14q11-q22 欠失症候群

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ザヒール・フリードマン症候群(ZFS)は、14q11-q22領域の欠失が原因となる稀な遺伝性疾患です。CHD8およびSUPT16H遺伝子の異常が関連し、発達遅延や知的障害、特徴的な顔貌異常が見られます。本記事では、ZFSの症状・診断・管理方法について詳しく解説します。

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この記事のまとめ

本記事では、ザヒル・フリードマン症候群(Zahir-Friedman Syndrome, ZFS)について詳しく解説します。染色体14q11-q22欠失症候群とも呼ばれるこの疾患は、14q11-q22領域のヘテロ接合性欠失によって引き起こされるまれな遺伝性疾患であり、特にCHD8遺伝子とSUPT16H遺伝子を含む欠失がある場合、発達遅延、筋緊張低下(低筋緊張)、特徴的な顔貌異常がみられることが報告されています。ZFSの患者には、眼間隔が広い(眼間解離)、低く幅の広い鼻、長い人中(鼻と上唇の間の溝)、はっきりとしたキューピッドの弓(上唇中央の湾曲)、ふっくらとした下唇、特徴的な耳の形態異常などの外見的特徴が多くみられます。14q11-q22領域にはさまざまな疾患関連遺伝子が含まれていますが、ZFSは特に明確な臨床的特徴を持つ疾患として注目されています。本記事では、ZFSの遺伝的背景、主要な特徴、症状の管理方法について詳しく解説し、この疾患への理解を深めることを目的としています。

病気の別称

ザヒール・フリードマン症候群(Zahir-Friedman症候群)

疾患の症状

14q11-q22

ザヒール・フリードマン症候群(Zahir-Friedman症候群)は、14q11-q22欠失症候群とも呼ばれる稀な遺伝性疾患で、染色体14の一部が欠失することで発症します。この疾患は、神経系の働きや身体の成長、顔や骨格の形成など、幅広い領域に影響を及ぼします。症状の現れ方や重症度は個人によって異なりますが、いくつかの共通した特徴が報告されています。

この症候群の最も一般的な特徴の一つが発達の遅れです。知的障害を伴うことが多く、筋肉の緊張が低い(筋緊張低下)ために運動発達が遅れる場合があります。また、頭囲が小さい(小頭症)こともよく見られます。脳の画像検査では、左右の大脳半球をつなぐ「脳梁(のうりょう)」に異常が見られることがあり、未発達(低形成)や一部欠損(無形成)が確認される場合があります。

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顔立ちには特徴的な変化が見られることが多く、目が離れている(眼間開離)、鼻の付け根が幅広く平坦、鼻が短い、鼻と上唇の間の溝(人中)が長い、小さい口、上唇が弓形に強調されるなどの特徴が報告されています。また、顔が三角形に見える、額が突出している(前頭突出)、目頭に皮膚のひだ(内眼角贅皮)がある、目尻が下がっている(眼裂斜下)、耳の形が通常と異なる、唇が厚いといった特徴が見られることもあります。さらに、目の動きに異常があり、目が内側に寄る(内斜視)や、眼球が不随意に動く(眼振)、特に上下に揺れる(垂直眼振)が確認されることもあります。

筋骨格系にも異常が見られることがあり、四肢の筋肉が硬直し力が入りにくい(痙性四肢麻痺)、関節が固まり動かしにくくなる(関節拘縮)、股関節が不安定で脱臼しやすい(股関節亜脱臼)などの症状が報告されています。また、上腕が短い(近位肢短縮)、指が軽度にくっついている(合指症)、首が短い、または皮膚がつながっている(翼状頸)といった特徴も見られます。さらに、顔や胸の片側がやや未発達(片側低形成)である場合や、親指の位置が通常よりも低い(低位付着親指)場合もあります。

ザヒール・フリードマン症候群は、骨格や神経系だけでなく、体のさまざまな臓器にも影響を及ぼすことがあります。心臓の先天性疾患として、心室の壁に穴が開く「心室中隔欠損症」、出生後に閉じるべき血管が開いたままになる「動脈管開存症」、心房の間の穴が閉じない「卵円孔開存」などが報告されています。消化器系の問題も多く、摂食障害により十分な栄養を摂取できず、経管栄養が必要になるケースや、成長不良、慢性的な便秘が見られることがあります。

