暑い日が続く夏季になると、疲労が抜けにくい、食欲が湧かなくなるなど身体の不具合や心のメンタル不調が続いてしまうことがあります。これはいわゆる「夏バテ」の状態であり、季節性の「夏季うつ」をも発症している可能性があります。今回は、夏季うつの原因、症状、診断方法、治療や対策などについて紹介していきます。

夏季うつの原因

夏バテや夏季うつを発症する主な原因として、体内の水分やミネラル成分の不足に伴う脱水、あるいは暑さによる食欲低下に随伴して引き起こされる栄養不足、あるいは暑さとエアコンによる冷えの繰り返しによって引き起こされる自律神経の乱れなどが挙げられます。

人の体がストレスを感じると、自然反応として副交感神経が抑制されて交感神経が高まって優位になり、その状態が続くと過覚醒状態となって鬱状態を引き起こすと考えられています。

夏特有の「暑さ」や「発汗」もストレスの一因となりますし、夏季の暑い温度など周囲環境の変化も身体にとって大きなストレスに繋がって自律神経の乱れを誘発することが知られています。

また、うつ病が発症する理由のひとつとして、うつ病患者の中には脳の海馬や前頭葉領域で学習機能に重要な神経作用を介する栄養関連因子が減少しているとともに、情動行動を制御する神経伝達に関する物質であるセロトニンやドパミンの機能低下が関与していると考えられています。

一般的に、ストレスを受けると誰しもがその反応に対処するためにグルココルチコイドと呼ばれるステロイドホルモンを分泌することが知られており、このホルモンが長期に過剰放出されると神経細胞が一部傷害されてうつ病発症を惹起する一因と考えられています。

うつ病をもともと潜在的に有しており、あるタイミングで甲状腺機能低下症や女性において更年期障害など体内のホルモンバランスに乱れを引き起こす病気を併発することでうつ病の症状が顕著化することも経験されます。

夏季うつの症状

一般的に、うつ病は目に見える明確な症状が少ないために気づきにくい病気であり、うつ病を患っている本人自身が病識を自覚していないことも多いと考えられています。

うつ病全般で、意欲や興味の低下、楽しみの喪失、緊張や焦燥感、食欲低下や不眠、不安感、精神的不調などの症状が認められやすいと言われています。

その中でも特に、緊張や焦燥感が通常と比べて強く出現することが知られており、肌や服を擦って異様に落ち着きがない、あるいは「自分なんか生きていても仕方がない」など自分自身を責めた発言が増加することもあります。

それ以外にも、身体的不調としてめまいや吐き気を訴えるケースも存在します。

うつ病の類似疾患と考えられる「夏季うつ」とは、夏の季節に食欲低下や気分の落ち込みなどメンタル面での精神的不調が出現する状態であり、季節性感情障害に分類されています。

季節性感情障害は、進学、就職、結婚、出産など過度のストレスや大きなショックを与える恐れを有するライフイベントの有無にかかわらず、特定の夏場の時期のみに様々な症状が引き起こされるという特徴があり、主に5月から9月頃にかけて症状が自覚されやすいと考えられています。

夏季うつの診断方法

一般的に、うつ病を診断する際には患者さん自身が記入した問診票や家族からの情報に応じて、どのような症状にいつから悩んでいるかなどを含めて、現在の本人を取り巻く周囲状況を詳細に問診していくことが重要とされています。

詳しい問診などによって、患者さんが特に夏季の時期において強い悲しみや気分の落ち込みなど、いわゆる抑うつ気分や意欲や喜びなどの感情低下が現れている場合にはうつ病を疑うことになります。

うつ症状が進行すると様々な感情を感じにくくなり、生きている実感が湧かないといったこともあり、さらに病状が悪化した場合には患者自身が死にたいと考えるようになることを把握しておいたほうがよいでしょう。

また、これらの精神的な不調症状のみではなく、身体的症状として不眠や食欲低下、頭痛、消化器症状といった身体的不調を患者さんが引き起こしている際にはうつ病に患っている可能性が高いと判断されます。

夏季うつの治療・対策

夏季うつに対する治療や対策の一つは、普通の活動レベルで生活をしていても毎日2.5リットル程度の水分が身体から失われていることから、夏の暑い時期にはこまめに水分補給をすることが挙げられます。

