お母さんのお腹に新しい命が宿っても全てが出産に至らない事があります。 その代表的な症状に流産と早産があり、その一歩手前には切迫流産と切迫早産があります。 ここでは切迫早産の原因、そして切迫早産と診断された時の注意点と治療方法などをまとめました。
この記事のまとめ
切迫早産とは早産になりかかった状態のことをいいます。原因として子宮内感染、多胎妊娠、高齢出産(35歳以上)、子宮頸管無力症、子宮筋腫など子宮の病気や異常、ライフスタイルの乱れなどがあります。一般的な症状はお腹の張りや痛みです。主に経口薬か点滴薬で子宮収縮制御剤を投与し治療します。
流産と早産の違い
早産とは、正期産(妊娠37週0日〜41週6日)以前に起こる出産のことをいいます。妊娠の約5%に早産が発生するとされています。
流産と早産の違いは、国によって異なります。日本では妊娠22週0日を境に流産と早産を区別しています。これは、妊娠22週0日よりも前に生まれた赤ちゃんは、お母さんのお腹の外で生きていけない可能性が極めて高いからです。妊娠22週0日から36週6日の間の出産を早産、妊娠21週6日までの出産を流産とそれぞれ呼んでいます。
37週未満に生まれた赤ちゃんは、早産児と呼ばれます。出産時の赤ちゃんの体重を基準とした分類では、2500g未満を低出生体重児、1500g未満を極低出生体重児、1000g未満を超低出生体重児と分類されています。
早産が問題になる理由は、生まれた赤ちゃんに障害が残る確率が高くなるからです。赤ちゃんが出産予定より早く生まれてしまうと臓器がまだ成熟していないため、未熟児網膜症や頭蓋内出血を起こす危険性があります。成熟していない腸や肺への負担も大きくなってしまい、出産後に退院しても脳性麻痺を起こす危険性や、酸素投与が必要なケースもあります。
また、早く生まれてしまった赤ちゃんは体重もまだ軽く抵抗力も弱いので感染症にかかりやすくなります。
妊娠22週で生まれた赤ちゃんの体重は平均500g前後で、この場合NICU(新生児集中治療室)で長期間の治療が必要となります。また、早い週数で生まれた赤ちゃんほど後に重篤な障害が出現する可能性が高くなります。妊娠30週未満で生まれた時には特に注意が必要です。
だからこそ、赤ちゃんが早産で生まれない為には妊娠をしたら定期的な健康診断を受けて早期診断と予防をする事がとても重要です。
早産と切迫早産
切迫早産とは早産が差し迫ったこと、つまり早産になりかかった状態のことをいいます。下腹部の異常な張り感と腹痛や出血、場合によっては子宮口が開きかけて破水してしまうことも少なくありません。破水により羊水が減ることで、赤ちゃんが母体で圧迫されてしまうなど、非常に危険な状態といえるでしょう。
そして、切迫早産は適切な治療により子宮が安定し早産に至らない状態と、早産を避けられない状態に分けられます。
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早産や切迫早産が起きる原因
早産や切迫早産が起きる原因は赤ちゃんとお母さんの両方にあり、それらが相互に関係しています。主な原因としては、子宮内感染、多胎妊娠、高齢出産(35歳以上)、子宮頸管無力症、子宮筋腫など子宮の病気や異常、ライフスタイルの乱れなどがあります。
また、過去に早産の経験があるお母さんはその後の妊娠でも早産になりやすいようです。
まれですが、人工的に早産をさせることもあります。妊娠高血圧症候群、前置胎盤、常位胎盤早期剥離など、お母さんか胎児、もしくはその両方の状態が悪化した場合、また何らかの理由で赤ちゃんがお母さんのお腹の中で生きていけない状態になった時に、計画的に早産をさせてお母さんと胎児の救命を図ります。
子宮内感染
子宮内感染は、腟から子宮に細菌が入って起こります。細菌に感染する事で子宮内に炎症を起こすと、絨毛膜羊膜炎になります。その場合、破水や子宮の収縮(陣痛)を誘発する危険性が高まります。
また、性感染症も切迫早産の原因の一つです。
多胎妊娠
多胎妊娠とは、1回の妊娠で2人以上の胎児を妊娠することです。双子や三つ子などを妊娠した場合、子宮がより大きくなり早産に繋がる可能性が高いです。多胎妊娠の分娩では赤ちゃんの障害や生命の危険の確率が高くなると言われ、一部の施設では帝王切開による計画的な出産を行うところもあります。
高齢出産(35歳以上の出産)
近ごろ女性の社会進出が増えてきた事で晩婚化が進み、高齢出産の機会が増えています。
高齢女性の妊娠では卵子の老化により受精卵の染色体異常による赤ちゃんの21トリソミー(ダウン症候群)の発生確率が高くなります。
もし赤ちゃんに染色体異常があった場合、流産・早産・死産などの可能性も高くなります。