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また、内分泌系や免疫系にも異常がみられることがあります。成長ホルモンの分泌が不足することがあるほか、通常よりも早く思春期が始まる(思春期早発症)ケースも報告されています。免疫機能に異常がある場合、感染症にかかりやすくなる「一般可変免疫不全(CVID:Common Variable Immunodeficiency)」が発症することもあります。

神経系の症状は発達遅延にとどまらず、てんかんを伴うこともあります。発作の種類としては、意識を失わずに特定の部位が発作を起こす「複雑部分発作」、突然筋肉がピクッと動く「ミオクローヌス発作」、体が後方に強く反る「後弓反張」などが報告されています。また、自閉症スペクトラム障害の特徴を示すことがあり、不安症状や強迫的な行動、運動機能の問題が年齢とともに顕著になるケースもあります。

その他の症状として、腎臓にのう胞ができる、体内の水分調節がうまくいかない「尿崩症」、心拍リズムの異常(洞調律異常)、体温調節が難しい、頻繁な呼吸器感染症、聴覚障害などが報告されています。また、視覚にも影響を及ぼすことがあり、視神経が十分に発達しない「視神経低形成」により、視力低下や失明のリスクが高まることがあります。

管理方法と将来の見通し

ザヒール・フリードマン症候群は、患者ごとに症状の現れ方や重症度が異なりますが、報告されている症例の共通点を分析することで、この希少疾患の遺伝的および発達的特性を理解する手がかりとなります。こうした共通点を把握することで、早期発見や適切な対応が可能となり、個々の患者に応じた医療的および生活面での支援が行いやすくなります。

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発達や神経系の疾患を持つ患者のケアには、個別のニーズに応じた多分野にわたる包括的な支援が必要です。サポートの目的は、生活の質を向上させ、機能を最大限に引き出し、合併症のリスクを抑えることにあります。以下では、主な課題と推奨される評価、治療、介入方法について説明します。

成長や発達のモニタリングは重要であり、特に頭囲の測定を定期的に行いよう注意が必要です。発達の評価では、認知、言語、適応能力、社会性、運動機能などを包括的に検査し、遅れが認められた場合には、早期療育プログラムや特別支援教育を検討します。また、必要に応じて発達小児科医、心理士、言語聴覚士などの専門家への紹介も考慮されます。

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行動や精神面の問題に対しては、詳細な問診と評価が求められます。一般的な問題として、睡眠障害、注意欠如・多動症(ADHD)、不安障害、自閉スペクトラム症(ASD)を示唆する症状が挙げられます。これらの症状が見られる場合は、心理士や精神科医によるさらなる評価や介入を検討します。

神経学的評価では、詳細な病歴聴取と診察が必要です。特に、頭囲が正常範囲を大きく超えている場合や急速に増加している場合、脳脊髄液の流れが阻害されている可能性や脳幹への圧迫症状がある場合には、脳MRI検査を推奨します。また、脊髄機能障害の兆候がある場合には、脊髄MRIの実施も検討されます。発作やてんかんが疑われる場合は、脳波(EEG)検査を行い、必要に応じて神経科医の診察を受けることが望ましいでしょう。

睡眠障害がある場合は、入眠困難や夜間の頻繁な覚醒の有無を確認し、問題が認められる場合には、睡眠ポリグラフ検査(PSG)を実施し、必要に応じて睡眠専門医や心理士への紹介を検討します。

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消化器系や摂食に関する問題として、便秘などの消化器症状がみられることがあります。深刻な場合は消化器専門医への紹介を考慮します。

遺伝カウンセリングは、医療遺伝学の専門家や認定遺伝カウンセラーによって提供されるべきです。このカウンセリングを受けることで、疾患の特性、遺伝の仕組み、将来的な影響について正確な情報を得ることができ、医療および生活上の意思決定に役立ちます。