また、夏の外気温とエアコンで涼しくなっている室内温との温度差や体の冷やし過ぎは自律神経の乱れを招くことから、温度差が大きくなりすぎないように認識すると同時に、体をアイシングなどで冷やし過ぎないように注意しましょう。

毎日において、良質な睡眠をしっかり確保すること、夏の季節にも1日3食を規則正しく摂取して良好な栄養バランスを心がけることが重要なポイントです。

積極的に摂りたい栄養素としては、タンパク質が挙げられ、特に夏の時期はタンパク質を消耗しやすいため肉類や魚介類、豆類、卵、乳製品からタンパク質を補給することが必要となります。

また、ビタミン群を取り込むことも体力や免疫力を上昇させると考えられており、特にウナギなどに多く含まれているビタミンB1成分は糖質をエネルギーに変えて身体を疲れにくくする効果がありますし、ニンニクに含まれるアリシンはビタミンB1成分の体への吸収を高めてくれます。

夏バテや夏季うつを予防するおすすめの対策として、自律神経のバランスを整えて副交感神経の働きを助けるために手軽にできる有酸素運動を行うことが推奨されています。

夏の時期に限らず、普段から「自分は体力がない」と自覚している人こそ、夏バテ予防として軽い運動を日常生活の中に取り入れることを心がけるとよいでしょう。

例えば、ウォーキングやジョギング、あるいはラジオ体操や全身のストレッチなど自宅でも気軽にできる有酸素運動の代表例であり、「人と話ができて軽く汗ばむ程度」に無理なく運動を実践することを意識すると良いでしょう。

エレベーターやエスカレーターの代わりに階段を利用する、比較的涼しい時間に1駅分歩く、いつもよりすこしだけ早歩きしてみるものよいでしょう。

普段の生活の中で、エレベーターやエスカレーターの代わりに階段を利用する、比較的涼しい時間に1駅分歩く、いつもよりすこしだけ早歩きしてみるなどの行動を継続することで、暑い夏をより快適に過ごすことができるかもしれません。

ただし、夏の暑いシーズンに運動するには熱中症に罹患しないように一定の注意をはらうことが必要であり、運動日の気温や湿度、着用する服装に気を付けてスポーツドリンクなど水分や塩分補給をこまめに行いましょう。

また、気温が高い月や体調が優れないときには無理をせず、その日の運動は中止して、体調が改善したら再開するように意識して、万が一夏バテの症状が重く、日常生活や普段の仕事に支障が出現するようであれば、速やかに医療機関を受診しましょう。

夏季うつにおける治療方針としては、過度なストレスがかからない居住環境において心の休養を十分に確保することが重要であり、仮に仕事量が急激に増加したことが契機となって夏季うつを発症した際には、仕事量の軽減や自宅で療養して安静を保つなどの救済措置が実施されます。

そして、夏季うつに対する治し方の主体となるのは様々な種類の薬を用いた薬物療法です。

近年、主に医療現場で用いられるのは脳内のセロトニン濃度を高めることができる選択的セロトニン再取り込み阻害薬であり、それ以外の選択肢としてセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤や三環系抗うつ薬などが使用されることがあります。

夏季うつに対する薬物的な治療薬は即効性を有するわけではなく、約2週間~1か月程度で効果が感じられる傾向があり、急性期の期間では十分な休息と薬物治療などを実践することで、約1~3か月ほどで症状が改善すると言われています。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。


【参考文献】

記事の監修者

佐々木真由先生

佐々木真由先生

医療法人社団福美会ヒロクリニック 心療内科
日本精神神経学会専門医
佐賀大学医学部卒業後、大学病院、総合病院で研鑽をつんだのち、ヒロクリニックにて地域密着の寄り添う医療に取り組んでいる。

経歴

2008年 佐賀大学医学部卒業
2008年 信州大学医学部附属病院
2011年 東京医科歯科大学医学部附属病院
2014年 東京都保健医療公社 豊島病院
2016年 東京都健康長寿医療センター
2018年 千葉柏リハビリテーション病院
2019年〜 ヒロクリニック

資格

日本精神神経学会専門医
日本精神神経学会指導医
精神保健指定医