その為にNIPT(新型出生前診断)を行い、母体の血液を採取してお腹の赤ちゃんの遺伝子を検査することを検討しても良いでしょう。
子宮頸管無力症
子宮頸管が開くのは一般的に陣痛の後ですが、陣痛が起こらずに子宮口が開く症状の事を子宮頸管無力症と言います。こうなると陣痛より前に赤ちゃんが出てきてしまいます。
また、子宮頸管が短いことは明らかな早産の原因となりますが、子宮頸管が短くなる原因についてはっきりとしたことはわかっていません。
子宮頸管無力症と診断されている場合は、あらかじめ子宮の入り口である子宮口を縛る手術(子宮頸管縫縮術)を行うと、早産を起こす可能性を低くすることができます。
子宮の病気や異常
子宮そのものの病気や形の異常があると、早産が起こりやすくなることがあります。例えば、子宮頸がんや子宮筋腫などにより子宮の形が変形した場合です。これらは胎盤の大きさや位置の異常につながるからです。また円錐切除術という手術を受けたお母さんも早産になりやすい傾向があります。
ライフスタイルの乱れ
無理なダイエットによる痩せすぎや、妊娠中の飲酒・喫煙など、ライフスタイルの乱れも早産の原因となり得ます。十分な栄養が行かずに、赤ちゃんが胎児発育不全になる可能性があるからです。胎児発育不全は羊水過多の原因となり、陣痛より先に破水を起こす危険性があります。過度なダイエットや飲酒・喫煙は、赤ちゃんにとって大きなデメリットとなります。ライフスタイルの乱れはお母さんが自覚すれば改善することが出来るので、後々に後悔しないためにも、早めに生活習慣を改めましょう。
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妊娠高血圧症候群
妊娠時に高血圧症を発症する事が妊娠高血圧症候群です。また、妊娠前からの高血圧症や、妊娠20週目までに発症した高血圧症については、高血圧合併妊娠といいます。妊娠20週以降に発症した高血圧症は「妊娠高血圧症」と言います。
この病気は、妊娠している方に約5%の割合で発症します。妊娠34週未満での早期型の発症は重症化しやすいため注意しなければなりません。重症化するとお母さんは脳出血、けいれん発作、障害の危険性があり、最悪の場合は死に至る場合があります。
妊娠高血圧症候群を発症すると、お母さんと赤ちゃんの両方が危険な状態になる可能性があるので、特に注意が必要です。
切迫早産の兆候と症状
切迫早産には、わかりやすい兆候や症状がある場合とない場合があります。ここでは気が付きにくい切迫早産の兆候と、切迫早産の症状について簡単に説明します。
切迫早産の兆候
気が付きにくい切迫早産の兆候としては、尿もれや発熱などがあります。
尿もれは、大きくなった子宮が膀胱を押すことで起こります。少量の尿と、破水でもれる羊水は区別がつきにくいことがあるので要注意です。
子宮内では赤ちゃんは羊水の中に居ますが、破水とはその羊水を包む膜が破れて羊水が流れ出る状態の事です。破水によって子宮内の羊水の量が減ると、赤ちゃんが圧迫される原因となります。また少量の破水に気が付かず破水が続くと、細菌感染を起こす危険が高くなります。
発熱は、細菌性腟炎や絨毛膜羊膜炎など、細菌の感染を疑う重要な兆候です。発熱がなくても感染を起こしていることはあるのですが、38.0℃を超える発熱が見られた場合は注意が必要です。
腟痙攣などと切迫早産が関係しているという報告はありません。
切迫早産の症状
切迫早産の最も一般的な症状は、お腹の張りや痛みです。これは子宮の収縮によるもので、規則的かつ頻回に起こります。子宮収縮の症状よりも先に破水が起きる事もありますが、破水と子宮収縮が同時に起きる事もあります。
このほか、性器出血が見られることもあります。また切迫早産を止められず早産が起こりそうになると、子宮口が大きく開き赤ちゃんの頭が見えることも稀にあります。
切迫早産の診断
ガイドラインによると、「妊娠22週0日から妊娠36週6日までの妊娠中に、規則的な子宮収縮が認められ、かつ子宮頸管の開大度・展退度に進行が認められる場合、あるいは初回の診察で子宮頸管の開大が2cm以上となっているなど、早産となる危険性が高いと考えられる状態と判断する」場合、切迫早産と診断します。
早産を起こす具体的な危険性の評価としては、早産指数と呼ばれているものがあります。子宮収縮、破水、出血、子宮口の開大度をそれぞれ点数化したもので、点数が高ければ高いほど早産となるリスクが高いとされています。
切迫早産の治療法
切迫早産の治療方法は、子宮口が開く事を抑える為に主に経口薬か点滴薬で子宮収縮制御剤を使用します。
細菌による膣内感染が原因の場合には抗生剤を使用する事もあります。