家族や地域の支援は、全体的なケアの質を向上させる上で重要です。地域の支援サービスやソーシャルワーク、在宅看護のサポートが必要となる場合もあります。「親の会」などの支援グループを活用することも、有益な選択肢の一つです。

発達の遅れや知的障害、行動面での問題に対する支援は、個別教育計画(IEP)をもとに行われるべきです。3歳未満の子どもには、作業療法(OT)、理学療法(PT)、言語療法(ST)、摂食療法などを含む早期介入プログラムを推奨します。3〜5歳の子どもは、地域の発達支援保育プログラムを活用し、体系的な学習と治療を受けることが望ましいでしょう。IEPは毎年見直され、必要に応じて調整されます。

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運動機能の障害に対しては、理学療法によって粗大運動能力の向上や移動能力の強化を図ります。必要に応じて、車椅子、歩行器、適応型ベビーカーなどの補助器具を利用することも考えられます。作業療法では、着替えや身だしなみ、筆記などの日常生活動作を支援します。

言語・コミュニケーションの問題には、言語療法が有効です。表出言語が大きく制限される場合は、絵カードや音声生成装置などの拡大・代替コミュニケーション(AAC)を活用することが有益です。AACの使用は、発話の妨げになるのではなく、むしろ言語発達を促進する効果があります。

社会性や行動上の課題には、自閉スペクトラム症の治療に用いられる応用行動分析(ABA)や自然発達行動介入(NDBI)といった手法が役立つことがあります。行動管理の戦略については、発達小児科医と相談し、必要に応じてADHDや他の精神症状に対する薬物療法を検討することもあります。攻撃性や自傷行動が強い場合は、小児精神科医や行動分析の専門家と連携することが重要です。

てんかんの管理には、神経科医の指導のもと、適切な抗てんかん薬を使用します。本症候群に特化して有効とされる薬剤は確認されていませんが、既存の治療法の多くが発作のコントロールに役立ちます。

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ジストニア(筋緊張異常)が見られる場合は、一般的な神経学的治療が適用されます。一部の小児期発症の進行性ジストニアでは、薬物療法が無効な場合に限り、脳深部刺激療法(DBS)が有効であったとの報告もあります。

脳幹圧迫による神経症状がある場合、外科的処置が必要となることがあります。大後頭孔の減圧手術や第一頸椎の背側弓切除が選択肢となることがあります。

全身管理として、多くの医療機関への通院や療育、特殊機器の使用が必要になることがあり、ソーシャルワーカーと連携することで地域の支援サービスや介護支援を受けやすくなります。

重症例では、緩和ケアや在宅看護の必要性を定期的に評価することも重要です。公的支援プログラムの活用を検討することも有益でしょう。適切な診断と介入、医療・教育・地域の連携により、患者と家族の生活の質を向上させることが可能です。

病因と診断の方法

Zahir-Friedman症候群(ZFS)は、CHD8遺伝子とSUPT16H遺伝子の両方を含む領域が部分的に欠失することで発症する遺伝性疾患です。この欠失は人によって異なる範囲に及びますが、いずれの場合も両遺伝子を含む重要な領域が影響を受けます。CHD8とSUPT16Hの機能を理解することで、それらの喪失がZFSの特徴的な症状を引き起こす仕組みが明らかになります。

CHD8 Chromodomain-helicase-DNA-binding protein 8 normalsize

CHD8遺伝子は、「クロモドメイン・ヘリカーゼDNA結合タンパク質8(Chromodomain-helicase-DNA-binding protein 8)」をコードする遺伝子です。このタンパク質はクロマチン(DNAとヒストンタンパク質が結合した構造)の調整を担い、遺伝子の発現を制御します。クロマチンの構造は、細胞がどの遺伝子をどのように読み取り、利用するかを決定するため、細胞機能の維持に不可欠です。CHD8はクロマチンの構造を変化させることで、遺伝子の転写(DNAからRNAへの情報の写し取り)を調節します。具体的には、DNAを安定化させるヒストンH1を特定の遺伝子領域に呼び寄せることで、遺伝子の活性化を抑制し、細胞の成長やシグナル伝達が適切に制御されるよう働きます。

