寝付けない、夜中に目が覚めて眠れないなどの睡眠障害は、日常生活に大きな影響を与えるため適切な治療が必要です。本記事では睡眠障害の原因・リスク・治療法についてくわしく解説しています。睡眠に関する問題でお悩みの方は、ぜひ一読ください。
「布団に入ってから寝付けないことが多い」
「夜中に目が覚めてしまい眠れない」
「たくさん寝ているのに眠気が取れない」
このような睡眠に関する問題が、日常生活に支障をきたすことを「睡眠障害」といいます。
睡眠障害は決して珍しいものではありません。一般人口の21%が不眠で悩んでいるという調査もあり、人々の身近に潜む問題だといえるでしょう。
ただ、そうはいっても症状が長びく場合には、医療機関での適切な治療が必要となります。その際の診療科は精神科、あるいは心療内科です。
本記事では、睡眠障害の症状と原因、日常生活に与える影響、適切な治療法について網羅的に解説していきます。睡眠障害を克服するためにも、ぜひ最後までご覧くださいね。
睡眠障害の症状
睡眠障害の症状は次の4タイプです。
- 入眠障害
- 中途覚醒
- 早期覚醒
- 熟眠障害
それぞれの特徴を以下で解説していきましょう。
入眠障害
体は疲れているのに、眠りにつくまでに1〜2時間ほどかかってしまい、苦痛を感じる睡眠障害です。不安・緊張が強いときに起こりやすくなります。
中途覚醒
一度寝付いたあと、夜中に目が覚めること自体は珍しくはありません。しかし何度も目が覚めてそのまま眠れない日が続き、生活に支障をきたしたり、精神的苦痛を感じているときは中途覚醒と呼ばれる睡眠障害にあたります。
早期覚醒
理想の起床時間よりも2時間以上はやく目覚めてしまうのが早期覚醒。もっと寝ていたいのに、眠りたくても眠れません。
高齢者・うつ病の患者に多い症状です。
熟眠障害
睡眠時間は充分であるにもかかわらず、眠りが浅く熟睡感がありません。昼間につよい眠気があり、疲れ・肩こり・頭痛などに悩まされますが、本人が気づきにくいことも多いです。
多くの場合、睡眠時無呼吸症候群・周期性四肢運動障害といった病気が関連します。
以上4つの症状は、実際には組み合わさって生じることも少なくありません。
もしも「自分は睡眠障害かもしれない」と感じたときは、まず原因を知り、そのうえで適切に対処していきましょう。
睡眠障害の原因
睡眠障害の主な原因は次の5つ。
- 生理的な原因
- 心理的な原因
- 飲食物・薬などの影響
- 身体的な原因
- 精神疾患の影響
ここからそれぞれの原因をくわしく解説していきます。睡眠障害に正しく対処していくためにも、ぜひ最後までご覧ください。
生理的な原因
生活習慣、睡眠時の環境などが快眠を妨げているケースです。
ここで重要なのが「メラトニン」という睡眠ホルモンの働き。このメラトニンは、分泌されることで人を眠りに誘う効果があり、睡眠には欠かせません。しかし睡眠障害では、このメラトニンがうまく分泌されていない可能性があるのです。
メラトニンの分泌をコントロールする要素は、体内時計・明るい光の2つになります。
まず体内時計。人体には起床から14〜16時間の間は、メラトニンを抑える機能が備わっています。つまり夜になるとメラトニンの抑制が解除され、睡眠の準備がはじまる仕組みです。
そしてもう一つ、太陽や室内の照明、電子機器のディスプレイから発せられる「光」にも、メラトニンを抑える効果があります。そのため、夜間に明るい光を浴びつづけることは、睡眠障害の原因になりえるのです。
以上をふまえると、次のような生活習慣は睡眠障害につながりやすいといえるでしょう。
- 体内時計が乱れる
- 就寝・起床時間が不規則
- 昼夜逆転生活
- 長時間の昼寝
- メラトニンが抑制される
