3q13.31欠失症候群は、第3染色体の長腕の一部が欠失することによる希少疾患で、発達遅延や特徴的な顔貌、筋緊張低下などが主な症状です。関連疾患としてZBTB20遺伝子変異によるPrimrose症候群があります。本記事では両疾患の症状や診断、治療について詳しく解説します。
この記事のまとめ
3q13.31欠失症候群は、発達遅延、筋緊張低下、特徴的な顔貌を特徴とする希少な染色体異常症です。さらに、関連するPrimrose症候群では耳軟骨の石灰化や糖尿病など特有の症状も見られます。本記事では、これらの疾患の原因、症状、診断方法、治療法についてわかりやすく解説します。
3q13.31欠失症候群(3q13.31 deletion syndrome)は、第3染色体の長腕にある一部の遺伝情報が欠失することによって引き起こされる希少な染色体異常症です。この疾患は、発達遅延、筋緊張低下(muscular hypotonia、筋力の低下や筋肉の弛緩)、そして特徴的な顔貌を主な特徴とします。顔貌には、広い額、眼間隔が広い(hypertelorism)目、眼瞼下垂(ptosis)、短い人中(philtrum、鼻と上唇の間の溝)、突き出た唇(特に下唇が顕著)などが含まれます。また、脊柱側弯症(scoliosis)をはじめとする骨格異常や、男性における小陰茎(micropenis)などの性器異常もよく見られます。脳や中枢神経系の異常も頻繁に認められ、脳梁の形成不全(agenesis of the corpus callosum)や脳室拡大(ventriculomegaly)が含まれます。
この症候群の臨床症状は個人間で大きく異なり、一部の患者では重度の発達遅延や知的障害、言語の発達障害が見られます。他の特徴には、高い口蓋(high-arched palate)、出生後の平均以上の成長パターン、顔の左右非対称、または手のひらの珍しいしわが挙げられます。
3q13.31欠失症候群に関連する疾患として、Primrose症候群(Primrose syndrome)が挙げられます。両者には共通する特徴もありますが、Primrose症候群はZBTB20遺伝子の病的変異によって引き起こされます。この疾患の患者には、発達遅延や顔貌異常に加えて、耳軟骨の骨化(ossified ear cartilage)、著しい筋肉の消耗(muscle wasting)、およびブドウ糖代謝異常(glucose metabolism abnormalities)が見られます。これにより成人期に糖尿病を発症することがあります。他の特徴としては、大頭症(macrocephaly)、体毛の減少、末端筋肉の萎縮、関節拘縮(contractures)、骨異形成(skeletal dysplasia)、耳軟骨の石灰化が挙げられます。
両症候群は、脳の構造的異常、例えば髄鞘形成の遅れや脳石灰化(cerebral calcifications)なども伴いますが、表現型の多様性が高いことが特徴です。3q13.31欠失症候群の男性患者には性器異常が一般的に見られる一方、Primrose症候群では思春期遅発(delayed puberty)や甲状腺機能異常(thyroid dysfunction)などの内分泌系の異常も加わります。
これらの疾患の診断は、染色体欠失またはZBTB20の特定の変異を確認する分子遺伝学的検査によって行われます。治療としては、言語療法や理学療法、適切な教育プログラムなどの早期介入が重要であり、糖尿病やてんかんといった合併症への対応も含まれます。また、成長や発達のモニタリングを定期的に行い、進行性の症状への早期対応が求められます。
Primrose症候群の原因となるZBTB20遺伝子は、エネルギー代謝や発達プログラムの制御に関与する転写抑制因子です。この遺伝子がコードするタンパク質は、BTB-ZF(Broad-complex, Tramtrack, Bric-a-brac zinc finger)ファミリーに属し、N末端のBTBドメインがタンパク質間相互作用を担い、C末端のC2H2亜鉛フィンガーが標的遺伝子のプロモーターへの結合を仲介します。
疾患の発症メカニズムとしては、優性抑制(dominant-negative mechanism)が提唱されています。このメカニズムにより、正常な遺伝子の機能が阻害されることが考えられています。
3q13.31欠失症候群の発生率は100万人に1人未満と推定される稀少疾患ですが、症例の詳細なレビューにより共通する特徴が明らかになり、臨床的認識と治療戦略の改善につながっています。
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