CHD8は神経発達において特に重要な役割を果たします。神経細胞の分化、細胞周期の進行、DNA修復を制御する遺伝子の働きを調整し、また選択的スプライシング(一つの遺伝子から異なるタンパク質を作り分ける仕組み)にも関与することで、適切な神経回路の形成を助けます。さらに、CHD8はp53(TP53)と呼ばれるタンパク質の活性を抑制します。p53は細胞死(アポトーシス)を制御する重要な因子であり、過剰に活性化すると正常な脳の発達が妨げられるため、CHD8はその働きを適度に抑えることで、神経細胞の正常な成長を維持しています。また、CHD8はWntシグナル伝達経路と呼ばれる細胞の成長や分化を調節する重要なシグナル経路を抑制することで、βカテニン(CTNNB1)の活性を制御し、Wntシグナルの過剰な活性化を防ぎます。さらに、CHD8はCTCFやZNF143といった他のタンパク質と相互作用し、遺伝子発現を長期的に調節するエピジェネティックな修飾にも関与しています。

CHD8の機能が失われると、自閉症と大頭症を伴う知的発達障害(Intellectual Developmental Disorder with Autism and Macrocephaly: IDDAM)を引き起こすことが知られています。この疾患は常染色体優性遺伝形式(親から1つの変異遺伝子を受け継ぐだけで発症する遺伝形式)をとり、知的発達障害、自閉症スペクトラム(ASD)、頭囲が大きい大頭症が主な特徴です。また、背が高い、消化器系の問題、特徴的な顔立ち、睡眠障害、注意力の問題などもよく見られます。ZFSではCHD8の欠失が、こうした神経発達の異常に大きく関与していると考えられます。

SUPT16H  FACT complex subunit SPT16

SUPT16H遺伝子は、「FACT複合体(Facilitates Chromatin Transcription: FACT)」の一部であるSPT16というタンパク質をコードする遺伝子です。FACT複合体は、クロマチンの構造を適切に再編成することで、遺伝子の転写、DNA複製、DNA修復といった重要な細胞機能を支えています。転写の過程では、FACT複合体はヒストンシャペロン(ヒストンタンパク質の構造を一時的に変化させる働きを持つ因子)として機能し、クロマチンの基本単位であるヌクレオソームから一部のヒストン(特にH2A-H2B二量体)を一時的に取り除くことで、RNAポリメラーゼIIがスムーズにDNAを移動し、転写を進行できるようにします。その後、FACT複合体はヌクレオソームを元の状態に戻し、クロマチン構造を維持する役割も担っています。また、FACT複合体はp53(TP53)の修飾にも関与しており、カゼインキナーゼII(CK2)との相互作用を通じて、細胞周期の調節やストレス応答にも影響を与える可能性があります。

SUPT16Hの遺伝子変異は、脳梁形成異常(左右の大脳半球をつなぐ脳梁の発達異常)やその他の神経発達障害と関連があることが報告されています。このことから、ZFSにおいてはCHD8の欠失に加えてSUPT16Hの欠失も、知的発達や神経発達の異常に寄与していると考えられます。

CHD8とSUPT16Hはどちらも、遺伝子の発現調節、クロマチンのリモデリング、神経発達において極めて重要な役割を担っています。これらの遺伝子が同時に欠失すると、脳の正常な発達に関わる多くの生物学的プロセスが乱れ、ZFSの知的発達障害や自閉症関連の特徴、その他の発達的な課題が生じます。ZFSの発症メカニズムについては現在も研究が進められていますが、現在の知見では、これら2つの遺伝子が神経発達において密接に関係しており、それらの欠失が広範囲にわたる遺伝子発現の異常や神経機能の破綻を引き起こしている可能性が示唆されています。

もっと知りたい方へ

【写真あり・英語】ユニーク(Unique)による【14q11.2 deletions】に関する情報シート

引用文献

ザヒール・フリードマン症候群(ZFS)は、14q11-q22領域の欠失が原因となる稀な遺伝性疾患です。CHD8およびSUPT16H遺伝子の異常が関連し、発達遅延や知的障害、特徴的な顔貌異常が見られます。本記事では、ZFSの症状・診断・管理方法について詳しく解説します。

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