- 寝る直前のスマートフォン・パソコン・ゲーム
- テレビをつけながら眠る
- 睡眠前・睡眠時の部屋が明るすぎる
またメラトニンの他にも、環境・体温などが眠りに適していない可能性が考えられます。生活習慣の改善については、後ほどくわしく解説しているためそちらをご覧ください。
心理的な原因
仕事や学校、プライベートなどで精神的なストレスがあると、脳が興奮して、睡眠障害の原因になりえます。
ストレスは必ずしも悪い出来事・不安・心配事に対してのみ生じるものではありません。新しい環境にうつったとき、嬉しいことがあったときにも、無意識にストレスを感じていることはあるでしょう。
加えて睡眠障害が不眠恐怖、つまり眠れないことへの恐怖につながることも問題です。「また眠れないのではないか?」というネガティブな思考が、不安・焦り・体の緊張をつくりだして眠りを妨げ、循環的にさらなる不眠恐怖の原因となることもあります。
このような不眠恐怖がある場合には、睡眠に対しての偏った考えを修正していかなければなりません。こちらもくわしくは後述しています。
飲食物・薬などの影響
眠れないからという理由で睡眠前にアルコールを摂ると、脳の活動が低下することで寝付きはよくなる反面、眠りが浅くなり睡眠の質は低下します。
またコーヒーなどに含まれるカフェイン、煙草のニコチンなども脳を覚醒させるため、睡眠障害の原因となりうるでしょう。
加えて薬の副作用によって眠れないというケースも。具体的にはステロイド薬、インターフェロン、パーキンソン病の薬、抗うつ剤、降圧剤、甲状腺治療薬、喘息の薬などは睡眠の妨げになる可能性があります。薬を服用している場合、まず医師に相談してみてください。
身体的な原因
下記のような身体状態は、睡眠障害の原因となりえます。
- 痛み
- かゆみ
- せき・息苦しさ
- イビキ
- 頻尿
何らかの外傷や病気によるものであれば、まずはそれらの原因に対処していくことが重要となるでしょう。
精神疾患の影響
精神疾患の多くは睡眠障害を併発します。代表的なものは下記のとおり。
この場合、生活習慣改善や睡眠薬の導入などでの根本的な治療は困難になります。対処するためには、まず精神疾患そのものの治療が優先です。
睡眠障害によるリスク
人体は睡眠中にホルモンの分泌をコントロールしたり、抗体による免疫力増強をすることで機能を維持しています。そのため睡眠障害が長期的に続くと、体や脳の機能に支障をきたすようになるのです。
例えば、疲労感が取れない、倦怠感がある、疲れやすいといった体の不調があります。また血圧が下がったり、食欲抑制ホルモンの分泌によって太りやすくなることも。
加えて睡眠障害は気分にも影響を及ぼします。やる気が出ない、落ち込みやすい、ささいなことでイライラするといった状態は、対人関係の悪化につながることもあるでしょう。
また睡眠時間・睡眠の質が十分ではないと、日中の眠気にもつながります。すると記憶力・注意力・判断力などが低下。仕事上のミスや交通事故につながる可能性もあるでしょう。
さらに睡眠障害が原因となり、別の精神病を引き起こすこともあります。これらの影響を考えると、はやめの治療は必須です。
不眠症の治療法
睡眠障害の治療をするためには、精神科・心療内科を受診しましょう。
先述したように睡眠障害は、精神病が原因となって生じることも少なくありません。現にうつ病の9割は睡眠障害を合併します。その場合いくら生活習慣を正しても、治療にはつながらないのです。
また市販の睡眠薬を独断で利用することは、副作用の危険が伴います。体が慣れることで量が増えたり、飲まなければ不安になるなど、依存状態に発展する可能性もあるでしょう。適切に睡眠薬を服用するためにも、医師に相談することは重要です。
