妊娠をすると今までと違う肌質になったり、体質になったりして、自分の体の変化に驚くことがあります。こうした変化が起きた時に気持ちが不安定になることもありますが、妊娠初期のストレスはそのまま胎児に伝わるものなのか説明します。
この記事のまとめ
妊娠初期のストレスにかかわらず、人はストレスを感じると体内にアドレナリンが分泌されます。アドレナリンの働きによって子宮に届く血液量が減ってしまうので、胎児の発育に悪影響が出る可能性があります。体はストレスを感じると血流が悪くなるだけではなく、ストレスホルモンを分泌します。妊娠初期だと胎児まで届いてしまうので、悪影響を与える可能性があります。
妊娠すると起こる体の変化
医学的には妊娠13週6日まで「妊娠初期」、妊娠14週0日〜27週6日までを「妊娠中期」、妊娠28週以降を「妊娠後期」といいます。妊娠初期に体に起こる変化は、肉体的なものから精神的なものまでさまざまです。以下のような変化が起こっていないか、まずはチェックしてみましょう。
妊娠初期に起こる変化
- 全身のだるさ、食欲不振
- しっかり睡眠をとっているのに眠い
- 吐き気、頭痛
- 食べ物の好みが変わる
- 唾液の増加
- 便秘、下痢、腹痛、おなかの張り
このような症状が出てくることに加えて、妊娠すると女性ホルモンのバランスが乱れるので、イライラしやすくなってしまいます。通常時は、主にエストロゲンとプロゲステロンの2種類の女性ホルモンが交互に有利になって女性の体に作用しています。妊娠すると生理の時と同じような女性ホルモンのバランスの変化が起こるため、月経前症候群(PMS)と症状が似ているのも特徴です。
PMSと妊娠初期の症状を見分けるのは無理?
PMSと妊娠初期の症状が似ていますので、本人がPMSなのか妊娠による症状なのかを見抜くのは難しいです。PMSでも出血があったり、微熱が出たりしますし、妊娠初期症状でも出血が出なかったり、微熱が出なかったりすることがあるためです。
ただPMSと妊娠初期の症状はとても似ているのに、その症状の原因になっている女性ホルモン・プロゲステロンの量は大幅に違います。妊娠初期はプロゲステロンの量が通常の100倍にもなっています。プロゲステロンはお母さんと胎児にとって重要な役割を担っていますが、情緒不安定になるという特徴もあるのでイライラしたりしてしまうのです。
妊娠初期にストレスを感じやすいこと
妊娠初期は自分の体の変化についていけず、イライラしたり、涙もろくなってしまったりします。妊娠初期には、以下のようなことにストレスを感じやすいです。
妊娠初期にイライラしやすいこと
- 寝ても寝ても眠気が取れず、仮眠をとることになって予定が狂ったこと
- 旦那がつわりの苦しさを理解してくれなかったこと
- 旦那のお酒の匂いが辛くて我慢しなければいけなかったこと
- つわりがひどい時に食事の準備や後片付けをしないといけなかったこと
- 大好きなお酒が飲めなかったこと
- 体調が悪く、精神状態も不安定で家事が順調に進まなかったこと
このように妊娠初期は慣れない妊娠生活に、戸惑いを感じてしまう人が多いです。特にパートナーが、まだお腹が大きくなっていない妊娠初期の症状の辛さを理解してくれないことに、ストレスを感じる人もいます。
また妊娠初期の段階ではまだ仕事を続けている女性も多いので、仕事と家事の両立が以前のように順調にいかなくなったことが大きなストレスになる場合もあります。以前何も考えなくてもできていたことが、突然するのに抵抗を感じたり、他のことを考えてしまってはかどらなくなってしまったりします。
妊娠初期のストレスは妊娠中期~後期のストレスとは別物
妊娠中の女性が最も大きなストレスと感じるのは、体が動かないことです。大きなお腹を抱えているために自分の足の爪を切れない、急いでいるときに走れない、やらなければならないことをこなせないなどでストレスを感じます。しかし妊娠初期はお腹がまだ大きくないので、ストレスの原因になる事柄は別物です。主につわりや眠気、だるさなどですが、お腹が大きくない分、パートナーや職場の人達など周囲に心配してもらいにくいという事情もストレスを増やしています。
妊娠初期のストレスによる胎児への影響
このように人によってさまざまな原因で感じてしまう妊娠初期のストレスは、胎児にどのような影響を与えるのでしょうか?