それほど子宮口が開いていない状態では外来通院での治療で良いのですが、子宮収縮が強く、子宮口の開大が進んでいる状態では安静が必要となり、入院して子宮収縮抑制剤の点滴治療を行います。
早産で生まれた赤ちゃんの生存率
27週6日より前に生まれた赤ちゃんは、生きていく為に必要な器官がまだ完全に出来上がっていない為、NICU(新生児集中治療室)に入る必要があります。
28週0日から33週6日までに生まれた赤ちゃんも、出生直後はNICU(新生児集中治療室)での管理が必要となる場合が多く発生します。
赤ちゃんの生存率は在胎週数が大きく影響します。
在胎週数22週-23週では生存率66.1%、24週-25週では86.5%、26週-27週では94.0%、28週-29週では96.7%、30週-31週では97.5%と、在胎週数が長くなるほど赤ちゃんの生存率は上がります。
赤ちゃんが早産で生まれた場合『32週の壁』という言葉があります。
32週とは妊娠9か月(32週~35週)の時期にあたり、この言葉の意味は早産で生まれた赤ちゃんは正期産で生まれた赤ちゃんの成長に追い付く期間の差の事です。
1歳の段階で追い付けるのは32週未満の場合21%、32週から37週未満の場合69%となるので同じ早産でも32週が一つのポイントとなります。
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切迫早産は予防できる?
切迫早産はお母さんと赤ちゃん両方の原因から起こり得るため、絶対に予防できるという方法はありません。
切迫早産を少しでも防ぐために妊婦さんができることとしては、無理をしないこと、ストレスや過労を溜めないこと、食事や睡眠などを含め規則正しい生活を送ることなどです。長時間労働や動きすぎなども切迫早産と関連があるとする報告もみられます。
特にしてはいけない体勢などはありませんが、長時間立っていたり、前かがみで作業を行うこと、重たい物を持つことは避けましょう。
喫煙は赤ちゃんの発育に悪い影響を与えるとともに早産の危険因子とされています。タバコを吸っている妊婦さんは今すぐ禁煙しましょう。
かかりつけの産科医による妊婦健診を定期的に受けることも、切迫早産の予防には極めて重要となります。妊婦健診では、内診や超音波検査によって切迫早産の兆しがないかなどをチェックしています。妊婦健診は必ず受けましょう。
切迫早産になりやすい人とは
切迫早産になりやすい人は、以下のような人です。
- 過去に早産となったことがある人
- 円錐切除術を受けたことがある人
- 多胎妊娠
- 細菌性腟症の人
- 妊娠中に受けた超音波検査で子宮頸管が短いと指摘された人
これらに当てはまる方は、事前の対処が早産の予防に有効な可能性があります。少しでも早産のリスクを減らすためにも、かかりつけの医師に事前に伝えておくと良いでしょう。
妊娠中期の注意点
妊娠中期での切迫早産は、赤ちゃんの生死に関わる重要な問題です。上に挙げたような切迫早産の兆候や症状が見られた場合は、速やかにかかりつけ医に連絡を取りましょう。
妊娠後期の注意点
正常な妊娠の経過中にはほとんど出血する事はありません。不正性器出血があった時は、子宮口が開きはじめている可能性があるので注意が必要となります。出血により子宮内に血腫が出来ると感染症を起こす危険性が高まります。
また、腟内の細菌バランスが崩れて細菌感染を起こすと、おりものが多くなる事があります。その場合には治療が必要となる場合があるので、かかりつけの産婦人科医師にご相談してください。
まとめ
以上、切迫早産について、その原因や症状などをご説明いたしました。絶対に予防できるという方法はありませんが、少しでも防ぐために無理をせず、できるだけ規則正しい妊娠生活を送るよう心がけましょう。
そして、妊婦健診では、内診や超音波検査によって切迫早産の兆しがないかなどをチェックしていますので、定期的に受けて健やかな妊娠期間を過ごしてください。
【参考文献】
- 公益社団法人 日本産科婦人科医会 – 総論
- 公益社団法人 日本産科婦人科学会 – 産婦人科ガイドライン2020
- MDSマニュアル・小児科 – 早産児
- 今日の臨床サポート – 切迫早産
- 和歌山県立医科大学 産科婦人科 – 産科【 切迫早産 】
お母さんのお腹に新しい命が宿っても全てが出産に至らない事があります。 その代表的な症状に流産と早産があり、その一歩手前には切迫流産と切迫早産があります。 ここでは切迫早産の原因、そして切迫早産と診断された時の注意点と治療方法などをまとめました。
記事の監修者
岡 博史先生
NIPT専門クリニック 医学博士
慶應義塾大学 医学部 卒業