睡眠障害の専門的な治療では、薬の処方だけでなく、生活習慣のアドバイスや心理療法を含めた根本的な改善を目指します。ここからは実際の治療内容を解説していきましょう。
問診・睡眠検査
まずは睡眠に関わる下記内容を問診することで、不眠の原因をさぐります。
- 不眠になった期間
- 布団にはいる時間
- 眠りにつくまでの時間
- 目を覚ます時間
- 理想的な睡眠時間
- 昼寝の有無
- 生活習慣など
加えて背景に隠れているかもしれない心身の病気、心理的な状況なども確認。これらの内容を踏まえて、治療方針や薬の種類などを決めていくのです。
また病院によっては、問診後に医療機器を用いて「睡眠検査」を行う場合もあるでしょう。ヒロクリニックでも、より詳細な睡眠状況を把握するために睡眠検査を実施しています。
生活習慣改善のアドバイス
生活習慣改善のポイントは2つです。
- メラトニンをコントロールする生活習慣
- その他、快眠を助ける生活習慣
それぞれ深掘りして紹介していきましょう。
メラトニンをコントロールする生活習慣
すでに述べたように、メラトニンは睡眠のために重要なホルモンであり、体内時計と明るい光によって分泌がコントロールされます。
まず体内時計を調整するためには、規則正しい睡眠のリズムを整えることが重要です。曜日を問わず起床時間・就寝時間をできるだけ均一にしたうえで、日中に30分以内の昼寝をするのが有効でしょう。
光を浴びる時間帯・量は、睡眠のために最適化しましょう。朝はできるだけ太陽の光を浴びて、メラトニンの分泌を抑えます。夕食が終わったころから部屋の照度を下げ、眠るときは部屋を暗くすることで、メラトニンが分泌しやすい環境をつくるのです。
また眠る直前はスマートフォン、パソコン、テレビの利用を控えることも重要でしょう。
その他、快眠を助ける生活習慣
その他の生活習慣としては、まずアルコール、カフェイン、ニコチンの摂取を制限することが挙げられるでしょう。
アルコールとカフェインは量を守り、就寝前に摂ることさえ控えれば、むしろ健康に良い面もあります。一方、喫煙に関しては睡眠障害のほかにも害が大きく、禁煙が妥当です。
日中の適度な「運動」も睡眠障害の改善につながります。ただし寝る前に激しく体を動かすと、脳や体が刺激されて逆効果。睡眠の5時間前、軽く汗ばむ程度の運動を心がけるとよいでしょう。
また就寝前の「体温調整」も快眠のキーポイントです。人体には手足から熱を放出、体温を下げることで睡眠に入る仕組みが備わっています。そのためには、まずぬるめのお風呂で体を温めてから、熱がこもらないように空調のきいた部屋で就寝をするとよいでしょう。
薬による治療
薬は多くの場合、治療の初期段階で一時的に用いられます。さまざまな種類・特性があり、症状・体質によって正しく使い分けていくことが重要です。
睡眠薬は睡眠障害の症状別に、大きく4つのタイプがあります。
入眠障害 | 短時間作用型、超短時間作用型 |
中途覚醒 | 中等時間作用型 |
早期覚醒 | 長時間作用型 |
熟眠障害 | 長時間作用型、抗精神病薬、抗うつ薬の併用 |
睡眠薬には、副作用・依存性などの悪いイメージが先行していますが、病院で取り扱っているものは改良が重ねられており安全性は高いといえるでしょう。
ただし言うまでもなく、専門医の指導に従って服用することが重要です。症状がよくなったら減薬していき、最後には薬なしでも眠れる状態を目指します。
認知行動療法
睡眠障害の治療は「身体」に働きかけるだけでなく、睡眠に対して抱いている思考のクセや間違った先入観、つまり「認知のゆがみ」を修正しなければならないケースもあります。