妊娠初期のストレスは胎児の発育に悪影響の可能性がある
妊娠初期のストレスにかかわらず、人はストレスを感じると体内にアドレナリンが分泌されます。アドレナリンの働きは人の体を危険から守る状態にすることです。もともとストレスは危険から逃げたり、危険な相手と戦ったりするための信号なので、逃げる行為、戦う行為で重要となる心臓、手足、脳などに血液を集中的に送り届けます。子宮に届く血液量が減ってしまうので、胎児の発育に悪影響が出る可能性があるのです。
妊娠初期のストレスは胎児の精神系に悪影響の可能性がある
体はストレスを感じると血流が悪くなるだけではなく、ストレスホルモンを分泌します。コルチゾールと呼ばれるホルモンで、胎児の胎動や心拍を減らしてしまうことがあります。妊娠中期以降であれば、コルチゾールは胎盤でブロックされて胎児まで届くことがありません。しかし妊娠初期だと胎児まで届いてしまうので、悪影響を与える可能性があるのです。
妊娠初期のストレスが増えている背景
現代の日本人女性の多くは、妊娠初期の段階ではまだ働いています。妊娠したことと仕事と家事を両立しなければならないため、大きなストレスがかかり、胎児に十分な血液が届かない可能性があるのです。胎児は母体からの血液で発育に必要な栄養素、水分を摂取しているため、母体の血流が悪くなるのはとても危険です。コルチゾールは胎児の精神系の発達に悪影響を与えます。
ストレスだけではなく、妊娠中に標準値以上に体重が増えすぎないように管理したり、妊娠中にダイエットをしたりする身体的な要因が重なることもあります。ここ20~30年で日本の新生児の平均体重は200g低下しているといわれています。2500g以下の低出生体重児も増えていますが、低出生体重児は精神疾患をきたす場合がある、成人後に生活習慣病になりやすいなどのリスクがあります。
妊娠初期のストレスが具体的にどれくらい悪影響を与えるのか?
妊娠初期のストレスが具体的にどれくらい胎児に悪影響を与えるのかは、個人差があります。また医学的に証明されているのは「妊娠初期のストレスが胎児に悪影響を与える可能性がある」というところまでです。ストレスは毎日のちょっとした習慣で軽減できるので、実際に悪影響を与えないように対策を打つことができます。
妊娠初期に出来るストレス対策
妊娠初期のストレスが胎児に与える影響は心配ですが、毎日ちょっとしたことをするだけでストレスを軽減できます。ここからは妊娠初期のストレスに効果が期待できる対策を紹介していきます。
妊娠初期のストレス対策
- 体調が悪くなった時に慌てないように余裕を持って予定を組む
- 周囲の人に「妊娠中でイライラしやすく、迷惑をかけるかも」と事前に伝えておく
- 仕事の量を減らしたり、便利グッズを活用して家事の負担を減らす
- 甘えと思わずに実母をはじめとする妊娠・出産経験者に気になることを話す
- 1日に5分は音楽を聴いたり、映画を観たりして感情を開放する
- 甘いものは無添加のものを少しだけ食べる
- ウォーキングや自宅ヨガなど無理のない範囲で運動する
- 妊娠したら誰でもイライラする、泣いてしまうのも仕方がないと受け入れる
- 胎児の発育や母体の体重増加は個人差があると理解する
妊娠初期だけではなく、妊娠中に胎児の発育について不安になるのは当然のことです。個人差があると理解しようとしても不安になってしまう場合は、NIPT(新型出生前診断)を受ける方法もあります。NIPT(新型出生前診断)は出産前にお母さんの血液から胎児の特定の染色体疾患を調べられる診断です。
ストレスはそのままに放置しているとどんどん大きくなっていきます。毎日少しづつ発散しておくことで、妊娠初期の繊細な時期でもストレスを溜めない生活が送れるようになります。
また妊娠初期のストレスを軽減するためには、パートナーの協力が必要です。お酒やたばこの匂いが気持ち悪い場合は、喫煙をベランダでしてもらったり、お酒はできるだけ控えてもらったりしましょう。
そしてどうしても我慢できなくなった時はトイレに行って5分だけ泣いたり、一人カラオケに行き大声で歌を歌ったりして、ストレスを発散してください。妊娠初期の段階で避けられないストレスを感じる予定がある場合は、いつもよりも入念に準備をして当日に備えておき、事前に「体調が悪くなったら途中退席するかもしれない」と伝えておきましょう。
まとめ
妊娠初期のストレスは胎児に悪影響を与える可能性がありますが、具体的な悪影響までは証明されていません。心配しすぎないようにしましょう。またストレスに対しての構え方を知るだけで、大幅に減らすことができます。初期は誰でもイライラするものだと受け入れて、妊娠生活を送りましょう。
【参考文献】
- マイナビ子育て – 妊娠超初期
- ウーマンエキサイト – 「妊娠初期のイライラ」に悩む妊婦さんは80%も!? 原因と解消法は?
- マイナビニュース – 妊娠中、一番イライラしたことは何?
妊娠をすると今までと違う肌質になったり、体質になったりして、自分の体の変化に驚くことがあります。こうした変化が起きた時に気持ちが不安定になることもありますが、妊娠初期のストレスはそのまま胎児に伝わるものなのか説明します。
記事の監修者
白男川 邦彦先生
ヒロクリニック名古屋駅前院 院長
日本産科婦人科学会専門医
産婦人科専門医として40年近くにわたる豊富な経験を持ち、多くの妊婦さんとかかわる。
現在はヒロクリニック名古屋駅前院の院長としてNIPTの検査担当医を行う一方、全国のヒロクリニック各院からのオンラインで妊婦さんの相談にも乗っている。
経歴
1982年 愛知医科大学付属病院
1987年 鹿児島大学附属病院 産婦人科
1993年 白男川クリニック 院長
2011年 かば記念病院
2019年 岡本石井病院
2020年 ヒロクリニック名古屋駅前院 院長