拒む「拒食」であれば問題です。
例えば、親が頑張りすぎて赤ちゃんが摂取拒否をしてしまうことがあります。
食事を楽しく赤ちゃんのペースに合わせて、一般的な離乳食の進め方を気にしすぎないようにしましょう。もし拒食が強いようであれば一時的に食事を中止して環境を変えながら様子を見ていく必要があります。長く続くようであれば主治医や専門家に相談するようにしましょう。
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おわりに
ダウン症の赤ちゃんの離乳食を進めていく際、様々なことで苦労することが多いと思います。
悩んだりイライラする中でも、食事は楽しいもの、ご飯は美味しいものということを忘れずに、日々赤ちゃんと関われるようにしましょう。
うまく進まない場合は主治医や専門家に相談することもできますので悩みすぎないようにしましょう。
【参考文献】
- つばめの会 – 「ダウン症のお子さんの摂食指導で思うこと」 昭和大学小児成育歯科学講座 綾野理加
- 厚生労働省 – 授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)
- 日本ダウン症協会 – 「未来の食習慣の形成のために…離乳についてのすすめ」2015年2月第2回山梨ダウン症フォーラム 歯科 武田康男
記事の監修者
水田 俊先生
ヒロクリニック岡山駅前院 院長
日本小児科学会専門医
小児科医として30年近く岡山県の地域医療に従事。
現在は小児科医としての経験を活かしてヒロクリニック岡山駅前院の院長として地域のNIPTの啓蒙に努めている。
略歴
1988年 川崎医科大学卒業
1990年 川崎医科大学 小児科学 臨床助手
1992年 岡山大学附属病院 小児神経科
1993年 井原市立井原市民病院 第一小児科医長
1996年 水田小児科医院
資格
小児科専門医