不眠状態が続くと睡眠に対してネガティブな思考を抱き、そのネガティブな思考がさらに睡眠障害を助長していくという悪循環が生じることは先述したとおり。このような悲観的な心理状態を是正するのが「認知行動療法」です。
認知行動療法による不眠治療法としては、次の3つが代表的。
- 睡眠日誌
- 認知再構成法
- リラックス状態をつくる訓練
それぞれについて解説していきましょう。
睡眠日誌
「認知のゆがみ」がある状態では、睡眠時間を実際よりも短く見積もったり、生活習慣の悪い面ばかりが目につきやすくなります。
そこで睡眠日誌では、以下のような生活習慣を客観的に記録していくのです。
- 布団に入った時間
- 入眠時間
- 起床時間
- 昼寝の時間
- 薬の量・時間
これらの「事実」を客観的に見つめることで、睡眠習慣に対してのネガティブなイメージを改善していきます。悪循環を断ち切ることができれば、より建設的な不眠改善に取り組めるでしょう。
認知再構成法
認知再構成法では、睡眠についての思い込みを、医師・カウンセラーとのやり取りを通して変えていきます。
- 7時間以上は眠らないといけない
- 睡眠時間が短いと認知症になる
- 不眠が健康や美容に悪影響を与える
- 若いころと同じように眠らなければならない
といった強い信念があると、不眠恐怖は強くなっていきます。「眠れなくても死ぬわけではない」「眠れるときに寝ればよい」と気持ちを和らげるだけでも不眠改善につながることがあるのです。
またあえて布団にいる時間を短くすることで、眠りたくても眠れない時間の割合を小さく・眠れる時間の割合を大きくしていく「睡眠スケジュール法」も、睡眠への自信をつけるうえで効果があります。
リラックス状態をつくる訓練
リラックス状態をつくるのに有効なのが「漸進的筋弛緩法」という手法。「体の一部に力を入れてから脱力」を繰り返して、体全体の緊張感をゆるめていきます。心身は相互に影響を与え合うため、体のリラクゼーションが気持ちまで落ち着かせるのです。
また「自律訓練法」という呼吸と自己暗示によって体全体をリラックスさせていく方法もあります。
これらの手法を専門家から学ぶことで、寝付けないときには自発的にリラクゼーション効果を得ることが可能です。睡眠障害を克服するために大きく役立つでしょう。
まとめ
以上、「睡眠に関する問題=睡眠障害」の症状や原因、影響、治療法についてくわしく解説しました。
繰り返しになりますが、睡眠障害かもしれないと思ったときは医療機関に相談をしましょう。もしも抵抗があるとき、行くべきかどうか迷ったときは、次の2つを基準にしてみてください。
- 症状が1ヶ月以上続いている
- 日常生活に支障が出ている
とくに両方に該当する場合には、受診をつよくおすすめします。
当院、ヒロクリニック心療内科では、医療機器を用いた脳波測定で、睡眠状態を詳細に調査することが可能です。患者様の理解者となることを理念として掲げ、一人ひとりの状態に合わせて、最適なアドバイスと治療を行います。
不眠の自覚症状がある方は、ぜひヒロクリニック心療内科にご来院ください。ご予約・お問い合わせをお待ちしております。
記事の監修者
佐々木真由先生
医療法人社団福美会ヒロクリニック 心療内科
日本精神神経学会専門医
佐賀大学医学部卒業後、大学病院、総合病院で研鑽をつんだのち、ヒロクリニックにて地域密着の寄り添う医療に取り組んでいる。
経歴
2008年 佐賀大学医学部卒業
2008年 信州大学医学部附属病院
2011年 東京医科歯科大学医学部附属病院
2014年 東京都保健医療公社 豊島病院
2016年 東京都健康長寿医療センター
2018年 千葉柏リハビリテーション病院
2019年〜 ヒロクリニック
資格
日本精神神経学会専門医
日本精神神経学会指導医
精神保健指定医